【親子問題】独立した子の家賃を払い続けている|いつまで払うのか
この記事は、成人した子との問題で親が弁護士に依頼し、弁護士から子へ連絡を入れた後の流れを、2026年11月時点の法令をもとに整理したものです。未成年の子の場合や個別の事情によって、取れる手段は変わります。
家庭内の暴力やお金の無心、同居の解消などをめぐって親が弁護士に依頼すると、多くの場合、弁護士から子へ「親の代理人に就いた」ことを知らせる書面や連絡が入ります。そこで親御さんからよく寄せられるのが、「子が弁護士からの連絡を無視したら、どうなるのか」「無視されたら依頼した意味がなくなるのではないか」という不安です。
子が連絡に応じなくても、弁護士が間に入った意味がなくなるわけではありません。この記事では、無視することの法的な位置づけ、無視が続いたときに検討する手段、子が返事をしない間に親が気をつけたいことを順に整理します。
弁護士からの連絡に、子が応じる法的な義務はない
弁護士が親の代理人に就いたときに送る書面は、一般に「受任通知」と呼ばれます。代理人に就いたこと、今後の連絡は弁護士にしてほしいこと、そして親としての考え(金銭の要求には応じない、家を出てほしい、など)を伝えるものです。
ただし、受任通知そのものに、受け取った側へ返事を義務づける法的な力はありません。借金の債務整理で送る受任通知には、貸金業法によって業者の取立てを止める効力が定められていますが、親子間で送る通知はこれとは性質が異なります。連絡を無視したこと自体が罪になったり、それだけで子に不利な判決が出たりすることはありません。
反対に、子が無視したからといって、親の言い分が通ったことになるわけでもありません。親子の問題では、「無視されたら終わり」ではなく、「無視されることもある」という前提で次の手を組み立てておくことになります。
子が無視していても、親の側で変わること
子から返事がなくても、弁護士が間に入ったことで親の側の状況は変わります。主なものは次の3つです。
- 子から親に直接連絡が来ても、「弁護士に伝えてください」と返すだけで済むようになります。
- 親の考えが書面で伝わり、いつ、何を伝えたかの記録が残ります。
- 子が親の意思を知ったうえでの行動になるため、その後も要求や暴力が続いた場合の評価に関わることがあります。
特に記録の点は、後で何らかの手続をとるときに意味を持ちます。親が口頭で「もうお金は出さない」と伝えていただけでは、言った・言わないの争いになりがちです。弁護士の書面であれば、日付と内容がはっきり残ります。窓口を代えることの意味については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択でも解説しています。
子の反応によって、その後の進め方は分かれる
弁護士からの連絡の後、子の反応はいくつかに分かれます。同じ「無視」でも中身はさまざまで、それによって次に考えることも変わります。
| 子の反応 | その後の主な進め方 |
|---|---|
| 返事はないが、親への要求や接触も止まった | 当面は様子を見ながら、親の生活の立て直しを進める |
| 返事はなく、親への直接の要求や暴力が続いている | 警察への相談や、接触をやめるよう求める法的手続を検討する |
| 返事はなく、親の家に住み続けている | 退去を求める通知を重ね、応じなければ明渡しの手続を検討する |
| 弁護士や親に対して反発・逆上している | 親の安全確保を優先し、警察とも連携しながら進める |
| 書面を読めていない、返し方が分からない様子 | 書面以外の方法(訪問、支援者の同席など)で接点をつくる |
返事がないまま親への要求も止まる、というケースは少なくありません。子にとっては、親との間に第三者が入ったこと自体が、行動を見直すきっかけになることがあるためです。
無視が続いたときに検討する手段
子が連絡に応じないまま困りごとが続いている場合に検討する手段を、場面ごとに見ていきます。いずれも子の状況や親の希望を踏まえて選ぶもので、無視されたらすぐに裁判を起こす、というものではありません。
お金の要求が続いている場合
弁護士を通じて「今後は金銭の要求には応じない」と伝えた後も、子が直接お金を求めてくることがあります。成人した子に対する親の扶養義務は、親が自分の生活を維持したうえで余力の範囲で負うものと考えられており、求められるままに支払う義務まではありません。
要求が「払わなければ何をするか分からない」といった脅しを伴う場合や、親の財産を勝手に持ち出す場合には、刑事上の問題になることもあります。ただし、親子の間の財産に関する一部の罪には特例があり、扱いは事案によって異なります。断ることの位置づけは、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで詳しく扱っています。
家に住み続けて出ていかない場合
親名義の家に住む子に、弁護士から退去を求めても応じないことがあります。同居している成人の子は、親から無償で住まいを借りている関係(使用貸借)として扱われることが多く、事情によってはその関係を終わらせて明渡しを求めることになります。
