他人の個人情報をネットに書き込んだ|特定と晒しの責任

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

インターネット上に他人の氏名や住所、勤務先、電話番号を書き込んだ後で、「これは罪になるのだろうか」と気になって調べ始める方がいます。相手から連絡が来た、サイトの運営者から通知が届いた、といったきっかけで不安になるケースも少なくありません。

検索すると、「個人情報を晒すこと自体は刑法上の犯罪ではない」という説明が目に入ります。条文の建て付けとしては誤りではありませんが、そこで話が終わるわけではありません。ここでは書き込んだ側の立場から、刑事の条文が動くのはどのような場面か、民事ではどのように判断されるのか、削除や連絡への対応で気をつけたい点を整理します。

「個人情報を晒す罪」という条文はない


刑法には、他人の氏名や住所を公開した行為をそれ自体として処罰する規定がありません。どのような行為が犯罪となるかはあらかじめ法律で定められている必要があり、そこに書かれていない行為を後から犯罪として扱うことはできないためです。

名誉毀損罪も、社会的評価を低下させる事実の摘示があって初めて成立します。氏名や住所を並べただけでは、この要件を満たさないと判断されることが多くなります。

もっとも、ここから「だから何も起きない」と読むのは早計です。実務で問題になるのは、書き込んだ情報そのものよりも、その周辺にある事情です。刑事の入口は、おおむね次の三つに分かれます。

入口典型的な場面考え方
添えた文言情報と一緒に、相手を貶める内容や害を加える内容を書いた文言の側が別の条文に触れる
情報の入手経路仕事で扱った名簿、他人のアカウント、役所の証明書から得た取得した段階に規制がある
書き込んだ後に起きたこと第三者からの電話や訪問が相手の業務や生活に影響した結果の側から責任が問われる


以下、順に見ていきます。

添えた文言によって条文が動く場面


個人情報と一緒に何を書いたかで、状況は大きく変わります。

・相手の社会的評価を下げる具体的な事実を書いた場合は、名誉毀損の問題になります。書いた内容が真実であっても、それだけで責任がなくなるわけではありません。
・具体的な事実を挙げずに相手を貶める表現を並べた場合は、侮辱の問題として扱われることがあります。
・「家に行く」「覚えておけ」といった、生命や身体、自由、名誉、財産に害を加える内容を告げた場合は、脅迫の問題になります。住所を書いたこと自体ではなく、そこに添えられた言葉が判断の対象です。
・その言葉を使って相手に何かをさせようとした場合は、強要として扱われる場面もあります。

住所や勤務先を書く行為は、それ単独では条文に触れなくても、添えた一文があることで別の罪名が視野に入ります。投稿の全体が一つのまとまりとして読まれる点に注意が必要です。

情報をどこから手に入れたかが問われる場面


書き込んだ情報をどうやって知ったかも、独立した問題になります。

まず、仕事で扱った顧客名簿や社員名簿の内容を公開した場合です。個人情報保護法は、個人情報データベース等を事業のために用いている「個人情報取扱事業者」を名宛人としており、私的にSNSへ書き込む個人は通常この定義には当たりません。この点を捉えて「個人情報保護法は関係ない」と説明されることがありますが、例外があります。

同法は、個人情報取扱事業者やその従業者、かつてこれらであった者が、業務に関して取り扱った個人情報データベース等を、自己または第三者の不正な利益を図る目的で提供したり盗用したりした場合について、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています(同法179条)。退職した後の行為も対象に含まれる書き方になっており、勤務先で見た情報を書き込んだ場面では、この規定が視野に入ります。

次に、役所の書類から住所を調べた場合です。住民基本台帳法は、偽りその他不正の手段によって住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付を受けた者について、罰金を定めています。理由を偽って取得したのであれば、その取得行為自体が問題になります。

さらに、相手のSNSやメールのアカウントにログインして情報を得た場合は、不正アクセス禁止法の問題です。これらはいずれも、公開した行為とは別に、手に入れた段階で完結している点が特徴です。

