【刑事事件】交際相手の財布からお金を抜いたら、家族と同じ扱いになる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、2025年6月1日に施行された改正刑法(懲役・禁錮を「拘禁刑」に一本化)を反映した内容です。個別の事案の見通しは、事情によって変わります。


交際相手の財布からお金を抜いてしまい、そのことが相手に知られたとき、「家族のお金なら罪にならないと聞いたことがある。恋人も同じではないか」と考える方は少なくありません。たしかに刑法には、家族の間で起きた窃盗について刑を免除する特例があります。しかし、この特例が及ぶ範囲は法律で細かく決められていて、交際相手はその中に入っていません。

 この記事では、家族間の特例(親族相盗例)がどのような決まりなのか、交際相手や同棲相手、内縁関係の相手が対象にならない理由、発覚した後に起こりうることと、その時点で考えておきたい対応を順に整理します。

交際相手は「家族と同じ扱い」にはならない

 先に結論を述べると、交際相手の財布から無断でお金を抜き取った場合、家族間の特例は適用されず、通常の窃盗罪の問題として扱われます。窃盗罪の法定刑は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(刑法235条)。

 交際期間が長い、同棲している、結婚の約束をしているといった事情があっても、それだけで扱いが変わることはないと考えておくのが無難です。どれほど親密な関係でも、法律上の親族でなければ、他人のお金を取った場合と同じ枠組みで判断されることになります。

家族間の特例(親族相盗例)とはどのような決まりか

 刑法244条は、一定の親族の間で起きた窃盗などについて、通常とは異なる扱いを定めています。関係ごとの扱いを整理すると、次のとおりです。

お金を取られた人との関係刑事上の扱い
配偶者・直系血族(親・子・祖父母・孫など)・同居の親族刑が免除される(刑法244条1項)
上記以外の親族(別居の兄弟姉妹・おじ・おばなど)告訴がなければ起訴できない(刑法244条2項)
親族ではない人(交際相手・婚約者・内縁の相手など)特例はなく、通常の窃盗罪として扱われる


 ここでいう「親族」は、民法上の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)を指します。また、特例は窃盗罪だけでなく、詐欺罪、恐喝罪、横領罪、電子計算機使用詐欺罪などにも準用されています。

なぜ家族の間だけ特例があるのか

 この特例は、家庭の中で起きた財産の問題については、まず家族の間での話し合いに委ね、国家の刑罰権が深く立ち入ることを控えるという考え方に基づくと説明されています。家族というまとまりを前提にした規定であるため、その範囲は法律上の関係で区切られています。

 なお、刑が「免除」されるというのは、犯罪自体が成立しないという意味ではありません。罪は成立したうえで刑を科さないという扱いであり、取ったお金を返す民事上の責任が消えるわけでもありません。同居の家族の場合について詳しくは、同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。

交際相手が特例の対象にならない理由


同棲していても「同居の親族」にはあたらない

 特例の対象となる「同居の親族」は、同じ家で暮らしているだけでは足りず、法律上の親族であることが前提です。交際相手と同じ部屋で生活し、家計をある程度一緒にしていたとしても、結婚していなければ親族ではないため、「同居の親族」にはあたりません。

内縁関係でも特例は使えないとした判例

 事実上の夫婦として暮らしている内縁関係については、婚姻に準じて扱うべきではないかという議論がありました。しかし最高裁判所は、この特例は刑の免除を必ず認めるものであり、その対象となる人の範囲は明確でなければならないことなどを理由に、内縁の配偶者には適用も類推適用もされないと判断しています(最高裁平成18年8月30日決定)。

 内縁関係でも対象にならない以上、交際中の恋人や婚約者が対象になる余地はさらに乏しいと考えられます。

後から結婚した場合はどうなるか

 お金を抜いた後に交際相手と結婚した場合、さかのぼって特例の対象になるのかという疑問を持つ方もいます。親族関係の有無は、一般に行為の時点を基準に考えられています。そのため、後から結婚したことで当然に刑が免除されるとは考えにくいところです。ただし、結婚に至った経緯や被害の回復の状況は、捜査機関が処分を決める際の事情として考慮されることがあります。

交際相手の家族のお金や、共犯がいる場合

 交際相手の親の財布からお金を抜いた場合も、結婚していなければ交際相手の親とは姻族の関係にないため、特例は及びません。

 反対に、交際相手が自分の親の財布からお金を持ち出すのを手伝ったような場合、交際相手本人には特例が及んでも、親族ではない側には適用されないと定められています(刑法244条3項)。家族の問題だからと誘われて関わると、自分だけが通常の窃盗罪の問題として扱われるおそれがあります。

財布以外の場面でも考え方は同じ

 交際相手のお金をめぐる問題は、現金を抜き取る場面に限りません。手段によって問われる罪の名前は変わることがありますが、交際相手が親族でない以上、特例が及ばないという点は共通です。

