自分の物を実力で取り返した|自救行為はどこまで許されるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

盗まれた自転車を街で見かけた、貸したまま返してもらえない工具が相手の作業場に置かれていた、別れた相手の部屋に自分の家電が残ったままになっている。こうした場面で、目の前にある物を自分の手で取り戻したという方は少なくありません。

 ところが、その後になって相手から被害届を出されたり、警察から連絡が来たりして、「自分の物を取り返しただけなのに、なぜ」と戸惑うことになる場合があります。

 刑法は、その物が誰の物かということと、いま誰が手元に置いているかということを、分けて見ています。そのため、所有者が自分であることは、それだけでは刑事責任を否定する理由になりにくいのです。この記事では、いわゆる自救行為という考え方がどこまで及ぶのか、そして実際に問題になりやすいのはどの部分なのかを整理します。

この記事で想定している場面

 ここで扱うのは、次のような場面です。

・盗まれた自転車やバイクを後日見かけ、その場で乗って帰った
・貸したまま返してもらえない道具や機材を、相手の敷地から持ち出した
・交際していた相手の住居に残していた自分の荷物を、留守中に取りに入った
・代金の未払いを理由に相手が引き渡さない自分名義の車を、無断で運び出した
・売掛金の代わりに、相手方の事務所にあった品物を持ち帰った

 いずれも、取り戻した物の所有者は自分だと考えている点が共通しています。しかし、法律の見方は場面ごとに異なります。

「自分の物だから」は入口では通りにくい

 窃盗罪を定める刑法235条は、他人の財物を窃取した者を処罰すると定めています。ここだけを読めば、自分の所有物であれば当てはまらないように見えます。

 ところが刑法242条は、自己の財物であっても、他人が占有し、または公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については他人の財物とみなすと定めています。つまり、所有者が自分であっても、その物を現に他人が手元に置いているのであれば、窃盗などの罪との関係では他人の物として扱われる仕組みになっているのです。

所有と占有は別のものとして見られる

 ここでいう占有とは、その物を事実上支配している状態を指します。所有権があるかどうかとは別の話です。

 しかも判例は、この占有が法律上正当な権限に基づくものかどうかを問わないという立場をとっています。担保に供することが法令上禁止されて無効とされる証書について、事実上の所持そのものが保護されるべきだとして、刑法242条により他人の財物とみなされた自己の財物を騙し取った詐欺罪の成立を認めた判例があります(最高裁判所昭和34年8月28日判決)。この考え方の下では、相手の持ち方が正当かどうかを自分で判断して行動することは、危うさを伴います。

相手の手元にどう渡ったかで見え方が変わる

 同じ「取り返した」でも、その物が相手の手元に渡った経緯によって、民事で使える手段も、刑事での見え方も変わってきます。

経緯相手の占有の性質民事で想定される手段
盗まれた・持ち去られた意思に反して奪われた状態占有回収の訴え、所有権に基づく返還請求
貸した・預けた当初は同意に基づいて始まった所有権に基づく返還請求、契約に基づく返還請求
担保や立替えの代わりに押さえられた権利関係そのものに争いがある返還請求とあわせて権利関係の確定


 民法200条1項は、占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還および損害の賠償を請求できると定めています。ただしこの訴えは、占有を奪われた場合を前提としており、自分から任意に引き渡した物には使いにくいと解されています。貸した物や預けた物が返ってこないという場面は、多くの場合この類型に当たりません。

 また、占有回収の訴えは占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならないとされています(民法201条3項)。侵奪者から物を譲り受けた人に対しては、その人が侵奪の事実を知っていた場合を除き、この訴えを起こせません(民法200条2項)。

 三つ目の類型では、権利関係の争いが背景にあります。譲渡担保にとった貨物自動車について、所有権が債権者に帰属していたとしても、債務者側が引き続き占有保管している自動車を無断で運び去った行為に窃盗罪の成立を認めた判例があります(最高裁判所昭和35年4月26日判決)。自分に権利があるという理解が正しかったとしても、それだけで刑事責任が否定されるわけではないことを示す例です。

自救行為という考え方

 権利を侵害された人が、正式な手続による救済を待っていては回復が事実上難しくなるという場面で、自分の力で回復を図る行為を自救行為と呼びます。自力救済ということもあります。

 この考え方について、刑法に明文の規定はありません。かつて改正刑法仮案に条文化の動きがあったものの、現在の刑法には置かれていません。それでも、こうした場面まで一律に処罰するのは適切でないとして、一定の範囲で違法性が否定される余地があると解されています。

