家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやること
別れ話をきっかけに、元恋人から「今まで使ったお金を返せ。払わないなら職場に言う」「写真をばらまく」と迫られ、怖くなってお金を払ってしまった。こうしたご相談では、「元々は交際していた相手なので、警察に訴えるのは大げさではないか」「お金を払ってしまった後でも何かできるのか」と迷われる方が少なくありません。この記事では、元恋人に脅されて払ったお金について、恐喝として被害を訴えられるのか、届け出の前に整理しておきたいこと、払ったお金を取り戻す道について解説します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。2025年6月からは懲役刑・禁錮刑が「拘禁刑」に一本化されており、本文の法定刑はこれに沿って記載しています。
元恋人に脅されて払ったお金は、恐喝の被害として訴えられる
結論から言うと、元恋人から脅されて怖くなり、お金を払った場合には、恐喝罪の被害として警察に被害届を出したり、告訴をしたりすることができる可能性があります。お金を払ってしまった後でも、それだけで届け出ができなくなるわけではありません。
恐喝罪は、相手を脅して怖がらせ、その結果としてお金や物を渡させる犯罪です(刑法249条1項)。借金を帳消しにさせるなど、お金そのものではない利益を得た場合も対象になります(同条2項)。法定刑は10年以下の拘禁刑で、要求されたものの払わずに済んだ場合でも、恐喝未遂として処罰の対象になります(刑法250条)。
恐喝にあたるかどうかは、おおむね次の流れがそろっているかで判断されます。
- 相手を怖がらせるような害悪の告知(脅し)があったこと。
- 脅しによって、実際に怖いと感じたこと。
- 怖いと感じた結果として、お金や物を渡したこと。
交際していた間柄であっても、この判断の仕方は変わりません。家族の間で起きた財産の犯罪には刑を免除する特例がありますが(刑法251条・244条)、交際相手や元恋人は親族にあたらないため、この特例は及びません。
元恋人からの要求で、恐喝が問題になりやすい場面
別れ話の前後では、次のような言葉でお金を求められることがよくあります。言葉ごとに、問題になる点を整理します。
| 言われた言葉 | 問題になりうる点 |
|---|---|
| 「払わないなら職場や家族に全部話す」 | 勤務先や家族に知らせて社会的な信用を損なうという告知で、脅しにあたる可能性があります。 |
| 「裸の写真や動画をばらまく」 | 恐喝が問題になるほか、実際に拡散されれば、性的な画像の提供を処罰する別の法律にも触れるおそれがあります。 |
| 「家まで行く」「待ち伏せする」 | 身体や生活の平穏への危害をうかがわせる言葉として、脅しと評価されることがあります。 |
| 「払わないなら死んでやる」 | 自分を傷つけるという言葉だけでは、相手への脅しとは評価されにくいとされています。ただ、職場に行くなど別の言動と重なっている場合は、全体として恐喝が問題になることがあります。 |
| 「慰謝料を払え、払わないなら訴える」 | 裁判をすること自体は正当な手段です。ただ、それを口実に、度を越えた言い方や金額で支払いを迫った場合は別の評価になることがあります。 |
脅しの対象は、払う人本人に限られず、勤務先や家族などに向けられたものでも恐喝は成り立ちうるとされています。また、相手が本当にそれを実行するつもりだったかどうかは、恐喝の成否には影響しないと考えられています。
「貸したお金を返せ」という名目があった場合
元恋人からの要求では、「交際中に立て替えた」「デート代を返せ」など、お金を求める名目が付いていることが少なくありません。
最高裁判所の判例(最高裁昭和30年10月14日判決)は、権利を行使する形をとっていても、その方法が社会通念上許される範囲を超えていれば恐喝罪が成り立つという考え方を示しています。実際に借りていたお金があったとしても、脅して払わせる方法までが許されるわけではありません。
一方で、民事の面では、実際に返すべきだった部分については、払ったお金の返還を求めにくいことがあります。「本当に借りていた分」と「名目のないまま上乗せされた分」は、分けて整理しておくとよいでしょう。
届け出をためらいやすい事情と、その考え方
元恋人とのトラブルでは、交際していたからこその事情が、届け出の妨げになりがちです。よく伺う悩みには、次のようなものがあります。
- 浮気をしたなど、自分にも後ろめたいことがある。
- 届け出たことが知られたら、仕返しをされそうで怖い。
- 少しずつ何度も払っていたので、どこからが被害なのか分からない。
- もう何年も前のことなので、今さら動けないと思っている。
自分に落ち度があったとしても、それを材料に脅されてお金を払わされたことについては、被害者の立場にあるといえます。後ろめたい事情があることは、恐喝の被害を訴える妨げになるものではありません。
何度にも分けて払っていた場合は、支払いごとに経緯を整理していくことになります。振込の記録が残っていれば、いつ、いくら払ったかを確かめる手がかりになります。
また、恐喝罪の公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。時間が経った被害でも、届け出ができなくなるとは限りません。ただし、時間が経つほど記録の確保が難しくなるため、迷っている段階でも早めに動き出すことが望ましいといえます。
被害届・告訴の前に集めておきたい記録
警察に相談した際、その場では「相談」として話を聞く扱いになり、被害届の受理に至らないこともあります。被害の内容を具体的に伝えるために、次のような記録をそろえておくと役に立ちます。
- 脅すような言葉が書かれたLINEやSNSのメッセージ(画面のスクリーンショットと日時)。