  • 交際相手のキャッシュカードを無断で使ってATMから引き出した場合は、窃盗罪に問われることがあります。
  • 交際相手のスマートフォンを操作して、決済アプリで無断で送金や支払いをした場合は、電子計算機使用詐欺罪に問われることがあります。
  • 預かっていた現金や、管理を任されていた口座のお金を自分のために使った場合は、横領罪に問われることがあります。
  • 二人で生活費を入れていた財布でも、相手が入れた分を無断で自分の用途に使えば、問題になることがあります。


 相手名義のクレジットカードを使っていた場合の民事上の整理については、【男女トラブル】相手名義のカードで買い物をしていた|別れた後の請求もあわせてご覧ください。

「借りただけ」「後で返すつもりだった」は通るのか

 発覚した後に、「少し借りただけで、後で返すつもりだった」と説明する方は多くいます。窃盗罪が成立するには、他人の物を自分の物のように利用・処分する意思(不法領得の意思)が必要とされますが、現金は使えばなくなるものなので、無断で抜き取って使った場合には、後で返すつもりだったというだけでこの意思が否定されることは多くありません。

 一方で、交際相手から日頃「財布のお金は自由に使ってよい」と言われていた、生活費の財布として二人で管理していたといった事情があれば、そもそも無断で取ったといえるのかが問題になります。この点は、言った言わないの争いになりやすいため、メッセージのやり取りや、過去の金銭の管理の実態が重要になります。

 お金をすぐに返した場合の影響については、盗った物をすぐ返した|返還が窃盗の成否と処分に与える影響で詳しく扱っています。

発覚した後に起こりうること


交際相手が警察に届け出ない場合

 交際関係の中での金銭の問題は、当事者の話し合いで返金して終わることも少なくありません。警察に相談しても、交際上の金銭トラブルとして当事者間での解決を促されることもあります。ただし、話し合いの中で金額や条件を一方的に決められたり、別れ話と金銭の問題が入り混じって、後から追加の要求が続いたりすることもあるため、合意の内容は書面で整理しておくことが望ましいといえます。

被害届が出された場合

 被害届が出されると、警察から連絡があり、事情を聞かれることがあります。多くの場合は在宅のまま捜査が進みますが、金額が大きい、繰り返し行われている、証拠を隠そうとしたなどの事情があると、身柄を拘束される可能性も否定できません。警察から連絡が来たときの考え方は、「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのことで整理しています。

 また、窃盗罪は告訴がなくても起訴できる罪であるため、後から交際相手が被害届を取り下げても、それだけで手続が終わるとは限りません。

示談と返金の位置づけ

 被害額を返し、交際相手との間で示談が成立していることは、検察官が起訴するかどうかを判断する際に大きく考慮される事情です。初めての事件で、被害額が比較的少なく、被害の回復と示談ができている場合には、不起訴となることもあります。もっとも、示談をすれば必ず不起訴になるわけではありません。処分の見通しについては、認めた場合の処分の見通し|罰金・略式・不起訴の分かれ目もご参照ください。

 被害届が出される前に返金することの意味は、被害届が出される前に返金した|刑事事件化を避けられるのかで解説しています。

発覚した直後に気をつけたいこと

 交際相手との関係が近いからこそ、発覚した直後の行動がその後の流れに影響しやすくなります。次のような対応は、意図とは反対の結果を招くおそれがあります。

  • 被害届を出さないよう、交際相手に何度も連絡して頼み込むこと。
  • 取った金額や回数を、実際より少なく伝えてその場を収めようとすること。
  • メッセージの履歴など、経緯の分かる記録を消してしまうこと。
  • 相手から示された金額や条件の書面に、内容を確かめずに署名すること。
  • 別れ話と金銭の問題を、その場の口約束だけでまとめてしまうこと。


 特に、取り下げを求めて連絡を繰り返す行為は、相手に強い圧力として受け取られ、別の問題に発展することがあります。謝罪の気持ちを伝えたい場合でも、伝え方や時期は慎重に考える必要があります。

弁護士に相談する意味

 交際相手のお金をめぐる問題は、刑事事件として扱われるかどうかと、返金や交際関係の清算をどうするかという民事の問題が重なりやすい分野です。弁護士が間に入ることで、本人どうしでは感情的になりやすい話し合いを整理し、返金額の確認や示談書の作成、被害届が出ている場合の捜査機関への対応を並行して進めることができます。

 また、実際に取った金額と、相手が主張する金額に食い違いがある場合には、記録をもとに事実を確かめたうえで話し合うことが大切です。早い段階で経緯を整理しておくことで、取れる選択肢が残りやすくなります。

 「家族と同じだから大丈夫」と考えて対応を後回しにすると、思っていたより重い手続に進むことがあります。交際相手との関係をどうしたいかも含めて、まずは状況を落ち着いて整理するところから始めることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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