 最高裁は、傍論という形で自救行為に触れたことがあります。そこでは、一定の権利を有する者が、これを保全するため官憲の手を待つ余裕がなく、自ら直ちに必要な限度で適当な行為をすることをいうとされ、その例として、盗犯の現場において被害者が盗まれた物を取り返すような場合が挙げられました(最高裁判所昭和24年5月18日大法廷判決)。

 注目したいのは、この例示が「盗犯の現場において」という、きわめて限られた場面を指している点です。

どのような要素が見られるのか

 自救行為として違法性が否定されるかを検討する際には、次のような要素が挙げられます。

1 自分の権利に対する侵害があったこと
2 被害の回復に緊急性があり、正式な手続を待っていては回復が難しいこと
3 権利を回復するという目的で行われたこと
4 行われた行為が、目的との関係で相当な範囲にとどまっていること

 これらは、刑法36条1項の正当防衛に準じた緊急性と必要性を求める考え方に沿ったものです。逆にいえば、どれか一つでも欠けると、自救行為として扱うことは難しくなります。

最高裁が認めた例は見当たらない

 下級審には自救行為を認めた裁判例があるとされますが、最高裁が自救行為として違法性を否定した例は見当たりません。

 自己の借地内に突き出ていた他人の家屋の玄関の軒先を、承諾を得ずに切り取った事案では、その玄関が無許可で増築されたものであり、被告人の側の事情も切迫していたと認められる状況でしたが、建造物損壊行為が自救行為として違法性を阻却されるものではないと判断されました(最高裁判所昭和30年11月11日判決)。相手の側にも問題があり、こちらの不利益が大きいという事情があっても、それだけでは足りないということです。

「現場」と「後日」では見え方が大きく違う

 先ほどの例示に戻ると、盗まれた直後にその場で取り返す行為と、日が経ってから相手の手元にある物を取り戻す行為とでは、事情がかなり異なります。

 その場であれば、誰の物かがまだ明らかで、警察を呼ぶ余裕がないという状況も理解しやすく、取り返す行為が目的との関係で必要な範囲にとどまりやすい面があります。一方、日が経つほど、相手がその物を持つに至った経緯は複雑になり、緊急性の説明も難しくなります。「見かけたのがその日だけだった」という事情はありますが、通報という選択肢があった以上、正式な手続を待てなかったとは評価されにくくなります。

 実際に問題になっている多くの場面は、後者に当たります。ご自身の状況がどちらに近いかは、早い段階で確認しておきたいところです。

民事の側でも同じ線が引かれている

 実力で権利を実現することを避けるという考え方は、刑事に限った話ではありません。

 最高裁は、私力の行使は原則として法の禁止するところであるとしたうえで、法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合に限り、その必要の限度を超えない範囲で例外的に許されると判断しています(最高裁判所昭和40年12月7日判決)。

 刑事で問われなかったとしても、相手から損害賠償を請求される可能性は残ります(民法709条)。二つの手続は別々に進むという点は、押さえておく必要があります。

問われやすいのは「取り返し方」の部分

 ご相談を受けていて感じるのは、取り返した物そのものよりも、取り返す過程で行った行為のほうが問題になりやすいということです。物の所有関係に争いがなくても、その過程が別の罪に触れることがあります。

取り返す過程で行った行為問題になりうる罪
相手の住居や敷地、事務所に立ち入った住居侵入罪、建造物侵入罪
施錠や保管容器を壊した、物を傷つけた器物損壊罪、建造物損壊罪
相手を押した、腕をつかんで引き離した暴行罪、傷害罪
返さなければどうなるかを告げて迫った脅迫罪、強要罪、恐喝罪
暴行や脅迫を用いて相手から取り上げた強盗罪
取り返した後に相手が取り戻そうとして争いになった事後強盗罪が問題になる場合がある


 自分の物を取り返したという意識であっても、これらの行為は所有関係とは別に評価されます。とくに、権利があること自体は正当でも、その実現の方法が社会通念上受け入れられる程度を超えると違法になるという考え方は、判例でも示されてきました。取り戻す目的があったことは、方法の問題を打ち消すものではないのです。

相手が盗んだ本人とは限らない

 もう一つ見落とされやすいのが、いま持っている人が、その物を不正に手に入れた人とは限らないという点です。中古品店やフリマサービスを経由して、事情を知らない人の手に渡っていることがあります。

 民法192条は、取引行為によって平穏かつ公然と動産の占有を始めた者が、善意であり過失がないときは、その動産について行使する権利を取得すると定めています。いわゆる即時取得です。その物が盗品または遺失物である場合には例外があり、被害者または遺失者は、盗難または遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求できます(民法193条)。

