資格・免許はどうなるのか|医師・看護師・教員・宅建・運転免許の欠格事由の読み方
SNSに書き込んだ内容が事実と違っていたことをきっかけに、投稿した側が偽計業務妨害の疑いで警察から連絡を受けることがあります。「軽い気持ちだった」「すぐ消した」「拡散しただけ」という説明があっても、話が終わらない場面は珍しくありません。ここでは、SNSの投稿がどのような理由で偽計業務妨害として扱われるのか、そのときに何が確認されるのかを整理します。
SNSの投稿では条文のどの部分が問われるのか
刑法233条は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者を処罰すると定めています。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。拘禁刑は、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑を一本化した刑罰を指します。
条文で手段として挙げられているのは、「虚偽の風説を流布すること」と「偽計を用いること」の二つです。対面や電話でのいたずら、嘘の注文といった事案では後者が問題になることが多いのですが、SNSの投稿では前者が正面から問われる場面が多くなります。事実と異なる内容を書き込み、それが読み手の間に広がっていくという経過が、条文の文言にそのまま重なるためです。
呼び名としては「偽計業務妨害」で定着していますが、条文には二つの手段が並んでいます。自分の投稿のどこが問題とされているのかを考えるときには、この区別を意識しておくと整理しやすくなります。
「虚偽の風説を流布した」といえる範囲
虚偽の風説とは、客観的な真実に反する内容の噂や情報をいいます。流布とは、それを不特定または多数の人に広めることをいいます。
公開アカウントの投稿は不特定の人が閲覧できる状態にあるため、流布に当たると評価されやすい形態です。一方で、非公開アカウントや少人数のグループ内でのやり取りであれば当然に外れるかというと、そうとも限りません。直接伝えた相手が少数であっても、その人を通じて多数の人に伝わるおそれがある場合には流布に当たり得るとした古い判例があり(大審院昭和12年3月17日)、現在の実務でもこの考え方が前提とされています。フォロワーが少ないアカウントの投稿が、第三者の引用によって広がっていく形は、まさにこの場面に当たります。
また、自分が最初に書き込んだ場合に限られません。他人の投稿を引用して広めたり、コメントを付けて再投稿したりする行為も、内容を不特定または多数の人に広めたと評価される余地があります。
投稿した内容が本当だった場合の扱い
偽計業務妨害の前提には、内容が虚偽であることがあります。投稿した内容が事実であれば、「虚偽の風説」には当たりません。
この点は名誉毀損罪と対照的です。名誉毀損罪は、指摘した事実が真実かどうかにかかわらず成立し得る建て付けになっており、公共の利害に関する事実であることなど一定の要件を満たす場合に限って処罰されないという特例が置かれています(刑法230条の2)。業務妨害の側にはこれに対応する規定がなく、代わりに「虚偽であること」が入口の要件になっています。同じ投稿について、成否の分かれ目が別の場所にあるということです。
もっとも、実際に争いになるのは「全部が嘘かどうか」ではなく、「どの部分が事実と違うか」です。体験したこと自体は事実であっても、その原因や範囲を実際と大きく異なる形で書いた場合には、その部分が虚偽と評価されることがあります。あわせて、事実を指摘したのか、感想や評価を述べたにとどまるのかという区別も検討されます。「口に合わなかった」という感想と、「食中毒が出た店だ」という事実の指摘とでは、扱いが変わってきます。
業務が止まっていなくても問題になる理由
「妨害した」とは、現実に業務が止まったことまでを必要とせず、業務の遂行を妨げるおそれのある行為をすれば足りると解されています(大審院昭和11年5月7日)。したがって、「営業は続いていた」「売上は落ちていない」という事情は、それだけで結論を決めるものではありません。
捜査で確認されるのは、投稿そのものの表現よりも、その投稿が相手方に何をさせたかという点です。実務では、次のような事柄が具体的に確認されます。
| 確認される事柄 | 見られている点 |
|---|---|
| 投稿の内容 | 真実に反する部分がどこか、事実の指摘か感想・評価か |
| 広がり方 | 公開範囲、表示回数、引用や転載の状況、転載先の性質 |
| 相手方の対応 | 問い合わせ対応に要した人数と時間、説明や告知の実施、営業時間の変更 |
