【親子問題】前科・前歴が残ると何が変わるのか|親が知っておくこと
成人した子が、親が契約している生命保険や個人年金保険を解約し、解約返戻金を受け取っていた。保険会社からの通知や、届いていたはずの証券が見当たらないことで気づくご相談は少なくありません。家族の間のことでもあり、どこまでが法律の問題になるのか、返戻金は取り戻せるのか、迷われる方が多い場面です。
本記事は、成人した子が親の加入する保険を解約した場面を想定しています。契約の内容や手続の経緯によって扱いが変わるため、個別の事情は専門家にご確認ください。
この記事では、まず確認しておきたい契約関係を整理したうえで、刑事・民事それぞれの扱い、気づいた日にしておきたいこと、これ以上の解約を防ぐための手当てを順に説明します。
最初に確かめたいのは「誰が契約者か」
保険を解約する権利を持つのは、原則として保険契約者です。保険法は、保険契約者はいつでも生命保険契約を解除できると定めており(保険法54条)、解約返戻金も契約者に支払われるのが基本です。被保険者や保険金受取人であっても、契約者でなければ解約の権限はありません。
そのため、親の保険といっても、証券に記載された名義によって整理の仕方が変わります。
| 契約の形 | 解約できる人 | 返戻金の帰属の考え方 |
|---|---|---|
| 契約者が親、被保険者が親または子 | 契約者である親 | 親に帰属する。子が受け取っていれば返還の対象になり得る |
| 契約者が子、保険料は親が負担 | 名義上は子 | 親が実質的な契約者といえる事情があれば、親に帰属すると考えられる余地がある |
| 契約者が子、保険料も子が負担 | 子 | 原則として子に帰属する |
2つ目の形は、親が子の名義を使って加入し、保険料も払い続けてきたような場合です。弁護士の解説記事では、手続をした親が保険料を払い続け、子も名義を使われていることを承知していたのであれば、実際の契約者は名義を借りた親と評価できるとして、名義人の子が解約して返戻金を受け取っても親に渡す義務があるとの見方が示されています。もっとも、加入時の経緯や保険料の負担状況によって判断は分かれるため、証券や引き落とし口座の記録を確認することが出発点になります。
なお、名義と保険料負担者が異なる保険では、解約返戻金に所得税や贈与税の問題が生じることがあります。税務上の扱いは税理士への確認をおすすめします。
子が手続できてしまった経路を確かめる
契約者でない子が解約できたということは、何らかの形で手続が通ったということです。経路によって、後で説明する刑事・民事の扱いが変わります。
- 親が子に手続を頼み、委任状や書類を渡していた。
- 親が通帳や印鑑、証券を子に預けていた。
- 子が親の名前で解約請求書に署名し、押印していた。
- 子が親の判断が十分でないときに説明して、解約に同意させていた。
- 子が強く迫ったり、脅したりして親に解約させていた。
多くの保険会社では、解約返戻金は契約者名義の口座に振り込まれます。子の口座に入金されていれば振込先の変更手続が、親の口座に入金されていれば通帳やカードからの引き出しが、別に行われていることになります。どちらなのかを確かめておくと、請求の組み立てがしやすくなります。
刑事上の扱い|親族間の特例が及ぶ部分と及ばない部分
親子の間の財産の問題には、刑法の「親族相盗例」と呼ばれる特例があります。直系血族・配偶者・同居の親族の間で行われた窃盗や横領などについては、犯罪が成立しても刑が免除されるという規定です(刑法244条1項、255条など)。成人した子と親は直系血族にあたるため、この特例が問題になります。
頼まれた手続で受け取った返戻金を使った場合
親から解約の手続を頼まれ、受け取った返戻金を親に渡さずに使ったという場合は、横領が問題になり得ます。ただし親子の間では、先ほどの特例により刑が免除されるため、刑事事件として扱われにくいのが実情です。
親の名前で書類を作成していた場合
一方で、子が親になりきって解約請求書に署名・押印していた場合は、有印私文書偽造・同行使(刑法159条1項、161条1項)が問題になります。文書偽造の罪は財産に対する罪ではないため、親族相盗例の対象になりません。弁護士ドットコムにも、家族が本人の署名をまねて保険を解約した事案について、私文書偽造で告訴できるかを尋ねる相談が複数寄せられています。
保険会社をだまして返戻金を受け取った場合
偽造した書類で保険会社に支払いをさせた場合には、保険会社に対する詐欺が問題になる余地もあります。この場合に親族間の特例がどう及ぶかは、誰が被害者と評価されるかによって変わり得るため、事案ごとの検討が必要です。
いずれにしても、刑事手続を選ぶかどうかは、親子関係のその後や、子の生活をどう立て直すかとも関わります。被害届を出すかどうかの判断は、急がずに整理してからでも遅くないことが多いといえます。
返戻金を取り戻す|民事の請求
刑が免除される場面であっても、民事上の責任がなくなるわけではありません。親の財産である返戻金を権限なく受け取り、使ったのであれば、子に対して不当利得の返還(民法703条、704条)や、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を求めることが考えられます。
実際の請求では、次の点が争いになりやすくなります。
- 親が解約を頼んだ、またはもらったものだと子が主張する場合の、合意の有無。
