【刑事事件】元恋人から名誉毀損で訴えると言われたら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

交際が終わった後、元恋人から「名誉毀損で訴える」と告げられ、何が起きるのか分からず不安を抱えている方は少なくありません。別れ際にSNSへ書いた投稿や、共通の友人に話した内容が問題にされることもあれば、こちらに思い当たることがほとんどないまま言われることもあります。この記事では、「訴える」という言葉の中身を刑事と民事に分けて整理し、言われた直後に確認しておきたいことと、解決までの道筋を説明します。

この記事は2026年10月時点の法令に基づいて書いています。2025年6月の刑法改正により、懲役刑・禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。


「訴える」には刑事と民事の2つの意味がある

 「訴える」という言葉は日常では一つにまとめて使われますが、法律上は性質の違う2つの手続を指していることがあります。一つは警察や検察に処罰を求める刑事の手続、もう一つは裁判所に損害賠償などを求める民事の手続です。相手がどちらを考えているのかによって、この先の見通しも準備も変わります。

区分主な手続求められるもの
刑事警察・検察への告訴、捜査、処分名誉毀損罪・侮辱罪などでの処罰
民事内容証明による請求、示談交渉、訴訟慰謝料などの損害賠償、投稿の削除、謝罪など


 両方が同時に進むこともあれば、どちらか一方だけで終わることもあります。また、感情的なやり取りの中で「訴える」と言っただけで、実際には何の手続も取られないまま終わる場面もあります。まずは言われた言葉だけで結論を出さず、どちらの話なのか、何を問題にされているのかを落ち着いて確かめることが出発点になります。刑事と民事の違いについてはSNSの投稿で名誉毀損と言われた|刑事と民事の違いでも解説しています。

名誉毀損として問題になる行為の範囲


名誉毀損罪が成立する条件

 名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法230条1項)。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。ここでいう「公然と」とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態を指します。SNSや掲示板への投稿はこれに当たりやすく、少人数に話しただけでも、そこから周囲に広がるおそれがあれば公然性が認められることがあります。

 「事実を摘示」とは、具体的な出来事を示すことです。「浮気をしていた」「借金を踏み倒した」といった内容がこれに当たり、その内容が本当かどうかは成立の妨げにならないのが原則です。

本当のことを書いても成立することがある

 真実を書いた場合に処罰されないのは、内容が公共の利害に関わり、目的が公益を図ることにあり、真実であることが証明された場合に限られます(刑法230条の2)。元恋人の私生活や交際中の出来事は、多くの場合「公共の利害」に関わる事柄とはいえず、本当のことだからという理由だけでは責任を免れにくいのが実情です。

侮辱罪やプライバシー侵害との違い

 具体的な事実を示さずに「最低な人間」などと公然と人をおとしめた場合は、侮辱罪(刑法231条)の問題になります。2022年の改正で法定刑が引き上げられ、現在は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料とされています。また、病歴や性的な事柄など、他人に知られたくない私生活の情報を明かした場合は、名誉毀損とは別にプライバシー侵害として民事上の責任を問われることがあります。

元恋人との間で問題になりやすい場面

 交際の終わりをめぐって名誉毀損が問題になるのは、次のような場面が典型です。

  • 別れた経緯や相手の性格についてSNSに投稿した。
  • 共通の友人グループやサークルで、相手の浮気や金銭トラブルを話した。
  • 相手の勤務先・内定先・家族に、交際中の出来事を伝えた。
  • 口コミサイトや匿名掲示板に、相手を特定できる形で書き込んだ。
  • 交際中のLINEのスクリーンショットや写真を添えて投稿した。


 一方で、相手本人だけに送ったLINEの中で強い言葉を使った場合は、第三者に伝わっていないため、通常は公然性を欠き名誉毀損罪にはなりにくいといえます。ただし、内容によっては脅迫罪など別の問題になることがあります。友人への悪口がどこから問題になるかは【男女トラブル】別れた相手が共通の友人に悪口を広めている|名誉毀損になる線もご参照ください。

刑事事件として扱われるまでの流れ


名誉毀損罪は親告罪

 名誉毀損罪と侮辱罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条1項)。告訴は原則として犯人を知った日から6か月以内にしなければならず(刑事訴訟法235条)、これとは別に公訴時効(いずれも3年)もあります。元恋人の場合は投稿者が誰かを最初から分かっていることが多いため、投稿を知った時点から6か月の期間が進んでいると考えられます。ただ、投稿が続いている場合や、いつ知ったかに争いがある場合は判断が分かれるため、期間の経過だけで安心するのは避けた方がよいでしょう。親告罪の仕組みは名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決で詳しく説明しています。

告訴されても必ず逮捕されるわけではない

 告訴が受理されると警察が捜査を始め、投稿者として事情を聞くために呼び出しの連絡が来ることがあります。名誉毀損の事件では、住所や勤務先がはっきりしていて、逃げたり証拠を隠したりするおそれが低いと判断されれば、身柄を拘束されないまま在宅で捜査が進むことがあります。その後は書類送検を経て、検察官が起訴するかどうかを判断します。もっとも、投稿の悪質さや、警告を受けた後も投稿を続けていたといった事情があれば、扱いが重くなる可能性もあります。告訴された後の具体的な流れはネット上の書き込みで名誉毀損の告訴をされたで取り上げています。

民事で請求される場合

 民事では、名誉毀損が不法行為(民法709条・710条)に当たるとして慰謝料などの損害賠償を請求されるほか、投稿の削除や、名誉を回復するための措置(民法723条)を求められることがあります。多くの場合、まず相手本人や相手の弁護士から内容証明郵便などで請求が届き、話し合いがまとまらなければ訴訟に進みます。