| 投稿者の認識 | 投稿前に確認した情報、訂正や削除の有無とその時期 |
| 投稿の経緯 | 特定の相手に向けたものか、以前からのやり取りがあったか |
これらは、被害の届出の際に相手方から提出される資料とも重なります。問い合わせの記録、対応した従業員の勤務記録、予約の取消しの記録などが、業務への影響を示す資料として扱われます。
虚偽の犯行予告が業務妨害とされる理由
SNSや掲示板に虚偽の犯行予告を書き込む行為も、偽計業務妨害として扱われてきました。この類型では、「妨害された業務」が誰の何の業務なのかが問題になります。
裁判所で示された考え方として、インターネット上の掲示板に無差別殺人を予告する内容を書き込み、これを見た人からの通報を受けた警察官が現場周辺の出動や警戒に当たった事案があります。裁判所は、予告がなければ遂行されたはずの警ら、立番といった本来の業務が妨げられたとして、偽計業務妨害の成立を認めました(東京高等裁判所平成21年3月12日)。警察の職務のなかには強制力を用いる部分が含まれますが、書き込みという妨害の形に対しては、その強制力を行使できる段階になく、妨害を排除する働きを持たない、という説明がされています。警察官を殺害する旨の虚偽の予告を書き込んだ事案でも、同様に成立が認められた例があります(東京高等裁判所平成25年4月12日)。
なお、同じ「予告」であっても、公然と示された脅迫的な内容として威力業務妨害と構成される場合もあります。どちらの罪名で立件されるかは、投稿の形や相手方の受け止め方によって分かれます。いずれの罪も法定刑は同じです。
「本当だと思って拡散した」という説明はどう検討されるか
偽計業務妨害が成立するには故意が必要です。ここでいう故意は、内容が虚偽であることの認識と、それによって相手の業務を妨げるおそれのある状態が生じることの認識を指します。「困らせるつもりはなかった」という動機の説明と、これらの認識があったかどうかは、別の問題として扱われます。
「本当だと思っていた」という説明は、内容によっては故意を欠く方向に働きます。ただし、真実だと信じ切っていた場合だけでなく、嘘かもしれないと思いながら投稿した場合にも故意が認められることがあります。そのため、投稿の前にどこまで確認したのかが具体的に問われます。検討の材料になるのは、次のような事情です。
・その情報をどこで見たのか、発信元をたどれる状態だったか
・元の投稿に、伝聞であることや未確認であることを示す記載があったか
・自分の投稿の文面で断定していたか、伝聞として書いていたか
・誤りだと指摘された後も投稿を残したか、表現を変えて出し直したか
・同じ相手に向けた投稿を繰り返していたか
拡散した側についても、この検討の枠組みは変わりません。「自分が書いたものではない」という点だけで説明が完結するわけではなく、内容をどう受け止めて広げたのかが問われます。
投稿を削除した後でも捜査が進む理由
偽計業務妨害は、妨害のおそれが生じた時点で成立すると解されているため、後から投稿を消したことによって成立そのものが失われるわけではありません。未遂を処罰する規定も置かれていません。
加えて、投稿の内容は多くの場合すでに保存されています。相手方は問い合わせが増えた段階で画面の保存を始めていることが多く、拡散された投稿は第三者の側にも残ります。削除したから記録は残っていない、という前提で説明を組み立てると、後になって食い違いが生じることがあります。
削除や訂正に意味がないわけではありません。被害の広がりを抑える行動として、処分を検討する場面で考慮される要素にはなります。ただし、事実関係を整理しないまま訂正の投稿を重ねると、そこに書いた内容自体が新たな資料として扱われることがあります。順序としては、何を書いたのかを自分で正確に把握したうえで対応を決めるほうが、後の説明との整合が取りやすくなります。
匿名の投稿が投稿者に結び付けられるまで
匿名のアカウントであっても、投稿者にたどり着く道筋はいくつかあります。
刑事の捜査では、捜査関係事項照会や令状に基づく手続によって、事業者に対し接続元の記録などが求められます。民事の側では、情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報の開示の手続があり、裁判所の開示命令によって投稿者の情報が明らかになることがあります。同法は、従来のプロバイダ責任制限法を改正して名称と内容が改められた法律で、2025年4月1日に施行されました。大規模なプラットフォーム事業者に対して、削除の申出への対応を迅速に行うことや、その運用状況を明らかにすることが義務づけられています。
