ホテル・旅館の備品を持ち帰った|どこからが窃盗か
警察からストーカー規制法に基づく警告を受け、その日から相手への連絡を一切やめた。それでも「この先、相手から訴えられることはあるのか」という不安が消えない、というご相談を受けることがあります。警告に従ったことには意味がありますが、それによって警告より前の行為がなかったことになるわけではありません。この記事では、警告に従った後に残る「刑事」と「民事」の2つの可能性と、今のうちに整えておけることを整理します。
本記事は、2026年10月時点の法令(2025年12月30日に施行された改正ストーカー規制法を含む)をもとに記載しています。個別の事情によって見通しは変わりますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
警告に従ったことの意味と、残る可能性
警告そのものは処罰ではない
ストーカー規制法の警告は、つきまとい等をやめるよう警察が求める措置であり、刑罰ではありません。警告を受けたことで前科がつくこともありません。警告に従って行為をやめれば、禁止命令や、警告後の行為を理由とする検挙に進む可能性は下がります。
一方で、警告は「これまでの行為を不問にする」という決定ではありません。警告の前に行われた行為について、刑事手続や損害賠償の請求が後から行われる余地は、制度上残っています。2025年の法改正で、被害者の申出がなくても警察が職権で警告できるようになりましたが、この点はどちらの警告でも同じです。
「訴える」には刑事と民事の2つの意味がある
相手から「訴える」と言われる場合、その中身は大きく2つに分かれます。どちらを想定するかで、見通しも備え方も変わります。
| 区分 | 主な中身 | 判断する機関 | 主な時間の区切り |
|---|---|---|---|
| 刑事 | 告訴・被害届をきっかけとする捜査、起訴 | 警察・検察・裁判所 | 公訴時効(ストーカー行為罪は3年) |
| 民事 | 慰謝料などの損害賠償請求、接近禁止の仮処分 | 当事者間の交渉・裁判所 | 消滅時効(原則3年・行為から20年) |
なお、ストーカー規制法の基本的な流れは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで解説しています。
刑事手続に進む可能性|警告より前の行為が問われる場面
ストーカー行為罪(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)は、警告を受けたかどうかを要件としていません。警告より前に、同じ相手に対してつきまとい等を繰り返していれば、その行為自体が罪に問われる可能性があります。また、現在のストーカー行為罪は告訴がなくても起訴できる罪とされています。
もっとも、警告後に行為が止まり、相手の生活が落ち着いた場合には、それ以上の手続に進まないまま終わることもあります。どちらに進むかは、警告前の行為の中身や相手方の意向によって変わります。刑事手続に進みやすいと考えられる事情としては、次のようなものがあります。
- 警告前の連絡や訪問の回数が多く、期間も長いこと。
- 自宅への押しかけや待ち伏せなど、相手が身の危険を感じやすい行為が含まれていること。
- 脅すような言葉や、名誉を傷つける内容、性的な画像の送付など、別の罪にも当たり得る行為が含まれていること。
- 相手方が告訴や被害届の提出をはっきり望んでいること。
- 警告の後に、一度でも連絡や接近をしてしまったこと。
警告前のやり取りが1回だけだった場合など、そもそも「反復」といえるかが問題になる場面もあります。この点は連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いをご覧ください。
時間が経ってから連絡が来ることもある
ストーカー行為罪の公訴時効は3年です。警告からしばらく経ってから、警察から事情を聞きたいと連絡が来ることもあります。脅迫や住居侵入、名誉毀損など別の罪に当たる行為があった場合は、罪名ごとに期間が異なります。名誉毀損のように告訴がなければ起訴できない罪では、被害者が犯人を知った日から6か月という告訴の期間もあります。
捜査の時期の考え方については【刑事事件】事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方で、前科がつくかどうかの分かれ目については【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合で詳しく扱っています。
民事で損害賠償を求められる可能性
請求され得る項目
つきまとい等によって精神的な苦痛や出費が生じた場合、相手は不法行為に基づく損害賠償を求めることができます。請求の項目としては、慰謝料のほか、転居費用、防犯設備の費用、通院費、仕事を休んだ分の収入などが挙げられることがあります。
警告に従ったことで、それまでの行為の責任が消えるわけではありません。ただし、行為がいつ止まったか、どのくらいの期間続いたかは、損害額を評価する際に考慮される事情の一つです。警告の後に一切接触していないという事実は、請求の範囲や金額を話し合う場面で意味を持つことがあります。
