【親子問題】子が借りた部屋の連帯保証人を、親がやめることはできる?
この記事は、2026年11月時点の法令と公表されている裁判例をもとに、親が自分の死後の事務を第三者に託す「死後事務委任契約」を、子のことを念頭に置いて利用する場面について解説しています。個々の契約の効力や範囲は、契約の内容と具体的な事情によって異なります。
自分が亡くなった後、葬儀や役所への届出、病院や施設への支払い、自宅の片付けなどを誰が担うのか。ひきこもりの状態が続いている子、病気や障害のある子、あるいは関係が難しくなっている子がいる親御さんからは、「子にはこうした手続を任せられそうにない」「子に負担を残したくない」というご相談が寄せられることがあります。
その備えとして名前が挙がるのが死後事務委任契約です。身寄りのない方の備えとして紹介されることが多い仕組みですが、子がいる場合にも利用できます。ただし、子が相続人であることとの関係や、財産の分け方・子の生活の支えといった、この契約では決められない部分があることを理解しておく必要があります。この記事では、親子問題の視点から、利用できる場面と限界、組み合わせて考えたい仕組みを整理します。
死後事務委任契約とはどのような契約か
死後事務委任契約は、本人(委任者)が生前に、自分が亡くなった後の事務を特定の人や法人(受任者)に依頼しておく契約です。民法では、委任契約は委任者の死亡によって終了するのが原則とされています(民法653条1号)。もっとも、最高裁平成4年9月22日判決は、委任者の死亡後の事務を任せる合意について、委任者の死亡によっても契約を終了させない趣旨を含むものと判断しており、実務はこの考え方を前提に運用されています。
委任できる事務として一般に挙げられるのは、次のようなものです。
- 通夜・告別式・火葬・納骨・永代供養などの手配。
- 病院や施設の費用、家賃、公共料金などの精算。
- 賃貸住宅の明渡しや施設の退去手続。
- 家財道具や生活用品の整理・処分。
- 電気・ガス・水道、携帯電話、各種サービスの解約。
- 親族や知人への死亡の連絡。
何をどこまで任せるかは契約で決めます。葬儀の形式や納骨先、連絡してほしい相手、処分してよい物と残してほしい物など、本人の希望を具体的に書き込んでおくことができます。
子がいても死後事務委任契約は利用できる
死後事務委任契約は、相続人がいない方だけのものではありません。子がいる場合でも、親が自分の判断で契約を結ぶことができます。親子問題のご相談のなかでは、次のような事情から検討されることがあります。
- 子がひきこもりの状態にあり、葬儀の手配や役所・病院とのやり取りを担うことが難しい場合。
- 子に病気や障害があり、親の死後に多くの手続を一度に抱えると、体調や生活が崩れるおそれがある場合。
- 子から暴力や金銭の要求を受けてきたため、死後の手続を子に委ねることに不安がある場合。
- 子が遠方に住んでいたり疎遠になっていたりして、亡くなった直後に動ける人がいない場合。
- きょうだいの一人に負担が集中しないよう、手続の一部を第三者に任せておきたい場合。
親が亡くなった直後は、死亡診断書の受け取り、葬儀社との打ち合わせ、病院や施設への支払いなど、短い期間に判断と手配が重なります。それが子にとって大きな負担になると考えられる場合に、その一部を第三者に担ってもらうことは、子を守る備えの一つになり得ます。
死後事務委任契約では決められないこと
一方で、「子のため」に考える場合には、この契約の守備範囲を正しく把握しておくことが大切です。
財産を誰にどう残すかは遺言で決める
死後事務委任契約で決めるのは、亡くなった後の事務の処理です。財産を誰にどれだけ渡すか、自宅を誰に引き継がせるかといった点は、遺言で定める事項です。遺言がない場合は、相続人である子が法定相続分に従って相続し、遺産分割の手続を経ることになります。ひきこもりの子や判断能力に不安のある子がいる場合、遺産分割の話し合いそのものが難しくなることがあるため、遺言を作成し、遺言執行者を指定しておくことがあわせて検討されます。
子の生活の支えは別の仕組みで考える
死後事務委任契約の受任者が担うのは、あくまで亡くなった親自身に関する事務です。親の死後に子の生活費をどう管理するか、子の住まいをどうするか、子の日々の相談に誰が乗るかといった点は、この契約の対象にはなりません。子の生活については、成年後見制度、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業、家族信託、生活保護などの公的な支援を含め、別の仕組みで設計する必要があります。この点は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで詳しく解説しています。
受任者だけでは担えない手続もある
たとえば死亡届は、届出ができる人が戸籍法で定められており、同居の親族、その他の同居者、家主・地主・家屋管理人、後見人や任意後見人などがこれにあたります(戸籍法87条)。死後事務委任契約の受任者であるというだけでは届出人にあたらない場合があり、同居の子が届出義務者となる場面もあります。どの手続を誰が行うのかは、契約を結ぶ前に一つずつ確認しておくことが望まれます。
相続人である子との関係で注意したいこと
子がいる場合に特有の問題は、子が親の相続人になるという点です。
委任者の立場は相続人である子に引き継がれる
委任者が亡くなると、委任者としての契約上の立場は相続人である子に引き継がれると考えられています。委任契約は各当事者がいつでも解除できるのが原則であるため(民法651条1項)、子が受任者に対して契約の解除を申し入れることも考えられます。この点について、東京高裁平成21年12月21日判決は、契約内容が不明確であったり実現が困難であったり、相続人にとって履行の負担が過大であったりするなどの特段の事情がない限り、相続人が契約を解除して終了させることを許さない合意を含む趣旨と解されると判断しています。
