禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新
駐車中の車から物を持ち出してしまった。あるいは、住宅や事務所に入って物を持ち出してしまった。同じ「盗み」でも、車を狙った場合と建物に立ち入った場合とでは、問われる罪の組み合わせが変わります。
「車上荒らし」「侵入盗」は、警察の統計や報道で使われる呼び方であり、刑法にその名前の罪があるわけではありません。実際に立件されるときは、窃盗罪を軸として、器物損壊罪や住居侵入罪が組み合わされる形になります。
分かれ目になるのは、車の中に入ったかどうかではなく、その車に近づくためにどこへ立ち入ったかです。この記事では、車上荒らしと侵入盗で罪名の組み合わせがどう違うのか、そして組み合わせが変わることで手続や解決の進め方がどう変わるのかを整理します。
想定している場面
次のような場面を念頭に置いています。
- 路上や店舗の駐車場に停まっていた車の窓を割り、車内の物を持ち出してしまった。
- 無施錠の車のドアを開け、置いてあった財布や工具を持ち出してしまった。
- 住宅の敷地に入り、庭先や玄関付近に置かれていた物を持ち出してしまった。
- 事務所や店舗に入り、置いてあった現金を持ち出してしまった。
- 車内を物色していたところで見つかり、その場で警察官を呼ばれた。
いずれも、後になって「どの罪で調べられているのか分からない」という形で相談に至ることが多い場面です。
「車上荒らし」という罪名は刑法にない
車内にある金品や部品を持ち出す行為は、刑法第235条の窃盗罪として扱われます。条文は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」と定めています。なお、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑は拘禁刑に一本化されています。
警察庁が公表している刑法犯の統計資料では、窃盗は手口によって「侵入窃盗」「乗り物盗」「非侵入窃盗」に区分され、車上ねらいは非侵入窃盗の内訳に置かれています。住宅や事務所に立ち入って行われる空き巣などは侵入窃盗にあたり、車そのものを持ち去る自動車盗は乗り物盗にあたります。
これらはあくまで捜査や統計のための手口の分類であって、罪名ではありません。ただし、どの手口として整理されるかによって、後で述べるように加わる罪や余罪の見立てが変わってきます。
車の中に入っても住居侵入罪にはならない
住居侵入罪を定める刑法第130条前段は、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し」た場合を対象としています。守られているのは、住居・邸宅・建造物・艦船という四つの場所であり、自動車はこのいずれにも含まれないと解されています。
そのため、施錠された車のドアを開けて車内に入り込んだとしても、その立ち入り自体を捉える罪は刑法130条にはありません。侵入盗であれば当然のように加わる住居侵入罪が、車上荒らしでは基本的に加わらないのは、この違いによるものです。
もっとも、車両であればおよそ対象外というわけではありません。日常生活の場として使われている車両については、住居にあたり得るという説明もあります。車中泊が続いている車や、居住の用に供されているキャンピングカーなどは、通常の乗用車と同じには扱えない余地があります。
代わりに問題になるのが器物損壊
車上荒らしで窃盗罪と並んで問題になりやすいのが、刑法第261条の器物損壊罪です。他人の物を損壊し、または傷害した場合に成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料と定められています。
窓ガラスを割った、ドアの錠をこじ開けた、配線を切ったといった行為は、この罪にあたり得ます。反対に、無施錠の車のドアを開けて中の物を持ち出しただけであれば、壊した物がないため、窃盗罪だけが問題になるのが通常です。同じ「車上荒らし」と呼ばれる行為でも、手を加えた部分があるかどうかで罪名の数が変わります。
住居侵入・建造物侵入が加わる場面
車を狙った事案であっても、住居侵入罪や建造物侵入罪が加わることがあります。判断の対象になるのは車ではなく、その車が停まっていた場所です。
