【刑事事件・被害者側】美人局の相手に払ったお金を、刑事手続とは別に取り戻せる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

美人局(つつもたせ)で脅されてお金を払ってしまった後、「警察に届けても、お金を取り戻してくれるわけではない」と聞いて戸惑う方は少なくありません。警察の捜査は加害者の処罰を目的とする手続であり、払ったお金の返還は、示談などで戻る場合を除けば、民事の問題として別に求めていくことになります。この記事では、美人局で払ったお金を刑事手続とは別に取り戻すための法的な根拠と進め方、刑事手続との関係について解説します。

本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。個別の事案での見通しは、相手方の状況や残っている記録によって変わります。


刑事手続と、お金を取り戻す手続は別のもの

 美人局の被害について被害届を出すと、警察は恐喝や詐欺の事件として捜査を進めます。ただし、刑事手続は国が加害者の刑事責任を問うための手続です。警察が被害者に代わって加害者からお金を回収したり、返金を命じたりする仕組みにはなっていません。
 一方、払ったお金を返してもらうことは、被害者と加害者との間の民事上の請求です。刑事手続とは目的も進め方も異なるため、それぞれを分けて考えておくと整理しやすくなります。

項目刑事手続民事上の請求
目的加害者の処罰払ったお金の返還・損害の賠償
進める主体警察・検察被害者本人または代理人の弁護士
被害届との関係被害届や告訴をきっかけに進むことが多い被害届を出していなくても請求できる
不起訴になった場合刑事手続はそこで終わる請求できるかどうかは別に判断される


 このように、民事上の請求は刑事手続の結果に縛られるものではありません。被害届を出すかどうか迷っている段階でも、返還を求める準備を始めることはできます。被害届そのものについては、【刑事事件・被害者側】美人局で脅されて払ったお金は、恐喝として被害届を出せる?で解説しています。

払ったお金の返還を求める法的な根拠


不法行為による損害賠償

 脅されたりだまされたりしてお金を払わされたことは、民法上の不法行為にあたり、払った金額を損害として賠償を求めることができます(民法709条)。美人局は、誘い出す役と脅す役など複数人が関わることが多く、関わった人たちには共同不法行為として連帯して賠償する責任が生じることがあります(民法719条)。この場合、関わった人の一人ひとりに対して、損害の全額を請求できる余地があります。

強迫による取消しと不当利得の返還

 脅されてした支払いの約束や、その場で書かされた念書・示談書は、強迫を理由に取り消すことができるとされています(民法96条1項)。取り消された約束にもとづいて払ったお金は、相手が法律上の理由なく受け取ったものとして、不当利得の返還を求める根拠にもなります(民法703条・704条)。
 実際の請求では、不法行為と不当利得のどちらか一方、あるいは両方を根拠として組み立てます。念書や示談書の効力については、脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いもあわせてご覧ください。

返還を求めにくいお金もある

 注意したいのは、脅される前に、性的な行為などの対価として女性本人に渡したお金です。公序良俗に反する目的で渡したお金は「不法原因給付」として、返還を求められないことがあります(民法708条)。これに対し、脅されて払わされたお金は、不法の原因が主に受け取った側にあると考えられるため、返還を求める余地が残ります。どの支払いがどちらにあたるかを、日付や金額ごとに分けて整理しておくことが大切です。詳しくは払ってしまった後に取り戻せるか|恐喝・強迫を理由とする返還で解説しています。

刑事手続とは別に進める民事の流れ

 民事上の請求は、おおむね次の順序で進みます。

  1. やり取りの記録、振込明細、念書の写しなどを確保します。
  2. 相手の氏名・住所を特定します。
  3. 弁護士名の通知書などで返還を求め、交渉します。
  4. 交渉で解決しない場合は、訴訟を起こします。
  5. 判決などが出ても支払われない場合は、強制執行を申し立てます。


相手が誰か分からないとき

 美人局では、相手のアカウント名や電話番号しか分からないことがよくあります。そのような場合でも、電話番号や振込先の口座が分かっていれば、弁護士会照会を通じて契約者や名義人の情報を確かめられることがあります(弁護士法23条の2)。訴訟を起こした後であれば、裁判所を通じた調査嘱託という方法もあります。照会先が回答に応じるかどうかは事案によるため、手がかりはできるだけ多く残しておくことが望まれます。仕組みについては弁護士会照会とは|風俗トラブルで相手方を特定する仕組みをご参照ください。

交渉で返還を求める

 相手が特定できたら、まずは弁護士名の通知書などで返還を求めるのが一般的です。弁護士が窓口になることで、相手と直接会ったり連絡を取り合ったりせずに話を進められます。合意に至る場合は、返還額や支払方法に加えて、今後の接触の禁止や、撮影された写真・動画の削除などを書面に盛り込むことも検討します。

訴訟と強制執行

 交渉で解決しない場合は、訴訟を起こすことになります。請求額が60万円以下であれば、原則として1回の審理で判決が出る少額訴訟という手続を使うこともできます(民事訴訟法368条)。
 判決が出ても相手が支払わない場合は、預金や給与の差押えなどの強制執行を申し立てます。相手の財産が分からないときは、財産開示手続や、金融機関などから情報を得る手続を使える場合があります。もっとも、相手に資力がなければ全額の回収が難しいこともあり、費用とのバランスも含めて見通しを立てることが大切です。

