保護観察付き執行猶予の遵守事項と、取り消される場面
店で声を荒らげてしまった、来店するつもりがないのに予約を入れてしまった、ネットに事実と違うことを書いてしまった。こうした後で「業務妨害になるのではないか」と不安になり、あわせて「自分の場合は威力なのか偽計なのか」を気にされる方がいます。刑法は業務妨害を一つにまとめて定めているのではなく、手段ごとに条文を分けています。ただし、その分かれ方は刑の重さとは結び付いておらず、区別が結論を左右する場面は限られています。この記事では、両者の違いがどこにあり、どこでは違わないのかを整理します。
条文は分かれているが、刑の重さは同じ
業務妨害に関する規定は、刑法233条後段(偽計業務妨害)、234条(威力業務妨害)、234条の2(電子計算機損壊等業務妨害)の三つです。234条は「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による」と定めており、偽計と威力は条文こそ分かれていますが、刑の重さは同じです。
三つの規定の共通点と相違点を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 偽計業務妨害 | 威力業務妨害 | 電子計算機損壊等業務妨害 |
|---|---|---|---|
| 根拠となる条文 | 刑法233条後段 | 刑法234条 | 刑法234条の2 |
| 手段 | 虚偽の風説の流布、偽計 | 威力 | 電子計算機や電磁的記録への加害 |
| 法定刑 | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 公訴時効 | 3年 | 3年 | 5年 |
| 未遂の処罰 | 規定なし | 規定なし | 規定あり |
| 告訴の要否 | 不要(非親告罪) | 不要(非親告罪) | 不要(非親告罪) |
こうして並べると、偽計と威力で異なるのは条文の番号と手段の書き方だけで、刑の重さも公訴時効も、告訴が要るかどうかも変わらないことが分かります。
「見える形か、見えない形か」という説明とその限界
両者の違いとしてよく紹介されるのは、公然と、相手に分かる形で行われたものが威力、隠れた形で、相手が気づかないうちに行われたものが偽計、という整理です。傾向をつかむうえでは有用ですが、この言い回しは条文に書かれているものではなく、これまでの取扱いを後から整理した説明である点には注意が必要です。
条文の文言に戻ると、威力は「威力を用いて」、偽計は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて」です。威力は、行為者の勢いや人数、周囲の状況などからみて人の自由意思を制圧するに足りる勢力を示すこと、偽計は、人を欺いたり、誘惑したり、相手の勘違いや知らない状態を利用したりする不正な手段一般を指すと理解されています。
そのため、一つの言動が両方の性質をあわせ持つ場面が出てきます。たとえば施設に危害を加えると予告する行為は、内容が事実に反するという点では偽計の性質を持ち、相手に強い圧力をかけるという点では威力の性質を持ちます。実際、こうした事案でどちらの罪名が選ばれるかは、事案の受け止め方によって分かれることがあります。
振り分けをめぐる二つの誤解
「だまされた人がいないから偽計ではない」
偽計は、相手を錯誤に陥らせる場合に限られません。相手が事情を知らない状態を利用する行為も含まれると理解されています。誰かが現にだまされたかどうかは、偽計にあたるかどうかを決める唯一の物差しではありません。
「相手が怖がっていないから威力ではない」
威力にあたるかどうかは、その場の状況から客観的に判断されるとされており、相手が現に萎縮したかどうかで決まるものではないと解されています。逆に、相手が強く不快に感じたというだけで威力になるわけでもありません。
相談で多い言動は、どちらの枠で扱われやすいか
実際に相談を受けることの多い言動について、扱われやすい枠と、判断のときに見られる事情を整理すると次のようになります。あくまで傾向であり、事案によって変わります。
| 言動 | 扱われやすい枠 | 判断で見られる点 |
|---|---|---|
| 店頭で大声を出す、長時間居座る | 威力 | 声が届いた範囲、対応にあたった人数、止まった業務 |
| 繰り返し電話をかけて怒鳴り続ける | 威力 | 回数と時間帯、通話の内容、対応の負担 |
