【ストーカートラブル】示談に応じたら、禁止命令はどうなる?
VRChatやclusterなどのソーシャルVR、スマートフォンからも入れるメタバースのサービスでは、アバターを通じて多くの人と同じ空間で過ごせます。その一方で、特定のユーザーに空間の中で後をついて回られる、断っても何度もフレンド申請やメッセージが届く、雑談の内容から現実の住所や勤務先を探られる、といったご相談も聞かれるようになりました。「相手はアバターだし、仮想空間の中の話だから」と我慢している方もいるかもしれませんが、仮想空間での出来事でも、内容によっては法的な手段や警察への相談につなげられる場合があります。この記事では、メタバースやVR空間でのつきまといについて、関わり得る法律、記録の残し方、相談先の使い分けを順に整理します。
この記事は、2026年11月時点の法令をもとにしています。ストーカー規制法は、令和7年12月30日施行の改正(職権による警告の創設、紛失防止タグの悪用の規制など)を反映しています。メタバースに関する法整備や裁判例はまだ多くなく、個別の事情によって判断が分かれる点があることをご了承ください。
メタバースやVR空間で起きている「つきまとい」の例
ご相談の中でよく聞かれるのは、次のような状況です。
- 同じワールドに入るたびに、同じアバターが近づいてきて離れない。
- ブロックしても、別のアカウントを作って接触してくる。
- 断ったのに、フレンド申請やメッセージが毎日のように届く。
- 「今日はあのイベントにいたね」と、行動を見ているような連絡が来る。
- 空間の中で話した内容から、住んでいる地域や勤務先を探られている。
- 性的な言葉を投げかけられたり、アバターの体を寄せられたりする。
アバターの見た目や表示名は変えられるため、相手が同じ人物かどうかがはっきりしないこともあります。また、ヘッドセットを着けて体験するVRでは、近くに寄られたり声をかけ続けられたりすることが、画面越しのやり取りよりも強い圧迫感として伝わりやすいといわれます。利用者の半数ほどが何らかのハラスメントを経験したとする民間の調査報告もあり、決して珍しい悩みではありません。
仮想空間での出来事でも、相談の対象になる
法律の多くは、「インターネット上の出来事だから適用しない」とは定めていません。相手を特定したうえでメッセージを繰り返し送る、脅すような発言をする、名誉を傷つける内容を広めるといった行為は、手段がメタバースであっても、SNSやメールの場合と同じ枠組みで検討されるのが基本です。企業向けの解説でも、メタバース内のハラスメントは現実の空間と同じ考え方で検討できるとする見方が示されています。
一方で、アバターの体は現実の身体ではなく、ワールドは現実の場所ではありません。現実の場所や身体を前提にした条文は、そのままでは当てはまりにくい部分があります。「何でも罪になる」わけでも「仮想空間だから何もできない」わけでもなく、起きている行為を一つずつ分けて、どの手段につながるかを見ていくことが大切です。
ストーカー規制法で検討される場面
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で、特定の人に一定の行為をすることを「つきまとい等」として規制しています。現実で会ったことがあるかどうかは要件ではないため、メタバースで知り合っただけの相手でも、目的と行為の内容によっては対象になり得ます。
断っても続くメッセージやフレンド申請
規制の対象には、拒まれたにもかかわらず連続して電子メールやSNSのメッセージを送る行為、個人のページにコメントを送る行為が含まれています。メタバースのサービス内で相手を指定して送るダイレクトメッセージも、同じように検討される余地があります。フレンド申請そのものがどう評価されるかは個別の判断になりますが、メッセージを添えて何度も送ってくる場合や、「会いたい」「付き合ってほしい」と繰り返す場合は、面会・交際の要求として検討されることもあります。
この類型では「拒まれたにもかかわらず」という点が意味を持つため、やめてほしいと伝えたやり取りが記録に残っているかどうかが、後の相談で大切になります。安全に伝えられる状況であれば、短い言葉で一度はっきり断っておくことも一つの方法です。
空間の中で後をついて回る・待ち伏せする
