【親子問題】ひきこもりの子にアルバイトを勧めたら暴れた、どうすればいい?
親が子の借金を代わりに返したあとで、「あのお金は返してもらえるのだろうか」と考えるご相談は少なくありません。督促に追われる子を見かねて一括で払った、保証人になっていたため請求が来て払った、少しずつ肩代わりしているうちに総額が大きくなっていた、など経緯はさまざまです。
本記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の債権法改正、2023年4月施行の相続関係の改正を含む)を前提に、成人した子の借金を親が返済した場面を想定して解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
結論からお伝えすると、代わりに返したお金を後から子に請求できる場合はあります。ただし、そのお金が「子のために立て替えたもの(貸したもの)」なのか「子にあげたもの」なのかによって、請求できるかどうかが大きく分かれます。本記事では、請求の根拠、争いになりやすい点、残しておきたい記録、時効や子の自己破産との関係、税金や相続への影響までを順に整理します。
そもそも親には子の借金を返す義務はない
成人した子が自分の名前で借りたお金は、子自身の債務です。親子であっても、親が保証人になっていない限り、親に返済の義務は生じません。貸金業者が、支払義務のない家族に対して子に代わって返済するよう求めることは、貸金業法の取立て規制でも禁じられています(貸金業法21条1項7号)。
つまり、親が子の借金を返したのは、多くの場合「義務があったから」ではなく「親の判断で払った」ということになります。この点が、後で子に請求できるかどうかを考えるときの出発点になります。親の返済義務の有無については、【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかでも解説しています。
代わりに返したお金を子に請求できる根拠
親が子の借金を返した場合、どのような経緯で払ったかによって、子に請求するときの法的な根拠が変わります。主な場面は次の3つです。
| 払った経緯 | 請求の主な根拠 | 請求できる範囲の目安 |
|---|---|---|
| 子に頼まれて返した | 委任の費用償還(民法650条)や金銭の貸し借り | 払った金額と、払った日以後の利息 |
| 子に頼まれずに自分の判断で返した | 事務管理(民法702条) | 払った金額(子の意思に反していた場合は、子が現に利益を受けている限度) |
| 保証人として請求を受けて払った | 保証人の求償権(民法459条ほか) | 払った金額と、払った日以後の法定利息など |
子に頼まれて返した場合
子から「代わりに払っておいてほしい」と頼まれて返済したのであれば、親は子のために支出した費用として、返したお金の償還を求めることができます。いったん子にお金を渡し、子がそれで返済した場合は、親子間でお金を貸した(金銭消費貸借)と整理されることが多いでしょう。いずれの場合も、親が「あげる」つもりで払ったのではないことが前提になります。
子に頼まれずに返した場合
子から頼まれていないのに、督促の状況を見かねて親が自分の判断で返済した場合でも、子のために事務を処理した(事務管理)として、払ったお金を請求できる余地があります。ただし、子が「親に払ってほしくない」とはっきり反対していた場合には、請求できる範囲が、子が実際に利益を受けている限度に限られます。
また、保証人ではない親のように、返済について正当な利益を持たない第三者は、子の意思に反して返済することが原則としてできません(民法474条2項)。もっとも、子の意思に反することを債権者が知らなかった場合には、その返済は有効とされます。
保証人として返した場合
親が子の借金の保証人(連帯保証人を含む)になっていて、債権者から請求を受けて払った場合は、親は子に対して「求償権」を持ちます。保証人として払ったお金は、本来は子が負担すべきものを親が代わりに払ったものですので、子に請求できることが法律上はっきりしています。保証人になった後の対応は、【親子問題】保証人になってしまった後にできることもご覧ください。
争いになりやすいのは「もらったお金かどうか」
実際に請求しようとすると、子から「あれは親が自分から払ってくれたもので、もらったものだ」と言われることがあります。親が返済したお金が子への贈与だったと判断されれば、原則として返還を求めることはできません。書面によらない贈与でも、すでに渡し終えた部分は後から撤回できないとされています(民法550条)。
贈与だったのか、立て替えだったのかは、当時のやり取りや前後の事情から判断されます。判断の目安としては、次のような事情が挙げられます。
| 立て替え・貸付と見られやすい事情 | 贈与と見られやすい事情 |
|---|---|
| 「あとで返す」「立て替えておく」というやり取りが残っている | 「もう返さなくていい」と親が伝えていた |
| 借用書や確認書がある | 書面がなく、返済の話も一度も出ていない |
| 子が少額でも返済したことがある | 長年、何度も肩代わりを繰り返している |
| 子に収入があり、返せる見込みがあった | 子に収入がなく、返せる見込みがもともとなかった |
親子の間では口約束のまま払ってしまうことが多く、後になって当事者の記憶が食い違うことも珍しくありません。「もらった」と言われたときの整理の仕方は、【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方でも解説しています。
後から請求するために残しておきたい記録
子に請求するかどうかをまだ決めていない段階でも、次のような記録は手元に残しておくことをおすすめします。
- 債権者への振込記録や、親の口座から引き出した記録。
- 債権者が発行した完済証明書や領収書。
- 子とのメッセージやメールで、立て替えや返済に触れたやり取り。
- 借用書、確認書、合意書など、返済の約束を書いた書面。