| 無言電話を繰り返す | 偽計 | 回数と期間、回線がふさがった時間 |
| 来店の意思がないのに予約や注文を入れる | 偽計 | 名義の使い方、規模、相手方が行った準備 |
| 事実と異なる内容をネットに投稿する | 偽計 | 内容が事実に反するか、広がり方 |
| 施設や人に危害を加えると予告する | 威力(内容によっては偽計) | 予告先が取った対応の中身 |
| 通路をふさぐ、物を置いて通れなくする | 威力 | 取り除くのに要した手間、影響を受けた業務 |
| 他人のパソコンやデータを操作する | 電子計算機損壊等 | 動作にどのような影響が生じたか |
同じ電話でも、内容によって枠が変わる
電話を手段とする場合が分かりやすい例です。怒鳴り続ける、危害を告げるといった内容であれば威力の側で扱われやすく、実在しない用件を告げる、無言のまま回線をふさぐといった内容であれば偽計の側で扱われやすくなります。中華そば店に対して約970回にわたり無言電話をかけ、電話の発着信ができない状態を作った事案について、偽計業務妨害の成立を認めた裁判例(東京高等裁判所昭和48年8月7日判決)があります。
件数の多さだけで枠が決まるのではなく、何を伝えたのかが振り分けに影響します。同じ店に同じ回数だけ電話をかけても、罪名が入れ替わることがあるということです。
区別が結論を左右する場面は限られている
ここまで見たとおり、偽計と威力では刑の重さも公訴時効も同じで、告訴の要否も変わりません。示談が処分の判断で考慮される点も共通しています。そのため、多くの事案では、罪名がどちらになるかで見通しが大きく変わることはありません。相談の場面でも、どちらの言葉が使われているかより、どのような事実が疑われているかのほうが重要になります。
ただし、区別が結論に影響し得る場面があります。相手が公務である場合です。
相手が公務のとき、手段によって扱いが分かれ得る
公務員の職務を妨げた場合、刑法95条の公務執行妨害罪が問題になります。もっとも、同罪の手段は暴行と脅迫に限られており、それに至らない行為は同罪では捉えられません。判例は、公務執行妨害罪の「職務」には広く公務員が取り扱う各種各様の事務が含まれるとしています(最高裁昭和53年6月29日判決)。
他方、業務妨害罪の「業務」に公務が含まれるかについて、最高裁は、県議会による条例案の採決について、被告人らに対して強制力を行使する権力的公務ではないことを理由に、これが威力業務妨害罪の業務にあたるとした原判断を是認しています(最高裁昭和62年3月12日決定)。ここから、強制力を行使する権力的な公務については、威力を用いた妨害を業務妨害罪で捉えることは難しいと理解されてきました。妨害があっても、その場で強制力によって取り除くことができるからです。
これに対して、嘘の通報や虚偽の予告のように、相手が事実と異なることを前提に動いてしまう形の妨害では、事情が変わります。虚偽の犯行予告の書き込みによって警察官が出動した事案について、強制力を付与された権力的な公務が含まれていたとしても、その強制力は虚偽通報による妨害行為に対して行使し得る段階にはなく、妨害行為を取り除く働きを持たないとして、警察の公務の全体が業務妨害罪の保護の対象になるとした裁判例があります(東京高等裁判所平成21年3月12日判決)。
つまり、同じ相手に同じような支障を生じさせても、その場で押し止める形か、嘘によって動かす形かで、扱いが分かれ得るということです。この整理には学説上の批判もありますが、見通しを立てるうえでは押さえておきたい点といえます。
起訴されるときの罪名と罰条
起訴状には、公訴事実のほかに罪名を記載し、罪名は適用すべき罰条を示して記載することとされています(刑事訴訟法256条)。偽計業務妨害であれば刑法233条、威力業務妨害であれば234条が示されます。
捜査の初期に警察から告げられた罪名と、最終的に検察官が選んだ罪名が一致しないこともあります。証拠が集まる過程で、事実関係の見え方が変わることがあるためです。罪名が入れ替わっても刑の重さの枠は変わりませんので、取調べの場では、罪名の当否を争うことよりも、実際に何をしたのか、何をしていないのかを正確に伝えることのほうが意味を持ちます。
どちらの枠でも、「業務」と「妨害」は共通の要件
偽計でも威力でも、成立には人の「業務」を「妨害」したことが必要です。業務とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う事務をいい、営利活動に限られません。一方、個人的な趣味や娯楽としての活動は業務にあたらないとされています。