- 返戻金の一部が親の生活費や医療費に使われていた場合の、差し引きの扱い。
- 子に返す資力がない場合の、分割や回収の方法。
- 時間が経っている場合の消滅時効。
消滅時効は、不当利得返還請求権であれば権利を行使できることを知った時から5年(民法166条1項)、不法行為であれば損害と加害者を知った時から3年(民法724条)が基本です。いつ気づいたかを記録しておくことが大切です。
また、保険会社が本人確認をしたうえで支払った場合には、正当な受領者らしい外観のある者への弁済として有効と扱われることがあります(民法478条)。保険会社に支払いのやり直しを求められるかどうかは、手続の経緯や保険会社側の確認の内容によるため、一般的な見通しを示すことは難しい部分です。
親自身が解約の手続をしていても、子から事実と異なる説明を受けたり、強く迫られたりして応じたのであれば、子との間の合意について詐欺や強迫を理由に取り消すことを検討できる場合があります(民法96条)。脅して金銭を出させた場合には恐喝も問題になりますが、恐喝も親族相盗例の準用対象であり(刑法251条)、刑事より民事の手続で解決を図ることが中心になりやすい点は、横領の場合と同様です。
親の判断能力が低下している場合には、成年後見人などが選任されて親に代わって請求を行うこともあります。
気づいた日にしておきたいこと
- 保険証券、保険会社からの通知、契約内容のお知らせなど、手元にある書類を保管する。
- 保険会社に連絡し、解約の日付、手続の方法、返戻金の振込先を確認する。
- 親の口座の入出金記録を確認し、返戻金の入金と引き出しの有無を整理する。
- いつ、何をきっかけに気づいたかをメモに残す。
- 子との会話でのやり取りは、日時と内容を記録しておく。
保険会社が解約請求書の写しをどこまで開示するかは会社ごとの判断になりますが、契約者本人からの問い合わせであれば、手続の経緯について説明を受けられることがあります。
これ以上の解約や手続を防ぐ
1件の解約に気づいたときは、ほかの保険や口座でも同じことが起きていないかを確かめ、手続の入口を閉じておくことが重要です。
- 保険証券、通帳、届出印、キャッシュカードの保管場所を見直す。
- 保険会社に、ほかの契約の有無と契約者貸付の利用状況を確認する。
- 登録している住所・電話番号・振込先口座が変更されていないかを確認する。
- 家族による手続を認める登録や指定代理請求人の設定を見直す。
- 暗証番号やネットサービスのパスワードを変更する。
口座や印鑑の扱いについては、別の記事でも整理しています。
【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応
【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応
【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るか
子と直接話す前に考えておきたいこと
返戻金を返すよう親が直接求めると、「頼まれた」「もらったものだ」と言い争いになったり、新たな金銭の要求につながったりすることがあります。特に、これまでにも金銭の無心や暴言・暴力がある家庭では、親だけで話し合いの場を持つこと自体に負担が大きい場合もあります。
弁護士が親の代理人となれば、返還の求めや今後の取り決めの窓口を代えることができます。当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、お金の無心に悩む親御さんの代理人として子と向き合い、必要に応じて自立支援カウンセラーと連携しながら、親子それぞれの生活を立て直す取り組みをしています。返戻金の返還だけでなく、その後の金銭のやり取りを書面で取り決めておくことも選択肢になります。
関連する解説記事
- 【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道
- 同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲
- 【親子問題】子が親のカードで課金・通販をしている|成人した子の無断利用と、支払い・返還の整理
- 【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方
- 【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけ
- 【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界
- 【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
まとめ
子が親の保険を解約して返戻金を受け取っていた場合、まず確かめたいのは契約者が誰かという点と、子がどのような経路で手続をしたかという点です。親子の間では横領などについて刑が免除される特例がある一方、書類の偽造には特例が及ばず、民事上の返還請求は特例の有無にかかわらず検討できます。記録を整え、ほかの契約や口座の入口を閉じたうえで、子との話し合いをどう進めるかを考えることが、親御さんの生活を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


