【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
子の自立を願って民間の自立支援施設と契約したものの、「説明と内容が違う」「子が強く嫌がっている」「費用が続かない」といった理由から、途中でやめたいと考えるご家庭は少なくありません。そのとき気になるのが、契約を途中で終わらせることができるのか、すでに支払った費用はどこまで戻るのか、という点です。この記事では、民間の自立支援施設との契約を途中で解約するときの考え方と、返金を求める際の進め方を整理します。
この記事は、ひきこもりや家庭内暴力などに悩むご家庭が民間の事業者と結ぶ「自立支援」の契約を対象としています。児童福祉法に基づく公的な「児童自立支援施設」は、行政の措置によって入所する仕組みで、親と施設が契約を結ぶものではないため、この記事の対象外です。法令の内容は2026年10月時点のものです。
自立支援施設との契約はどのような性質のものか
契約を結ぶのは親、支援を受けるのは子
民間の自立支援施設の契約では、多くの場合、費用を払って契約を結ぶのは親で、実際に寮に入ったり指導を受けたりするのは成人した子です。契約の当事者と支援を受ける人が分かれているため、子本人の意思が契約の内容に反映されにくいという構造上の問題があります。
解約や返金の場面でも、この構造が影響します。契約を終わらせる手続をとるのは原則として契約者である親ですが、子本人が施設を出たいと望んでいる場合に、親が解約しないことを理由に子を施設にとどめておくことはできません。成人した子の居住や移動の自由は、親の契約によって制限できるものではないからです。
多くは「準委任」に近い契約と考えられる
自立支援施設の契約は、生活指導、カウンセリング、就労支援といった「事務の処理」を施設に任せる内容が中心です。そのため、法律上は民法の「準委任」に近い契約と考えられることが多く、寮での生活がともなう場合には、住まいの提供の要素もあわせ持つ契約と整理されます。
契約書の名称がさまざまでも、実際に何を約束していたのかという中身から性質が判断されます。
途中でやめることはできるのか
準委任の契約は、民法651条1項により、各当事者がいつでも解除できるとされています。契約書に「途中解約はできない」と書かれていても、その条項によって解除そのものが封じられるとは限りません。
ただし、相手方にとって不利な時期に解除した場合などには、やむを得ない事由がない限り、相手方に生じた損害を賠償しなければならないことがあります(民法651条2項)。もっとも、ここでいう損害は実際に生じた範囲に限られ、契約期間の残りの費用がそのまま損害になるわけではありません。
まずは契約書や利用規約の「解約」「中途解約」「返金」といった条項を確認し、解約の申出の方法(書面か口頭か、何日前までか)が定められているかを把握しておくことが出発点になります。
支払った費用はどこまで戻るのか
基本の考え方|実施済みの分と、まだ受けていない分を分ける
委任や準委任が途中で終わった場合、事業者はすでに行った事務の割合に応じて報酬を請求できるとされています(民法648条3項)。言い換えると、まだ提供されていない期間やサービスに対応する部分は、原則として清算の対象になります。
返金の交渉では、支払った総額から「実際に提供されたサービスの対価」と「必要な実費」を差し引き、残りを返してもらうという枠組みで考えるのが基本です。費目ごとの見方の目安は次のとおりです。
| 費目 | 返金の考え方の目安 |
|---|---|
| 入会金・初期費用 | 名目にかかわらず、実際に何に使われた費用なのかが問われる。対応する実体が乏しい場合は返金を求める余地がある |
| 月額・期間分の指導料 | 退寮・解約後の期間に対応する部分は、清算の対象になるのが原則 |
| 寮費・食費 | 実際に寮で生活した期間を超える部分は、清算を求めることが考えられる |
| 解約手数料・違約金 | 定めがあっても、事業者に生じる平均的な損害を超える部分は無効になりうる |
「返金しない」という条項がそのまま有効とは限らない
個人である親と事業者との契約には、消費者契約法が適用されます。同法9条1号は、解除に伴う損害賠償の予定や違約金のうち、同種の契約の解除によって事業者に通常生じる「平均的な損害」を超える部分を無効としています。また、同法10条は、消費者の利益を一方的に害する条項を無効としています。
そのため、「いかなる理由があっても一切返金しない」「途中で退寮しても残りの期間の費用を全額いただく」といった条項は、内容によっては効力が否定される可能性があります。実際に国会でも、施設から入所者が逃げ出した場合に契約金が返金されない問題が取り上げられた際、消費者担当大臣が同法10条に触れて答弁したことがあります。
契約そのものを取り消せる場合
勧誘の過程に問題があった場合は、解約(将来に向けて契約を終わらせること)ではなく、契約自体を取り消して、支払った費用の返還を求めることが考えられます。消費者契約法4条では、次のような場合に取消しを認めています。
- 支援の内容や実績、スタッフの資格などについて事実と異なる説明を受けた場合。
- 「必ず自立できる」などと、不確実なことを確実であるかのように告げられた場合。
- 利益になる点だけを強調され、不利益になる事実を、事業者が故意または重大な過失によって告げなかった場合。
- 帰ってほしいと伝えたのに自宅に居座られ、断り切れずに契約した場合。
取消しには期限があり、原則として、追認をすることができる時(誤認に気づいた時や困惑から脱した時)から1年、契約の時から5年を過ぎると行使できなくなります。説明と実態の違いに気づいた段階で、早めに検討しておく必要があります。
自宅で勧誘を受けて契約した場合
事業者の担当者が自宅を訪問して勧誘し、その場で契約した場合などは、特定商取引法の「訪問販売」にあたることがあります。訪問販売であれば、法定の書面を受け取った日から8日以内であれば、理由を問わず契約を解除できるクーリング・オフの対象になり得ます。書面が交付されていない場合や記載に不備がある場合には、8日を過ぎていても行使できることがあります。