ストーカー規制法の「見張り」「待ち伏せ」「押し掛け」「うろつき」は、住居、勤務先、学校など、その人が普段いる場所の付近で行われることを想定しています。そのため、ワールドの中で後をついて回る行為が、そのままこの類型に当たるとは言いにくいと考えられます。
ただし、ついて回りながら「いつも見ている」と告げれば監視していると告げる行為として、声で交際を迫れば面会・交際の要求として、それぞれ検討される可能性があります。また、空間の中での行動の記録は、相手の執着の程度を示す事情として、警察に相談するときの材料にもなります。
現実の住所や勤務先にまで及んできたとき
相手が現実の自宅や勤務先の近くに現れるようになれば、ストーカー規制法の典型的な場面に入ります。オフ会などで会った際に持ち物へ紛失防止タグを付けられた疑いがある場合も、令和7年の改正で規制の対象に加わりました。同じ改正で、被害者からの申出がなくても警察の判断で警告を出せる制度ができています。報復が心配で申出をためらう場合も、まずは警察に事情を伝えておく意味があります。
ここまでの内容を、起きていることごとに整理すると次のとおりです。
| 起きていること | 検討される主な法律・手段 | 確認しておきたい点 |
|---|---|---|
| 拒んだ後も届くメッセージ | ストーカー規制法(電子メールの送信等)、迷惑防止条例 | 断った記録が残っているか |
| 「会いたい」「付き合って」と繰り返される | ストーカー規制法(面会・交際の要求) | 好意の感情がうかがえるか |
| 行動を見ているような連絡 | ストーカー規制法(監視していると告げる行為) | いつ、どの発言があったか |
| 空間内で後をついて回る | 運営への通報、ブロック、記録の積み重ね | 条文の「住居等の付近」とは場面が異なる |
| 脅すような発言 | 脅迫罪として警察に相談 | 音声や画面の記録 |
| 中傷や個人情報の書き込み | 名誉毀損・侮辱、削除の求め、損害賠償 | アバターと本人の結びつき |
| 自宅や勤務先への接近 | ストーカー規制法(見張り・押し掛け等)、接近禁止の仮処分 | 早めの警察相談 |
ストーカー規制法以外に考えられる手段
迷惑防止条例
好意の感情がうかがえない場合でも、東京都の迷惑防止条例は、妬みや恨みなどの悪意の感情からのつきまといや、拒まれたにもかかわらず連続してメッセージを送る行為を規制しています。他の道府県にも同じような条例があり、内容は地域によって異なります。
脅迫・名誉毀損・侮辱
空間内での音声やチャットであっても、命や身体などに危害を加えると告げれば脅迫罪が問題になり得ます。また、ほかの利用者の前で中傷する、本人の個人情報を広めるといった行為は、名誉毀損や侮辱、プライバシーの侵害として、削除の求めや損害賠償の請求を検討することになります。アバターでの活動に向けられた中傷については、アバターと演じている本人との結びつきが論点になりますが、VTuberへの中傷について本人への権利侵害を認めた裁判例も報じられています。
相手が誰か分からないとき
表示名しか分からない相手に法的な手段をとるには、運営会社などに相手の情報の開示を求める手続が必要になることがあります。運営会社が海外の事業者である場合は、手続に時間や費用がかかったり、記録が残っていなかったりすることもあるため、できるだけ早い段階で方針を考えておくことが大切です。相手をたどる考え方は【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方でも解説しています。
被害を記録しておくときのポイント
メタバースでの出来事は、その場限りで消えてしまうものが少なくありません。後から警察や弁護士に相談するときに備えて、次のような情報を残しておくと整理しやすくなります。
- 相手のユーザーID(変更できる表示名ではなく、アカウントを特定できる情報)。
- 被害があった日時と、ワールド名・イベント名。
- メッセージやフレンド申請の画面のスクリーンショット。
- 空間内のやり取りの録画や、音声の記録。
- こちらが断った、やめてほしいと伝えたやり取り。
- 運営に通報した日時と、運営からの返信。
- 別アカウントが同じ人物だと考える理由(話し方、知っている情報、現れるタイミングなど)。
