【刑事事件】家宅捜索の後に本人が逮捕されなかった|この先の見通し
本記事は、2024年4月1日に施行された改正DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)と、2025年6月から懲役・禁錮が拘禁刑に一本化された刑法改正を反映しています。
交際相手の申立てにより、裁判所から保護命令が出された。身の回りの物や仕事道具を自宅に置いたまま外に出ることになり、「自分の荷物くらいは取りに戻ってもよいのではないか」と考える方は少なくありません。部屋の契約が自分の名義であれば、なおさらそう感じるかもしれません。
しかし、保護命令の内容によっては、荷物を取りに戻るという行為そのものが命令違反として刑事手続の対象になるおそれがあります。この記事では、保護命令を受けた側の立場から、自宅に戻れるかどうかを分ける事情と、命令に触れずに荷物を受け取るための手順を整理します。
まず決定書で、どの命令が出ているかを確かめる
保護命令は1種類ではありません。裁判所の案内では、申立人への接近禁止命令、申立人への電話等禁止命令、申立人の子や親族等への接近禁止命令、退去等命令などに分かれています。自宅に戻れるかどうかは、このうちどれが出ているかで大きく変わります。手元の決定書を開き、命令の種類と期間を確認するところから始めてください。
| 命令の種類 | 禁止・命令される主な内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 退去等命令 | 申立人と共に生活の本拠としている住居から退去し、その住居の付近をはいかいしないこと | 2か月(住居の所有者または賃借人が申立人のみで、申立人の申立てがあった場合は6か月) |
| 接近禁止命令 | 申立人の身辺へのつきまといや、住居・勤務先など申立人が通常いる場所の付近のはいかいをしないこと | 1年 |
| 電話等禁止命令 | 面会の要求、緊急時以外の連続した電話・メール・SNS送信、深夜早朝の送信、GPSによる位置情報の無承諾取得などをしないこと | 接近禁止命令の期間内 |
保護命令の効力は、裁判所の期日で言い渡されたとき、または決定書が送達されたときに生じます。命令に違反した場合の罰則は、改正により「2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金」に引き上げられています。また、保護命令が出されると、その内容は警察にも通知されます。
退去等命令の期間中に自宅へ戻ることの位置づけ
退去等命令が出ている場合、命令の効力が生じた時点で身の回りの物をまとめ、速やかに住居を出ることが求められます。いったん退去した後、期間中に住居へ立ち入ったり、その付近にとどまったりすれば、目的が荷物の回収であっても命令違反と評価されるおそれがあります。
「自分の家だから」「荷物だけだから」は理由になりにくい
退去等命令は、部屋の名義や所有権とは関係なく、一定期間住居から離れることを命じるものです。賃貸借契約の名義が自分であっても、家賃を自分が払っていても、命令の期間中に戻ってよい理由にはなりにくいと考えられます。申立人が通報すれば、警察は命令の内容を把握したうえで対応するため、現場で事情を説明しても受け入れられるとは限りません。
申立人から「取りに来てもいい」と言われたとき
申立人本人から荷物を取りに来るよう連絡が来ることもあります。ただ、裁判所の命令は当事者の同意だけで効力を失うものではありません。その場でやり取りがこじれれば、こちらが命令に違反して接近したという形だけが残るおそれがあります。申立人からの申し出であっても、本人同士で日時を決めて出向くことは避け、弁護士を通じて段取りを確定させるほうが安全です。
退去等命令の期間が終わっても、戻れるとは限らない
退去等命令は原則2か月ですが、多くの場合、1年間の接近禁止命令が同時に出ています。期間が満了した時点で申立人がまだその住居に住んでいれば、住居付近のはいかいは接近禁止命令によって引き続き禁止されます。退去等命令が終わったことだけを理由に戻ると、別の命令に違反するおそれがあります。
反対に、申立人が期間中に転居を済ませていれば、もとの住居は申立人の住居ではなくなるため、戻れる可能性が出てきます。ただし、申立人が実際に転居したかどうかを自分で確かめに行くことは避けてください。確認も、弁護士を通じて行うのが無難です。
荷物を取りに行けないときに踏みたい手順
命令に触れずに荷物を受け取るには、次の順序で考えると整理しやすくなります。
- 必要な物を書き出し、急ぐ物(薬、身分証、通帳、仕事道具、車の鍵など)と後でよい物に分けます。
- 自分からは申立人に連絡しません。電話等禁止命令が出ていれば、連続したメッセージや面会の求めは命令違反になり得ます。
- 親族や友人に頼んで申立人へ連絡してもらうことも控えます。伝え方によっては、こちらの意向でつきまとっていると受け取られるおそれがあります。
- 弁護士を窓口にし、申立人側に代理人がいれば代理人同士で、いなければ書面で受け渡しの方法を協議します。
- 決まった方法と日時を書面に残し、当日は本人が現地に行かない形を基本にします。
