撮影データを消してしまった|証拠隠滅と復元の実際
別れ方に納得がいかず、元恋人の住所や勤務先をSNSや掲示板に書き込んでしまった。後になって「これは罪になるのだろうか」と不安になり、調べ始める方がいます。相手から削除を求める連絡が来た、サイトの運営者から照会書が届いた、といったことがきっかけになる場合もあります。
本記事は2026年11月時点の法令にもとづいています。2025年6月から懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されており、本文の法定刑もその表記によっています。また、警察が職権で警告できるようにした2025年のストーカー規制法改正を反映しています。
氏名や住所を公開する行為そのものを処罰する条文は、刑法にはありません。ただ、書き込んだ相手が元恋人である場合には、他人一般の個人情報を書き込んだ場合とは異なる視点が加わります。ここでは、元恋人の住所や勤務先を書き込んだ側の立場から、どのような場面で刑事の問題になりうるのか、民事ではどう扱われるのか、書き込んだ後にどう動けばよいのかを整理します。
住所や勤務先を書いただけでは、罪にならないのか
刑法には、他人の住所や勤務先をネットに公開したことを、それだけで処罰する規定は置かれていません。名誉毀損罪も、相手の社会的評価を下げる事実を示して初めて成立するため、住所や勤務先を並べただけでは要件を満たさないと考えられることが多くなります。
もっとも、そこで話が終わるわけではありません。実際に問題となるのは、情報と一緒に何を書いたか、どのような気持ちから書いたか、書いた後に何が起きたかという周辺の事情です。他人の個人情報を書き込んだ場合の全体像は、他人の個人情報をネットに書き込んだ|特定と晒しの責任で解説しています。以下では、相手が元恋人であることによって加わる論点を中心に見ていきます。
元恋人が相手のときに加わる「ストーカー規制法」という視点
元恋人の情報を書き込む場面で、まず意識しておきたいのがストーカー規制法です。同法は、つきまといや待ち伏せといった直接の接触だけでなく、相手が知りうる状態に一定の事柄を置く行為も「つきまとい等」として定めています。
好意や、それが満たされなかった恨みが出発点になる
ストーカー規制法の「つきまとい等」は、特定の相手への恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる行為を対象としています。警察庁の通達では、怨恨の感情とは、自分の好意が受け入れられなかったために好意が恨みに転じたものをいうと説明されています。
別れを切り出されたことへの不満や、復縁を断られたことへの怒りから元恋人の情報を書き込んだ場合は、この目的が認められやすい場面といえます。「嫌がらせのつもりで、好意はもうない」と説明しても、関係が終わった経緯によっては、恨みの感情の側から評価されることがあります。
投稿の内容によって当てはまりうる類型
「知り得る状態に置く」とは、相手に直接伝えなくても、相手が日常生活の中で知ることのできる範囲に届かせることをいうと解されています。相手が見ている可能性のあるSNSや、共通の知人が集まる場所への投稿は、この形に当たりうることになります。書き込みとの関係では、主に次の類型が問題になります。
| 類型 | 書き込みでの典型例 |
|---|---|
| 行動を監視していると思わせる事項(2号) | 「今はこの住所に住んでいる」「最近この店で働き始めた」など、相手の現在の生活を把握していると伝わる書き込み |
| 名誉を害する事項(7号) | 住所や勤務先とあわせて、相手の人格や交際中の出来事をおとしめる内容を書く |
| 性的羞恥心を害する事項(8号) | 交際中の性的な画像や、性的な事柄に触れる内容を掲載する |
見落とされやすいのが2号の類型です。引っ越し先や転職先をあえて書くことは、住所そのものよりも「あなたの居場所を知っている」というメッセージとして受け取られることがあります。また、7号の「名誉を害する事項」は、名誉毀損罪と異なり、具体的な事実を示すことまでは要しないと解されています。
1回の投稿と、繰り返した場合の違い
つきまとい等をして相手に不安を覚えさせると、警察から警告を受けたり、公安委員会から禁止命令を受けたりすることがあります。2025年の法改正により、警告は相手の申出がなくても、警察の職権で行えるようになりました。
つきまとい等を反復すると「ストーカー行為」となり、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。異なる類型の行為が組み合わさっていても、全体として反復していると評価されれば足りるとされています(最高裁平成17年11月25日決定)。書き込みに加えてメッセージを送る、相手の近くまで行くといった行動が重なると、評価が変わりうる点に注意が必要です。この罪は親告罪ではないため、相手が告訴をしなくても捜査が進むことがあります。処分と前科の関係は、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合で詳しく解説しています。