書き込んだ後に起きたことから問われる場面


三つ目は、投稿をきっかけに何が起きたかという側面です。

電話番号や勤務先を書き込んだ結果、相手の職場に多数の電話がかかり、通常の業務が回らなくなったような場合には、業務妨害の問題として捉えられることがあります。自分が電話をかけたわけではないとしても、投稿の内容や書き方によっては、そうした事態を招く行為として評価される余地があります。

民事でも同じことがいえます。第三者が起こした嫌がらせについて投稿者がどこまで責任を負うかは事案によりますが、投稿の目的、呼びかけの有無、書き込んだ場所の性質などが見られ、「自分は情報を書いただけ」という説明がそのまま通るとは限りません。

「公開されている情報だから」は通るのか


書き込んだ側からよく聞かれるのが、「本人が自分で公開していた」「調べればわかる情報だ」という説明です。

この点について最高裁は、大学が講演会の参加者から集めた学籍番号、氏名、住所、電話番号について、個人を識別するための単純な情報であり、その限りでは秘匿されるべき必要性が高いとはいえないとしながら、本人が、自分の望まない相手にみだりに開示されたくないと考えることは自然であり、その期待は保護されるべきものであるとして、プライバシーに係る情報として法的保護の対象になると判断しています(最高裁平成15年9月12日判決)。

秘密性が高い情報かどうかと、法的に保護されるかどうかは別の問題として扱われており、氏名や住所が特別な秘密ではないという事情は、それだけでは反論になりません。

また、一つひとつは公開されている情報であっても、集めて一覧にすれば元の状態とは意味が変わります。勤務先についての投稿、写真に写り込んだ風景、過去の書き込みなどを組み合わせて住所を割り出す行為は、「公開情報を並べただけ」という説明では収まりにくくなります。誰にも特定できなかった状態から、特定できる状態を作り出した点が見られるためです。

民事ではどのように判断されるか


刑事の条文に触れない場合でも、民事の責任は別に残ります。プライバシーの侵害を理由とする損害賠償請求が、この領域の中心です。

裁判所は、おおむね次のような点を見ています。

・書かれた事柄が私生活上の事柄といえるか
・一般の人の感覚を基準として、公開を望まないと考えられる事柄か
・まだ一般には知られていない事柄か
・公開する理由と、公開されない利益とを比べたときにどちらが上回るか

押さえておきたいのは、名誉毀損と違い、書いた内容が真実であることは反論になりにくいという点です。むしろ真実であるからこそ、公開されない利益が問題になります。「嘘は書いていない」という説明が通用しにくいのは、この構造によるものです。

一方で、公共の利害に関わる事柄について公益を図る目的で書かれた場合には、公開する理由の側が重く見られることもあります。個人的な感情から書き込んだ場合には、この方向での説明は難しくなります。

削除を求められたときの考え方


相手やその代理人から削除を求められることがあります。投稿を残したまま争うかどうかは、慎重に検討したほうがよい場面です。

最高裁は、過去の逮捕に関する事実を含む投稿について、その事実を公表されない法的利益と、投稿を一般の閲覧に供し続ける理由とを比べ、前者が優越する場合には削除を求めることができると判断しました(最高裁令和4年6月24日判決)。検索結果の削除については「優越することが明らかな場合」という基準が示されていたのに対し、投稿そのものの削除ではこの限定を採らないとされています。投稿の削除は、検索結果の削除よりも認められやすい枠組みで判断されているということです。

また、サイトの運営者やプロバイダから、削除や情報開示の申出があった旨の照会書が届くことがあります。回答するかどうかは任意ですが、回答した内容はその後の手続で使われることがあります。感情的な反論を書き送る前に内容を確認しておきたい場面です。