受け渡しの方法としては、主に次のようなものが考えられます。
| 方法 | 向いている場面 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 申立人側で梱包し、配送してもらう | 荷物の量が少なく、品目を特定できる場合 | 梱包・配送の費用負担と、送り先の住所の扱いを事前に決める |
| 申立人が不在の日時に、代理人や業者が搬出する | 家具・家電など量が多い場合 | 本人は立ち会わず、立ち入る範囲と持ち出す物を書面で特定しておく |
| 期間満了と申立人の転居を待って引き取る | 急ぎではなく、申立人が転居する見込みがある場合 | 接近禁止命令の有無と、転居の事実を代理人経由で確認する |
急いで必要な物がある場合
常用している薬や仕事に欠かせない物が自宅に残っている場合は、受け渡しの協議を急ぐ必要があります。決定が出た段階で弁護士に伝えておくと、優先して申し入れることができます。身分証や保険の資格確認書など、再発行や代替の手続で足りる物は、そちらを先に進めるほうが早いこともあります。
荷物を処分された、返ってこないとき
保護命令が出ても、自宅に残した物の所有権がなくなるわけではありません。申立人が勝手に処分した場合、損害賠償の請求や、事情によっては器物損壊として扱われる余地もあります。ただし、事実を確かめるために自宅へ出向けば、命令違反という別の問題を生みます。残してきた物の一覧や購入時の記録を手元で整理し、交渉は代理人に任せるのが現実的です。荷物の扱い全般については【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかでも解説しています。
命令そのものに納得できないとき
事実と異なる内容で命令が出たと考える場合は、即時抗告で争う道があります。期限は原則として決定の告知から1週間と短いため、早めの相談が必要です。即時抗告をしても、命令の効力は当然には止まりません。結論が出るまでは命令を守ることが前提になります。
このほか、申立人に異議がない場合に限り、退去等命令は効力発生から2週間、接近禁止命令は3か月を経過した後に、こちらから取消しを申し立てることができます。申立人が転居を済ませ、受け渡しにも協力的になっている場面では、取消しも選択肢になり得ます。
刑事事件と並行しているときの注意点
保護命令の前後に、暴行や傷害などで逮捕・捜査を受けている方もいます。釈放の際に被害者と接触しないことを約束していたり、保釈の条件で住居や接触が制限されていたりすれば、荷物を取りに戻ることは保護命令とは別にその約束や条件にも触れるおそれがあります。捜査中の事件の処分や、保釈の扱いにも影響しかねません。保釈条件については保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるか、交際中の言動の見直しについては【男女トラブル】デートDVの加害者だと言われた|自分の言動を法的に見直すもご覧ください。
同棲していなかった交際相手の場合
DV防止法の保護命令の対象になる交際相手は、生活の本拠を共にする交際相手に限られます。同棲していない交際相手との間では、ストーカー規制法による警告や禁止命令が問題になることが多く、荷物の清算を理由にした連絡でも慎重さが求められる点は共通しています。違いについてはストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?、交際相手と保護命令の関係については交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応、清算のための連絡については【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で詳しく扱っています。
よくあるご質問
車を自宅の駐車場に置いたままにしています。動かしに行ってもよいですか
駐車場が住居の敷地内や近くにある場合、車を取りに行くことは住居付近のはいかいと評価されるおそれがあります。鍵の受け渡しを含め、代理人や業者が移動させる方法を協議するほうが安全です。
郵便物が自宅に届き続けています。どうすればよいですか
郵便局に転居届を出せば、一定期間は新しい住所や実家などへ転送されます。転送先の住所が申立人に伝わらないよう、届出の内容は弁護士と相談しながら決めると安心です。
荷物の受け渡しを頼める弁護士は、命令の手続を担当した弁護士でなくてもよいですか
保護命令の手続で代理人がいなかった場合でも、受け渡しの交渉から弁護士に依頼することは可能です。決定書と、残してきた物の一覧を持参いただくと、話が早く進みます。
荷物の問題は、命令を守りながら進める
保護命令を受けた後の荷物の回収は、命令の種類と期間、申立人の住まいの状況、並行する刑事手続によって取れる方法が変わります。自分の物を取り戻したいという考え自体は自然なものですが、本人が動くほど命令違反と受け取られる場面が増えます。決定書を手元に置き、どの方法なら命令に触れないかを確かめてから動くことが、結果として荷物を早く手元に戻す近道になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