なお、東京都の迷惑防止条例には、恋愛感情に限らず、ねたみや恨みなどの悪意の感情から行われる同様の行為を規制する規定があります。ストーカー規制法の目的に当たらない場合でも、別の規制が及ぶ余地があることになります。
添えた言葉によって問われる罪
住所や勤務先と一緒に書いた言葉の内容によっては、刑法などの規定が問題になります。元恋人との関係で書き込まれやすい内容と、主な罪名を整理すると次のとおりです。
| 添えた内容の例 | 問題になりうる罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 「浮気をして別れた」「借金を返さない」など、具体的な出来事を書く | 名誉毀損罪 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 具体的な事実を示さず、相手をおとしめる言葉を並べる | 侮辱罪 | 1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料 |
| 「家に行く」「職場で待っている」など、害を加えることをうかがわせる | 脅迫罪 | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 勤務先へ連絡するよう呼びかける、虚偽の情報を流して勤務先の業務を混乱させる | 威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 交際中に撮影した性的な画像を一緒に載せる | 私事性的画像記録提供等罪(いわゆるリベンジポルノ防止法)など | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金など |
名誉毀損罪は、書いた内容が真実であっても成立しうる点に注意が必要です。公共の利害に関する事実を公益目的で示した場合などに限って責任が否定される仕組みであり、元恋人との私的なトラブルをめぐる書き込みでは、この方向での説明は難しくなりがちです。名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪であり、告訴期間や示談との関係は名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決をご覧ください。
勤務先を書いた場合に起きやすいこと
住所に比べて、勤務先の書き込みは影響が外に広がりやすい傾向があります。投稿を見た第三者が勤務先に電話をかけたり、取引先に話が伝わったりすると、元恋人本人だけでなく、勤務先の業務にも影響が出ます。
自分で電話をかけていなくても、投稿の書き方によっては、そうした事態を招いた行為として業務妨害の問題とされる余地があります。「この会社に問い合わせてみてほしい」といった呼びかけがある場合は、なおさらです。勤務先から、業務への影響について損害賠償を求められる可能性もあります。業務妨害の考え方は、業務妨害で立件される言動|威力と偽計の違いで解説しています。
また、交際中の出来事を職場の人に知らせる目的で勤務先名を書いた場合は、名誉を害する内容と組み合わさることで、ストーカー規制法の7号や名誉毀損罪の問題も重なりやすくなります。
書き込まなくても、情報を渡すことで問題になる場面
ネットへの書き込みとは別に、元恋人の新しい住所や勤務先を第三者に教える場面もあります。ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者であると知りながら、その者に相手の勤務先や避難先、通勤経路、SNSのアカウントなどの情報を提供することを禁止しています(同法6条1項)。この規定自体に罰則はありませんが、警察庁の通達では、情報を受け取った人がストーカー行為等をした場合に、幇助として扱われうると説明されています。
民事では、プライバシーの侵害として問われる
刑事の規定に当たらない場合でも、民事の責任は別に判断されます。最高裁は、氏名や住所のように秘匿の必要性が高いとはいえない情報であっても、本人が望まない相手にみだりに開示されたくないと考えるのは自然なことであり、その期待は保護されるべきだとして、プライバシーに係る情報として法的保護の対象になると判断しています(最高裁平成15年9月12日判決)。