時効と接近禁止の仮処分
損害賠償の請求権は、原則として相手が損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります。時効の数え方については男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかも参考になります。
また、相手が裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てることもあります。仮処分では、今後も接近されるおそれがあるかという「必要性」が問われるため、警告後に行為が止まっていることは、その判断に影響する事情になり得ます。
請求はどのような形で届くか
民事の請求は、多くの場合、相手の弁護士からの通知書(内容証明郵便など)で始まります。交渉がまとまらなければ、裁判所から訴状が届くこともあります。刑事と民事が並行して進む場合の考え方は【刑事事件】刑事事件と同時に民事で訴えられた|並行する手続の優先順位で整理しています。
請求や連絡が届いたときに避けたい対応
警告に従ってきた努力が、その後の一つの行動で崩れてしまうことがあります。次のような対応は控えることをおすすめします。
- 弁解や謝罪、金額の交渉のために、相手本人へ直接連絡すること。
- 共通の友人や家族を通じて、自分の言い分を伝えてもらうこと。
- 相手から届いた連絡に、事前に考えないまま返信すること。
- SNSで経緯を説明したり、相手に反論したりすること。
- 届いた通知書や訴状を、そのままにしておくこと。
謝罪の気持ちから連絡したくなる方は少なくありませんが、その連絡自体が新たなつきまとい等と受け取られるおそれがあります。詳しくは【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由をご覧ください。相手から連絡が来た場合の考え方は【ストーカートラブル】相手から先に連絡が来た|返信したら違反になるのかで扱っています。
相手の弁護士への回答は、本人への連絡とは区別される
相手に弁護士がついた場合、その弁護士に宛てて請求への回答をすることは、通常の交渉の一部であり、相手本人への連絡とは区別して考えられます。ただし、書面の中で相手への気持ちを書き連ねるなど、内容によっては誤解を招くこともあります。代理人を通じた対応の進め方は【刑事事件】被害者の代理人から連絡が来た|加害者側の対応も参考にしてください。
今のうちに整えておけること
まだ何も届いていない段階でも、手元の情報を整理しておくと、いざというときに落ち着いて対応しやすくなります。
- 警告書や、警察で作成した書面の控え、警告を受けた日付。
- 警告より前に自分がした連絡や訪問の内容を、時系列でまとめたメモ。
- 警告の後に一切連絡していないことが分かる、送信履歴などの記録。
- 警告の後に相手側から届いた連絡があれば、その記録。
送信履歴などは、自分に不利に見える内容であっても削除せずに残しておくことをおすすめします。後から削除すると、経緯の説明が難しくなるおそれがあります。
また、相手方との示談を検討する場面もあります。示談では、謝罪と賠償に加えて、今後接触しないことや、この件の清算を確認する条項を取り決めることが一般的です。ただし、示談に応じるかどうかは相手方の判断であり、加害者側の本人が直接申し入れることは避け、弁護士を通じて行うのが適切です。
よくあるご質問
警告に従っていれば、逮捕されることはありませんか
警告後に行為をやめていれば、逮捕の可能性は下がると考えられます。ただし、警告前の行為の内容によっては捜査が行われることもあり、可能性がないとまではいえません。逮捕は逃亡や証拠隠滅のおそれがあるときに行われる手続であり、生活が安定していて呼び出しに応じていることは、判断の上で考慮される事情になります。
警告を受けたことは前科になりますか
警告は刑罰ではないため、前科にはなりません。ただし、警察には警告をした記録が残ります。その後に同じ相手との間で問題が起きた場合には、その記録が判断の材料になることがあります。
相手から「訴える」と言われました。自分から示談を持ちかけてもよいですか
示談を検討すること自体は選択肢の一つですが、ご本人が直接連絡することは避けてください。示談の申入れであっても、警告の後の接触として問題視されるおそれがあります。弁護士が窓口となり、相手方や相手方の代理人と話し合う形が一般的です。
何年たてば、訴えられる心配はなくなりますか
刑事ではストーカー行為罪の公訴時効が3年、民事の損害賠償は原則として3年(行為から20年)が一つの目安です。ただし、どの時点から数えるか、ほかの罪に当たる行為があるかによって期間は変わるため、一律にはいえません。
警告に従って連絡をやめたことは、今後の見通しを考える上で大切な事実です。一方で、警告前の行為の内容によっては、刑事・民事のいずれかの手続が後から始まることもあります。不安を一人で抱えたまま相手に連絡してしまう前に、手元の記録をもとに見通しを確かめておくことが、結果的にご自身を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


