介護中の行為が虐待と言われた|高齢者虐待防止法と刑事責任
この記事は、2024年4月1日に施行された改正配偶者暴力防止法(DV防止法)と、2025年6月からの拘禁刑の導入を反映しています。
交際相手から「保護命令を申し立てた」と告げられたり、ある日突然、地方裁判所から書類が届いたりすると、何が起きているのか分からず戸惑う方が多いと思います。保護命令そのものは刑罰ではありませんが、発令された後に命令に違反すると刑事罰の対象になります。また、申立ての理由となった暴力について、別に捜査が進むこともあります。
この記事では、交際相手から保護命令を申し立てられた側の立場で、制度の対象になる関係、裁判所から届く書類の意味、審尋までに準備すること、発令後に避けたい行動、不服がある場合の手段を順に整理します。
交際相手が対象になるのは「生活の本拠を共にする」関係
DV防止法の保護命令は、もともと配偶者(事実婚を含みます)の間の暴力を対象とした制度です。2014年1月からは、生活の本拠を共にする交際相手、いわゆる同棲相手からの暴力にも適用が広がりました(DV防止法28条の2)。
裏を返すと、同棲していない交際相手は、この制度の対象になりません。それぞれが自宅を持ち、ときどき泊まりに行く程度の関係であれば、保護命令ではなく、ストーカー規制法や刑法の暴行罪・脅迫罪などで扱われることになります。どの法律が問題になるのかはストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で、同棲の有無による違いは交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応で解説しています。
また、同棲を解消した後でも、同棲中に受けた暴力や脅迫を理由に申し立てることはできます。反対に、同棲を解消した後に初めてあった言動だけを理由とする申立ては、この制度の対象外とされています。申立書に書かれた出来事がいつのものか、その時点で同棲していたかは、最初に確かめておきたい点です。
対象になる言動の範囲
2024年4月の改正前は、接近禁止命令などの申立てができるのは、身体に対する暴力か、生命・身体に対する脅迫を受けた場合に限られていました。改正後は自由・名誉・財産に対する脅迫も加わり、発令の要件も「生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に改められています。内閣府は、外出しようとすると怒鳴る、性的な画像を拡散すると告げる、キャッシュカードを取り上げると告げる、といった行為を対象になり得る例として挙げています。
なお、退去等命令については、身体に対する暴力または生命・身体に対する脅迫を前提とする従来の枠組みが維持されています。何が申立ての理由とされているかによって、出る可能性のある命令の範囲も変わります。
保護命令の種類と期間
保護命令には次のような種類があり、申立人が求めた範囲で裁判所が判断します。
| 命令の種類 | 主な内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 被害者への接近禁止命令 | 申立人の身辺へのつきまといや、住居・勤務先など通常いる場所の付近のはいかいを禁止 | 1年 |
| 電話等禁止命令 | 面会の要求、連続した電話・メール・SNSの送信、緊急時以外の深夜早朝の連絡、GPSによる位置情報の無承諾取得などを禁止 | 接近禁止命令の期間内 |
| 子・親族等への接近禁止命令 | 申立人と同居する未成年の子や、申立人の親族などへの接近を禁止 | 接近禁止命令の期間内 |
| 退去等命令 | 同居していた住居から退去させ、その付近のはいかいを禁止 | 原則2か月(一定の場合は6か月) |
電話等禁止命令や、子・親族等への接近禁止命令は、被害者への接近禁止命令と併せて、またはすでに出ている場合でなければ発令されません。退去等命令の6か月の特例は、住居の所有者または賃借人が申立人だけである場合のものです。
裁判所から書類が届いたら確認すること
申立てがされると、裁判所から相手方に、審尋期日の呼出状と申立書・証拠の写しが送られてくるのが一般的です。保護命令は原則として、口頭弁論または相手方が立ち会うことのできる審尋の期日を経て発令されます(DV防止法14条1項)。つまり、申し立てられた側にも言い分を述べる機会があります。ただし、その期日を待っていては申立ての目的を達することができない事情があるときは、審尋を経ずに発令されることもあります。
期日は申立てから比較的短い期間で指定されることが多く、準備に使える時間は限られます。書類が届いたら、まず次の点を確かめておきましょう。
- 審尋の日時と場所、答弁書などの提出期限。
- 申立人が求めている命令の種類(接近禁止命令だけか、退去等命令も含むか)。
- 申立書に書かれた出来事の日時と、その時点で同棲していたかどうか。
- 申立人が提出している証拠(写真、診断書、メッセージ、録音など)の中身。
- 警察や配偶者暴力相談支援センターに事前に相談したという記載の有無。
保護命令の申立てには、原則として警察や配偶者暴力相談支援センターへの事前の相談が必要とされ、相談していない場合は、公証人の面前で宣誓した供述書を添付することになっています。裁判所は相談先に、相談の状況を記載した書面の提出を求めることができます。相談の記録が裁判所に届いていることを前提に、準備を進めることになります。
審尋までに準備しておきたいこと
審尋では、裁判官が、申立書に書かれた事実や提出された証拠について相手方の意見を聞きます。限られた時間で言い分を伝えるために、次の準備をしておきましょう。
事実を「認める」「違う」「覚えがない」に仕分ける
申立書の記載をひとつずつ読み、事実として認める部分、事実と違う部分、覚えがない部分に分けていきます。一部は事実で一部は誇張されている、という申立ても少なくありません。全部をまとめて否定すると、事実の部分まで含めて説明の信用性が問われるおそれがあります。手が出たこと自体は認めつつ、回数や程度、前後の経緯が違う、といった形で具体的に示すほうが伝わりやすくなります。
