ベトナム・ホーチミン市場視察レポート Vol.3|日系駐在員依存から「ローカル市場・現地人材」へ転換する海外進出戦略
目次
2026年のベトナムは、「これから日本企業が進出する未開拓市場」ではない
マカティとホーチミンを、「どちらが優れているか」で比較しない
「チャイナ・プラスワン」だけでは、現在のベトナムを説明できない
海外進出における現地パートナーは、「紹介された会社」で決めない
※本稿は、2025年6月21日に実施したベトナム・ホーチミン市での現地視察記録をもとに、2026年時点の市場環境を踏まえて再編集したものです。
ベトナム・ホーチミンへ 今回の海外市場視察の目的
2025年6月21日。
僕は、羽田空港からベトナム・ホーチミン市のタンソンニャット国際空港へ向かいました。
今回の出張の主な目的は、ある大手IT企業様が検討していた、
ベトナム企業との事業提携。
ITオフショア開発。
海外事業体制の構築。
に向けた基礎的な商談・市場調査を支援することでした。
海外進出というと、
「人件費はいくら安いのか。」
「現地法人はいくらで作れるのか。」
「オフショア開発なら日本の何割で発注できるのか。」
といったコストの話から始まることがあります。
しかし、僕は、この順番から海外進出を考えることはおすすめしません。
海外事業で最初に確認すべきなのは、
なぜ、その国へ進出するのか
自社は、何を現地で実現したいのか
どの企業と組むのか
どの人材を活用するのか
どの業務を海外へ移すのか
どこまで現地へ権限を渡すのか
品質をどう管理するのか
情報セキュリティをどう担保するのか
日本側と現地側を誰がつなぐのか
です。
海外進出とは、「日本より安く仕事をする場所を探すこと」ではありません。
自社にない市場・人材・技術・パートナーを海外から獲得し、会社の競争力を高める経営戦略です。
2026年のベトナムは、「これから日本企業が進出する未開拓市場」ではない
ベトナムは、既に多くの日本企業が事業を展開している海外市場です。
ジェトロの2026年の情報では、ベトナムの日本商工会議所に所属する日系企業だけでも、2000社を超えています。
製造業。
IT。
物流。
不動産。
小売。
外食。
金融。
人材。
など、さまざまな分野で日本企業が進出しています。
したがって、
「ベトナムはまだ誰も進出していないから、先に行けば勝てる。」
という市場ではありません。
むしろ、
既に形成されている、
日系企業。
ベトナム企業。
韓国企業。
中国企業。
欧米企業。
などの事業ネットワークの中で、
自社がどのポジションを取るのか
を考える市場です。
一方で、
新たな投資。
産業集積。
高度人材育成。
デジタル化。
現地企業との協業。
も進んでいます。
つまり、
ベトナム進出で重要なのは、「成長国だから出る」ことではありません。
既に形成されている産業基盤の中で、自社が使える経営資源を見つけることです。
ITオフショア開発も、「人件費が安い」だけでは判断しない
今回の案件では、
ITオフショア開発
が重要なテーマでした。
ベトナムには、
ソフトウェア開発。
AI。
システム開発。
ERP。
Webサービス。
IoT。
業務システム。
などを手掛け、日本企業向けの開発経験を持つIT企業が数多く存在します。
しかし、
ベトナムへ発注すれば、
日本より安く、
同じ品質の商品が、
自動的に納品される
わけではありません。
オフショア開発で確認するのは、
開発技術
エンジニアの人数・構成
日本企業との取引実績
日本語・英語でのコミュニケーション体制
プロジェクトマネージャーの能力
品質管理
納期管理
情報セキュリティ
ソースコード・知的財産の管理
離職率と人材定着
障害発生時の対応
BCP
日本側との報告・管理体制
などです。
特に重要なのが、
ブリッジ人材
です。
日本企業が求めているものを理解し、
ベトナム側のエンジニアへ正確に伝え、
開発現場で発生した問題を日本側へ適切に説明できる人材です。
オフショア開発の成否を決めるのは、「エンジニア単価の安さ」より、日本と現地の間で要求・品質・納期を翻訳できるマネジメント能力です。
4日間で確認したのは、IT企業だけではない
今回の滞在は、3泊4日でした。
限られた時間の中で、
クライアント企業様が提携を検討する現地企業経営者との商談。
現地の日系不動産関係者。
人材関連企業。
既にベトナムで事業を展開している日本人経営者。
など、複数の方々と面会する予定を組みました。
なぜ、ITオフショア開発案件なのに、
不動産。
人材。
飲食。
