【親子問題】子が親の介護ヘルパーに暴言を吐き、事業所に断られそうなときは?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年11月1日時点の介護保険の運営基準、厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」、同年10月に施行されたカスタマーハラスメント対策に関する法改正をもとにまとめています。個別の事情によって結論は変わりますので、具体的な対応は専門家にご確認ください。


親の自宅に訪問介護のヘルパーが来るたびに、同居している子が強い口調で文句を言ったり、怒鳴ったりしてしまう。そのうち事業所から「このままでは訪問を続けるのが難しい」と告げられた。こうしたご相談は、子の問題と親の介護が重なるご家庭で少なくありません。

 親としては、介護サービスがなくなれば生活が回らなくなる一方で、子の言動を止めることもできず、事業所と子の間で板挟みになりがちです。この記事では、事業所がどのような場合に契約を解除できるのか、断られそうになったときに親が取れる手立て、そして子の暴言の背景にある問題をどう切り分けるかを順に整理します。

事業所はすぐにサービスを打ち切れるのか

 介護保険の訪問介護事業所には、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないという決まりがあります(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準9条)。介護サービスは利用者の生活を支えるものなので、事業所の側から一方的に打ち切ることには一定の歯止めがかけられています。

 厚生労働省のハラスメント対策マニュアルでも、事業所からの契約解除には「正当な理由」が必要とされ、その判断では次のような事情が考慮されるとしています。

考慮される事情具体的に見られる点
結果の重大性職員がけがをした、心身の不調で休職したなど、被害の程度
再発の可能性一度きりの出来事か、繰り返されているか、改善の見込みがあるか
ほかの防止策の有無担当の変更、複数名での訪問、訪問時間の調整などで防げるか
利用者の不利益の程度サービスが途切れたときに利用者の生活にどれだけ影響するか


 また、契約を解除する場合でも、予告期間を置くことや、後任の事業所を紹介するなど、利用者のサービスが途切れないための手当てが求められています。ですから、子が一度大きな声を出しただけで、その日のうちに契約が打ち切られるという場面は通常は考えにくいところです。

 ただし、ここでいうハラスメントには、利用者本人だけでなく家族による言動も含まれます。暴言が繰り返され、話し合いや再発防止策を提案しても改善が見られない場合には、正当な理由が認められる方向に傾いていきます。「すぐには切られない」ことと「いつまでも続けてもらえる」ことは別であると考えておく必要があります。

事業所側の対応は以前より組織的になっている

 2026年10月から、改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務づけられました。東京都ではそれに先立ち、2025年4月からカスタマー・ハラスメント防止条例が施行されています。介護の分野でも、以前から事業者にはハラスメント防止のための措置が求められており、利用者や家族によるハラスメントがあった場合の契約解除について、重要事項説明書に記載する事業所が増えています。

 こうした流れの中で、事業所はヘルパー個人に我慢を強いるのではなく、記録を取り、管理者が面談し、必要に応じて弁護士に相談するという形で、組織として対応するようになってきています。自治体によっては、事業所向けに弁護士の無料相談窓口を設けているところもあります。

 家族の側から見れば、事業所からの申し入れは感情的な苦情ではなく、記録に基づいた正式な対応として届くことが多くなるということです。「そこまで大げさな話ではない」と受け流してしまうと、話し合いの機会を逃してしまうおそれがあります。

子の暴言が法的な問題になる場面

 暴言にもさまざまな程度があります。不機嫌な態度や強い口調の文句にとどまる場合と、刑事上の問題として扱われうる場合とでは、事業所の受け止め方も大きく異なります。

  • 「殺すぞ」「ただでは済まない」など、生命や身体に危害を加えることを告げる言葉は、脅迫罪にあたる可能性があります。
  • 大声で怒鳴り続けて訪問を続けられない状態にした場合は、業務妨害として問題になることがあります。
  • 職員を押す、物を投げつけるといった行為があれば、暴行罪や傷害罪の問題になります。
  • 性的な発言や身体への接触は、セクシュアルハラスメントとして事業所が特に重く扱う傾向があります。


 脅迫にあたるかどうかの線引きについては、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きでも解説しています。

 なお、成人した子の言動について、親が法律上の責任を当然に負うわけではありません。民法714条の監督義務者の責任は、原則として責任能力のない人を監督する立場の人に関するもので、成人した子の行為について親に一般的に及ぶものではないからです。もっとも、法的責任の有無とは別に、介護サービスを失うという現実の不利益は親の側に生じます。そのため、親として何らかの手を打つ必要が出てくるのです。

事業所から「断られそう」と言われたときに親ができること


まず経緯を正確に聞く

 最初に、事業所の管理者やケアマネジャーから、いつ、どのような言動があったのかを具体的に聞き取ります。子に確認すると話が食い違うこともありますが、その場で事業所の説明を否定するより、記録に残っている事実を把握するほうが、その後の話し合いを進めやすくなります。