妨害については、判例は、業務を妨害するおそれのある行為があれば足り、現実に業務が妨げられた結果までは要しないと解しています。したがって、「実際には営業は止まっていない」という事情だけで成立が否定されるわけではありません。もっとも、学説には現実の支障を要求する見解もあり、実務でも、どの程度の支障が生じたかは処分や量刑の判断に影響します。
どちらにも当たらないとされる場合
妨害の程度が軽い場合には、軽犯罪法1条31号(他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害する行為)で扱われることがあります。同号は刑法233条・234条・95条の補充規定であり、これらの罪が成立しないような違法性の程度の低い場合に限られると述べた裁判例があります(東京高等裁判所平成21年3月12日判決)。同号の刑は拘留又は科料です。
また、通常の範囲の申し入れにとどまる場合や、事実に基づく指摘にとどまる場合には、いずれの罪にも当たらないと判断されることもあります。
処分の見通しを分けるのは、罪名よりも事情
起訴するかどうか、どの程度の処分になるかの判断では、次のような事情が見られます。
- 妨害されたとされる業務の内容と、支障が生じた範囲。
- 行為が一度きりだったか、繰り返されていたか。
- 相手方が対応のためにどれだけの負担を負ったか。
- 被害の回復や謝罪が行われているか。
- 同種の前科・前歴があるか。
被害を受けるのが法人や店舗であることが多いため、示談の相手方は担当者個人ではなく法人になります。窓口は本社や代理人弁護士になることが多く、対応にあたった従業員の方に直接連絡することは避けたほうがよい対応です。
連絡が来たときの整理と、控えたほうがよい対応
整理しておきたいこと
- 日時と場所、その場にいた人。
- 自分が実際に言ったこと、していないこと。
- やり取りの記録(通話履歴、メッセージ、投稿の控え)。
- 相手方から求められている内容と期限。
- すでに支払いや謝罪を行っていれば、その経緯。
控えたほうがよい対応
- 投稿やメッセージ、通話履歴を消してしまうこと。
- 相手方の店舗や担当者のもとへ直接出向いて説明しようとすること。
- 連絡を無視したまま時間を置くこと。
- 罪名の当否だけを言い争って、事実の説明を後回しにすること。
- その場をおさめるために、記憶と異なる内容を認めてしまうこと。
よくあるご質問
警察から威力業務妨害と言われましたが、私は嘘をついただけです
捜査の段階で示される罪名は、その時点での見立てにとどまります。事実関係が明らかになる過程で罪名が変わることもあります。いずれの罪名でも刑の重さの枠は同じですので、まずは実際の言動を正確に説明することが先になります。
威力と偽計で、処分の重さは変わりますか
法定刑と公訴時効は同じで、罪名の違いそのものが処分を分けることは通常ありません。妨害の程度、繰り返しの有無、被害の回復といった事情のほうが判断に影響します。
相手が「業務妨害だ」と言っていますが、被害届は出ていないようです
業務妨害罪は告訴がなくても起訴できる罪ですので、被害届の有無だけで結論が決まるわけではありません。もっとも、相手方が事件化を望んでいない段階であれば、その時点で対応を検討する余地は残されています。
まとめ
- 業務妨害には偽計・威力・電子計算機損壊等の三つの規定があり、偽計と威力は条文が分かれているが刑の重さは同じである。
- 相手に分かる形かどうかという説明は実務の傾向を整理したものであり、条文の文言ではない。
- 一つの言動が両方の性質を持つこともあり、捜査の過程で罪名が入れ替わることがある。
- だまされた人がいないこと、相手が怖がっていないことは、それだけで成立を否定する事情にはならない。
- 区別が結論に影響し得るのは、相手が強制力を行使する公務である場合である。
- 妨害はおそれで足りると解されており、営業が止まっていないという事情だけでは判断は決まらない。
- 処分の見通しを分けるのは罪名よりも、支障の程度、繰り返しの有無、被害回復の有無である。
業務妨害を疑われている段階では、自分の言動がどの枠で扱われるのかが見えにくく、不安が先に立ちやすいものです。当事務所では無料でご相談をお受けしていますので、警察や相手方から連絡があった段階でお気軽にお問い合わせください。