現地経営者。
まで見るのでしょうか。
海外拠点をつくる場合、
事業だけを見るのでは足りないからです。
例えば、
オフィスはどこに置くのか。
エンジニアは採用できるのか。
どの給与水準が必要なのか。
社員はどの場所から通勤するのか。
日本人駐在員はどこに住むのか。
病院や生活インフラはどうか。
日本人経営者同士のネットワークはあるのか。
なども、
海外事業を継続するための条件になります。
海外拠点とは、法人登記をした住所ではありません。
そこで人が働き、意思決定し、顧客に価値を提供できる事業基盤です。
海外市場視察では、「誰に会うか」を出発前に設計する
海外出張へ行ってから、
「せっかく来たから、誰か紹介してください。」
と現地で商談先を探すのでは効率的ではありません。
市場視察は、
日本にいる段階から始まっています。
今回も、
何を確認するのか。
誰に会うのか。
何を質問するのか。
どの業種の人から情報を取るのか。
をあらかじめ整理しました。
僕なら、一つの情報を一人だけから聞いて判断しません。
例えば、
「ベトナムではIT人材を採用しやすい。」
という話を聞いたら、
IT企業。
人材会社。
進出済み日本企業。
現地経営者。
など、異なる立場から確認します。
なぜなら、
サービスを販売する人。
人材を採用する人。
人材を雇用している人。
では、同じ市場を見ても答えが違うからです。
海外市場調査では、「正しい答えを教えてくれる人」を探すのではありません。
異なる立場の情報を集め、自社として答えを作ります。
飲食店を見ることも、海外市場調査になる
今回の滞在では、
現地で事業を行っている知人との会食。
日本人建築家が関わった飲食店。
日本食店。
ベトナム料理店。
なども訪問する予定を組みました。
これは、
単に食事を楽しむため
だけではありません。
飲食店を見ることで、
その都市の、
所得。
消費。
サービス。
人材。
不動産。
物流。
外国人市場。
日本ブランドの評価。
などが見えてきます。
例えば、
日本食レストランを見れば、
誰が客なのか
客単価はいくらか
日本人と現地客の比率はどうか
現地スタッフがどう接客しているか
日本産食材をどこまで使用しているか
価格に対して、どの価値を提供しているか
どの立地が選ばれているか
を観察できます。
ITオフショア案件で来たから、
IT企業だけを見る。
ではありません。
海外市場では、異なる産業を横断して見ることで、その都市全体の経営環境が見えてくることがあります。
タンソンニャット国際空港へ到着 移動そのものも市場調査
約6時間のフライトを経て、
ホーチミン市のタンソンニャット国際空港へ到着しました。
入国審査を終え、
荷物を受け取り、
配車アプリを使って市内へ向かいます。
海外事業の市場調査では、
こうした空港から市内までの移動も、
一つの情報収集の時間です。
例えば、
空港の混雑。
外国人旅行者。
道路。
渋滞。
配車サービス。
店舗。
広告。
建設。
住宅。
ホテル。
街灯。
夜間の人流。
などを見ることができます。
ただし、
「夜遅くまで人がいるから、この市場は伸びる。」
と判断するわけではありません。
あくまで、
後から数字で確認すべき仮説
を見つけます。
現地視察で感じる「勢い」は、投資判断の答えではありません。
調査すべき仮説を見つけるための入口です。
海外出張では、交通インフラを「経営」の視点で見る
空港からホテルへ向かう際には、
配車アプリを利用しました。
ここでも、
単に、
便利だった。
不便だった。
という感想で終わらせません。
海外拠点を設けるのであれば、
空港から事業拠点まで何分かかるのか
時間帯によって渋滞がどの程度変わるのか
社員の通勤手段は何か
顧客が訪問しやすい場所か
日本人駐在員が移動しやすいか
出張者が安全に移動できるか
配車サービスは日常業務に利用できるか
を確認します。
例えば、
地図では10キロしか離れていなくても、
慢性的な渋滞によって移動に大きな時間を要するのであれば、
採用。
営業。
オフィス立地。
顧客訪問。
に影響します。
海外進出では、交通事情も人件費や家賃と同じ「事業コスト」です。
マカティとホーチミンを、「どちらが優れているか」で比較しない
この時期、僕は、
フィリピン・マカティで進めていた海外飲食事業の関係で、
フィリピンと日本を頻繁に往復していました。
そのため、
ホーチミンへ入ると、
自然とマニラ首都圏との違いに目が向きます。
しかし、
ここで、
「ベトナムの方が進んでいる。」
「フィリピンの方が有望だ。」
