支払うつもりはあった|詐欺罪の故意はいつの時点で判断されるか
情報商材や副業の案内を販売したところ、購入した方から「詐欺ではないか」と言われ、返金や慰謝料を求められている。あるいは、警察から連絡が来た。そうしたご相談が寄せられます。
販売する側からすると、伝えた手法そのものは自分が実際に取り組んできたものであり、商品も約束どおり渡している、という認識であることが少なくありません。他方で購入した方は、広告に書かれていた収入が得られなかったことを理由に、はじめからだますつもりだったのではないかと考えます。
この記事では、広告や勧誘での表現がどこから刑法上の「人を欺く行為」と評価されるのかを、裁判例に沿って整理します。あわせて、詐欺罪に至らない場合でも残る広告の規制と、民事での取消しについても触れます。
このような場面でご相談が寄せられます
次のような場面が典型です。
・広告で示した収入が得られなかったとして、購入者から返金を求められている。
・購入者が消費生活センターに相談し、事業者名を挙げた照会が届いた。
・複数の購入者がまとまり、代理人の弁護士から通知書が送られてきた。
・購入者が被害届を出したとして、警察から任意で話を聞きたいと連絡があった。
・自分は商材を紹介しただけだが、紹介料を受け取っていたことを問題にされている。
・販売用の動画に出演していた立場で、名前を挙げられている。
「詐欺だ」と言われることと詐欺罪の成立は別です
刑法246条1項は、人を欺いて財物を交付させた者を10年以下の拘禁刑に処すると定めています(2025年6月1日の改正で、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました)。罰金刑の定めはなく、未遂も処罰され(250条)、公訴時効は7年です。
成立するには、人を欺く行為、それによる相手方の錯誤、錯誤に基づく交付、財産の移転という流れがそろい、かつ交付を受ける時点で行為者にその認識があったことが必要とされます。広告どおりの結果が出なかったという事実だけでは、この流れのどこも埋まりません。問われているのは結果ではなく、広告や勧誘をした時点で何を伝えたのか、その中身が事実に反していたのかという点です。
問われ方は三つの入口に分かれます
| 入口 | 主に問題となる法令 | 判断の中心 |
|---|---|---|
| 刑事の詐欺罪 | 刑法246条1項 | 支払うかどうかの判断の基礎となる重要な事柄について、事実を偽ったといえるか |
| 行政の広告規制 | 特定商取引法、景品表示法 | 表示が著しく事実に相違し、または実際より著しく優良もしくは有利と誤認させるものか |
| 民事の取消しと返金 | 消費者契約法、民法 | 勧誘の内容が、取消しや損害賠償の原因になるか |
この三つは連動しません。行政の処分を受けたからといって詐欺罪が成立するわけではなく、逆に詐欺罪に問われないからといって返金の義務がないことにもなりません。それぞれ別に検討する必要があります。
誇張がそのまま欺く行為になるわけではありません
商売の場面で多少の誇張が使われることは、古くから前提とされてきました。大審院は昭和6年11月26日の判決で、商人などが誇大な形容を用いて自分の商品や事業を吹聴することは数え切れないほどあり、そうした行為がそれだけで人を欺く行為になるわけではない、と述べています。
そのうえで同じ判決は、適当な方法でその内容の真偽を確かめられるような具体的な事実を作り出し、それによって相手の価値判断を誤らせて購入を決意させた場合は、つかみどころのない誇大広告の類と同じに見ることはできず、欺く手段にあたるとしました。
ここで示されているのは、漠然とした形容と、後から真偽を確かめられる具体的な事実の虚構とを分ける見方です。「人生が変わる」「これまでにない手法」といった評価にとどまる言葉と、「受講者の九割が三か月で収入を得た」「この仕組みは特許を取得している」といった、真偽を検証できる事実の主張とでは、位置づけが違ってきます。
分かれ目は検証できる事実を作ったかどうかにあります
東京高等裁判所は昭和30年7月20日の判決でも、同じ枠組みを示しています。誇大な形容や表現で商品を吹聴することは日常見られるところであってそれだけで違法とはいえないが、商品や業務に関する具体的な事実を作り出し、人に価値判断を誤らせて購入を決意させることは違法な欺く手段であって、違法性のない商売上の言い回しと同じに見ることはできない、というものです。
福岡高等裁判所は昭和32年11月6日の判決で、骨とう品の出所を偽った事案について、商品取引一般に許容される多少の宣伝的行為を逸脱したものと評価しました。許される宣伝と、そこを越えた行為という二段の見方が、判断の枠組みとして使われています。
