【親子問題】子の通院費は、自立支援医療で減らせる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点で国や東京都、各区市町村が公表している制度の内容をもとに書いています。自己負担の上限額や「重度かつ継続」の経過的な取扱いは見直されることがあるため、申請の前にお住まいの区市町村の窓口でご確認ください。


成人した子が精神科や心療内科に通い続けていると、診察代と薬代が毎月かかります。本人に収入がなく、親が支払いを続けている家庭も少なくありません。通院が長引くほど、「この費用をいつまで負担できるのか」という不安は大きくなりがちです。

 精神疾患の通院費については、自己負担を軽くする公的な制度として「自立支援医療(精神通院医療)」があります。この記事では、制度の仕組みと、親子で暮らす家庭が特に確認しておきたい「世帯」の考え方、申請の進め方を整理します。

自立支援医療(精神通院医療)とはどのような制度か

自立支援医療(精神通院医療)は、障害者総合支援法に基づく公費負担の制度です。精神疾患(てんかんを含みます)のために、通院による治療を続ける必要がある方を対象に、医療費の自己負担を軽くします。

 通常、医療保険の窓口負担は3割ですが、この制度を利用すると原則として1割になります。さらに、世帯の所得などに応じて1か月あたりの自己負担に上限が設けられ、上限を超えた分は支払う必要がありません。

対象となる病気

対象は特定の病名に限られていません。統合失調症、うつ病や双極性障害などの気分障害、不安障害、薬物などの依存症、知的障害、てんかんなどが含まれ、発達障害で通院している場合も対象になることがあります。

 対象になるかどうかは、主治医が「通院による治療を続ける必要がある程度の状態か」を判断し、診断書を書くことで審査に進みます。まずは主治医に、この制度を使えるかどうかを尋ねてみるのが近道です。

対象になる医療・ならない医療

制度が使えるのは、精神疾患や、それが原因で生じた症状について、入院せずに受ける医療です。

区分主な内容
対象になるもの外来の診察、外来で処方される薬、デイケア、訪問看護など
対象にならないもの入院の費用、精神疾患と関係のない病気の治療、医療保険がきかないカウンセリングなど


 入院の費用は対象外のため、入院が必要になった場合の負担は別に考える必要があります。入院費を誰が負担するのかについては、【親子問題】成人した子の入院費・治療費を誰が払うのか|扶養義務と保証人欄の意味で解説しています。

 また、制度を利用できるのは、都道府県などの指定を受けた医療機関・薬局・訪問看護ステーションのうち、受給者証に記載されたところに限られます。今の通院先が指定を受けているか、薬局を変える予定があるかは、申請の段階で確かめておくと安心です。

自己負担の上限は「世帯」の所得で決まる

1か月の自己負担の上限額は、受診する子本人だけでなく、制度上の「世帯」の住民税の課税状況などによって決まります。おおまかな区分は次のとおりです。

所得区分世帯の状況1か月の上限額
生活保護生活保護を受けている世帯0円
低所得1住民税非課税で、本人の収入が一定額以下2,500円
低所得2住民税非課税で、本人の収入が低所得1の基準を超える5,000円
中間所得1住民税(所得割)が3万3千円未満医療保険の自己負担限度額(「重度かつ継続」に当たる場合は5,000円)
中間所得2住民税(所得割)が3万3千円以上23万5千円未満医療保険の自己負担限度額(「重度かつ継続」に当たる場合は1万円)
一定所得以上住民税(所得割)が23万5千円以上原則として制度の対象外(「重度かつ継続」に当たる場合は2万円)


 中間所得の区分でも、窓口での負担は原則1割になるため、3割負担のときと比べると支払いは軽くなります。

「重度かつ継続」とは

「重度かつ継続」は、統合失調症、うつ病・双極性障害、てんかん、依存症などで、精神医療に一定以上の経験を持つ医師が継続的な治療が必要と判断した場合や、直近1年間に医療保険の高額療養費の支給を3回以上受けた場合などを指します。該当すると上限額が低く抑えられるため、診断書を書いてもらう際に、該当する可能性があるかどうかを主治医に確認しておくとよいでしょう。

 なお、一定所得以上の世帯で「重度かつ継続」に当たる方を対象とする取扱いは、国が令和9年3月31日までの経過的な特例として定めているものです。その後の取扱いは今後の改正によって変わる可能性があります。

親子で確認したい「世帯」の考え方

親子で暮らす家庭で特に誤解されやすいのが、「世帯」の意味です。自立支援医療でいう世帯は、住民票の世帯ではなく、同じ医療保険に加入している人の単位で考えます。

  • 子が親の勤務先の健康保険に扶養家族として入っている場合は、被保険者である親の住民税で判定されます。
  • 子が国民健康保険に加入している場合は、同じ国民健康保険に加入している家族全員の住民税で判定されます。
  • 子が自分の勤務先の健康保険に被保険者として入っている場合は、子自身の住民税で判定されます。


