【ストーカートラブル】任意で事情を聞きたいと言われた|応じる場合の準備
以前つきまといを受けていた相手が、ある日、自分の勤務先に中途採用で入ってきた。こうした相談は、決して多くはありませんが、実際に寄せられることがあります。同じ建物で毎日顔を合わせるかもしれないという不安は大きく、「会社に話してよいのか」「話したら何をしてもらえるのか」が分からないまま、一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。
この記事では、加害者が同じ会社に転職してきた場面で、会社が負っている義務の範囲、会社に求められることと求めにくいこと、会社に伝える前の準備、警察や裁判所の手続との組み合わせ方を順に整理します。
本記事は一般的な考え方を整理したものです。会社の規模や就業規則、これまでの被害の内容、警察での手続の有無によって、取れる対応は変わります。具体的な判断は個別の事情を踏まえて行う必要があります。
まず整理したいこと|「入社したこと」と「入社後の行動」を分ける
会社は通常、応募者が過去に誰とどのような関係にあったかを把握していません。採用の時点で事情を知らなかった以上、入社したこと自体を理由に、会社がすぐに相手を辞めさせることは難しいのが一般的です。
一方で、入社した後の相手の言動は、職場の中で起きる限り、会社が管理し、対応を考えるべき範囲に入ってきます。業務上の必要がないのに近づいてくる、休憩時間や退勤時に待っている、社内の名簿から連絡先を調べるといった行動は、会社に具体的な対応を求める根拠になり得ます。
相談の際によく聞かれるのは、次のような悩みです。
- 偶然なのか、自分を追って入ってきたのか分からない。
- 会社に過去のことを話すと、自分の評価が下がりそうで怖い。
- 相手はまだ何もしていないので、相談してよいのか迷う。
- いっそ自分が辞めたほうが早いのではないかと考えてしまう。
相手がまだ具体的な行動に出ていない段階でも、過去の経緯を踏まえて備えておくことには意味があります。何かが起きてから慌てて動くよりも、選べる手立ては多く残ります。
会社が負っている義務の範囲
安全配慮義務
会社は、従業員が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。従業員どうしのトラブルであっても、会社が危険を知り得た場合には、配置や業務の進め方を見直すなどの対応が求められることがあります。
職場の性的な言動・ハラスメントへの措置義務
職場での性的な言動については、男女雇用機会均等法11条により、会社に相談体制の整備や事後の適切な対応が義務づけられています。好意や交際の要求を背景にしたつきまといが社内で起きれば、この枠組みで扱われる場面があります。相手が上司など優位な立場にある場合には、パワーハラスメントの防止措置(労働施策総合推進法30条の2)の観点からも対応を求めることが考えられます。
会社にも求めにくいこと
解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされています(労働契約法16条)。そのため、被害の申告があったというだけで、会社がすぐに相手を解雇することは通常ありません。また、勤務時間外の私生活での行動について、会社が直接やめさせる力にも限りがあります。相手がまだ試用期間中であっても、本採用を見送るには相応の理由が求められるため、被害の申告だけで結論が出るわけではありません。会社に求める内容は「相手を排除すること」ではなく、「職場の中で安全を確保すること」を軸に組み立てるほうが、現実的に話が進みやすくなります。
会社に求められること
会社に対して求めやすい対応を、具体例と注意点に分けて整理すると、次のようになります。
| 求める内容 | 具体例 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 接点を減らす配置 | 部署・フロア・シフトを分ける、同じ会議やプロジェクトに入れない | どちらを動かすかは会社の判断になるため、自分の希望もあわせて伝える |
| 個人情報の管理 | 住所・連絡先・勤務予定の閲覧制限、社内名簿からの除外 | 社内システムの権限設定まで確認してもらう |
| 相手への業務上の指示 | 業務以外で接触しないよう指示する、指示に反した場合の扱いを示す | 相手にどこまで事情を伝えるかを事前にすり合わせる |
| 記録の保全 | 入退館記録や防犯カメラ映像を保存してもらう | 映像は上書きされるため、早めに依頼する |
| 勤務の調整 | 時差出勤、在宅勤務、出入口の変更 | 自分が不利益な扱いを受けないよう、条件を確認する |
どの対応がとれるかは、会社の規模や業務の内容によって変わります。すべてを一度に求めるよりも、今の不安が最も大きい場面(通勤時、休憩時、特定の業務など)から優先順位をつけて伝えると、会社も検討しやすくなります。勤務地や勤務時間の変更を求める場合の考え方は、【ストーカートラブル】勤務先に配慮を求める|勤務地や勤務時間の変更でも解説しています。