情報商材や副業の案内でいえば、教材の分量、提供期間、サポートの回数、運営者の経歴や資格、これまでの受講者数といった項目は、後から確かめられる事実です。ここに事実と異なる記載があると、単なる誇張であるという説明は通りにくくなります。
相応の中身を渡していても問われる場合があります
「商材は約束どおり渡している」「値段に見合う内容はある」という説明は、ご相談の場でよく聞かれます。ただし、最高裁判所は昭和34年9月28日の決定で、相当な価格の商品を提供したとしても、事実を告げれば相手が金銭を交付しなかったといえる場合において、商品の効能などについて事実に反する誇大な事実を告げて誤信させ、金銭の交付を受けたときは詐欺罪が成立すると述べています。
この事案は、一般に市販されているマッサージ器を、特定の病院でしか用いられておらず入手が難しい特殊な治療器であるかのように告げて販売したものでした。器具そのものは渡されており、それなりの価格の商品でもありましたが、告げた内容が事実に反していた点が決め手になっています。
最高裁判所は平成22年7月29日の決定でも、交付の判断の基礎となる重要な事項について事実を偽ったかどうかを問題とする考え方を示しています。渡した物の有無や価格の相当性だけではなく、相手が支払うかどうかを決めるにあたって重みを持った事柄が偽られたのかが見られる、ということです。
実績や体験談を作り出した場合
先ほど挙げた大審院の判決は、いわゆるサクラを使い、商品の効用が大きく、評判も売れ行きもよく各方面から注文があると告げた事案でした。福岡高等裁判所の昭和32年4月13日の判決も、サクラを使って一般の客に大幅な値引きがあると誤信させた事案について、詐欺罪の成立を認めています。
販売用の動画に役者を起用して購入者として語らせる、実際には存在しない入金の画面を示す、受け取っていない金額が記載された通帳を映すといった行為は、表現の誇張ではなく事実の作出にあたります。「言い過ぎた」という説明が届きにくい領域です。自分が用意した素材ではなく、共同で運営していた相手が作ったものであった場合は、どの範囲まで内容を知っていたのかが検討の対象になります。
「結果には個人差があります」という記載の位置づけ
販売ページの下部に、結果には個人差がある、成果を保証するものではない、といった記載を置いている例は多く見られます。この記載があることで広告全体の評価が決まる、と考えるのは早計です。
表示の評価は、打ち消しの記載だけを取り出して行われるのではなく、広告や動画の全体から購入者がどのような印象を受けるかによって判断されます。本文で収入額を繰り返し示し、動画で実績を語らせている一方、小さな文字で個人差の記載を置いているという構成であれば、その記載が果たす役割は限られます。もっとも、記載があること自体が無意味というわけでもなく、広告全体の作り方と併せて評価されることになります。
買った側の不注意は刑事の責任を左右しません
「読めば分かる書き方をしていた」「調べれば分かる話だった」という反論も見られます。先ほどの東京高等裁判所の昭和30年7月20日の判決は、この点について、民事でいう過失相殺の考え方は刑事上の責任には用いられないとし、仮に買主の側に価値判断を誤った落ち度があったとしても、その誤解が欺く行為によって生じたものである以上、責任に影響しないと述べています。
購入者の落ち度を強調する主張は、刑事の場面では働きにくいということです。争うのであれば、落ち度ではなく、伝えた内容が事実に反していたのかどうかに焦点を置くことになります。
詐欺罪に至らない場合でも広告の規制は残ります
通信販売の広告について、特定商取引法12条は、商品の性能や役務の内容、契約の解除に関する事項などについて、著しく事実に相違する表示や、実際のものより著しく優良もしくは有利であると誤認させる表示を禁じています。違反には指示や業務停止命令などの行政処分があるほか、罰則として100万円以下の罰金も定められています。
実務上、負担が重いのは同法12条の2です。主務大臣は表示の裏づけとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、期間内に提出がないときは、その表示は禁じられた誇大広告に当たるものとみなされます。資料の提出期間は原則として15日以内とされ、求められてから新たに調査を始めるといった事情は、通常は延長の理由になりません。広告に数字を載せるのであれば、その時点で裏づけを手元に持っておく必要がある、ということです。
