【刑事事件・被害者側】美人局の相手に払ったお金を、刑事手続とは別に取り戻せる?
刑事事件の被害に遭い、治療費や慰謝料を請求したいと考えたとき、最初に壁になりやすいのが「相手の住所が分からない」という点です。警察や検察に尋ねても「個人情報なのでお伝えできません」と言われ、どう動けばよいか分からなくなる方は少なくありません。
この記事では、刑事事件の被害者が加害者の住所を知る手段があるのか、手続の段階ごとに整理します。あわせて、住所を知る目的によっては、住所そのものを知らなくても請求や身の安全の確保を進められる場面があることもご説明します。
この記事は2026年10月時点の法令と運用をもとに、一般的な考え方を整理したものです。個別の事件で何が開示されるかは、事件の内容や手続の段階、担当する機関の判断によって変わります。
警察や検察は、加害者の住所を教えてくれるのか
捜査を担当する警察や検察に加害者の住所を尋ねても、教えてもらえないのが一般的です。加害者の住所は個人情報であるうえ、捜査中の情報でもあるため、被害者であっても捜査機関から直接伝えられることは通常ありません。
背景には、住所を伝えることで当事者同士の接触が起き、新たなトラブルや証拠への影響が生じるおそれがあるという事情があります。被害者の立場からすると納得しにくいところですが、これは被害者を軽く扱っているという意味ではなく、捜査機関の側に住所を伝える仕組みがない、と理解しておくとよいでしょう。
そのため、加害者の住所に近づくには「警察に教えてもらう」のではなく、刑事手続や民事の手続のなかで用意されている制度を使う、という発想に切り替える必要があります。
段階によって変わる、加害者の住所に近づく方法
どの手段が使えるかは、事件がいまどの段階にあるかで大きく変わります。全体像は次のとおりです。
| 事件の段階 | 主な手段 | 住所との関係 |
|---|---|---|
| 捜査中(示談交渉を含む) | 加害者側の弁護人を窓口にした交渉 | 住所を知らないまま交渉・合意が進むことが多い |
| 起訴され公判が開かれた後 | 被害者等による公判記録の閲覧・謄写 | 起訴状などの記録から住所が分かる場合がある |
| 起訴され地方裁判所で審理中 | 損害賠償命令の申立て(対象犯罪のみ) | 刑事裁判の被告人を相手に請求できる |
| 不起訴になった後 | 弁護士会照会、民事訴訟の中での調査など | 弁護士を通じた調査が中心になる |
| 判決確定後・出所前後 | 確定記録の閲覧、被害者等通知制度など | 目的や事情に応じて情報が提供される場合がある |
捜査中|示談交渉は弁護人が窓口になる
加害者に弁護人がついている場合、示談の申入れは弁護人から入るのが通常です。この段階では、弁護人も加害者の住所を被害者に伝えないことが多く、示談書の加害者欄に住所が書かれず、代理人である弁護士事務所の所在地だけが記載されることもあります。
住所が書かれていなくても、加害者の氏名や事件の特定、代理人弁護士の記名押印などによって、誰との合意なのかは確認できます。示談金を一括で受け取る内容であれば、住所を知らないことが大きな支障にならない場合も少なくありません。分割払いの合意で不安が残るときは、支払いが止まった場合の連絡先や、代理人を通じた手続の取り決めを示談書に入れておく方法も考えられます。
起訴された後|公判記録の閲覧・謄写
加害者が起訴され、刑事裁判の第1回公判期日が開かれた後は、被害者や被害者から委託を受けた弁護士が、裁判所に訴訟記録の閲覧や謄写(コピー)を申し出ることができます(犯罪被害者保護法3条)。理由が正当でない場合や、事件の性質などから相当でない場合を除いて認められる仕組みです。
起訴状には被告人の住居を記載することとされているため(刑事訴訟規則164条)、記録の閲覧を通じて加害者の住所を知ることができる場合があります。ただし、謄写した記録には使用目的の制限などの条件が付けられることがあり、損害賠償の請求に使うといった正当な目的の範囲で用いることが前提になります。
なお、罰金で終わる略式手続の場合は公判が開かれないため、この閲覧の制度は使えません。この場合は、手続が終わった後の確定記録の閲覧(後述)を検討することになります。
損害賠償命令制度を使う場合
殺人や傷害、不同意わいせつ、不同意性交等、逮捕・監禁など一定の故意の犯罪が地方裁判所で審理されている場合、被害者はその刑事事件を担当する裁判所に、被告人に損害賠償を命じるよう申し立てることができます(損害賠償命令制度)。
この制度は、刑事裁判の被告人を相手方とし、刑事裁判の記録を引き継いで審理が行われます。そのため、加害者の住所を被害者が一から調べなくても、請求の手続に進みやすいという特徴があります。申立ての手数料は一律2,000円で、審理は原則として4回以内で終わるとされています。
一方で、窃盗や詐欺、名誉毀損などは対象外であり、申立ては刑事裁判の弁論が終わるまでにする必要があります。制度の詳しい仕組みは損害賠償命令制度|刑事裁判の中で賠償を求める方法で解説しています。
不起訴になった場合
不起訴になった事件の記録は、原則として公開されません(刑事訴訟法47条)。民事で損害賠償を請求する目的で、被害者が一部の客観的な証拠の閲覧を認められる運用はありますが、加害者の住所などの個人情報まで開示されるとは限りません。
この段階では、後で述べる弁護士会照会などの調査手段が中心になります。不起訴になっても民事上の請求ができなくなるわけではないため、不起訴になった後に民事で請求できるのかもあわせてご覧ください。
判決が確定した後・出所の前後
判決が確定した刑事事件の記録(確定記録)は、刑事確定訴訟記録法にもとづき、保管する検察官の許可を得て閲覧を請求できます。略式手続で罰金が確定した事件も対象になりますが、閲覧が認められる範囲は保管検察官が判断します。
