【不貞慰謝料・請求された側】相手方の弁護士から連絡が来たときの対応
交際中に「浮気をしたら100万円払う」「別れるなら罰金」といった誓約書を書かされ、別れ話の後に「約束を破ったのだから払え」と求められるご相談があります。署名してしまった以上、書かれた金額を払うしかないと考えてしまう方もいますが、交際相手との誓約書は、内容や書いたときの状況によって、効力の見方が大きく変わります。
この記事では、交際相手の間で作られた誓約書を前提に、違約金を支払う必要があるのかを判断するときの見方と、請求されたときの進め方を整理します。
本記事は、婚姻・婚約・内縁の関係にない交際相手どうしで作られた誓約書を前提にしています。夫婦間の誓約書や、不倫相手との間の誓約書・示談書は、前提となる法律関係が異なるため、扱いが変わる場合があります。
交際中の誓約書も「約束」として扱われることがある
誓約書、念書、覚書など、書面の呼び方によって法的な効力が変わるわけではありません。本人が内容を理解したうえで署名し、相手がそれを受け取っていれば、当事者の間の約束(合意)として扱われることがあります。手書きかどうか、押印があるかどうかも、それだけで効力が決まるものではありません。
誓約書に「違反したら〇万円を支払う」と書かれている場合、その金額は違約金と呼ばれます。民法420条3項は、違約金を損害賠償額の予定と推定しています。違約金の定めが有効であれば、請求する側は実際の損害の大きさを一つずつ証明しなくても、定めた金額を求めることができるのが原則です。
ただし、署名したことと、書かれた内容がすべてそのとおり法的に認められることとは別の問題です。交際中の誓約書では、約束の中身、金額、書いたときの状況の3つを分けて確認することが出発点になります。
そのままの効力が認められにくい約束
「浮気をしたら〇万円」という約束
夫婦の場合、配偶者以外の人と性的関係を持たないことは法律上の義務と考えられており、不貞行為は慰謝料の対象になります。これに対して、婚約や内縁に至っていない交際関係では、交際相手が他の人と関係を持ったこと自体を理由とする慰謝料は、原則として認められにくいと考えられています。
そのため、交際中の「浮気をしたら払う」という約束は、法律上守る義務のない事柄に金銭のペナルティを結びつけるものとして、公序良俗(民法90条)に反し効力が否定される可能性があると指摘されています。一方で、当事者が納得して交わした約束として、一定の範囲で効力を認める余地を残す見方もあります。婚約の有無、交際の期間や実態、金額の大きさなどによって判断が分かれ得る問題です。
「別れたら〇万円」という約束
交際を続けるか終えるかは、それぞれが自由に決められる事柄です。別れることに金銭の負担を結びつける約束は、実質的に交際の継続を強いるものとして、効力が否定される方向で考えられることが多い類型です。別れたこと自体を理由に請求されている場合は、まずこの点を確認する必要があります。
行動を広く縛る約束
「異性と連絡を取ったら」「飲み会に行ったら」「スマホを見せなかったら」といった約束は、どこからが違反なのかがあいまいになりやすく、違反があったかどうか自体が争いになります。私生活の行動を広く制限し、そのたびに金銭が発生する定めは、内容が相当かどうかが問われやすいといえます。
退職・転居・全財産の提供などの約束
「約束を破ったら会社を辞める」「引っ越す」「全財産を渡す」といった、生活の基盤に関わる約束や著しく過大な財産上の約束も、公序良俗に反するとして無効とされる可能性があります。
| 誓約書に書かれた約束 | 効力の見通し | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 浮気をしたら〇万円 | 否定される可能性がある | 婚約・内縁の有無、金額 |
| 別れたら〇万円 | 否定される方向で考えられることが多い | 別れたこと自体が請求の理由か |
| 連絡・外出などを広く禁じる | 争いになりやすい | 違反の範囲と回数の数え方 |
| 退職・転居・全財産の提供 | 無効とされる可能性がある | 生活の基盤に関わる内容か |
| 暴力をふるわない・物を壊さない | 違約金の評価は事情による | 実際に起きたことと損害の内容 |
表の最後の行のように、暴力や物を壊すことなど、もともと法律上許されない行為については、誓約書の違約金の定めとは別に、行為そのものが損害賠償の対象になり得ます。誓約書の効力を争えるかどうかと、実際の行為への責任とは、分けて考える必要があります。
金額が高すぎる場合は一部が無効とされることがある
違約金の額は当事者が決めることができますが、著しく高額な違約金は、相当な額を超える部分が公序良俗に反して無効とされる可能性があります。不倫相手との間で1,000万円の違約金を定めた事案で、150万円を超える部分を無効と判断した裁判例(東京地裁平成25年12月4日判決)が紹介されることがあります。
この裁判例は、夫婦の関係を守るための約束をめぐるものです。法律上の保護の範囲が夫婦より限られる交際関係では、相当とされる金額の考え方も同じにはならないと考えられます。また、「連絡1回につき〇万円」のように違反の回数ごとに違約金が発生する定めは、合計額が大きくなりやすく、全体として過大かどうかが争点になります。
請求額をそのまま受け止めるのではなく、何に対する金額なのか、回数の数え方は妥当か、という点から見直すことが大切です。違約金の考え方は、【不貞慰謝料】違約金条項|高く設定すれば安全とは限らないでも解説しています。