仕事を紹介するので、そのために必要だとして教材や講座の代金を負担してもらう形をとっている場合は、業務提供誘引販売取引(同法51条)に当たることがあります。この類型では、広告の表示事項(53条)、誇大広告の禁止(54条)、契約の前後の書面交付(55条)が求められ、購入者には書面を受け取った日から起算して20日間のクーリング・オフが認められます(58条)。通信販売のつもりで運営していた取引がこの類型に整理されると、求められる手続が変わってきます。
景品表示法と、紹介する側の立場
景品表示法5条は、実際のものより著しく優良と示す表示(優良誤認表示)と、著しく有利と示す表示(有利誤認表示)を禁じています。7条2項では、表示の裏づけとなる合理的な根拠を示す資料の提出が求められ、提出がないときは不当表示とみなされる仕組みも置かれています。
2024年10月1日に施行された改正では、優良誤認表示と有利誤認表示について100万円以下の罰金という直罰の規定が設けられ(48条)、法人に対する両罰規定も新設されました(49条)。
自分は商品を売っていないから関係がない、という整理が成り立たない場合もあります。景品表示法の規制は自ら商品を供給する事業者を対象としていますが、供給していない紹介者であっても、身分のない者の共犯を定めた刑法65条により処罰されうるという解釈が示されています。紹介料を受け取って販売ページへ誘導していた立場や、動画で商品を勧めていた立場も、無関係とは言い切れないということです。
民事では取消しや返金が問題になります
消費者契約法4条1項2号は、将来の見通しが不確かな事柄について断定的な判断を示し、消費者がその内容を確かなものと誤認して契約した場合に、取消しを認めています。裁判例には、危険を負わず働かずに大きな資産を得られるという説明について、この規定による取消しを認めたものがあります(熱海簡易裁判所平成31年2月20日判決)。
東京地方裁判所は令和元年7月3日の判決で、短期間で多額の収入を得た人が続出しているといった文言を用いた広告と勧誘動画について、商品の性能について著しく事実に相違する表示であり、特定商取引法12条が禁じる誇大広告に当たるとしたうえで、その広告を用いた勧誘は不法行為として違法だと評価しました。刑事の立件に至らない場合でも、広告の作り方そのものが民事上の違法と判断されうるということです。
なお、有価証券や為替の売買の判断について助言する形になっていた場合は、金融商品取引法29条の登録が別に問題になります。無登録での営業には5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科が定められています(同法197条の2)。銘柄や売買の時期を有料で伝えていた場合は、広告の問題とは切り離して検討が必要です。
今のうちに整えておきたいもの
説明の裏づけになる資料は、時間が経つほど集めにくくなります。次のようなものを保存しておくことが考えられます。
・広告ページ、販売ページ、動画の内容が分かる記録(画面の保存や書き出し)。
・広告に載せた数字の根拠となる資料(集計表、取引の履歴、受講者からの報告)。
・購入者とのやり取りの履歴(メッセージ、メール、通話の記録)。
・提供した教材、動画、サポートの実績が分かる資料。
・返金や解約に応じた場合の記録。
・共同で運営していた相手との取り決めや、報酬の配分が分かる資料。
避けたい対応
初期の対応が、その後の見通しを狭めてしまうことがあります。
・広告ページや動画を削除したうえで、手元にも記録を残さないこと。
・購入者への返信を止め、連絡が取れない状態にすること。
・事実関係を確かめないまま、詐欺ではないと断じる文面を送ること。
・逆に、内容を確かめないまま全額を返し、謝罪文に署名すること。
・警察から連絡を受けた段階で、記憶があいまいなまま話を進めること。
まとめ
この記事の要点は次のとおりです。
・広告どおりの結果が出なかったという事実だけでは、詐欺罪の要件は埋まらない。
・誇大な形容それ自体は、欺く行為とはされてこなかった(大審院昭和6年11月26日)。
・分かれ目は、後から真偽を確かめられる具体的な事実を作り出したかどうかにある。
・相応の中身を渡していても、事実を告げれば支払わなかったといえる場合には問われうる(最高裁判所昭和34年9月28日)。
・買った側の落ち度は、刑事の責任を左右しない(東京高等裁判所昭和30年7月20日)。
・詐欺罪に至らない場合でも、特定商取引法や景品表示法の規制と、民事の取消しは別に残る。
広告表現の評価は、一つの文言だけを見て決まるものではなく、広告全体の構成と、裏づけの有無、実際に提供した内容との対応関係から判断されます。「詐欺だ」と言われている段階で、どの部分が争点になりうるのかを整理しておくことは、その後の対応の幅を広げます。ご不安がある場合は、資料が手元にあるうちにご相談ください。