| 車が停まっていた場所 | 立ち入りについて加わり得る罪 |
|---|---|
| 路上や、出入りが自由なコインパーキング | 加わらないのが通常 |
| 塀や門で囲まれた住宅の敷地内の駐車場 | 住居侵入罪 |
| 分譲・賃貸マンションの敷地内駐車場や地下駐車場 | 建造物侵入罪または住居侵入罪 |
| 管理者が出入りを制限している屋内駐車場、事業所の構内 | 建造物侵入罪 |
建物の周囲にある土地であっても、建物に接していて、管理者が門塀などを設けることで建物の付属地として使われることが示されている場合には、刑法130条の対象に含まれるとするのが判例です。塀に囲まれた自宅の敷地内に停めてあった車を狙って敷地に入れば、車内に手を伸ばす前の段階で立ち入りが問題になります。
空き巣や事務所荒らしといった侵入盗は、まさにこの立ち入りが行為の前提になっています。侵入盗で住居侵入罪と窃盗罪が併せて問われるのは、狙った物が建物の中にある以上、立ち入りを避けて通れないからです。
罪名の組み合わせが変わると何が変わるのか
罪名が一つ増えることは、単に名前が増えるという話にとどまりません。次の四つの点が動きます。
刑の決まり方
住居侵入罪と窃盗罪のように、一方が他方の手段と結果の関係にある場合は、刑法第54条第1項後段により、重い方の罪の刑によって処断されます。侵入盗で住居侵入罪が加わっても、処断の枠は窃盗罪の法定刑のままです。
これに対して、そのような関係が認められない場合は、それぞれ別個の罪として数えられ、刑法第45条以下の併合罪として処理されます。損壊行為については、窃盗の手段として通常用いられる行為とはいえないとして、独立した罪として扱った裁判例もあります。車上荒らしで窃盗罪と器物損壊罪が問題になる場合、どちらの処理になるかは事案によって変わり得るところです。
告訴が必要かどうか
器物損壊罪は、刑法第264条により、告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪とされています。告訴の期間は、犯人を知った日から6か月です。一方で、窃盗罪も住居侵入罪も親告罪ではありません。
このため、被害者が告訴をしない、あるいは告訴を取り消した場合、器物損壊の部分は起訴できなくなりますが、窃盗の部分はそれとは別に残ります。示談によって処分が軽くなる方向に働くとしても、告訴の取消しがそのまま事件全体の終了を意味するわけではない、という点は押さえておく必要があります。
示談の相手が一人とは限らない
罪名が増えると、被害を受けた立場の人も増えます。車の所有者と実際に使っていた人が別ということもあり、社用車、リース車、レンタカーではこの点がはっきり分かれます。損壊した車の修理費を負担するのは、車両の所有者側であることが多いためです。
住居侵入罪や建造物侵入罪が加わる場合は、建物や敷地を管理している側との関係も生じます。マンションの駐車場であれば管理組合や管理会社が、事業所の構内であれば会社が、立ち入りについての当事者になります。誰と何について話をするのかを最初に整理しておかないと、示談の手続が途中で止まりやすくなります。
繰り返していると見られたとき
窃盗を繰り返している場合には、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律という古い特別法が問題になることがあります。この法律は、常習として一定の方法で窃盗などを行った場合に、3年以上の有期拘禁刑という重い枠を定めています。
ここで挙げられている方法のうち二つは、門や塀を乗り越えたり錠を開けたりして住居や建造物に侵入した場合、夜間に住居や建造物に侵入した場合という形で、いずれも建物への侵入を要件としています。車を狙った事案がそのまま当てはまるものではなく、侵入盗との差が刑の枠にあらわれる場面といえます。
もっとも、過去10年の間に窃盗などで3回以上、6か月以上の刑の執行を受けた人が常習として窃盗を行った場合については、手口を問わず同じ重い枠が適用される定めが別に置かれています。前科の内容によっては、車を狙った事案でもこの点が検討されることになります。
盗る前に見つかった場合
車内を物色している途中で見つかった場合や、ドアを開けたところで警察官に呼び止められた場合は、窃盗未遂罪が問題になります。刑法第243条が窃盗の未遂を処罰しているためです。