 損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。刑事の告訴期間より長いため、刑事の期間が過ぎた後に民事の請求だけが届くこともあります。匿名で投稿していた場合でも、発信者情報の開示請求によって投稿者が特定されることがあり、匿名であることを理由に請求が来ないとは限りません。

「訴える」と言われた直後に確認したいこと


言われた内容と経緯を記録する

 相手が何を問題にしているのか、いつ・どの手段で「訴える」と言われたのかを、メッセージの保存やメモで残しておきます。あわせて、自分が何を、いつ、どこに、誰に向けて書いたり話したりしたのかを書き出しておくと、後で相談する際に状況を正確に伝えやすくなります。

投稿は消す前に内容を残しておく

 問題にされている投稿を削除すれば、それ以上広がるのを防ぐ意味があります。一方で、削除する前に投稿の内容や日時、反応の数などを記録しておかないと、後から自分が実際に何を書いたのかを説明しにくくなることがあります。削除の判断と記録の残し方はアカウントを消せばよいのか|投稿削除と証拠保全の関係で整理しています。

反論の投稿や相手への連絡を重ねない

 言われたことに腹が立ち、SNSで反論したり、相手に何度も連絡したりすると、新たな投稿そのものが問題にされるおそれがあります。また、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みから、相手の名誉を害する事柄を告げたり知らせたりする行為を繰り返すと、ストーカー規制法の対象になる場合もあります。この段階では、自分から発信を増やさないことが状況を悪化させないための基本になります。

金銭を求められたときは即答しない

 「訴えられたくなければお金を払え」と求められることもあります。被害を受けた側が損害賠償を求めること自体は正当な権利行使ですが、相場から大きく離れた金額を脅すような言い方で迫る場合は、恐喝の問題が生じることもあります。その場で支払いを約束せず、金額の根拠を確かめたうえで、払う場合も合意内容を書面に残すことが大切です。言い方による違いは恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わるで解説しています。

通知書・訴状・警察からの連絡は期限を確認する

 相手の弁護士から通知書が届いた場合は、回答の期限や請求の中身を確認します。裁判所から訴状が届いた場合は、指定された期限までに答弁書を出さないと、相手の言い分どおりの判決が出るおそれがあります。警察から連絡が来た場合も、折り返す前に何の件かを整理しておくと落ち着いて対応できます。相手方の弁護士から通知書が届いた|無視のリスクと対応、【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味もあわせてご覧ください。

示談で解決するときの考え方

 名誉毀損罪は親告罪であるため、告訴の前に示談が成立し、相手が告訴しないと約束すれば、刑事事件に進まないまま解決できることがあります。告訴された後でも、起訴される前であれば告訴を取り消してもらうことができ(刑事訴訟法237条1項)、取り消されると起訴されなくなります。

 示談では、金銭の支払いだけでなく、次のような点を合意書に盛り込むかどうかを検討します。

  • 問題とされた投稿の削除と、今後同じ内容を発信しないこと。
  • 告訴をしないこと、または告訴を取り消すこと。
  • 合意した内容以外に互いに請求しないこと(清算条項)。
  • 相手からこちらへの発信についても同様の約束を求めるかどうか。


 謝罪の投稿や訂正の投稿をするかどうかも話し合いの対象になりますが、文面によっては新たな問題を生むこともあるため、慎重に決める必要があります。謝罪や訂正が処分に与える影響については謝罪や訂正の投稿をした|示談・処分にどう影響するかをご参照ください。

自分にも言い分があるとき

 相手の浮気や暴言、お金の貸し借りなど、こちらにも言い分があって投稿や発言に至った場合でも、それを第三者に広めたことの責任は別に問われるのが原則です。相手の行為に問題があるのであれば、慰謝料の請求や警察への相談など、それに見合った手続で向き合う道があります。

 また、相手の方もこちらについて事実と異なることを広めている場合は、こちらから削除や損害賠償を求められることもあります。ただし、互いの請求が自動的に打ち消し合うわけではないため、どちらの請求をどう扱うかを含めて整理する必要があります。

よくあるご質問


「訴える」と言われてから何も起きていません。もう安心してよいですか

 刑事の告訴期間や民事の時効が残っているうちは、後から手続が取られる可能性があります。何も起きていない期間も、問題にされた投稿や当時のやり取りの記録は残しておき、同じ内容の発信を控えておくことが望ましいといえます。

相手と直接会って話し合ってもよいですか

 直接の話し合いが禁じられているわけではありません。ただ、感情的な対立が残っている中では、その場でのやり取りが新たなトラブルの材料になることもあります。相手が弁護士を立てている場合や、金銭の要求が出ている場合は、弁護士を窓口にした方が話を整理しやすくなります。

弁護士に相談するとできること

 弁護士に相談すると、問題にされている投稿や発言が名誉毀損やプライバシー侵害に当たる可能性があるか、刑事と民事のどちらでどの程度の対応が想定されるかを、具体的な事情に沿って検討できます。依頼した場合は、弁護士が相手との窓口となり、投稿の扱いや金額、告訴をしない合意などを含めた示談交渉を進めます。警察から呼び出しがあった場合には、事情聴取で何をどう説明するかの準備もお手伝いします。

 元恋人から「名誉毀損で訴える」と言われた段階では、まだ何も手続が始まっていないことも多く、対応の選択肢が残されている時期です。言われた言葉の重さに振り回されず、自分が何をしたのか、相手が何を求めているのかを整理することから始めてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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