- 脅された際の通話の録音や、言われた言葉を思い出せる限り書き出したメモ。
- 振込明細、ATMの利用明細、現金で渡した日時と場所の記録。
- 署名させられた念書や借用書、その写真。
- 交際中のお金のやり取りが分かる記録(貸し借りがなかったことを示すものを含む)。
- 元恋人の氏名、住所、勤務先、電話番号など、相手を特定できる情報。
相手のメッセージを消したり、相手をブロックして履歴が見られなくなったりする前に、まず記録を保存しておくことが大切です。
被害届は、犯罪の被害に遭った事実を警察に申告するものです。これに対して告訴は、被害の申告に加えて、加害者の処罰を求める意思をはっきり示す手続です。恐喝罪は告訴がなくても起訴できる罪ですが、処罰を求める意思を明確にしたい場合には、告訴を検討することもあります。どの窓口に行けばよいか分からない場合は、警察相談専用電話(#9110)で相談することもできます。
払ったお金を取り戻す道
脅されて払ったお金を取り戻す方法は、大きく分けて、刑事手続の中での被害弁償と、民事上の請求の二つがあります。
刑事手続の中での被害弁償・示談
捜査が進むと、加害者側の弁護人から、被害弁償や示談の申し出が来ることがあります。加害者にとって被害者への弁償や示談は処分に影響しうる事情であるため、この段階でお金が戻ることもあります。もっとも、全額が戻るとは限らず、示談に応じるかどうか、どのような条件にするかは被害者が決めることです。今後の接触を禁止する条項や、画像の削除を約束する条項などを含めるかも、あわせて検討します。
民事上の請求
加害者に対しては、不法行為による損害賠償として、脅されて払ったお金の返還を求めることができます(民法709条)。脅されて書かされた念書や支払いの約束についても、強迫を理由に取り消せる場合があります(民法96条1項)。
損害賠償を請求できる権利は、損害と加害者を知った時から3年、被害に遭った時から20年で時効にかかるとされています(民法724条)。刑事の時効とは期間が異なるため、注意が必要です。なお、脅される前に自分の意思でプレゼントとして渡したお金や物は、贈与として扱われ、返還を求めにくいことがあります。
要求がまだ続いているときに考えたいこと
一度お金を払うと、「まだ足りない」「次は会社に行く」などと、追加の要求が続くことがあります。追加の要求には応じず、直接会って話し合うことも避けたうえで、やり取りの記録を残しておくことが大切です。
別れを受け入れられないことへの恨みから、連絡や金銭の要求が繰り返されている場合は、ストーカー規制法による警告や禁止命令が検討の対象になることがあります。また、同居していた元交際相手からの被害であれば、配偶者暴力防止法(DV防止法)の保護命令を申し立てられる場合もあります。
弁護士が窓口になれば、元恋人との直接のやり取りを減らしながら、要求をやめるよう通知したり、返金や接触の停止について条件を整えたりすることができます。警察への届け出とどちらを先にするか、並行して進めるかも、ご事情に合わせて検討できます。
よくあるご質問
被害届を出したら、元恋人に自分の今の住所は伝わりますか
警察が、被害届を出したことや被害者の住所を加害者に知らせることは通常ありません。また、加害者が起訴された場合に、起訴状などで被害者の氏名や住所を伏せる制度も設けられています。転居先を知られたくない事情があるときは、届け出の際にその旨を伝えておくとよいでしょう。
相手が「お前から言い出したことだ」と言い張っている場合でも、訴えられますか
相手の言い分があることだけで、届け出ができなくなるわけではありません。ただ、言った言わないの争いになりやすいため、脅す言葉が残っているメッセージや録音、支払いの経緯が分かる記録が重要になります。
交際中に渡したお金も、まとめて返してもらえますか
脅されて払ったお金と、交際中に自分の意思で渡したお金とでは、扱いが異なります。後者は贈与や貸し借りとして別に整理することになり、返還を求められるかどうかは事情によって変わります。
関連する解説記事
- 元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)
- 恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わる
- 「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線
- 「死んでやる」と言われて要求を呑まされている|自分への加害予告は脅迫か
- 別れた相手が裸の画像を持っている|拡散される前に削除させる交渉
- 自分にも非がある場合の警察相談|恐喝被害を申告する際の障害
- 被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶ
- 払ってしまった後に取り戻せるか|恐喝・強迫を理由とする返還
- 脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違い
- 交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応
- 【解決事例】元交際相手からの恐喝・なりすまし被害|受任通知で嫌がらせを止めた解決事例
弁護士法人若井綜合法律事務所へのご相談
元恋人に脅されて払ったお金については、恐喝として届け出るかどうか、交際中のお金のやり取りをどう切り分けるか、払ったお金をどう取り戻すかを、あわせて考える必要があります。当事務所では、警察への届け出の準備から、元恋人との交渉、返金の請求まで、ご事情に合わせた進め方をご提案します。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


