被害者が多数いる|併合罪と量刑、示談の順序

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

詐欺の疑いで捜査が始まったとき、被害を申告している方が一人ではなく、数人、あるいは十数人という規模になっていることがあります。取り調べのたびに知らない名前が出てきて、逮捕が繰り返され、いま自分が何件の事件を抱えているのかさえ分からなくなる。ご家族から見ても、終わりの見えない状況に映ります。

 こうした事件では、件数が増えた分だけ刑が重くなるのだろう、とにかく早く誰かと示談しなければならない、と考えてしまいがちです。ところが、複数の罪をどう処理するかについて刑法は独自の仕組みを置いていますし、示談についても、順番を誤ると、同じ金額を用意しても評価が届きにくくなることがあります。

 このコラムでは、被害者が多数いる詐欺事件について、刑がどのような枠組みで決まるのか、事件が分かれて進むとどうなるのか、そして限られた原資をどの順番で使うのかを整理します。

このコラムが想定している場面


 次のような状況を念頭に置いています。

・投資や副業の話で複数の相手からお金を受け取り、返せないまま捜査が始まった
・特殊詐欺の受け渡し役として関わり、被害の申告が何件も出ている
・一件で逮捕された後、別の被害者の件であらためて逮捕された
・弁護人から追起訴が予定されていると説明を受けた
・家族が示談金を用意しようとしているが、誰にいくら払えばよいのか分からない

件数が増えると刑の枠は広がる


 詐欺罪の法定刑は十年以下の拘禁刑です。罰金刑の定めはありません。

 別々の機会に行われた複数の詐欺は、確定した裁判を経ていない限り、併合罪として扱われます。刑法四十五条前段が定める形です。罪名が同じであっても、機会が違えば別の罪として数えられます。

 併合罪として有期の拘禁刑に処するときは、そのうちいちばん重い罪について定められた刑の長期に、その二分の一を加えたものが刑の上限になります。刑法四十七条本文です。詐欺だけが複数ある場合は、十年に五年を加えた十五年が枠の上限ということになります。なお、それぞれの罪について定められた刑の長期の合計を超えることはできないという制限が、同条のただし書に置かれています。

 枠が広がることと、実際に言い渡される刑がその枠の上のほうに近づくこととは、別のことです。併合罪の規定は、複数の罪をまとめて処理するための入れ物の大きさを決めているにすぎません。

なぜまとめて処理されるのか


 複数の罪について、それぞれの刑を単純に足していくという方法も、理屈としてはあり得ます。日本の刑法がその方法を採らず、まとめて一つの刑を言い渡す形にしているのは、刑期が際限なく長くなることを避けるためであり、また、まだ裁判による叱責を受けていない時期に重ねられた行為は、個別にではなくまとめて評価するのが筋だと考えられているためです。

 この考え方は、被害者が多数いる事件の見通しを立てるうえで意味を持ちます。件数は、掛け算の材料ではなく、全体の重さを判断するための材料として扱われます。

起訴されていない被害の分はどう扱われるのか


 被害の申告が十件あったとしても、そのすべてが起訴されるとは限りません。証拠が足りない件、被害者の特定が難しい件は、立件されないまま残ることがあります。

 では、起訴されていない件は、量刑のなかでどのように扱われるのでしょうか。

 この点について最高裁判所は、起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、そのために被告人を重く処罰することは許されない、と判断しています。昭和四十一年七月十三日の大法廷判決です。起訴されていない事実で刑を重くすることは、訴えられていない事柄について裁くことになり、しかもその事実が後日あらためて起訴されれば、同じ事実について二度責任を問われることになる、というのが理由として挙げられています。

 もっとも同じ判決は、被告人の性格や経歴、動機や目的、方法といった事情を推し量るための一つの材料として余罪を考慮することまでは禁じられない、とも述べています。

 この線引きが実際に問題になった例もあります。昭和四十二年七月五日の大法廷判決は、余罪とされた行為の期間、回数、被害金額がいずれも具体的に認定されていたことなどから、実質的に余罪を処罰する趣旨で重い刑を科したものと評価し、違法としました。