また、被害者等通知制度を利用すると、処分の結果や裁判の結果、受刑中の処遇状況、釈放の予定などについて通知を受けられる場合があります。再び被害を受けるおそれがあると警察が判断した事案では、加害者の釈放予定の時期や帰住予定地に関する情報が、警察を通じて被害者に伝えられることもあります。これは賠償請求のためではなく、加害者との接触を避けるための仕組みとして運用されています。
弁護士に依頼すると使える調査の手段
加害者の住所が分からないまま民事上の請求を進めたい場合、弁護士に依頼することで使える調査の手段があります。
- 弁護士会照会:弁護士が所属する弁護士会を通じて、携帯電話会社などに契約者の氏名・住所の回答を求める制度です(弁護士法23条の2)。回答するかどうかは照会先の判断になります。
- 職務上請求:受任した事件の処理に必要な範囲で、弁護士が住民票や戸籍の附票などを取得する方法です。加害者の氏名や以前の住所が分かっている場合に、現住所までたどれることがあります。
- 民事訴訟の中での調査:訴訟を起こした後、裁判所を通じて関係機関に調査嘱託や記録の送付嘱託を行う方法です。
- 勾留中の相手への送達:加害者が勾留や服役で身柄を拘束されている場合、その刑事施設を送達先として訴訟を進めることも考えられます。
どの手段が有効かは、手がかりとして何が手元にあるか(氏名、電話番号、勤務先、車のナンバーなど)によって変わります。弁護士会照会は、照会の目的や必要性が審査されるため、依頼を受けた事件の処理と結びついていることが前提です。住所を調べることだけを切り離して依頼することは難しい場合が多いため、請求全体の方針とあわせて相談するのが現実的です。
自分で住所を調べたり訪ねたりする前に考えたいこと
被害者の側からすれば、加害者の住所を突き止めて直接話をしたいと考えるのは自然なことです。ただ、自分で調べたり訪ねたりすることには、次のような注意点があります。
- 加害者の自宅を訪ねて謝罪や支払いを求めると、言動によっては、逆に脅迫や強要だと主張されるおそれがあること。
- SNSや知人を通じて住所を探る過程で、接触を重ねたと受け取られ、トラブルが大きくなるおそれがあること。
- 探偵などの調査業者は、調査の結果が違法な目的に使われると知ったときは調査をしてはならないとされており、依頼の目的によっては引き受けてもらえないこと。
- 刑事手続の途中で当事者同士が接触すると、示談や処分の見通しに思わぬ影響が出るおそれがあること。
被害を受けた側が不利な立場に置かれることがないよう、住所の調査や連絡は、手続や代理人を通じて進めるほうが安全です。
住所を知る目的を先に整理する
加害者の住所を知りたい理由は、方によって異なります。目的によって、取るべき手段も変わります。
治療費や慰謝料を請求したい場合
まず検討したいのは、示談交渉や損害賠償命令制度など、住所を知らなくても請求を進められる手続です。それが使えない場合に、記録の閲覧や弁護士会照会などで住所の特定を図る、という順序で考えると無理がありません。
二度と接触されないようにしたい場合
身の安全が目的であれば、加害者の住所を知ることよりも、加害者の釈放時期や処分の結果を把握し、自分の住所を相手に知られないようにすることが中心になります。被害者等通知制度や警察の再被害防止の取組みを利用し、必要に応じて生活の動線を見直すことが考えられます。
謝罪を受けたい・事情を知りたい場合
謝罪の受け取りや事件の経緯の確認であれば、加害者側の弁護人を通じた書面のやり取りや、刑事裁判への被害者参加(対象事件に限られます)といった方法があります。直接会わなくても、気持ちや疑問を伝える道は残されています。
自分の住所を相手に知られないための仕組み
被害者の側では、加害者の住所を知りたい一方で、自分の住所は知られたくないという方も多いはずです。
刑事手続では、2023年の刑事訴訟法改正により、性犯罪などの事件で、起訴状などに記載される被害者の氏名や住所といった個人特定事項を、被告人に知らせない措置がとられる場合があります。民事訴訟でも、相手に住所などを知られることで社会生活に支障が生じるおそれがある場合に、住所等を秘匿する制度が設けられています。
示談書についても、被害者の住所を記載せず、代理人弁護士の事務所所在地を記載する形で作成することは珍しくありません。訴訟になった場合の扱いは、【不貞慰謝料】訴訟になると自分の名前や住所は相手に知られるのかでも触れています。
よくあるご質問
被害届を出せば、加害者の住所が分かりますか
被害届を出しただけで、加害者の住所が被害者に伝えられることはありません。住所に関する情報は、その後の刑事手続や民事の手続のなかで、制度にもとづいて得ていくことになります。
加害者の住所が分からないまま示談しても問題はありませんか
加害者の氏名と事件が特定され、代理人弁護士が記名押印していれば、合意の相手は確認できます。分割払いなど将来の支払いが残る場合は、支払いが滞ったときの手続を示談書に定めておくと安心です。
不起訴になったら、住所を知る方法はなくなりますか
不起訴記録は原則非公開ですが、民事上の請求を前提に、弁護士会照会や訴訟の中での調査などを通じて住所の特定を図る余地は残ります。手がかりとなる情報が何かによって、見通しは変わります。
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加害者の住所が分からずお困りの方へ
加害者の住所が分からないことは、請求をあきらめる理由にはなりません。事件の段階と手元にある手がかりを整理すれば、住所を知らないまま進められる手続や、住所に近づくための制度が見えてくることがあります。当事務所では、被害を受けた方の側に立ち、どの手続から進めるのがよいかを一緒に検討します。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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