【男女トラブル】交際相手の多額の借金が結婚前に分かった、婚約を解消してもいい?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は、2026年11月時点の民法の規定と、婚約の解消をめぐる裁判例の一般的な傾向をもとに解説しています。個別の事情によって結論が変わることがある点をご了承ください。


結婚の準備を進めるなかで、交際相手に多額の借金があると分かることがあります。両親への挨拶や式場の予約まで済ませた後であれば、「このまま結婚してよいのか」「婚約をやめたら慰謝料を求められるのではないか」と迷われるのは自然なことです。

 まずお伝えしたいのは、婚約を解消すること自体は、どちらの側からでもできるという点です。結婚は本人どうしの意思で成り立つものであり、婚約したからといって結婚を強制されることはありません。問題になるのは、解消した後に金銭の責任が生じるかどうかです。本記事では、借金の発覚が婚約解消の「正当な理由」になるのかを中心に、判断の分かれ目と、解消を決める前に確かめておきたいことを整理します。

婚約は解消できるが、責任が生じるかは別の問題

 婚約は、将来結婚しようという当事者どうしの合意です。口約束でも成立しうるとされており、成立していたかどうかは、両親への挨拶、婚約指輪や結納の授受、式場の予約、周囲への紹介といった事情から判断されます。

 婚約が成立している場合、正当な理由なく一方的に解消すると、相手方に生じた損害を賠償する責任を問われることがあります。賠償の対象として主に問題になるのは、次の2つです。

  • 精神的な苦痛に対する慰謝料。
  • 結婚式場のキャンセル料、新居の契約費用、家具・家電の購入費など、結婚の準備で生じた財産的な損害。


 反対に、解消に正当な理由があれば、慰謝料の責任は生じないと考えられています。そのため「借金が分かったから解消する」という場面では、その借金をめぐる事情が正当な理由にあたるかどうかが中心の論点になります。なお、婚約が成立していたかどうか自体が争いになることもあり、その場合は成立の有無から整理していきます。

借金の発覚は「正当な理由」になるのか

 借金があること自体が、ただちに婚約解消の正当な理由になるわけではありません。住宅ローンや奨学金のように、計画的に返済している借入れは珍しいものではないためです。実際の判断では、次のような事情が総合的に考慮される傾向があります。

判断で重視されやすい事情


  • 借金の金額と、収入に対する返済の負担の重さ。
  • 借入れの原因(生活費、ギャンブル、浪費、事業の失敗、家族への援助など)。
  • 返済の状況と、今後の見通し。
  • 借金を隠していたかどうか、尋ねられて事実と異なる説明をしていたかどうか。
  • 発覚した後の相手の態度(説明に応じるか、改善の意思を示すか)。
  • 婚約する前の段階で、借金の存在を知っていたかどうか。


 なかでも重視されやすいのは、借金があることそのものよりも、それを隠していたり偽っていたりしたことで、信頼関係がどの程度損なわれたかという点です。収入や職業など結婚生活に関わる重要な事情についての偽りは、正当な理由の典型例の一つとして挙げられることがあります。また、相手の経済状態が日常生活に支障が出るほど悪化している場合も、正当な理由として考慮されることがあります。

正当な理由と認められやすい場面

 たとえば、結婚前に借金の有無を確かめたところ「ない」と答えていたのに、後から多額の借入れが分かった場合は、説明の偽りが信頼関係を大きく損なうものとして、正当な理由が認められる方向で考えられることがあります。返済の見通しが立たないほどの債務を抱えている場合や、ギャンブルなどによる借入れを繰り返しており、説明を求めても応じない場合なども、結婚生活への具体的な不安につながる事情として評価されやすいといえます。

 交際の初期に伝えられていた収入や職業が事実と違っていた、という事情が重なることもあります。経歴や条件の偽りの扱いについては、【男女トラブル・マッチングアプリ】プロフィールの嘘はどこから違法になるか|年収・職業・独身の詐称でも解説しています。

正当な理由と認められにくい場面

 一方で、借金の額が収入に照らして無理のない範囲にとどまり、計画どおりに返済が進んでいる場合や、婚約の時点で借金があることを打ち明けられていた場合は、それだけを理由とした解消が正当と評価されにくいことがあります。婚約前に分かっていた事情は、それを承知のうえで婚約したと見られやすいためです。

 実際には、正当とも不当とも言い切れない中間的な事案が少なくありません。判断には幅があるため、事情を一つずつ整理していくことが大切です。

正当な理由があっても、お金の清算は残ることがある

 正当な理由がある解消であっても、すべての金銭の問題がなくなるとは限りません。2人で進めた結婚準備の費用については、分担の問題が残ることがあります。主な項目は次のとおりです。