- 子が一部でも返済したことが分かる入金の記録。
すでに口約束で払ってしまった場合でも、後から親子で「いつ、いくらを親が立て替えたか」「子が毎月いくらずつ返すか」を書いた確認書を作ることは可能です。子が支払義務を認める書面に署名すれば、請求の根拠を補強するだけでなく、後で述べる時効の期間を新たに数え直す効果(時効の更新、民法152条)を持つこともあります。親子間で書面を作るときの注意点は、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界もご覧ください。
これまで繰り返しお金を渡してきた記録がどのような意味を持つかについては、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかでも触れています。
請求できる権利にも期限がある
子に対する請求権も、一定の期間が過ぎると時効によって消滅することがあります。現在の民法では、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年のいずれか早い方で時効が完成するのが原則です(民法166条1項)。なお、2020年3月31日以前に生じた請求権には、改正前の民法の時効の規定が適用されます。
返済の期限を決めていなかった場合、いつから時効を数えるかは、払った経緯によって変わることがあります。何年も前に肩代わりしたお金を請求したいときは、払った日付と経緯を整理し、時効にかかっていないかを先に確認しておくことが大切です。
子の側の事情で回収が難しくなる場面
子が自己破産した場合
子が自己破産をした場合、親が持っている立て替え金や求償の請求権も、ほかの債権者の請求権と同じく破産手続の対象になります。免責が認められると、原則として親も子に請求できなくなります。
また、子が破産を申し立てる前に、ほかの債権者には払わず親にだけ返済すると、特定の債権者だけを優遇した返済(偏頗弁済)として問題になるおそれがあります。破産手続の中で親が返還を求められたり、子の免責の判断に影響したりすることもあります。子に債務整理の話が出ているときは、親への返済を受ける前に、子の手続を担当する弁護士に確認しておくことが大切です。
子に収入や財産がない場合
請求する権利があっても、子に収入や財産がなければ、実際に回収することは困難です。裁判で支払いを命じる判決を得ても、差し押さえる財産がなければ回収にはつながりません。子の状況によっては、一括での返済を求めるより、無理のない金額での分割払いを書面で取り決めておく方が現実的な場合もあります。
税金の面で気をつけたいこと
親が子の借金を代わりに返し、その分を子に請求しない場合、税務上は親から子への贈与があったものとみなされ、贈与税の対象になることがあります(相続税法8条)。
ただし、子が資力を失って返済が困難な状態にあり、扶養義務者である親がその返済にあてるために負担した場合には、返済が困難な部分について課税しない扱いが定められています(同条ただし書)。反対に「貸したもの」として扱うのであれば、書面や実際の返済の記録が求められることになります。税金の扱いは個別の事情によって変わりますので、金額が大きい場合は税理士にもご確認ください。
相続のときに考慮される可能性もある
親が子の借金を返したお金が贈与と扱われる場合、将来の相続のときに、ほかのきょうだいから「生前に多く受け取っていた」として考慮を求められることがあります(特別受益、民法903条)。反対に、立て替え金として請求権が残っていれば、その請求権は親の遺産の一部として扱われることになります。
なお、特別受益の主張は、原則として相続開始から10年を経過した後の遺産分割ではできなくなります(民法904条の3)。きょうだいがいるご家庭では、肩代わりの経緯を記録しておくことが、将来の話し合いの材料にもなります。
請求する前に考えておきたいこと
法律上請求できるとしても、請求の仕方によっては親子関係がさらにこじれることがあります。特に、子からの暴力やお金の無心が続いているご家庭では、親が直接返済を求めることで子が感情的になり、かえって危険が高まるおそれもあります。
このような場合は、弁護士が親の代理人として子とのやり取りの窓口となり、過去に立て替えたお金の扱いと、これからの金銭の要求への対応を一緒に整理する方法もあります。当事務所では、自立支援カウンセラーと連携し、親と子それぞれの生活を立て直すための支援にも取り組んでいます。ご相談から支援までの流れは、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問をご覧ください。
過去の分をどうするかとあわせて、今後も肩代わりを続けるかどうかを決めておくことも大切です。借金の原因によっては、【親子問題】子がホストクラブの売掛で多額の債務を負った|親が関わるときの順序と改正風営法で触れているように、返す前に債務の中身を確かめるべき場面もあります。
よくあるご質問
口約束だけでも請求できますか
口約束であっても、立て替えや貸し付けの約束は法律上有効です。ただし、子が約束を否定した場合には、親の側で約束があったことを示す必要があります。メッセージのやり取りや振込の記録など、約束をうかがわせる資料を集めておくことが大切です。
子の配偶者に請求することはできますか
子の借金は子個人の債務ですので、原則として子の配偶者に請求することはできません。ただし、配偶者が保証人になっていた場合や、借金が夫婦の日常の生活のために生じたものだった場合など、事情によって考え方が変わることもあるため、個別に確認が必要です。
まとめ
子の借金を代わりに返したお金を後から請求できるかどうかは、払ったときの経緯と、残っている記録によって大きく左右されます。請求するかどうかを決める前に、まずは払った日付・金額・やり取りを整理しておくことが、次の手立てを考える土台になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