書かされた状況によっては取り消せることがある
誓約書は、本人の自由な意思で署名したことが前提です。次のような状況で署名した場合、強迫による意思表示として取り消すことができる可能性があります(民法96条1項)。
- 帰らせてもらえず、長時間にわたって署名を求められた場合。
- 署名しなければ職場や家族に知らせると告げられた場合。
- 大声で怒鳴られたり、物を投げられたりした場合。
- 複数人に囲まれた状態で署名を求められた場合。
取消しは、相手に対して取り消す意思を伝えることで行います。取り消すことができる期間には限りがあり(民法126条)、取消しの理由になる事情があっても、その後に誓約書どおりの支払いに応じるなど約束を認める行動をとると、取消しを主張しにくくなることがあります。署名した時点で18歳未満だった場合は、未成年者が法定代理人の同意なく行った約束として、取消しが問題になる場面もあります。
強く迫られて書いた誓約書の扱いは、【男女トラブル】別れ際に書いた誓約書を撤回したい|強く迫られて書いた書面や脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いもあわせてご覧ください。
違約金を請求されたときの進め方
- その場で支払ったり、新たな書面に署名したりしないこと。
- 誓約書の写真や写しを手元に確保すること。
- 誓約書を書いた日時・場所・やり取りの流れを、覚えているうちに書き残すこと。
- 相手が「違反」と言っている事実が実際にあったのかを確認すること。
- 返答は口頭ではなく、記録が残る形で行うこと。
支払いを約束し直す内容の書面に署名すると、元の誓約書に問題があっても、新しい合意として扱われるおそれがあります。相手から「今日中に払え」と期限を切られても、その場で決めないことが大切です。
すでに支払ってしまった場合でも、誓約書が無効であったり、取り消せたりする事情があれば、返還を求める余地があります。詳しくは払ってしまった示談金・違約金は取り戻せるか?返金請求の可否で解説しています。
請求の仕方そのものが問題になる場面
違約金の請求は、正当な権利の行使として行われる限り、それ自体が違法になるわけではありません。しかし、「払わなければ写真を広める」「職場に行く」などと告げて支払いを迫る場合は、恐喝や脅迫が問題になることがあります。身の危険を感じる場合や、職場・家族への接触をほのめかされている場合は、金額の検討より先に、安全の確保と警察への相談を考える必要があります。関連して、元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)もご参照ください。
弁護士に相談する意味
誓約書の効力は、条項の文言だけでなく、交際の経緯や署名したときの状況を合わせて判断されます。弁護士は、誓約書のどの部分を争えるのかを整理したうえで、代理人として相手との窓口を引き受けることができます。本人どうしで直接やり取りすると感情的な応酬になりやすい場面でも、弁護士を通じて書面でやり取りすることで、請求の根拠を落ち着いて確認しやすくなります。
話し合いで解決する場合には、誓約書の扱いを含めた合意書を作り、今後同じ請求が繰り返されないように整えることも検討します。交際相手との書面の効力全般については、【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で解説しています。
よくあるご質問
押印がなく、署名だけの誓約書にも効力はありますか
押印がないことだけを理由に効力が否定されるわけではありません。本人の署名があり、内容を理解して書いたことがうかがえれば、約束として扱われることがあります。効力を考えるうえでは、押印の有無よりも、約束の中身と書いたときの状況のほうが重要です。
LINEで「浮気したら100万円払う」と送ったことも、誓約書と同じ扱いになりますか
書面でなくても、内容が具体的で、双方が合意したといえるやり取りであれば、約束の存在を示す資料になり得ます。ただし、冗談として送ったもので、相手もそれを本気とは受け止めていなかったといえる事情があれば、約束としての効力は否定されることがあります(民法93条1項)。前後のやり取りを含めて確認することが大切です。
相手も同じ内容の誓約書を書いていた場合はどうなりますか
お互いに同じ約束をしていても、それぞれの約束の効力は、これまで見てきた点から個別に判断されます。相手にも違反があったことで、こちらの支払いを当然に免れるわけではありませんが、交渉の中で双方の事情として考慮されることはあります。
婚約していた場合は扱いが変わりますか
婚約していた場合や、夫婦同然の共同生活をしていた(内縁)場合は、法律上の保護の範囲が広がり、他の人との性的関係が慰謝料の対象になることがあります。そのため、浮気に関する違約金の約束も、交際関係の場合とは異なる評価を受けることがあります。婚約中の扱いについては、婚約中・内縁関係でも不貞慰謝料を請求できるかで解説しています。
交際中に書いた誓約書は、署名したという事実だけで、書かれた金額を払う義務が決まるものではありません。約束の中身、金額、書いたときの状況を一つずつ確かめることで、応じるべき範囲が見えてきます。請求を受けて判断に迷うときは、返答する前に一度ご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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