【解決事例】自分名義の部屋に元交際相手が住み続けた|交渉で退去を実現し、その後の接触も止まった事例
本記事は、2026年11月時点の民法・消費者契約法の規定と、公表されている裁判例・報道をもとに、一般的な考え方を整理したものです。実際に請求できる範囲は、交際の経緯や支出の内容、残っている記録によって変わります。
結婚式場の申込金や衣装代、披露宴の費用を支払い、一緒に準備を進めていた相手が、実は既婚者だった。式の前に分かる場合もあれば、挙式を終えて婚姻届を出そうとした段階で初めて分かる場合もあります。
気持ちの整理がつかないなかでも、支払ったお金をどう扱うかは、早めに考え始めたほうがよい問題です。この記事では、結婚式の費用を中心に、相手に求められるお金の種類、損害として扱われやすいもの・扱われにくいもの、分かった直後に確認しておきたいことを順に整理します。
既婚だと分かるのはどんな場面か
配偶者のある人は、重ねて婚姻をすることができません(民法732条)。そのため、挙式の後に婚姻届を出そうとして受理されず、戸籍の記載から相手に配偶者がいると分かる、という流れをたどることがあります。このほか、相手の配偶者から連絡が来た、相手の持ち物や郵便物から気づいた、共通の知人から聞いた、といった形で分かる場合もあります。
どの時点で分かったかによって、最初に確認すべきことは変わります。
| 分かった時期 | 主に問題になる費用 | 最初に確認したいこと |
|---|---|---|
| 式場の申込み後・挙式前 | 申込金、内金、キャンセル料 | 式場の契約名義とキャンセル規定 |
| 挙式後・入籍前 | 挙式・披露宴の費用、新婚旅行の費用 | 誰がいくら支払ったかの内訳 |
| 同居を始めた後 | 新居の初期費用、家具・家電、生活費 | 新居の契約名義と退去の段取り |
相手に求めるお金は種類を分けて考える
「結婚式の費用を返してほしい」という要望は自然なものですが、法的には、出したお金そのものの返還というより、相手の行為によって生じた損害の賠償として組み立てることが多くなります。損害は大きく、実際に出ていったお金(財産的損害)と、精神的な苦痛に対する慰謝料に分かれます。
| 費目 | 内容の例 | 扱いの目安 |
|---|---|---|
| 結婚式に関する費用 | 式場の申込金・キャンセル料、披露宴の費用、招待状の発送費用 | 結婚の準備のための支出として、損害に含めて主張しやすい |
| 新居・新婚旅行の費用 | 賃貸の敷金・礼金・仲介手数料、新婚旅行のキャンセル費用 | 結婚を前提とした支出であれば、損害として主張しやすい |
| 婚約指輪 | 購入代金 | 指輪の返還の扱いとあわせて整理する |
| 家具・家電・衣類 | 同居のために購入した物 | 物が手元に残るため、原則として含まれにくい |
| 退職による収入の減少 | 結婚に合わせて仕事を辞めた場合 | 近年は認められにくい傾向がある |
| 慰謝料 | 独身と偽られたことによる精神的な苦痛 | 事情によって金額の幅が大きい |
婚約破棄をめぐる事案では、婚約から結婚までの準備にかかった費用は、婚約を破棄した側が賠償する対象になると整理されています。一方で、家具のように物が手元に残るものは原則として損害に数えず、婚礼家具のように結婚しなければ使わない物に限って、購入費の一部が損害と認められた裁判例があります。
相手が既婚者だった場合の請求の組み立て
独身と偽ったこと自体を不法行為として捉える
既婚であることを隠し、独身であると信じさせて交際や性的関係を続けることは、相手の貞操権(性的な事柄について自分で決める権利)を侵害する不法行為にあたると、古くから考えられています(最高裁昭和44年9月26日判決)。結婚式の準備まで進んでいた場合には、独身と偽られていなければ支出しなかった費用として、結婚式の費用などを損害に含めて主張していくことになります。
婚約の不当な破棄として捉える
相手に配偶者がいる以上、婚約そのものの効力が問題になる余地はあります。ただ、2026年6月の東京地裁判決では、独身と偽って交際し婚約まで進めた男性について、貞操権の侵害と婚約の不履行の両方が認められ、約460万円の支払いが命じられたと報じられています(その後、双方が控訴)。同じ判決では、女性の両親による請求や、女性の休業損害は認められなかったとされています。
請求額は根拠を積み上げて整える
既婚を隠したまま結婚式や新婚旅行まで済ませた事案でも、結婚式費用などを加味したうえで、裁判例の傾向からみると請求額が高すぎるとして、減額の交渉に入ったと紹介されている例があります。支出を一つずつ根拠とともに示し、慰謝料と財産的損害を分けて積み上げるほうが、相手との交渉でも裁判でも話を進めやすくなります。
誰が費用を出したかで変わること
結婚式の費用は、本人だけでなく、親の援助やご祝儀でまかなわれていることも少なくありません。誰の財布から出たお金かによって、請求の立て方が変わります。
- ご自身が支払った分は、ご自身の損害として請求の対象になります。
- 親が援助した分は、親からの援助を受けてご自身が支出したとみるか、親自身の支出とみるかで、整理の仕方が変わることがあります。
- ご祝儀でまかなった分は、ご自身が負担した金額とは言いにくいため、損害の額から差し引いて考えることがあります。
- 独身と偽っていた側から費用の分担を求められても、経緯によっては、そのまま応じる必要はないと考えられます。