会社に伝える前に準備しておきたいこと
会社に話すときは、感情的な訴えにならないよう、事実を整理しておくことが大切です。準備しておきたいのは次の点です。
- 過去のつきまといの時期・内容・回数を時系列にまとめたメモ。
- メッセージの画面、着信履歴、写真などの記録。
- 警察への相談の有無と、警告や禁止命令が出ているかどうか。
- 相談する窓口(人事部、ハラスメント相談窓口、信頼できる上司)の選定。
- 会社に求めたい対応と、相手に伝えてほしくない情報の区別。
会社に伝える内容は、安全を確保するために必要な範囲にとどめることをおすすめします。過去の出来事を社内で広く話してしまうと、相手から名誉毀損やプライバシーの侵害を主張されるきっかけになるおそれがあるためです。相談は口頭だけで済ませず、日時と伝えた内容をメールなどで残しておくと、後で対応を確認するときの手がかりになります。社内の人からの好意に悩んでいる場合の伝え方は、【ストーカートラブル】職場の上司・同僚からの執拗な好意|会社に伝える前にもあわせてご覧ください。
相談したことで不利益を受けないか
「過去の交際やトラブルを会社に知られると、自分の評価に響くのではないか」という不安から、相談をためらう方は少なくありません。職場での性的な言動について相談したことを理由に、会社が解雇などの不利益な扱いをすることは、男女雇用機会均等法11条2項で禁じられています。相談の内容を必要な範囲の担当者にとどめ、本人の了解なく広げないことも、会社の措置として求められるものの一つです。
とはいえ、社内の受け止め方は会社によって差があるのも実情です。最初の相談では、守秘の扱いを確認したうえで、誰がどこまで情報を共有するのかを担当者と取り決めておくと安心につながります。相手がすでに上司や同僚に何かを話している気配があるときは、その点も含めて伝えておくと、会社が一方の言い分だけで判断することを避けやすくなります。
警察や裁判所の手続と組み合わせる
ストーカー規制法では、勤務先の付近での見張りや押しかけ、うろつきも「つきまとい等」に含まれています(同法2条1項1号)。同じ会社で働くこと自体と、業務を超えて近づいたり様子をうかがったりする行動とは分けて考える必要がありますが、後者が繰り返されれば、警察に警告や禁止命令を求める根拠になり得ます。社内で起きた出来事も、日時・場所・様子を記録しておけば、警察に相談する際の資料になります。
すでに禁止命令が出ている場合は、その内容を会社に共有することで、配置の検討が進みやすくなることがあります。禁止命令の申出の方法は【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で、どちらに先に相談するかの考え方は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で整理しています。
民事の手続としては、裁判所に接近禁止の仮処分を求める方法もあります。ただし、同じ職場に勤めている相手について、どの範囲の接近を禁じるかは慎重な設計が必要です。費用や期間の目安は【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続までをご参照ください。
会社の対応が十分でないと感じたとき
相談しても「当人どうしで話し合ってほしい」と言われたり、対応が進まなかったりすることもあります。相手が職場に押しかけて騒いだ結果、かえって被害を受けた側が退職を促されたという相談も見られます。
そうしたときは、求める対応を書面にまとめて改めて申し入れる、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談する、弁護士から会社に申入れをするといった方法が考えられます。自分から退職を決める前に、会社に求められることがまだ残っていないかを確かめておくことをおすすめします。
弁護士に依頼した場合にできること
弁護士が代理人となる場合、相手本人に対して接触をやめるよう求める通知を送ること、会社に対して事実関係と必要な配慮を整理した申入れを行うことができます。相手が話し合いに応じるときは、接触禁止や違約金の条項を盛り込んだ合意書を結ぶことも検討します。相手の退職や異動を合意の内容に含めることは、相手が任意に応じる場合に限られますが、話し合いの中で取り上げられることがあります。合意の組み立て方は【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で、同僚からの被害で弁護士が介入した例は【解決事例】元同僚からのストーカー被害|弁護士の介入により付きまといを停止させ解決金100万円を受領した事例で紹介しています。
加害者が同じ職場に来たという状況は、仕事と安全の両方に関わるため、一人で判断しようとすると負担が大きくなりがちです。会社に何をどの順番で求めるか、警察の手続をどう組み合わせるかを整理するだけでも、見通しは立てやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