よくある行き違い


・「非公開のアカウントだから問題ない」…閲覧できる人数が限られていても、そこから広まる可能性が考慮されます。刑事の要件を満たさない場合でも、民事の責任は別に判断されます。
・「すぐ消したから終わった」…削除したことは評価される事情の一つですが、責任そのものがなくなるわけではありません。既に画面が保存されていることもあります。
・「名前は伏せた」…前後の書き込みや写真から相手が特定できる状態であれば、伏せたことは決め手になりません。
・「アカウントごと消せばわからない」…通信の記録は事業者側に残ります。自分の投稿内容を後から確認できなくなるという不利益のほうが大きくなりがちです。
・「個人情報保護法で訴えられる」…私的な投稿について、この法律が直接の根拠になる場面は限られます。ただし、業務で扱った情報を書き込んだ場合は前述のとおりです。

連絡が来たときに起こること


書き込んだ側に事態が伝わってくる経路は、おおむね次のとおりです。

・サイトの運営者やプロバイダから、削除や情報開示の申出について照会書が届く
・相手の代理人から、削除と損害賠償を求める書面が届く
・警察から連絡があり、事情を聞かれる

このうち照会書が最初に届くことが多く、この段階では相手はまだ投稿者を知りません。ここでの対応が、その後の展開を左右します。

整理しておきたいこと


・いつ、どこに、どのような内容を書き込んだか
・その情報をどこで知ったか(勤務先、共通の知人、検索、相手から直接など)
・書き込んだ理由と、そのときの経緯
・相手との関係と、これまでのやり取りの記録
・投稿に対する反応(広まった範囲、第三者の書き込み)
・既に削除したかどうか、削除した日

書き込みの前後にあったやり取りは、後から集めようとしても難しくなります。手元にあるうちに保存しておくことをおすすめします。

控えたほうがよい対応


・相手に直接連絡して事情を説明しようとすること
・追加の投稿で釈明したり、経緯を説明したりすること
・第三者に頼んで投稿を消してもらうなど、記録を整えようとすること
・届いた照会書を放置すること
・相手の言い分をそのまま認める書面に、内容を確かめないまま署名すること

いずれも、状況を落ち着かせるつもりの行動が、逆の評価につながりやすい場面です。

よくある質問


Q.相手が先に自分の情報を書き込んできました。書き返した場合はどうなりますか。
A.先に書かれたという事情は経緯として考慮される可能性がありますが、それによって自分の書き込みについての責任がなくなるわけではなく、双方が請求し合う形になることもあります。

Q.事実を書いただけでも責任を問われますか。
A.プライバシーの侵害では、内容が真実であることは反論になりにくい構造です。名誉毀損とは判断の枠組みが異なる点に注意が必要です。

Q.慰謝料はどのくらいになりますか。
A.書かれた情報の内容、広まった範囲、書き込みの回数、その後の経過などによって幅があります。一律の目安を示すことは難しく、個別の事情を前提にした検討が必要です。

まとめ


・刑法に「個人情報を晒す罪」という条文はなく、氏名や住所を並べただけでは名誉毀損の要件を満たさないと判断されることが多い
・ただし、添えた文言、情報の入手経路、書き込んだ後に起きたことという三つの入口から、刑事の条文が動く場面がある
・業務で扱った名簿を不正な利益を図る目的で公開した場合について、個人情報保護法に罰則が置かれている
・氏名や住所は秘匿の必要性が高い情報とはいえなくても、プライバシーに係る情報として法的保護の対象になる(最高裁平成15年9月12日判決)
・公開されている情報でも、集めて一覧にすることで意味が変わる
・民事では、内容が真実であることは反論になりにくい
・投稿の削除は、検索結果の削除よりも認められやすい枠組みで判断されている(最高裁令和4年6月24日判決)
・照会書が届いた段階での対応が、その後の展開を左右する

書き込んだ内容や経緯によって、取りうる対応は変わります。相手から連絡が届いた後の段階でも、できることは残っています。当事務所では無料相談を受け付けておりますので、一人で判断する前にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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