また、両家で費用を分け合っていた場合に、ご自身の親が受けた精神的な苦痛についても請求したいと考える方もいます。親自身の慰謝料は、先ほどの判決でも一審では認められておらず、ハードルが高い点は押さえておく必要があります。
挙式前に分かったときの式場との関係
式場と契約しているのは、多くの場合、新郎新婦のどちらか、または二人の連名です。相手が既婚者だったという事情は相手との間の問題で、式場との契約はそれとは別に扱われるため、キャンセルすればキャンセル規定に沿って費用が発生することがあります。
- 契約書の名義人が誰になっているか。
- キャンセル料が、挙式日までの期間ごとにいくらと定められているか。
- すでに支払った申込金・内金がいくらで、返金の対象になる部分があるか。
- 衣装・装花・引出物など、外部の業者との個別の契約が残っていないか。
キャンセル料は、挙式日に近づくほど高くなるのが一般的です。消費者契約法では、事業者に生じる平均的な損害を超える部分のキャンセル料の定めは無効とされている(同法9条1項1号)ため、金額に疑問があれば式場に内訳を尋ねる余地もあります。そのうえで、式場に支払ったキャンセル料は、相手への請求の中に含めて整理していきます。
相手の配偶者から請求を受けることはあるか
相手が既婚者だった以上、相手の配偶者から不貞行為の慰謝料を求められる可能性も、頭に置いておく必要があります。もっとも、不貞の慰謝料は、既婚であることを知っていた、または注意すれば知ることができた場合に問題になるもので、独身だと信じるだけの事情があったときは責任が否定されることがあります。結婚式の準備を進めていたこと自体が、既婚と知らなかったことをうかがわせる事情の一つになり得ます。
この点は【不貞慰謝料】既婚と知らなかった|故意・過失が否定される場合と【不貞慰謝料】『独身だと言われていた』をどう裏づけるかで詳しく解説しています。
分かった直後に残しておきたい記録
独身偽装をめぐる裁判では、証拠をきちんと残していたことが判断に影響したと、代理人の弁護士が振り返っている例もあります。気持ちが落ち着かない時期ですが、次のものは消さずに保管しておくことをおすすめします。
- 相手が独身だと述べていたメッセージや会話の記録。
- 結婚式場の契約書、見積書、請求書、領収書、振込の記録。
- 婚約指輪、新居、新婚旅行などの契約書や領収書。
- 両家の顔合わせや、周囲に結婚を報告した際の写真・やり取り。
- 婚姻届が受理されなかった経緯や、既婚と分かったきっかけの記録。
- 相手が既婚であることを認めたやり取り。
請求を進めるときの流れ
- 支出した費用を、日付・金額・支払先・支払った人ごとに一覧にします。
- 慰謝料と財産的損害を分け、請求する金額と根拠を整理します。
- 相手に書面で請求し、支払いの方法や今後の接触について話し合います。
- 話し合いがまとまれば、支払いの条件や清算の範囲を合意書に残します。
- まとまらない場合は、調停や訴訟で解決を図ることを検討します。
不法行為に基づく損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条)。既婚と分かった時期を記録しておくとともに、時間を置きすぎないようにすることが大切です。また、最初から結婚する意思がなく、結婚式の費用などの名目でお金を受け取っていたような事情があれば、詐欺罪が問題になる場合もありますが、刑事事件として扱われるかどうかは個別の判断になります。
相手と直接やり取りをすると、言いくるめられたり、感情的な応酬になったりすることもあります。相手やその配偶者と顔を合わせたくない、家族を巻き込みたくないという場合は、弁護士が窓口になる方法もあります。
よくあるご質問
相手が「離婚するつもりだった」と言っている場合はどうなりますか
離婚するつもりだったという説明があっても、配偶者がいることを隠して結婚の準備を進めさせた事実が変わるわけではありません。実際に離婚の手続が進んでいたかどうか、独身だとどのように説明していたかなど、具体的な経緯をもとに判断されます。
相手から受け取った婚約指輪は返す必要がありますか
婚約指輪は婚約のしるしとして贈られるものと考えられており、婚約が解消されたときに返還が問題になることがあります。もっとも、解消の原因が主に贈った側にあるときは、返還を求めることは認められにくいと考えられています。結納金などを含めた考え方は結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかで解説しています。
相手と連絡が取れなくなった場合でも請求できますか
住所が分かれば書面で請求することができます。住所が分からない場合でも、弁護士が受任したうえで所在を調べる手段をとれることがあり、残っている情報によって進め方を検討します。
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結婚式の費用は金額が大きく、誰がどれだけ負担したかも入り組みやすい支出です。相手が既婚者だったと分かったときは、まず記録を手元に残し、費用を一つずつ書き出すところから始めると、その後の請求を組み立てやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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