というランキングを作る意味はありません。
両国には、
それぞれ異なる産業集積があります。
ベトナムには、
製造業。
IT。
輸出。
サプライチェーン。
長年進出してきた日系企業。
などの蓄積があります。
フィリピンには、
英語を活用するサービス産業。
IT-BPM。
消費市場。
など、異なる特徴があります。
したがって、
見るべきなのは、
「どちらの国が優れているか」ではありません。
「自社がやろうとしている事業には、どちらの市場・人材・産業基盤が合っているか」です。
フィリピン進出・マカティ市場調査レポート Vol.1|海外飲食出店で見るべき「物価・交通・商圏」を現地調査
[[https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/column/5180590/]]
「チャイナ・プラスワン」だけでは、現在のベトナムを説明できない
ベトナムの成長について、
中国から生産拠点を移す、
「チャイナ・プラスワン」
という言葉が長く使われてきました。
確かに、
製造業のサプライチェーン再編は、
ベトナムの海外直接投資を考えるうえで重要な要因です。
しかし、
現在のベトナムを、
「中国の代わりに安く作る国」
とだけ見るのは適切ではありません。
2025年のベトナムへの外国直接投資では、
実行額が過去最高を更新しています。
また、
製造。
デジタル。
IT。
小売。
サービス。
不動産。
など、投資対象も広がっています。
日本企業とベトナム企業との間でも、
単純な発注・受注だけではなく、
資本提携。
合弁。
共同開発。
人材交流。
などの形が増えています。
これからのベトナム進出は、「安い国へ仕事を移す」から、「現地企業と一緒に事業を作る」へ変化しています。
ホーチミンに到着して感じた「熱気」を、経営判断と混同しない
深夜になっても、
ホーチミン市の街には、
車。
バイク。
飲食店。
人。
が動いていました。
初めて現地へ来れば、
「活気がある。」
「成長している。」
という印象を持つと思います。
僕自身も、
街のエネルギーを強く感じました。
しかし、
長年、海外事業に携わるほど、
この感覚だけで投資判断してはいけない
ことが分かります。
街が活気に満ちていることと、
自社の商品が売れること。
適切な人材を採用できること。
投資を回収できること。
は、別の問題です。
だからこそ、
現地で感じる
↓
仮説を立てる
↓
数字を調べる
↓
現地企業に聞く
↓
別の専門家にも確認する
↓
自社の事業計画に落とす
というプロセスが必要です。
海外市場を見る経営者に必要なのは、「熱気を感じる感性」と、「その熱気に流されず数字で検証する冷静さ」の両方です。
国民性ではなく、「企業文化」と「個人」を見る
海外で事業を行うと、
「ベトナム人はこうだ。」
「フィリピン人はこうだ。」
という説明を耳にすることがあります。
しかし、
僕は経営判断において、
国籍だけで人材を評価するべきではないと考えています。
同じ国でも、
会社。
地域。
教育。
職種。
経験。
個人。
によって、人材の特徴は大きく違います。
特に、
海外企業との事業提携やオフショア開発では、
相手企業の、
経営者。
プロジェクトマネージャー。
エンジニア。
営業担当者。
それぞれを実際に見ます。
そして、
約束を守るか
説明が明確か
問題を隠さないか
質問に具体的に答えるか
数字を開示できるか
品質管理体制があるか
人材が定着しているか
経営者と現場の説明が一致しているか
を確認します。
海外パートナー選定では、「その国の人は信用できるか」ではなく、「この会社と、この経営者と、このチームを信用できるか」を判断します。
海外進出における現地パートナーは、「紹介された会社」で決めない
今回のベトナム出張でも、
現地企業との商談は非常に重要な目的でした。
海外では、
知人から紹介された。
日本語を話せる。
日本企業との取引がある。
というだけで、
パートナーを決めてしまうケースがあります。
しかし、
事業提携。
オフショア開発。
販売代理店。
合弁。
などでは、
相手企業の選定が海外事業全体を左右します。
僕なら、
会社の登記・株主
経営者の経歴
財務内容
主要取引先
実績
人員構成
技術力
品質管理
情報セキュリティ
離職状況
契約条件
知的財産管理
日本企業との取引経験
トラブル発生時の対応力
を段階的に確認します。
そして、
できれば、
最初から大きな契約を結ぶのではなく、
小規模案件。
PoC。
テスト取引。
などから始め、