代価を弁償しないと回復できない場合がある

 さらに民法194条は、占有者が盗品または遺失物を、競売もしくは公の市場において、またはその物と同種の物を販売する商人から善意で買い受けたときは、被害者または遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければその物を回復できないと定めています。判例は、代価の弁償があるまで占有者はその物を使用収益する権限を持ち、返還後であっても代価の弁償を請求できるとしています(最高裁判所平成12年6月27日判決)。

 つまり、正規の手続を踏んだとしても、無償で取り戻せるとは限らない場面があるということです。この場合に実力で取り返せば、相手には金銭的な損失が現実に生じます。相手が被害を訴える動機は、そこにも生まれます。

取り返さなくても物が戻る道はある

 盗まれた物について警察に被害を届け出て、捜査の結果その物が押収された場合には、還付という手続があります。

 刑事訴訟法124条1項は、押収した盗品で留置の必要がないものについて、被害者に還付すべき理由が明らかなときに限り、事件の終結を待たずに、決定でこれを被害者に還付しなければならないと定めています。この規定は、捜査機関が行う押収についても準用されています(刑事訴訟法222条1項)。判決の段階でも、押収した盗品で被害者に還付すべき理由が明らかなものは、被害者に還付する言渡しをしなければならないとされています(刑事訴訟法347条1項)。

 もっとも、権利関係がはっきりしない場合には還付されないこともあり、還付の判断が実体上の権利関係を確定するものでもありません(刑事訴訟法124条2項)。それでも、自分で動く以外に道がないわけではないという点は知っておいて損はありません。

すでに取り返してしまった場合

 行動した後にこの記事にたどり着いた方も多いと思います。その場合、次のような点を落ち着いて整理しておくことをおすすめします。

・取り返した物をいま自分が持っているのか、使ったり処分したりしていないか
・取り返す過程で、立ち入り、損壊、身体への接触、言葉のやり取りがあったか
・その物が自分の所有であることを示す資料(購入時の記録、保証書、写真、防犯登録など)が残っているか
・盗難の届出や紛失の申告を、当時どこまで行っていたか
・相手とのやり取りの記録(メッセージ、通話履歴、防犯カメラの有無)

 取り返した物を返すべきかどうかは、事案によって判断が分かれるところです。返すことで争いが収まる場合もあれば、返したことでかえって所有関係の主張が難しくなる場合もあります。自己判断で動く前に、状況を整理したうえで相談されるほうが安全です。

相手から金銭を求められている場合

 取り返した後に、相手から金銭の支払いを求められることがあります。「払わなければ被害届を出す」といった形で持ちかけられる例も見受けられます。

 求められている金額が、相手が実際に負担した代価や被った損害と釣り合っているのかどうかは、確認が必要です。金額の当否とは別に、そうした求め方自体が問題を含む場合もあります。その場で応じるより、いったん持ち帰って内容を確かめるほうが、後の選択肢を残せます。

説明を求められる前に整理しておきたいこと

 警察や検察官から事情を聞かれる場面に備えて、次の点を時系列で書き出しておくと、説明が整理されます。

1 その物を自分が所有するに至った経緯と、それを示す資料
2 その物が相手の手元に渡った経緯と時期
3 相手の手元にあると知った時期と、知ったきっかけ
4 取り返すまでの間に、返還を求めたり相談したりした事実の有無
5 取り返した日時、場所、その時の状況
6 取り返す過程で行った行為の具体的な内容

 これらは、自救行為として評価される余地があるかを検討するうえでも、取り返し方の部分を説明するうえでも、土台になる事実です。記憶が新しいうちに文章にしておくことをおすすめします。

まとめ

 自分の物を実力で取り返した場合の整理を、あらためてまとめます。

・刑法242条により、自分の所有物でも他人が占有していれば他人の財物として扱われる
・判例は、その占有が正当な権限に基づくかどうかを問わないという立場をとっている
・相手の手元に渡った経緯によって、民事で使える手段も刑事での見え方も変わる
・貸した物や預けた物には、占有回収の訴えが使いにくい
・自救行為という考え方はあるが、刑法に明文の規定はない
・最高裁が挙げた例は盗犯の現場という限られた場面で、傍論の中で示されたものである
・日が経ってからの行動は、緊急性の説明が難しくなる
・取り返した物より、立ち入りや損壊、暴行といった取り返し方が問われやすい
・相手が盗んだ本人とは限らず、代価の弁償が必要になる場面もある
・被害を届け出れば、還付という形で物が戻る道も用意されている

 自分の物を取り戻したいという気持ちは自然なものです。ただ、その手段として実力を用いたとき、法律は所有関係とは別の物差しで行為を見ます。すでに行動した後であっても、事実関係を整理し、どの部分が問題になりうるのかを把握したうえで対応すれば、取りうる選択肢は残ります。ご不安がある場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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