 たとえば、子本人に収入がなくても、親の健康保険の扶養に入っていて親に一定の収入がある場合は、中間所得や一定所得以上の区分になることがあります。「子は無収入だから負担はほとんどかからないはず」と考えて申請すると、想定と違う結果になることがあるため注意が必要です。

扶養から外すと別の世帯として扱われる場合がある

同じ医療保険に加入していても、配偶者以外の家族については、税制上も医療保険上も扶養しないことにした場合に、別の世帯とみなすことができるとされています。親子の場合、子を親の扶養から外すことで、子本人の所得で区分が判定される可能性があります。

 ただし、扶養から外すと、子が国民健康保険に加入して保険料を負担することになったり、親の扶養控除がなくなって税金が増えたりすることがあります。通院費の軽減分だけを見て決めるのではなく、保険料や税金を含めた家計全体で比べることが大切です。

 また、住民票の世帯を分ける「世帯分離」をしても、医療保険の加入関係が変わらなければ、自立支援医療の世帯は変わりません。世帯分離の手続と影響については、【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いで解説しています。

東京都で暮らしている場合の上乗せの助成

東京都では、自立支援医療(精神通院医療)を利用している方のうち、住民税非課税の世帯(低所得1・低所得2に当たる方)について、自己負担分を助成する仕組みがあります。会社員などの健康保険や国民健康保険組合などに加入している方は東京都が、区市町村の国民健康保険に加入している方はその区市町村の国民健康保険が助成を行い、原則として自己負担がなくなります。

 この助成は加入している医療保険によって実施する機関が異なるため、子が親の扶養から外れて国民健康保険に移るなど、保険が変わったときは改めて手続が必要です。また、都外の医療機関では、いったん窓口で支払い、後から給付を申請する扱いになる場合があります。

申請の流れと必要な書類

申請の窓口は、23区では保健所・保健センター、市町村では障害福祉の担当課です。一般的には、次のような書類をそろえます。

  • 自立支援医療費(精神通院)の支給認定申請書。
  • 指定を受けた医療機関の医師が作成した自立支援医療用の診断書(作成から3か月以内のもの)。
  • 加入している医療保険の資格が確認できる書類の写し。
  • 所得や課税状況の確認に関する同意書や、マイナンバーの確認書類。


 精神障害者保健福祉手帳を同時に申請する場合は、手帳用の診断書1枚で両方の申請ができることがあります。受給者証の有効期間は原則1年間で、続けて利用するには毎年の更新が必要です。病状や治療方針に変わりがなければ、更新時の診断書は2年に1度の提出で足りるとされています。

 新規の申請は、窓口で受け付けられた日から制度の対象になるのが一般的です。受給者証が届くまでには数週間から1か月程度かかることがあるため、通院を続ける見込みがあるなら、早めに申請しておくと負担を抑えやすくなります。

成人した子の申請に、親はどこまで関われるか

制度を利用するのは受診者本人であり、成人した子の場合、申請するかどうかは本人の意思が前提になります。家族が窓口で書類を提出することを受け付けている自治体もありますが、委任状や本人確認書類を求められることがあるため、事前に窓口へ確認しておくと手続がスムーズです。

 子が制度の利用に消極的な場合は、親が説得するよりも、主治医や病院の精神保健福祉士から説明してもらうほうが受け入れやすいことがあります。そもそも受診につながっていない段階であれば、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断もあわせてご覧ください。

軽くなった後の負担を、親子でどう分けるか

制度を使って自己負担が軽くなっても、残った費用を誰が払うのかという問題は残ります。成人した子に対する親の扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。

 受給者証を使うと、1か月の自己負担がいくらになるのかを把握しやすくなります。子から「通院費が足りない」として繰り返しお金を求められている場合も、実際にかかっている額を確かめたうえで、必要な分と、それ以外の要求とを分けて考えることができます。金銭の要求が続いている場合の考え方は、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけをご覧ください。

 また、子が生活保護を受けるようになった場合、自立支援医療の自己負担の上限は0円の区分になります。生活保護の利用を検討している場合は、【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方も参考にしてください。

弁護士に相談できること

自立支援医療の申請そのものは、区市町村の窓口や病院の相談員と進めることができます。一方で、通院費を名目にした金銭の要求が止まらない、暴言や暴力があって親子だけでは話し合いが難しい、子の独立も含めて生活の組み立てを考えたいといった場面では、弁護士が関わる意味があります。

 当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口となり、自立支援カウンセラーと連携して、通院の継続や生活保護の申請サポート、日々の金銭管理など、子の生活の基盤づくりを支える取り組みを行っています。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で紹介しています。

 子の通院費は、制度を使うことで負担を抑えられる場合がありますが、どの区分になるかは加入している医療保険や家族の収入によって変わります。費用の問題が親子関係のこじれと重なっている場合は、制度の確認と並行して、家庭全体の状況を整理するところから始めることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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