元恋人との関係では、「もともと知っていた住所だから」「本人が以前SNSに載せていた勤務先だから」という説明がされることがあります。しかし、交際していたからこそ知った情報を、別れた後に不特定多数の目に触れる場所へ出すことは、本人が想定していた開示の範囲を超えるものとして評価されやすくなります。私生活上の事柄の公開については、私生活を暴露した|プライバシー侵害は犯罪になるのかでも扱っています。
匿名のアカウントで書き込んでいても、相手が情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)にもとづく発信者情報開示の手続をとれば、投稿者が特定される可能性があります。手続の過程でプロバイダから意見照会書が届くことがあり、この段階では、相手はまだ投稿者を知らない場合もあります。照会書への回答はその後の手続で使われることがあるため、感情的な反論を書き送る前に内容を確認しておきたいところです。
書き込んでしまった後に考えたいこと
書き込んだ後の動き方によって、その後の展開が変わることがあります。まず整理しておきたいのは次の点です。
- いつ、どのサービスに、どのような内容を書き込んだか。
- その情報をどこで知ったか(交際中に本人から、共通の知人から、検索などで)。
- 書き込みのほかに、元恋人へ連絡したり、近くへ行ったりしたことがあるか。
- 相手や警察、サイトの運営者から、これまでにどのような連絡があったか。
- 投稿が広まった範囲と、すでに削除したかどうか。
投稿の削除は、被害の広がりを止める意味で検討してよい対応です。ただし、削除しても責任がなくなるわけではなく、すでに画面が保存されていることもあります。後から経緯を説明できるよう、自分が何を書いたかを手元に控えておくことをおすすめします。削除の評価については、SNSへの投稿が事件に与える影響|削除すればよいのかでも触れています。
一方で、次のような対応は、状況を落ち着かせるつもりでも、かえって不利に評価されやすいものです。
- 元恋人に直接連絡して、謝罪や事情の説明をしようとすること。
- 釈明や経緯の説明を、追加で投稿すること。
- 共通の知人に頼んで、相手の様子を探ったり、間に入ってもらったりすること。
- 届いた照会書や、相手の代理人からの書面を放置すること。
- 内容を確かめないまま、相手の言い分を認める書面に署名すること。
とくに元恋人への直接の連絡は、謝罪のつもりであっても、ストーカー規制法上の「つきまとい等」として受け取られるおそれがあります。謝罪や示談を考える場合は、弁護士を通じて進めるのが一般的です。謝罪の投稿が持つ意味については、謝罪や訂正の投稿をした|示談・処分にどう影響するかで整理しています。
よくあるご質問
名前を伏せて勤務先だけを書いた場合も、問題になりますか
勤務先と前後の書き込みから元恋人が誰か分かる状態であれば、名前を伏せたことは決め手になりにくいと考えられます。共通の知人が見れば特定できる場合も同様です。
元恋人のほうが先に、私の悪口を書いていました
先に書かれたという事情は経緯として考慮される可能性がありますが、それによって自分の書き込みの責任がなくなるわけではありません。双方が請求し合う形になることもあるため、書き返す前に一度立ち止まることをおすすめします。相手の書き込みへの向き合い方は、【男女トラブル】別れた相手が共通の友人に悪口を広めている|名誉毀損になる線も参考になります。
警察から連絡が来たら、どうすればよいですか
任意の事情聴取を求められる場合や、警告に向けた手続が進んでいる場合などがあります。何について聞かれているのかを確認したうえで、話す内容を事前に整理しておくことが大切です。早い段階で弁護士に相談しておくと、受け答えの準備がしやすくなります。
まとめ
- 元恋人の住所や勤務先を書き込んだことだけで成立する罪は、刑法には置かれていません。
- 相手が元恋人の場合は、好意や恨みの感情を背景にした行為として、ストーカー規制法の対象になることがあります。
- 引っ越し先や転職先を書くことは、行動を監視していると思わせる事項として扱われる余地があります。
- 添えた言葉の内容によって、名誉毀損罪・侮辱罪・脅迫罪・業務妨害罪などが問題になります。
- 勤務先の書き込みは、勤務先の業務にも影響が及びやすく、責任の範囲が広がることがあります。
- 刑事の規定に当たらない場合でも、プライバシーの侵害として民事の責任は別に判断されます。
- 書き込んだ後は、元恋人への直接の連絡や追加の投稿を控え、経緯を整理しておくことが大切です。
元恋人についての書き込みは、別れた直後の感情から生じることが多く、後から振り返って不安になる方も少なくありません。どの規定が問題になるかは、書いた内容や前後の行動によって変わります。相手から連絡が来た後の段階でも、取れる対応は残っています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


