【親子問題】一度相談したが動けなかった|時間が経ってから再開するとき
この記事は、2026年11月時点の民法・不動産登記法・生活保護制度をもとに解説しています。実際の扱いは、財産の内容や家族の構成、お住まいの地域の運用によって変わります。
「自分たちが亡くなった後も、この子が住む場所だけは残してやりたい」。ひきこもりの状態が続く子と暮らす親御さんから、こうしたお考えを伺うことがあります。住まいがあることは、親亡き後の暮らしの土台になります。
一方で、家は持っているだけで手続や費用がかかる財産でもあります。社会との接点が少ない状態で家を受け継いだ子が、その後どのような場面に向き合うことになるのかを知っておくと、残し方を考えるときの手がかりになります。
この記事では、ひきこもりの子が家を相続した後に起こりやすいことを順に整理し、親が元気なうちに検討しておきたい備えについて解説します。子が「家を継ぐ」と言い張っている場面での受け止め方は、【親子問題】ひきこもりの子が「家を継ぐ」と言い張るときは?で解説しています。
家を相続した子が担うことになるもの
家を相続すると、子はその家の所有者として、手続と費用の両方を担うことになります。親と同居していた間は親が引き受けていたものが、相続を境に子の側へ移ります。
相続登記は相続人の義務になっている
2024年4月から、不動産を相続した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務とされました(不動産登記法76条の2)。正当な理由なく申請しない場合は、10万円以下の過料の対象になることがあります(同法164条)。
戸籍を集め、遺産分割協議書や遺言書を添えて法務局に申請する手続は、外との連絡に慣れていない子にとって負担が大きいことがあります。司法書士に依頼するのか、ほかの家族が手続を手伝うのかを決めておかないと、名義が親のまま残り続けるおそれがあります。
住み続けるだけでも費用がかかる
家に住み続ける場合でも、次のような費用は毎年、あるいは折々に発生します。
- 固定資産税・都市計画税。
- 火災保険・地震保険の保険料。
- 屋根・外壁・水回りなどの修繕費。
- マンションの場合の管理費・修繕積立金。
- 電気・ガス・水道などの公共料金。
親の年金で家計が回っていた家庭では、親が亡くなると年金収入も途絶えます。家は残っても、それを維持するための現金が足りなくなるという順序で困りごとが表に出ることが少なくありません。年金が止まった後の家計については、【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計もあわせてご覧ください。
なお、相続税がかかる規模の財産がある場合、同居していた子が家を相続し、申告期限まで住み続けて保有していれば、土地の評価額を減らせる特例(小規模宅地等の特例)を使える場合があります。ただし、特例を使うには期限内の申告が必要になるため、誰が手続を進めるかがここでも問題になります。
家はあっても、生活費が足りなくなったとき
親から受け継いだ預貯金が尽き、子に収入がない場合には、生活保護が選択肢になります。持ち家があると生活保護は受けられないと思われがちですが、現に住んでいる家は、売った場合の価値が住み続ける価値に比べて著しく大きいといえない限り、保有したまま保護を受けられる扱いが原則とされています。
ただし、次のような場合には、家の扱いについて福祉事務所から別の判断が示されることがあります。
- 土地や建物の評価額が高く、売却して生活費に充てるよう求められる場合。
- 一定の年齢以上で、家を担保にした貸付(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)の利用を先に勧められる場合。
- 住んでいない家や、ほかの相続人との共有の家を持っている場合。
また、親と同居している間は、生活保護は世帯単位で判断されるため、子だけが保護を受けるのは難しいことが多いといえます。親亡き後に子が単身世帯になった段階で、改めて検討の対象になるという順序です。詳しくは【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で整理しています。
相続の後に起こりやすいこと
家を相続した後に生じやすい場面を、前もって考えておきたい点とあわせてまとめると次のとおりです。
| 場面 | 起こりやすいこと | 前もって考えておきたいこと |
|---|---|---|
| 家の管理 | 片付けや修繕が進まず、建物の傷みや近隣からの苦情につながる | 見守りや点検を誰が担うか |
| 売却・借入れの勧誘 | 不利な条件での売却や借入れを持ちかけられる | お金の管理を誰かと分担できるか |
| きょうだいとの共有 | 売るにも貸すにも共有者の同意が必要になる | 共有にしない分け方ができるか |
| 遺留分の請求 | ほかのきょうだいから金銭の支払いを求められる | 支払いの原資を用意できるか |
| 入院・施設入所 | 家が空き家になり、管理の手が回らなくなる | その後の住まいと家の処分の見通し |
| 子が亡くなった後 | 家がきょうだいやおい・めいに相続される | 最終的な家の行き先をどう決めるか |
不利な条件での売却や借入れを持ちかけられる
社会との接点が少ないまま財産を受け継ぐと、訪問や電話による不動産の買取りの勧誘、家を担保にした借入れの勧誘などに、一人で向き合うことになります。判断を相談できる相手がいない状態では、相場より大幅に低い価格で売却してしまうなどの被害に遭うおそれがあります。お金の管理を第三者と分担する仕組みについては、【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いで解説しています。
きょうだいとの共有にすると
遺言がなく、話し合いで決めきれないまま、家をきょうだいの共有名義にするケースがあります。共有の家は、売却や賃貸に共有者全員の同意が必要になり、修繕費や固定資産税の負担をめぐっても意見が分かれやすくなります。
遺産分割を終えて共有名義にした家については、共有者の一人が共有関係の解消を裁判所に求めることができ(民法256条・258条)、結果として家を売却して代金を分けることになる場合もあります。住み続けている子にとっては、住まいを失うきっかけになりかねません。