項目主な論点
慰謝料正当な理由があれば、原則として支払う責任は生じないと考えられている
式場のキャンセル料・新居の費用2人の共同の出費として、分担が問題になることがある
婚約指輪・結納金解消の原因をつくった側に残さない方向で判断した裁判例が多いとされる
相手に渡したお金贈与か貸付かによって、返還を求められるかどうかが変わる


 また、相手の偽りが原因で解消せざるを得なくなった場合には、解消を申し出たのがこちらであっても、相手方に慰謝料や準備費用の負担を求められる余地があります。形式的にどちらが言い出したかよりも、解消の原因がどちらにあるかが重視されるためです。結納金の扱いについては、結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかもご参照ください。

結婚した場合、相手の借金を返す義務はあるのか

 解消を迷う理由の一つに、「結婚したら自分も返済しなければならないのではないか」という不安があります。民法では、結婚前から持っている財産や自分の名義で得た財産は、それぞれの個人のものとされています(民法762条1項)。結婚前からの借金を、配偶者が当然に引き継ぐことはありません。

 ただし、日常の家事に関して生じた債務については、夫婦が連帯して責任を負うとする規定があります(民法761条)。また、連帯保証人になれば、保証人として返済を求められます。結婚を機に借換えや新たな借入れの保証を頼まれることもあるため、署名する前に内容を確かめることが大切です。保証や肩代わりについては、交際相手の借金を肩代わり・連帯保証したとき|返済義務の有無と、払ったお金の取り戻し方で詳しく扱っています。相手の借金の取り立てがご自身に及んでいる場合は、【男女トラブル】交際相手の借金の取り立てが自分に来た|返す義務の有無と、求め方の線引きも参考になります。

婚約を解消する前に確かめておきたいこと

 気持ちが大きく揺れる場面ですが、後で争いになったときに備えて、次の点を整理しておくと判断しやすくなります。

  1. 借金の額・借入先・借入れの原因・返済の状況を、本人の説明や書面で確かめます。
  2. 以前に借金について尋ねたことがあるか、そのとき相手が何と答えたかを、LINEやメールの記録とあわせて残しておきます。
  3. 婚約の経緯(挨拶、指輪、結納、式場の予約など)と、それぞれの費用を誰が負担したかをまとめます。
  4. すでにキャンセル料が発生している契約があるか、解消の時期によって金額が変わるかを確認します。
  5. 相手や相手の家族に、いつ、どのような方法で解消を伝えるかを決めておきます。


 借金の説明を求めたときの相手の受け答えは、正当な理由を判断する材料にもなります。問い詰める形ではなく、事実を確認する姿勢で話し合い、そのやり取りを記録に残しておくとよいでしょう。

解消を伝えるときと、伝えた後の注意点

 解消を伝えた後に、相手から「一方的な婚約破棄だ」として慰謝料や準備費用を求められることがあります。その際には、借金の事情や、それまでの説明の経緯を具体的に示せるかどうかが、正当な理由の有無を左右します。先ほどの記録が、ここで意味を持ちます。

 話し合いでまとまった場合は、口約束で終わらせず、合意書を作っておくことをおすすめします。婚約指輪や結納金の扱い、準備費用の分担、互いにそれ以上の請求をしないこと(清算条項)などを書面にしておくと、後になって話を蒸し返されるおそれを減らせます。

 相手と直接会うことが負担に感じられる場合や、相手の家族を交えて話がこじれそうな場合は、弁護士が窓口となって解消を進める方法もあります。当事務所が対応した例として、【解決事例】相手と直接顔を合わせずに婚約を解消したい―弁護士介入で約1ヶ月半にて円満解決した事例をご覧ください。正当な理由の考え方全般については、結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはで整理しています。

よくあるご質問


借金が少額でも、隠されていたことを理由に解消できますか

 解消すること自体はできます。ただし、少額で返済にも問題がない場合、隠していたことだけで正当な理由と評価されるかどうかは、事情によって分かれます。尋ねたのに偽っていたか、ほかにも偽りが重なっていたかなど、信頼関係への影響が具体的に検討されます。

借金を理由に解消した側から、相手に慰謝料を求めることはできますか

 相手の偽りや不誠実な対応が原因で解消せざるを得なかったと評価されれば、求められる余地はあります。ただし、借金があったというだけで当然に認められるものではありません。請求する側の考え方については、婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースもご参照ください。

相手が「借金はもうすぐ返し終わる」と言っている場合はどう考えればよいですか

 返済の見通しは、判断の材料の一つになります。説明を聞くだけでなく、残高や返済計画が分かる書面を見せてもらい、内容を確かめたうえで判断することが考えられます。結婚を急がず、時間を置いて様子を見るという選択肢もあります。

 婚約者の借金が分かったとき、結婚を続けるか解消するかを最終的に決めるのはご本人です。ただ、解消の伝え方や、それまでにかかった費用の扱いによっては、後から金銭の請求を受けることもあります。借金の中身と説明の経緯を落ち着いて確かめ、記録を残したうえで判断することが、ご自身を守ることにつながります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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