そのため実務では、委任者が亡くなっても契約が終了しないことや、相続人による解除を制限することを契約書に明記したうえで、委任する事務の内容と費用を具体的に定めておくのが一般的です。内容があいまいな契約や、費用が事務の内容に見合わない契約は、後に子との間で争いになるおそれがあります。
費用の預け方によっては子と利害が対立する
死後事務の費用や受任者の報酬は、親の財産から支払われます。親が亡くなると預貯金は相続財産となり、受任者が自由に引き出すことは難しくなるため、生前に受任者へ費用を預けておく方法(預託金)、遺言執行者に清算を任せる方法、信託を使う方法などがとられます。いずれの方法でも、子が受け取る遺産はその分少なくなります。
金額と使い道が明確であること、預けたお金の管理方法と残金の扱いが決まっていることは、子との無用な対立を避けるうえで重要です。
子に契約の存在を伝えておくか
法律上、死後事務委任契約を結ぶのに子の同意は必要ありません。ただ、親の死後に子の知らない受任者が葬儀や片付けを進めると、子が戸惑ったり反発したりすることがあります。関係が保てているのであれば、「手続の負担を軽くするために頼んである」と生前に伝えておくことが、契約を円滑に動かす助けになります。
反対に、子から暴力や金銭の要求を受けている場合には、伝え方やタイミングに配慮が必要です。誰が、どの段階で、何を子に伝えるのかを、受任者とあらかじめ打ち合わせておくとよいでしょう。親の財産を子に渡したくない事情がある場合の法的な手段については、【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件をご覧ください。
受任者を誰にするか
受任者に資格の定めはなく、親族、知人、弁護士などの専門職、民間の事業者や法人のいずれにも依頼できます。それぞれ次のような点を考えておく必要があります。
| 受任者 | 考えておきたい点 |
|---|---|
| きょうだいなどの親族 | 事情をよく知っている一方、負担が一人に集中しやすく、受任者自身の高齢化にも注意が必要です。 |
| 弁護士などの専門職 | 子との間で法的な問題が生じたときにも対応しやすく、葬儀の実務は葬儀社などと分担することが多くなります。 |
| 民間の事業者・法人 | サービスの幅が広い一方、預けたお金の管理方法や事業の継続性を契約前に確認しておきたいところです。 |
民間事業者のサービスについては、国民生活センターが、身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルについて注意を呼びかけています。預けたお金がどのように管理され、解約したときにどれだけ戻るのかは、契約前に書面で確認しておくことが大切です。
また、受任者が親の死亡をすぐに知ることができなければ、契約は機能しません。定期的な連絡や見守りの契約をあわせて結ぶ、子や病院・施設に受任者の連絡先を伝えておくなど、死亡の事実が受任者に届く仕組みも用意しておく必要があります。
あわせて検討したい仕組み
子のことを考えて死後の備えをする場合、死後事務委任契約だけで完結することはあまりありません。一般には、次の仕組みを組み合わせて考えます。
- 遺言(財産の分け方と遺言執行者の指定)。
- 任意後見契約・財産管理契約(親自身の判断能力が衰えたときの備え)。
- 見守り契約(受任者による親の状況の定期的な把握)。
- 家族信託(子の生活費を長期にわたって管理する仕組み)。
- 子のための支援(成年後見制度、日常生活自立支援事業、生活保護、就労支援など)。
子の金銭管理を誰が担うかについては【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違い、親の死後に子が孤立しないための備えについては【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるかで解説しています。
よくあるご質問
子本人を受任者にすることはできますか
可能です。ただ、子が手続を担うことが難しいという理由で検討している場合には、子を受任者にしても目的を果たしにくいことがあります。子を受任者にしつつ、一部の事務を専門職に任せる形をとることも考えられます。
契約は公正証書で作る必要がありますか
法律上の必須の要件ではありません。ただ、公正証書にしておくと、本人の意思で契約が結ばれたことを示しやすく、受任者が病院や役所、金融機関などとやり取りする際にも説明がしやすくなります。親の判断能力に不安が出てくると契約自体が難しくなるため、早めに検討することが望まれます。
親の死後に子が契約の内容に反対したらどうなりますか
契約の内容や事情によって結論が変わります。解除が制限されると考えられる場合もあれば、内容があいまいで履行が難しい部分について、相続人である子との協議が必要になる場合もあります。契約を作る段階で、子の立場から見ても争いが生じにくい内容になっているかを点検しておくことが大切です。
親子の事情を踏まえて死後の備えを考える
死後事務委任契約は、子に手続の負担を残さないための選択肢の一つとして利用できます。ただ、子が相続人であることや、子の生活は別の仕組みで支える必要があることを踏まえると、契約書を作るだけでなく、親子関係の現状と今後の見通しをあわせて考えることが欠かせません。当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、金銭の要求など親子間の問題について、親御さんの代理人としてご相談をお受けしており、その取り組みは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。死後の備えについても、子との関係を含めて整理するところからご相談いただけます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