サービスによっては、ブロックや退会をすると相手とのやり取りの履歴が見られなくなることがあります。身の危険を感じる場合はすぐにブロックすることを優先してかまいませんが、余裕がある場合は、先に記録を残しておくと後の手続に役立ちます。記録は端末だけでなく、別の場所にも保存しておくと安心です。なお、集めた記録をSNSで公開すると、相手から名誉毀損などを主張されるおそれもあるため、公開する前に一度ご相談ください。
プラットフォームの機能と運営への通報
多くのサービスでは、ブロックやミュートのほか、ほかのアバターが一定の距離より近づけないようにする設定や、フレンドだけが入れる空間を選ぶ機能が用意されています。まずはこうした機能で、空間内での接触を減らすことが考えられます。
また、主要なサービスの多くは、利用規約でストーカー行為や嫌がらせを禁止しており、違反したアカウントには利用停止などの措置がとられることがあります。運営会社は場を提供する立場にあるため、利用者どうしのトラブルについてただちに法的な責任を負うことは一般的に少ないと考えられていますが、通報が重なれば対応を検討してもらえる場合があります。通報の際は、相手のユーザーIDと日時を添えると伝わりやすくなります。
現実の生活への広がりを防ぐために
メタバースでのつきまといで気をつけたいのは、仮想空間から現実の生活へ広がることです。雑談の中で最寄り駅や勤務先、通っている学校を話していないか、ほかのSNSと同じユーザー名を使っていないか、配信や写真に部屋の様子や窓の外の景色が写っていないか、といった点を見直しておくと、特定される経路を減らせます。
すでに住んでいる地域や勤務先を知られている様子がある場合は、現実のつきまといに移る前の段階でも、警察に相談しておく意味があります。相談の記録が残っていれば、その後に行為が続いたときの対応が進めやすくなることがあります。
相談先の使い分け
運営会社は、空間内での接触を止めるための窓口です。警察は、脅すような発言や現実の場所への接近など、身の安全に関わる場面での窓口になります。弁護士は、記録を法的な観点から整理し、どの手段につながるかを見極めたうえで、相手の特定、警告の書面の送付、損害賠償の請求、接近禁止の仮処分などを進める役割を担います。警察への相談の前に事実を整理したい場合にも、弁護士にご相談いただけます。
どこから相談するか迷うときの考え方は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で詳しく取り上げています。
よくあるご質問
相手と現実で会ったことがなくても、相談できますか?
相談できます。ストーカー規制法は、相手と現実に面識があることを要件にしていません。メタバースで知り合っただけの相手でも、好意の感情がうかがえ、拒んだ後もメッセージが続くといった事情があれば、対象として検討される可能性があります。
VRの中で、アバターの体に触れるような動きをされました。犯罪になりますか?
現実の身体に触れているわけではないため、現実の性犯罪と同じように扱うのは難しいと考えられます。ただし、性的な言葉を投げかけられた場合は、ストーカー規制法や迷惑防止条例の対象として検討される余地があり、多くのサービスでは利用規約違反にも当たります。不快な思いをしたときは、我慢せずに記録を残し、運営に通報することをおすすめします。
子どもがメタバースでつきまとわれているようです。親から相談してもよいですか?
親御さんからのご相談もお受けしています。未成年のお子さんの場合、本人が親に知られることを気にして話しにくいこともあるため、責めずに状況を聞き取り、記録を一緒に残すところから始めるとよいでしょう。詳しくは【ストーカートラブル】未成年の子どもがつきまといに遭っている|親ができることをご覧ください。
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まとめ
メタバースやVR空間でのつきまといは、仮想空間の中だけで済む場合もあれば、メッセージの繰り返しや現実の生活への接近へと広がる場合もあります。どの法律や手段につながるかは、起きている行為の内容と、残っている記録によって変わります。「ゲームの中のことだから」と一人で抱え込まず、記録を残しながら、早めに相談先を確保しておくことをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