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発令の要件にかかわる事情を整理する
保護命令は、過去に暴力などがあったというだけで発令されるものではなく、今後さらに生命や心身に重大な危害を受けるおそれが大きいと認められることが必要です。すでに別々に暮らしていて連絡も途絶えている、申立人の転居先を知らない、関係の解消について話がついている、といった事情は、この「おそれ」の判断にかかわり得ます。
また、同棲の実態も整理しておきます。住民票の住所、賃貸借契約の名義、生活費の負担の仕方、一緒に暮らしていた期間などは、対象となる関係にあたるかどうかを判断する材料になります。
答弁書と手持ちの資料をそろえる
言い分は答弁書や陳述書の形で書面にまとめ、裏付けになるメッセージのやり取りなどを添えて提出します。事前に書面で整理しておくと、審尋の場で伝えたいことを漏らさずに済みます。身に覚えのない内容が含まれている場合の考え方は、【男女トラブル】「交際中に暴力を受けた」と言われたが身に覚えがないもあわせてご覧ください。
審尋の前に申立人へ連絡しない
「誤解を解きたい」「取り下げてほしい」と、申立人に直接連絡したくなるかもしれません。しかし、申立て後の連絡は、つきまといや圧力と受け取られ、命令が必要な事情として扱われるおそれがあります。伝えたいことは書面で裁判所に提出するか、弁護士を通じるようにしてください。
刑事事件としても向き合う必要がある理由
保護命令は地方裁判所が出す決定であり、発令されたこと自体が前科になるわけではありません。ただ、刑事手続と無関係とはいえない場面がいくつかあります。
- 保護命令に違反すると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金に処せられることがあります。
- 保護命令が発令されると、裁判所から警察本部長などに通知され、警察もその内容を把握します。
- 申立ての理由となった暴力について被害届が出ていれば、保護命令の手続とは別に、暴行罪や傷害罪として捜査が進むことがあります。
- 保護命令の手続で提出した書面は記録に残るため、刑事手続での説明と食い違わないように整理しておく必要があります。
警察から事情を聞きたいと連絡があった場合の対応は警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応で、被害届が出ている場合に示談で何を取り決めるのかは被害届を出された|示談で何を取り決めるのかで解説しています。
発令された後に避けたい行動
保護命令が出た後は、決定書に書かれた命令の内容と期間を正確に把握し、違反と受け取られる行動を避けることが大切です。命令の種類にもよりますが、一般に次のような行動は控える必要があります。
- 申立人の住居や勤務先の付近を歩き回ったり、待ち伏せしたりすること。
- 面会を求めたり、連続して電話・メール・SNSのメッセージを送ったりすること。
- 緊急の場合以外に、深夜や早朝に連絡すること。
- 申立人の承諾なく、GPSなどで位置情報を取得すること。
- 命令の対象になっている子や親族に近づくこと。
気をつけたいのは、申立人のほうから連絡が来たり、会おうと誘われたりした場合です。保護命令は相手方に向けた命令であり、申立人から誘われたからといって違反にならないとは限りません。関係を修復したいという話が出ている場合でも、命令が効力を持っている間は応じず、後で述べる取消しの手続を検討するほうが安全です。共通の知人に伝言を頼むことも、内容や頻度によっては問題視されるおそれがあります。
退去等命令が出た場合
退去等命令が出ると、命令の期間中は同居していた住居から出て、その付近をはいかいしないことが求められます。自分が賃貸借契約の名義人であっても、この点は変わりません。生活に必要な荷物の持ち出しや、家賃・光熱費の負担、期間が過ぎた後の住まいについては、申立人と直接やり取りせず、弁護士を通じて段取りを決めるのが現実的です。
発令に不服がある場合の手段
発令された内容に納得できない場合や、事情が変わった場合には、次のような手段があります。
即時抗告
保護命令の発令に不服があるときは、即時抗告をすることができます(DV防止法16条)。期間は決定の告知を受けた日から1週間とされているため、発令後すぐに検討する必要があります。即時抗告をしても、保護命令の効力は当然には止まりません。効力を止めるには別に効力の停止を求める必要があり、命令の取消しの原因となることが明らかな事情を示した場合に限って認められます。
取消しの申立て
保護命令の相手方は、裁判所が申立人に異議がないことを確認できた場合に、保護命令の取消しを求めることができます。時期の条件があり、退去等命令は効力が生じた日から2週間、接近禁止命令などは3か月を経過した後でなければ申し立てられません。申立人の意思を確認するのは裁判所ですので、相手方から申立人に「異議を出さないでほしい」と直接頼むことは避けてください。
弁護士に相談するメリット
保護命令の手続は、書類が届いてから審尋までの期間が短く、刑事手続と並行することもあります。弁護士に相談することで、次のような対応が可能になります。
- 申立書と証拠を読み、認める部分と争う部分を整理したうえで答弁書を作成できます。
- 審尋に同行し、裁判官からの質問に備えることができます。
- 暴行・傷害として捜査が進んでいる場合に、刑事手続と保護命令の手続を一体として見通すことができます。
- 荷物の引き取りや金銭の清算など、申立人との調整が必要な事項について窓口を担えます。
- 即時抗告や取消しの申立てを、期限を踏まえて検討できます。
保護命令を申し立てられた段階は、手続が短期間で進む一方で、ここでの対応がその後の刑事手続や生活の立て直しにも影響しやすい時期です。届いた書類を手元に置いたまま一人で抱え込まず、審尋の前に事実関係を整理しておくことをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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