交渉にも応じない場合は、建物の明渡しを求める訴訟を検討します。訴訟では、子が裁判所からの書類を受け取ったうえで、反論の書面も出さず期日にも出てこないと、親側の主張を認めたものとして扱われ、そのまま判決に進むことがあります(民事訴訟法159条3項)。弁護士の連絡を無視していても、裁判所の手続まで無視し続けると、子にとっては反論の機会を自ら手放すことになります。判決が出ても退去しなければ、強制執行の手続で明渡しを実現することになります。
一方で、無視されたからといって、親が鍵を替えて締め出したり、子の荷物を外に出したりすることは、自力救済として問題になるおそれがあります。詳しくは【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しと【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界をご覧ください。
親や家族への接触や暴力が続いている場合
弁護士からの連絡を無視したまま、親の家に押しかけたり、暴力をふるったりする場合は、親の安全を最優先にします。身の危険を感じたときはためらわずに110番し、警察へ相談した記録も残しておきます。記録の残し方は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。
配偶者からの暴力を対象とするDV防止法の保護命令や、恋愛感情などを前提とするストーカー規制法の禁止命令は、親子の間では使えない場面が多いのが実情です。そのため、子に対して親への接近や面会の強要をやめるよう求めるときは、裁判所に仮処分を申し立てる方法を検討します。仮処分では、差し迫った危険を避ける必要性を示すことが求められるため、それまでの経緯の記録が重要になります。介入をきっかけに子が感情的になる場面への備えは、【親子問題】介入の後に子が逆上した|再度の暴力への備えにまとめています。
無視の裏側にある子の事情にも目を向ける
子が返事をしないことが、そのまま強い拒絶を意味するとは限りません。弁護士からの書面に驚いて開封できない、どう返事をすればよいか分からない、親に突き放されたように感じて混乱している、といったこともあります。心身の不調を抱えていて、書面を読むこと自体が難しい場合もあります。
そのため、書面を送ったきりにせず、子の様子を見ながら接点のつくり方を変えていくことがあります。当事務所では、弁護士が親の代理人として子と向き合う一方で、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、ご家庭の状況によっては自宅を訪問して本人と直接話をすることもあります。親の代理人である弁護士とは話しにくくても、生活の相談相手としてのカウンセラーとなら話ができる、という子もいます。
最初の連絡で何を伝えるかについては【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えること、カウンセラーとの面談を子が拒んだときの進め方は【親子問題】カウンセラーと会うことを子が拒んだ場合で扱っています。実際の介入の進み方は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際もご参照ください。
子が無視している間に、親が避けたいこと
子から返事がない時期は、親にとっても落ち着かないものです。ただ、この時期の親の動き方によっては、弁護士が間に入った効果が薄れてしまうことがあります。
- 弁護士を通さずに、子と金銭や退去の条件を直接約束すること。
- 返事を促すために、お金を渡したり要求の一部に応じたりすること。
- 無視に腹を立てて、鍵を替える、荷物を出すなど、手続によらずに追い出そうとすること。
- きょうだいや親戚に頼んで、子に返事をするよう強く迫ってもらうこと。
- 弁護士に伝えないまま、子からの連絡に応じたり拒んだりを繰り返すこと。
子から連絡が来たときは、内容を記録したうえで弁護士に共有し、返事の仕方を一緒に決めていくのが基本です。親が一人で判断を抱え込まないための仕組みとして、弁護士を窓口にしておく意味があります。
よくあるご質問
子が書面の受け取りを拒んだ場合、届いたことになりますか
正当な理由なく受け取りを拒んだときは、通常であれば届いていたはずの時点で届いたものとみなされることがあります(民法97条2項)。ただし、不在のまま保管期間が過ぎて戻ってきた場合などは扱いが分かれることもあるため、実務では普通郵便やメール、訪問など、複数の方法を組み合わせて伝えることがあります。
子が無視したら、弁護士はすぐに裁判を起こすのですか
すぐに裁判を起こすとは限りません。親子の問題では、親の安全と生活を守ること、そして子が親から離れて自分の生活を築いていくことが目標になります。裁判はそのための手段の一つであり、子の反応や生活の状況を見ながら、段階を踏んで検討します。
子にも弁護士がついたら、どうなりますか
以後は、弁護士同士でやり取りをすることになります。子の側の弁護士が子の言い分を整理することで、かえって話し合いが進みやすくなることもあります。親から子への直接の連絡は、双方の弁護士と相談しながら進めることになります。
子が弁護士からの連絡を無視しても、それで打つ手がなくなるわけではありません。無視の中身を見極めたうえで、親の安全、お金、住まいといった困りごとごとに、取れる手段を順に検討していくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