自分の住所や氏名を相手に知られたくないとき

 訴訟では、訴状に原告の氏名や住所を書くのが原則です。ただし、相手に知られることで社会生活に著しい支障が生じるおそれがある場合には、住所や氏名を相手に秘匿するよう申し立てる制度があります(民事訴訟法133条)。認められるかどうかは事情によりますが、報復や追加の要求をおそれている方は、訴訟を選ぶ前に相談しておくとよいでしょう。

刑事手続の中でお金が戻る場面と、民事との関係


加害者側からの示談・被害弁償

 加害者が逮捕・起訴された場合、加害者側の弁護人から示談や被害弁償の申し出が来ることがあります。加害者にとって示談は処分や量刑に影響しうる事情であるため、民事の訴訟よりも早く返金を受けられることも少なくありません。
 ただし、示談書に「本件に関し、ほかに債権債務がないことを確認する」といった清算条項が入っていると、その後に残りの金額を民事で請求することは難しくなります。受け取る金額が払った額に見合っているか、条項の範囲がどこまでかを確認したうえで応じることが大切です。

刑事和解という仕組み

 刑事裁判の途中で被告人と被害者が金銭の支払いについて合意した場合、共同で申し立てることで、その合意を公判調書に記載してもらえる制度があります(犯罪被害者保護法19条)。記載された合意は裁判上の和解と同じ効力を持つため、約束どおりに支払われなければ、改めて訴訟を起こさずに強制執行を申し立てることができます。分割払いで合意する場合などには、検討する価値があります。

損害賠償命令は恐喝・詐欺では使えない

 刑事裁判を担当した裁判所が、そのまま賠償についても判断する損害賠償命令という制度があります。ただし、対象は故意に人を死傷させた罪や性犯罪などに限られており、恐喝罪や詐欺罪は含まれていません。美人局の被害では、この制度ではなく通常の民事上の請求によることになります。制度の概要は損害賠償命令制度|刑事裁判の中で賠償を求める方法で解説しています。

振込で払った場合の口座凍結と分配金

 お金を振込で払った場合は、振込先の金融機関や警察に早めに連絡することで、口座の取引が停止されることがあります。凍結された口座に残高が残っていれば、いわゆる振り込め詐欺救済法の手続により、被害回復分配金として支払いを受けられる場合があります。この法律は詐欺だけでなく、恐喝などで振込が使われた場合も対象になりうるとされています。ただし、口座の残高がすでに引き出されていると、分配を受けられる額は限られます。振込直後の対応については【風俗トラブル】振り込んでしまった直後|振込を止められるか・取り戻せるかも参考になります。

刑事裁判の記録を民事に生かす

 加害者が起訴された場合、被害者は一定の条件のもとで刑事裁判の記録を閲覧・謄写できることがあります。記録には加害者の氏名や犯行の経緯が含まれるため、民事上の請求で相手を特定したり、被害を裏付けたりする資料として役立つことがあります。

民事で動く前に整理しておきたいこと

 返還を求める前に、次の点を確認しておくと、取れる手段と見通しを立てやすくなります。

  • 時効の期間(損害と加害者を知った時から3年、被害に遭った時から20年)との関係。
  • 脅される前に渡したお金と、脅されて払ったお金の区別。
  • 「未成年だった」「同意がなかった」と言われているなど、自分の側にも説明が必要な事情の有無。
  • 回収できそうな金額と、手続にかかる費用や時間とのバランス。
  • 相手からの報復や追加の要求に備え、直接の連絡を避ける手立て。


 不法行為による損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかるとされています(民法724条)。相手が分からないうちは進行しないと考えられていますが、特定できた後は期間が意外に早く過ぎることもあります。
 また、「この子は未成年だ」などと告げられて払った場合は、返還の請求に動くことで自分の行為についても問われる可能性がないかを、先に確かめておく必要があります。「未成年だった」と脅された|事実確認と恐喝への対応もあわせてご覧ください。

よくあるご質問


被害届を出さずに、返金だけを求めることはできますか

 できます。民事上の請求は被害届を出すことを条件としていません。もっとも、被害届を出して加害者が起訴されれば、示談の申し出によって返金が早まることもあります。どちらを先に進めるか、あるいは並行させるかは、ご事情に応じて検討することになります。

何年も前の被害でも取り戻せますか

 時効の期間が過ぎていなければ、請求の余地はあります。ただし、時間が経つほど相手の特定や記録の確保は難しくなり、相手の資力が失われていることもあります。被害に気づいた段階で、手元に残っている記録を確かめておくことが望まれます。

関連する解説記事



弁護士法人若井綜合法律事務所へのご相談

 美人局で払ったお金を取り戻すには、刑事手続の動きを見ながら、民事上の請求をどの根拠で、どの順序で進めるかを組み立てる必要があります。当事務所では、相手方の特定から返還の交渉、訴訟や示談の条件の確認まで、ご事情に合わせた進め方をご提案します。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【刑事事件・被害者側】美人局の相手に払ったお金を、刑事手続とは別に取り戻せる?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