どの時点から未遂になるのかについては、駐車中の車から金品を盗もうとして助手席側のドアの鍵穴にドライバーを差し込んだ行為について、その差込みの時点で窃盗の実行に着手したと判断した裁判例があります。車内は外から隔てられた狭い空間で、そこに金品が置かれているのが通常であるため、車内に入る手前の段階でも、盗む行為に踏み出したと評価されやすいという理解です。
住居に立ち入っただけの段階では窃盗の着手までは認めにくいと整理されているのと比べると、線の引かれ方が違います。ここでも、車と建物では扱いが分かれます。
同じ手口の余罪が問われやすい理由
車上荒らしと侵入盗に共通するのは、同じ地域で同じ手口が続いていた場合に、一連の事件として捜査が進みやすいという点です。駐車場の防犯カメラ、周辺の車のドライブレコーダー、通行人の目撃、被害届の内容が突き合わされ、他の事件との関連が検討されます。
その結果、一つの事件で身柄を拘束された後に、別の事件について改めて逮捕されるという形で手続が長くなることがあります。取調べでは、被害の届出が出ている別の事案について尋ねられることもあります。記憶があいまいなまま推測で答えると、後から説明を修正することになり、供述の信用性が問われる材料になります。分からない部分は分からないと述べ、確認できたことだけを述べる姿勢が求められます。
弁償と示談で決めておく事柄
被害の回復は、処分を決めるにあたって考慮される事情の一つです。車を対象とした事案では、次のような点を書面で整理しておくことが考えられます。
- 持ち出した物の内容と、その時点での価値をどう見るか。
- 壊した部分の修理に要した費用と、その裏づけとなる見積書や領収証。
- 車を使えなかった期間について、どのように扱うか。
- 被害品が手元に残っている場合の、返還の方法と時期。
- 今後、相手方や現場に近づかないことをどう約束するか。
車両保険が使われている場合は、修理費の一部について保険会社との関係が生じることもあります。誰にいくらを支払えば清算になるのかを確認しないまま金銭を渡すと、後から重ねて請求される余地が残ります。
相談の前に整理しておきたいこと
弁護士に相談する際は、次の点をメモにまとめておくと話が早く進みます。
- 日時と場所。車が停まっていた場所が路上か、敷地内か、屋内かを含めて。
- 車のどの部分に手を加えたか。壊した物があるかどうか。
- 持ち出した物の内容と、その後の扱い。手元にあるか、処分したか。
- 警察から受け取った書面の有無と、その名称。
- これまでに聞かれた内容と、自分がどう答えたか。
- 過去に同種の事件で処分を受けたことがあるかどうか。
書面が手元にない場合でも、受け取った日と場所を覚えている範囲で伝えておけば、手続のどの段階にいるのかを判断する手がかりになります。
この記事のまとめ
ここまでの内容を整理します。
- 車上荒らし・侵入盗という罪名は刑法になく、窃盗罪を軸に他の罪が組み合わされる。
- 自動車は住居侵入罪の対象に含まれないため、車内に入っただけでは同罪は成立しないと解されている。
- 車上荒らしで加わりやすいのは器物損壊罪であり、無施錠の車であれば窃盗罪だけが問題になることもある。
- 住居侵入罪や建造物侵入罪が加わるかどうかは、車が停まっていた場所によって決まる。
- 塀や門で囲まれた敷地内の駐車場や、管理されている屋内駐車場では、立ち入りが別に問題になり得る。
- 器物損壊罪は親告罪だが窃盗罪は親告罪ではなく、告訴の取消しだけで事件全体が終わるわけではない。
- 損壊した車の所有者、使用者、敷地の管理者など、相手方が複数になることがある。
- 繰り返しがある場合には、建物への侵入を要件とする重い規定が問題になることがあり、侵入盗との差が出やすい。
車上荒らし・侵入盗の件でお困りの方へ
車を狙った事案と建物に立ち入った事案では、同じ窃盗であっても、加わる罪、被害を受けた立場の人の数、手続の進み方が変わります。呼び方だけでは見通しが立たないため、実際に何が問題にされているのかを、書面や取調べの内容から確認していくことになります。
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