一方で、親の側から自宅での契約を求めた場合など、適用が除外される場面もあります。また、同法の「特定継続的役務提供」はエステや学習塾など7つの類型に限られており、自立支援施設の契約は通常これにあたらないため、同法による中途解約のルールは使えないと考えられます。どの規定が使えるかは、勧誘の経緯によって変わります。
本人の意思に反する連れ出しや拘束を前提とする契約
子本人の同意がないまま自宅から連れ出したり、施設で外出や連絡を制限したりすることを前提とした契約は、公序良俗に反して無効とされる可能性があります。国会でも、居住や移転の自由を不当に侵害する内容の契約は公序良俗に反し無効となる、との政府答弁がなされています。
この種の施設をめぐっては、裁判所が業者に支払いを命じた例も報じられています。たとえば、子の入所に際して母親が契約金570万円を支払った事案で、業者に約505万円の支払いを命じた東京地裁の判決(2019年12月)があります。契約が無効と判断されれば、支払った費用の返還に加え、子本人が受けた被害について損害賠償を求めることも検討対象になります。
途中でやめると決めたときの進め方
- 子の安全と本人の意向を確かめる。
- 契約書、利用規約、パンフレット、見積書など、契約時に受け取った書面をそろえる。
- 振込記録や領収書など、支払った金額と時期が分かる資料をそろえる。
- 施設から受けた報告や連絡の内容、子本人から聞いた生活状況を記録しておく。
- 解約の意思を、日付が残る書面(内容証明郵便など)で施設に伝える。
- 返金額とその内訳を、書面で示すよう求める。
子の引き取りと荷物の受け取り
解約を伝えると同時に、子が施設を出る日と方法を決めておく必要があります。施設側との関係がこじれている場合は、引き取りの場に第三者が同席する、荷物は後日配送してもらうなど、子と施設の担当者が直接やり取りしないで済む方法を検討するとよいでしょう。施設に預けた現金、通帳、携帯電話、身分証などがある場合は、返還を受ける物の一覧を作って確認します。
施設が返金に応じないとき
施設が返金を拒む場合や、内訳を示さない場合には、消費者ホットライン(188)から最寄りの消費生活センターに相談することができます。厚生労働省も、ひきこもり支援をうたう民間事業者について、説明と対応が違う、途中で解約できないといった困りごとがあれば、消費生活センターへ相談するよう呼びかけています。
それでも解決しない場合は、弁護士が代理人として返金を求める交渉を行い、必要に応じて訴訟を検討します。請求額が60万円以下であれば、原則1回の審理で判断が示される少額訴訟という手続もあります。
ローンやクレジットで支払った場合
費用を個別のローンやクレジットで支払っている場合、施設に対して主張できる事情(契約の取消しや、サービスが提供されていないことなど)を、割賦販売法に基づいてクレジット会社にも主張し、支払いを拒めることがあります。分割払いを続けている場合は、引き落としが進む前に、契約の形態を確認しておくことが大切です。
早めに動くことが大切な理由
民間の自立支援施設については、設立にあたって許可や届出が必要とされておらず、運営を監督する行政機関もないのが現状です。過去には、多額の契約金を受け取っていた業者が訴訟の途中で破産し、利用者側への支払いがなされない見込みとなった例も報じられています。返金を求める可能性があるなら、資料をそろえて早い段階で請求を始めておくことが、回収の見通しを保つうえで意味を持ちます。
やめた後の子の支援をどうつなぐか
施設をやめること自体はゴールではなく、子がその後どのように生活を立て直していくかという課題は残ります。施設での経験から子が支援そのものに不信感を持っていることもあり、次の支援を急ぐと、かえって関係がこじれることがあります。
公的な窓口としては、各都道府県・指定都市のひきこもり地域支援センターや、市区町村の自立相談支援機関があります。地域若者サポートステーションや就労準備支援事業など、就労に向けた支援の選択肢もあります。ご家庭の状況によっては、親の側の安全や金銭の問題を整理する役割と、子の日常生活を支える役割を分けて考えることが、次の一歩につながる場合もあります。
よくあるご質問
子本人が「やめたい」と言っています。親が解約しないと、子は施設を出られませんか
成人した子が施設を出ることは、親の契約によって妨げられるものではありません。ただし、費用の清算や返金を求める手続は契約者である親が行う必要があるため、子が施設を出る段階にあわせて、親から解約の意思を伝えておくのが望ましいでしょう。
支払った費用は全額戻りますか
解約の場合は、実際に提供されたサービスの対価や実費を差し引いた残りが清算の対象になるのが基本で、全額が戻るとは限りません。一方、勧誘に問題があって契約を取り消せる場合や、契約が無効とされる場合には、より広い範囲で返還を求められる可能性があります。
契約書に「理由を問わず返金しない」と書かれています
その条項があるだけで、返金を求められなくなるわけではありません。消費者契約法により、事業者に生じる平均的な損害を超える違約金の定めや、消費者の利益を一方的に害する条項は、効力が否定されることがあります。
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自立支援施設を途中でやめるときは、子の安全を確保することと、支払った費用を清算することを分けて考えると、手順を整理しやすくなります。契約書の条項だけで判断せず、勧誘の経緯や実際に受けたサービスの内容まで含めて見直すことで、返金を求められる範囲が見えてくることがあります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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