実際の仕事ぶりを確認します。
海外パートナーは、「選んでから信頼する」のではありません。
小さな取引を積み重ねながら、信頼できるかを検証します。
海外視察で確認したい7つのこと
今回のような海外市場視察を、
経営者の投資判断に使う場合、
僕は少なくとも次の7つを確認します。
1.市場
自社の商品・サービスに需要があるか
2.顧客
誰が、何に、いくら払っているか
3.競合
現地企業・日系企業・その他外資企業は、どこまで進出しているか
4.人材
必要なスキルを持つ人材を、どの条件で採用できるか
5.パートナー
自社の不足する経営資源を補完できる企業がいるか
6.事業インフラ
オフィス、交通、通信、物流、生活環境等が事業を支えられるか
7.投資採算
最終的に、その事業へ投資した資金を回収できるか
この7項目を、
日本へ帰国した後、
事業計画へ落とします。
海外視察は、「現地を見た」という実績を作るための出張ではない
海外出張をした。
現地企業と名刺交換した。
工場を見た。
オフィスを見た。
食事をした。
それだけでは、
海外市場調査とは言えません。
重要なのは、
視察する前と後で、
経営判断が変わったかどうか
です。
例えば、
進出候補国を変更する。
パートナー候補を絞る。
オフショアする業務範囲を変更する。
投資額を修正する。
人材計画を変更する。
進出時期を遅らせる。
海外進出そのものを見送る。
という判断につながれば、
視察には大きな価値があります。
海外市場視察の成果物は、「出張報告書」ではありません。
次の意思決定です。
いよいよ、ホーチミンでの商談・市場調査を開始する
翌6月22日から、
今回の市場視察が本格的に始まります。
今回確認するテーマは、
ベトナム企業とのオフショア開発・事業提携。
現地IT人材。
採用市場。
オフィス・不動産。
日本企業の進出環境。
現地の飲食市場。
日本人経営者の現地事業経験。
などです。
業種は異なります。
しかし、
すべて、
「ベトナムという海外市場を、自社の経営戦略にどう組み込むか」
という一つの問いにつながっています。
このシリーズでは、
単なるホーチミン旅行記ではなく、
経営者が海外市場を見る際、
どこを見て。
誰に会い。
何を聞き。
どう判断すべきなのか。
を、現地での実体験をもとに整理していきます。
ベトナム進出・オフショア開発を検討している経営者の方へ
「ベトナムへ進出すべきか判断したい」
「ITオフショア開発を検討しているが、単価以外に何を比較すべきか分からない」
「現地企業との事業提携を検討している」
「パートナー候補をどのように評価すべきか知りたい」
「現地法人を作る前に、人材・オフィス・事業環境を確認したい」
「ベトナムとフィリピンなど、複数の進出候補国を比較したい」
「市場視察へ行く前に、何を確認すべきか整理したい」
という段階では、
最初からベトナム進出を決める必要はありません。
まず、
なぜ海外なのか。
なぜベトナムなのか。
何を現地で行うのか。
どの経営資源を海外へ求めるのか。
自社で行う業務と、海外企業へ任せる業務をどう分けるのか。
いくら投資できるのか。
どのようなリスクがあるのか。
を整理します。
場合によっては、
ベトナムではなく別の国を調査する。
海外委託ではなく国内体制を強化する。
まず小規模な業務委託から始める。
現地法人設立を急がない。
という結論になることもあります。
それも、海外進出戦略です。
海外進出の第一歩は、「航空券を取ること」ではありません。
自社が海外に何を求め、現地で何を確かめるのかを明確にすることです。
海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス
現在、会社・事業を経営しており、原則として年商1億円以上、国内事業が一定程度確立したうえで、海外を次の成長市場として検討しているオーナー経営者を対象に、
海外進出の目的。
商品・サービス。
候補国・候補市場。
現地パートナー。
海外オフショア。
海外人材。
現地法人。
事業提携。
初期投資・運転資金。
国内事業とのシナジー。
事業リスク。
までを、経営全体から整理します。
単発で海外の一般情報や手続きだけをお伝えする相談ではなく、
「本当に今、海外へ進むべきなのか。」
「ベトナムは、本当に御社の事業に適した市場なのか。」
という段階から検討する、契約前の初回海外事業カンファレンスです。
https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587