 立件されていない被害の分が、そのまま刑の重さに上乗せされるという仕組みにはなっていません。ただし、同じような行為が繰り返されていたという事情そのものは、動機や手口を推し量る材料として考慮され得ます。この二つは分けて理解しておく必要があります。

事件が分かれて進むということ


 被害者が多数いる詐欺事件では、被害の申告ごとに一つの事件が立ちます。捜査機関は、一件について逮捕と勾留を行い、その期間で捜査を進め、必要に応じて次の件であらためて逮捕する、という進め方をすることがあります。起訴も一度で終わるとは限らず、追起訴という形で後から加えられていきます。

 このとき、すべての件が同じ裁判で審理されるとは限りません。先に一部の件だけ判決が言い渡され、それが確定した後で、残りの件が別の裁判にかかることもあります。

先に判決が確定した後に残りが出てきた場合


 刑法四十五条後段は、ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪と、その裁判が確定する前に犯した罪とに限って併合罪とする、と定めています。判決が確定した日より前に行われた行為であれば、後から審理されることになっても、併合罪の関係に立つということです。

 そして刑法五十条は、併合罪のうちに確定裁判を経た罪と経ていない罪があるときは、経ていない罪について更に処断する、と定めています。あわせて刑法五十一条二項は、複数の裁判があった場合の刑の執行についても、いちばん重い罪の長期に二分の一を加えたものを超えることができないという制限を置いています。

 後から審理される罪の刑をどう決めるかについては、確定した裁判の内容も踏まえたうえで、同時に審理されていた場合と均衡を失しないように考慮するのが望ましい、という考え方が裁判例でも示されています。

 事件が一つの手続にまとまるかどうかは、ご本人が選べることではありません。だからこそ、いま何件が捜査の対象になっていて、どの範囲が一緒に処理される見込みなのかを、早い段階で把握しておくことに意味があります。

示談を早い者順で進めない


 ここからが、被害者が多数いる事件でとくに判断を誤りやすいところです。

 示談の原資には限りがあります。ご本人の預貯金、ご家族が用意できる範囲、退職金や保険の解約返戻金。いずれも無限ではありません。それにもかかわらず、連絡が取れた被害者から順に、その方の被害額の全額をお支払いしていくと、途中で原資が尽きます。

 示談は、用意できる総額を先に把握したうえで、どこにどう配分するかを決める作業です。お一人に手厚く支払って合意ができていたとしても、ほかに多数の被害者が残っていて、その方々には何も届いていないという状態であれば、事件全体として被害の回復が進んだとは評価されにくくなります。

順序を決めるための材料


 どこから手をつけるかを考えるとき、被害額の大小だけを見るのでは足りません。次のような点を並べて検討することになります。

・その件がすでに起訴されているのか、これから起訴するかどうかが判断される段階なのか
・まだ立件されていない件なのか
・被害者の連絡先が分かっているのか、代理人がついているのか
・被害者が分割払いを受け入れる余地があるのか
・共犯者が同じ被害者に別に支払いを申し入れていないか

 同じ金額を支払っても、その件がどの段階にあるかによって、届く先が変わります。

件の状態支払いが主に届く場面
まだ立件されていない事件として取り上げるかどうかの判断
捜査中で処分が決まっていない起訴するかどうかの判断
すでに起訴されている言い渡される刑の重さ
判決が確定した後民事上の清算


 検察官が起訴するかどうかを決めるにあたっては、犯罪後の状況も考慮されます。刑事訴訟法二百四十八条が定めるところです。処分が決まる前の段階での被害回復は、処分そのものに向けて働く余地があります。一方、すでに起訴された件についての支払いは、言い渡される刑の判断に向けて働きます。同じ一件の示談でも、位置づけは異なります。