子と職員が顔を合わせない段取りを考える

 暴言のきっかけが「ヘルパーと顔を合わせること」そのものにある場合は、接点を減らす工夫で落ち着くことがあります。

  • 子が外出している時間帯や、子の部屋から離れた場所でサービスを受ける。
  • 事業所への連絡や要望は、親かケアマネジャーに窓口を一本化する。
  • サービスの内容に子の不満がある場合は、子が直接ヘルパーに言わず、ケアマネジャーを通す約束をする。
  • 訪問の時間や内容を、事前に子に伝えておく。


サービス担当者会議で再発防止策を話し合う

 ケアマネジャーに依頼して、事業所を交えたサービス担当者会議の場で対応を話し合う方法もあります。担当ヘルパーの変更、2人での訪問、訪問時間の調整などが検討されることがあります。親の側から再発防止に協力する姿勢を示しておくことは、契約を続けてもらううえでも意味があります。ケアマネジャーへの相談の仕方に迷う場合は、ケアマネジャーが親の介護全体を調整する立場にあることを踏まえ、子の状況も含めて率直に伝えておくほうがよいでしょう。

子にどう伝えるか

 子に対しては、「ヘルパーに失礼だ」と責めるよりも、「このままでは親の介護サービスがなくなり、結果として家族全員の生活が苦しくなる」という事実を淡々と伝えるほうが受け止められやすい傾向があります。ただし、子が親に対しても暴言や暴力を向けている状況では、親が一人で説得しようとすると、かえって親自身の安全が損なわれるおそれがあります。

それでも契約解除となった場合

 話し合いを重ねても改善が見込めないとして、事業所から契約解除を告げられることもあります。その場合でも、事業所は予告期間を置き、後任の事業所を探すための調整に協力することが求められます。ケアマネジャーと相談しながら、別の事業所を探していくことになります。

 ただし、子の言動が変わらないまま事業所を替えても、同じことが繰り返される可能性があります。後任の事業所にも経緯が伝わることが多いため、引き継ぎの段階で、接点を減らす段取りや窓口の一本化をあらためて決めておくことが大切です。

 事業所の対応に納得できない場合には、区市町村の介護保険の担当窓口や、東京都国民健康保険団体連合会の苦情相談窓口に相談する方法もあります。

子の暴言の背景にある問題を切り分ける

 ヘルパーへの暴言は、それだけが単独で起きているとは限りません。背景には次のような事情が隠れていることがあります。

  • 他人が家に入ることへの強い抵抗があり、親の介護方針そのものに反対している。
  • 長くひきこもっており、外部の人と接すること自体に強い緊張がある。
  • 親の年金に頼って生活していて、介護サービスの費用がかかることに不満を持っている。
  • 精神的な不調があり、医療につながっていない。
  • 親に対しても暴言や暴力、金銭の要求がある。


 とくに最後のように、親自身が子から暴言や暴力を受けている場合は、ヘルパーへの対応だけでなく、親の安全の確保が先に来ます。高齢の親が家族から暴力などを受けている場合には、高齢者虐待防止法にもとづいて市区町村や地域包括支援センターが関わる仕組みがあります。詳しくは【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組み、身の安全と記録の取り方については【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録をご覧ください。

 また、親が要介護になったことをきっかけに、同居の子の生活の先行きが問題として表に出てくることもあります。この点は【親子問題】親が要介護になったとき、同居の子の生活はどうなるのかで整理しています。

弁護士が間に入ることで変えられること

 事業所、ケアマネジャー、子のそれぞれと親が一人で向き合い続けるのは、大きな負担になります。弁護士が親の代理人として関わると、子への連絡や話し合いの窓口を弁護士に移し、親が直接子と対立する場面を減らすことができます。事業所やケアマネジャーとの調整についても、法的な見通しを踏まえて進めやすくなります。窓口を代えることの意味については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で詳しく説明しています。

 当事務所では、親御さんの代理人として弁護士が子と向き合い、自立支援カウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、日々の生活の立て直しを支えるという形で、チームを組んで親子の問題に取り組んでいます。子が家を出て生活の基盤を築くことができれば、親の介護の場に子が居合わせること自体がなくなり、ヘルパーとの摩擦も根本から解消に向かうことがあります。


 事業所から継続が難しいと言われた段階は、子の問題を家族の中だけで抱え込まず、外の力を借りるきっかけにもなります。親の介護を守ることと、子の生活を立て直すことは、別々の課題に見えて実際にはつながっています。どちらから手をつけるべきか迷う場合でも、まずは状況を整理するところから始めてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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