アカウント名を変えたり作り直したりしても、投稿の内容や時間帯、他の投稿との重なりから同一人と結び付けられることがあります。端末が押収された場合には、下書きや閲覧の履歴も確認の対象になります。
刑事の手続とは別に損害賠償が問題になる
刑事の手続と並行して、民事の損害賠償を請求されることがあります(民法709条)。金額の根拠として挙げられるのは、問い合わせへの対応や説明に費やした人件費、予約の取消しや売上の減少、事実関係を告知するために要した費用などです。刑事事件として立件されなかった場合でも、民事の請求は別に成り立ち得ます。
拡散した側の責任についても、裁判で判断された例があります。名誉を傷つける内容の投稿をコメントを付けずに再投稿した行為について、拡散した側の不法行為責任を認めた民事の裁判例があります(東京地方裁判所令和3年11月30日)。罪名の異なる事案ではありますが、拡散という行為が独立して評価され得ることを示すものです。
被害者が会社である場合の対応と示談
偽計業務妨害で保護されているのは、店や会社が行っている業務です。したがって、謝罪や示談の相手方は、投稿の対象になった従業員個人ではなく、事業を行っている法人または経営者本人になります。法人が被害者の場合、窓口は本社の担当部署や顧問弁護士に置かれていることが多く、そこを通さないやり取りは、かえって話を進みにくくします。
連絡が来た段階で控えたほうがよいこととして、次のような点が挙げられます。
・投稿の対象になった従業員個人に直接連絡を取ること
・経緯の説明や謝罪をSNS上で公開の形で行うこと
・相手方の投稿やレビュー欄に書き込みを追加すること
・事情を知る関係者に連絡し、話を合わせてもらおうとすること
・保存されていないだろうという前提で記憶に頼った説明をすること
偽計業務妨害は非親告罪です。被害者の告訴がなくても起訴することができるため、示談が成立したことがそのまま不起訴に結び付くとは限りません。もっとも、被害の回復が図られているかどうか、被害者側が処罰を求めない意向を示しているかどうかは、処分を判断するうえで重く見られる事情です。損害の内容が対応にかかった費用や売上の変動として示される事案では、金額の根拠を確認しながら協議を進めることになります。
なお、投稿者が会社員である場合には、勤務先での取扱いという別の問題が生じることがあります。勤務先の設備や業務時間中に投稿していた場合、勤務先に対する説明が必要になる場面もあります。
よくあるご質問
匿名アカウントで、フォロワーもほとんどいませんでした。それでも問題になりますか。
フォロワーの数だけで結論が決まるわけではありません。公開の状態で投稿していれば不特定の人が閲覧できますし、少人数に伝えた場合でも、そこから広がるおそれがあれば「流布」に当たり得るとされています。実際には、その投稿が相手方にどのような対応をさせたかが確認されます。
事実だと思って投稿しましたが、後で違うと分かり、すぐ削除しました。
内容が虚偽であることの認識がなかったといえるかどうかが検討されます。投稿の前にどこまで確認していたか、断定的に書いていたか、といった点が材料になります。削除したこと自体で成立が消えるわけではありませんが、被害の広がりを抑える行動として考慮される事情です。
同僚が投稿したものを、私は再投稿しただけです。
再投稿や引用も、内容を広める行為として評価される余地があります。最初に書いた人と同じ扱いになるとは限りませんが、内容をどう受け止めて広げたのかが問われます。民事の場面でも、拡散した側の責任が認められた裁判例があります。
まとめ
・刑法233条は「虚偽の風説の流布」と「偽計」の二つを手段として挙げており、SNSの投稿では前者が正面から問われることが多い
・流布は不特定または多数の人に広めることを指し、少数に伝えた場合でも、そこから広がるおそれがあれば当たり得るとされている
・内容が事実であれば「虚偽の風説」には当たらないが、どの部分が事実と違うかという形で争点になる
・業務が現実に止まっていなくても、妨げるおそれのある行為であれば成立し得ると解されている
・虚偽の犯行予告については、警察の本来の業務が妨げられたとして成立を認めた裁判例がある
・投稿を削除しても成立そのものは失われないが、対応の内容は処分の判断で考慮される
・被害者は店や会社であり、従業員個人への直接の連絡は避け、窓口を通じて協議を進めることになる
投稿の内容や広がり方によって、確認される事情は大きく変わります。警察から連絡が来た段階でも、まだ何も動きがない段階でも、事実関係を整理したうえで対応を決めることが、その後の見通しにつながります。当事務所では刑事事件について無料相談を受け付けておりますので、判断に迷われている場合はお早めにご相談ください。