共犯者がいる場合に確かめておくこと


 複数の関与者がいる事件では、同じ被害者に対して、それぞれの関与者の弁護人が別々に支払いを申し入れることがあります。

 共同して不法行為を行った者は、被害者に対して連帯して賠償の責任を負います。民法七百十九条一項の定めです。したがって、誰か一人が全額を支払えば、被害者に対する関係では、その損害は填補されたことになります。

 問題は、事前の調整がないまま各自が動くと、重ねて支払ってしまったり、申し入れた段階でもう受け取っていると言われたりする事態が起きることです。限られた原資を無駄にしないためにも、誰がどの範囲を負担するのかを、可能な範囲で整理してから申し入れることが望ましいといえます。

全額に届かないとき


 被害額の総額が、支払える金額を大きく上回っている事件は珍しくありません。そのときに、用意できないことが分かっている金額を提示するのは、かえって交渉を止めてしまいます。

 現実的なのは、いま支払える金額と、その根拠を示すことです。預貯金の残高、収入の見込み、ご家族が援助できる額。数字の裏づけがあれば、被害者の側にも判断の材料が渡ります。

 一部の弁済にとどまる場合でも、合意した内容は書面に残しておきます。分割の約束をした場合、その支払義務は判決が出た後も続きます。刑事の手続が終われば支払いも終わる、という性質のものではありません。

 なお、被害者が受け取りを拒んでいる場合には、法務局に弁済の目的物を預ける供託という手続があります。民法四百九十四条が定めるものですが、申請には相手方の住所と氏名が必要になるため、それが分からない場合には使えません。被害者を特定できない件については、贖罪寄付という選択肢が検討されることもあります。

避けたい進め方


 次のような対応は、後から取り返すことが難しくなります。

・被害者に直接連絡を取り、その場で口頭の約束をしてしまう
・原資の総額を確認しないまま、目の前の一件に全額を充てる
・他の関与者が支払っているかどうかを確かめずに申し入れる
・支払える見込みのない金額で合意書を作る
・書面を残さずに現金を渡す

いま整理しておきたいこと


 弁護人と話をする前に、次の点を書き出しておくと進めやすくなります。

・被害を申告している方が何人いるのか、そのうち何件が起訴されているのか
・追起訴の予定があると説明されているか
・すでに判決が確定した件があるか、あればその日付
・用意できる金額の総額と、その内訳
・共犯者側の弁護人と連絡が取れる状態にあるか
・分割払いにする場合、いつまで、いくらずつ支払えるのか

まとめ


・別々の機会に行われた複数の詐欺は併合罪として扱われ、詐欺だけが複数ある場合、刑の枠の上限は十五年になる
・枠が広がることと、実際の刑がその上限に近づくこととは別のことである
・起訴されていない余罪を、実質的に処罰する趣旨で量刑に反映させることは許されないとされている
・一方で、繰り返されていたという事情を、動機や手口を推し量る材料として考慮することまでは否定されていない
・先に一部の判決が確定しても、その確定前に行われた行為は併合罪の関係に立ち、残りの罪について更に処断される
・示談は早い者順ではなく、用意できる総額から配分を設計する作業になる
・同じ支払いでも、その件が捜査中か起訴後かによって、届く先が変わる
・共犯者がいる場合は、支払いが重ならないようにするための事前の確認が要る

 被害者が多数いる詐欺事件は、手続が長く、途中で全体像が見えなくなりがちです。目の前の一件に対応しているうちに、別の件で判断すべき時期が過ぎていた、ということも起こります。何件がどの段階にあるのかを一覧にして手元に持っておくだけでも、判断の質は変わります。

 当事務所では、刑事事件のご相談を二十四時間受け付けており、初回のご相談は無料でお受けしています。すでに身柄を拘束されている場合には、即日の接見にも対応しています。ご本人からでも、ご家族からでも、いまの状況をお聞かせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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