ほかのきょうだいから遺留分を求められると
親が遺言で家をひきこもりの子一人に相続させた場合、ほかの子は、遺留分を侵害された額に相当する金銭を請求できます(民法1046条)。家以外にめぼしい財産がないと、家を相続した子には支払いの原資がなく、家を売らざるを得なくなることも考えられます。裁判所が支払いに期限を与えることができる規定(民法1047条5項)もありますが、請求そのものがなくなるわけではありません。
子が亡くなった後、家はどこへ行くのか
ひきこもりの状態にある子に配偶者や子がいない場合、その子が亡くなったときの相続人は、ほかのきょうだい(亡くなっていればその子であるおい・めい)になるのが通常です。相続人が誰もいない場合は、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が財産を整理し、最終的に国庫に帰属することがあります(民法951条以下)。
親が遺言で「家は子に相続させ、子が亡くなった後は孫に引き継がせる」と順番まで書いても、子の死後の行き先までを親の遺言で決められるかについては否定的な見方が多く、確実な方法とはいえません。最終的な行き先まで決めておきたい場合は、後で触れる家族信託などの仕組みを検討することになります。
相続放棄を選んでも、管理の負担が残ることがある
家の維持が難しいと考えて、子が相続放棄を選ぶこともあります。相続放棄は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります(民法915条)。
ただし、放棄の時点でその家に住んでいるなど現に占有している場合は、ほかの相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間、その家を保存する義務を負います(民法940条)。放棄をすれば、すぐに住まいの問題から離れられるわけではない点に注意が必要です。
家を残す方法は一つではない
「子に家を残す」といっても、所有権をそのまま渡す以外に、住む場所を確保しながら管理を別の人に任せる方法もあります。主な選択肢を整理すると次のとおりです。
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 遺言で子に相続させる | 家の所有権を子が取得する | 維持費・手続・遺留分の負担が子に集中する |
| 負担付きで別の家族に遺贈する | 家を受け取る家族に、子を住まわせるなどの負担を付ける | 受け取った家族が負担を守るかどうかに左右される |
| 家族信託 | 信頼できる家族が家を管理し、子は住む利益を受ける | 受託者の確保と、専門家による設計が必要 |
| 生前に売却して現金で残す | 住み替えたうえで、現金や賃貸住宅で暮らしを支える | 子の転居が必要になることが多い |
家族信託で「管理」と「住まい」を分ける
家族信託は、親(委託者)が家を信頼できる家族(受託者)に託し、受託者が管理や必要な場合の売却を担いながら、子(受益者)がそこに住む利益を受けるという仕組みです。子が亡くなった後に家を誰に引き継ぐかも、信託の契約の中で定めておくことができます。
一方で、受託者を引き受ける家族がいるか、その家族の負担をどう考えるかが前提になります。遺留分との関係も含め、設計には専門家の関与が欠かせません。
後見制度を使える場面は限られる
成年後見制度は、病気や障害により判断能力が不十分な人を支える仕組みです。ひきこもりの状態にあること自体は利用の理由にならず、子の判断能力に問題がない場合は利用できません。子本人が将来に備えて任意後見の契約を結んでおく方法もありますが、本人の意思が前提になります。浪費が続く場合の制度の考え方は、【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面で解説しています。
親が元気なうちに確かめておきたいこと
家をどう残すかは、親の判断能力が十分なうちでなければ決めにくくなります。次の点を順に確かめておくと、方針を立てやすくなります。
- 家の評価額と、年間の維持費の見込みを把握します。
- 親亡き後の子の収入源(年金・就労・生活保護など)を見積もります。
- 子が手続や近所とのやり取りを一人で担えるかを見極めます。
- ほかのきょうだいの考えと、遺留分の見込みを確かめます。
- 家を残す方法を選び、遺言や信託契約の形にします。
- 子の見守りや相談先を、家族以外にも確保しておきます。
家を残すことは、親亡き後の暮らしを支える手段の一つであって、それだけで子の生活が成り立つわけではありません。住まいとあわせて、収入と人とのつながりを用意しておくことが、残した家を生かすことにつながります。
- 【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくか
- 【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるか
- 【親子問題】親が施設に入った後も実家に子が住み続けている|誰が退去を求められるのか
- 【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件
弁護士に相談することでできること
当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力に悩む親御さんの代理人として、子との間に入る対応を行っています。家を誰にどのように残すかという相続の見通しを整理するとともに、自立支援カウンセラーと役割を分けながら、子の住まいや収入の基盤づくりを親が元気なうちから進めることができます。税務や登記の確認が必要な場面では、税理士や司法書士への相談もあわせて検討することになります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
家を残すかどうか、どう残すかに一つの正解はありません。子がその家で暮らしていく姿を具体的に思い描きながら、手続と費用、人の支えまで含めて早めに整えておくことが、親子双方の安心につながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


