【ストーカートラブル】元配偶者からのつきまとい|子の面会を口実にされる
この記事は、2026年10月時点の「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(令和7年法律第83号による改正を反映)と、禁止命令をめぐる一般的な実務の運用をもとに、禁止命令や警告を受けている側の方に向けて書いています。実際の扱いは、命令書の記載や個別の事情によって変わります。
禁止命令を受けてから連絡を断っていたのに、ある日、相手のほうからLINEが届いた。「元気にしてる?」「一度だけ話せないかな」。命令を出してもらったのは相手なのだから、返事をしても問題ないのではないか。そう考えて、返信の文面を打ちかけている方もいるかもしれません。
結論からいえば、相手から先に連絡が来たことは、返信してよい理由にはなりません。禁止命令は命令を受けた人に向けられたものであり、相手の連絡によって効力が止まる仕組みはないためです。ただし、返信がすべて同じように扱われるわけでもありません。
この記事では、相手から連絡が来たときに返信が違反と評価されるかどうかの考え方と、返信せずに済ませるための具体的な対応の順序を整理します。禁止命令の罰則や有効期間、延長の仕組みは禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で解説していますので、あわせてご覧ください。
相手から連絡が来ても、命令の効力は変わらない
命令を受けているのは自分だけ
禁止命令は、都道府県公安委員会が、つきまとい等をした人に対して「更に反復して当該行為をしてはならない」などと命じる行政処分です(ストーカー行為等の規制等に関する法律5条1項)。命令の名宛人は命令を受けた人だけで、命令を出してもらった相手が連絡してくることを禁じるものではありません。
そのため、相手からの連絡そのものは、相手にとっては違反にも何にもなりません。一方で、命令を受けた側は、相手の連絡があってもなくても、命令の内容に従う立場にあります。命令の効力は、相手の行動ではなく、公安委員会の判断によって決まっています。
「先に連絡してきたのは相手」は例外として定められていない
法律には、相手から連絡があった場合に命令の効力を止めるような規定はありません。また、相手が「もう怒っていない」「連絡してもいい」と言ったとしても、それで命令が取り消されるわけではありません。命令は当事者どうしの合意で消えるものではなく、有効期間の経過や公安委員会の判断によってはじめて終わります。
「相手が許してくれたから」と考えて返信を重ねると、後になって命令違反として扱われるおそれがあります。
返信が違反と評価されるかどうかの考え方
物差しは「命令の原因となった行為を繰り返したか」
罰則の対象になるのは、禁止命令のうち「更に反復して当該行為をしてはならない」という1号の命令に違反した場合です(同法19条1項・20条)。警察庁の解釈運用通達は、違反の認定について、その行為が禁止命令の原因となった行為の反復と評価できる場合に違反を認定するとしています。
つまり、問われるのは「誰が先に連絡したか」ではなく、自分の返信が、命令の原因になった行為と同じ性質のものかどうかです。返信の内容によって、評価の傾向は次のように分かれます。
| 返信の内容 | 評価の傾向 |
|---|---|
| やり直したい、会いたい、気持ちを伝える | 命令の原因となった行為と同じ性質と見られやすい |
| 相手を責める、説明や謝罪を求める | 面会や義務のないことの要求、乱暴な言動として扱われることがある |
| 荷物の返却など、用件だけを伝える | 性質は異なりうるが、本人どうしで連絡すること自体に疑いを招くおそれがある |
もっとも、この区別は一つの目安にすぎません。どの返信がどう評価されるかを最終的に判断するのは、警察や検察、裁判所です。自分では用件だけのつもりでも、文面の一部やそれまでの経緯から、好意や恨みの感情によるものと受け取られることがあります。目的の要件については「恋愛感情ではなかった」と主張したい|目的要件を欠く場合で詳しく扱っています。
1回の返信でも安心はできない
禁止命令に違反して反復した結果、ストーカー行為に至った場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、それ以外の違反は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています(同法19条・20条)。1回だけの返信であっても、20条の違反として扱われる余地は残ります。
また、1回のつもりの返信が、相手からの返事を呼び、やり取りが続いていくことは珍しくありません。やり取りが重なるほど、「反復」と評価される材料が増えていきます。1回の連絡がどう扱われるかは連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いもご参照ください。
相手の気持ちは後から変わることがある
相手が自分から連絡してきたときの気持ちが本心であったとしても、その後に考えが変わることはあります。後で相手が警察に相談した場合、確認されるのは主に、命令を受けた後に自分が何を送ったかという記録です。
さらに、連絡が本当に相手本人からのものかどうかを、画面の上だけで確かめるのは難しい場合があります。家族や知人が本人の端末から送っていることや、別のアカウントからの連絡であることも考えられます。
連絡が来たときの対応の順序
- 返信はせず、そのままにしておきます。
- 既読がついたかどうかは気にせず、届いたメッセージや着信の記録を消さずに保存します。
- 保存を終えてから、必要に応じて通知を切る、ブロックするなどの設定をします。
- 弁護士に相談し、担当の警察署に連絡があったことを伝えるかどうかを検討します。
- 相手に伝えなければならない用件があれば、弁護士を通じて伝えます。
記録は「消さずに残す」が基本
相手からの連絡は、後になって経緯を説明するときの大切な材料になります。メッセージの本文だけでなく、送信日時、相手のアカウント名や電話番号が分かる形で画面を保存しておきます。ブロックや削除をすると、アプリによっては履歴が確認しにくくなるため、保存を先に済ませるのが安全です。記録の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはも参考になります。
警察に伝えることの意味
相手から連絡が来たことを担当の警察署に伝えておくと、命令を受けた後も自分から接触していないことを示す記録が残ります。ただし、伝え方や伝える時期は事案によって異なるため、先に弁護士と相談しておくと落ち着いて対応できます。
どうしても連絡を取る必要があるとき
荷物・お金・契約の整理が残っている
相手の荷物を預かっている、貸したお金がある、携帯電話や部屋の名義が残っているなど、相手と話し合わなければならない用件が残っていることがあります。こうした用件があっても、本人どうしで直接連絡を取るのは避け、弁護士を窓口にするのが基本です。正当な用件での連絡がどう受け取られるかは【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で解説しています。
職場や学校が同じ
同じ職場や学校に通っていると、業務上の連絡がどうしても必要になる場面があります。命令書にどのような行為が書かれているかを確認したうえで、上司や学校に事情を伝え、担当や席の配置を変えてもらうなど、直接やり取りしなくて済む形を整えておくことが大切です。
相手が危険な状況を訴えてきた
「体調が悪い」「助けてほしい」といった連絡が来ると、心配になって駆けつけたくなるかもしれません。その場合も、自分で会いに行ったり返信したりするのではなく、110番や119番に通報する、相手の家族に知らせるなどの方法を取るほうが、相手の安全のためにも自分の立場のためにも安心です。
警告の段階、保釈中、保護命令の場合
警察からの警告の段階
警告に従わなかったこと自体を処罰する規定はありません。ただ、警告の後に相手とのやり取りが続けば、それが禁止命令や検挙のきっかけになることがあります。警告を受けた後の流れは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで整理しています。
保釈中・執行猶予中
保釈の条件として相手への接触が禁じられている場合、相手からの連絡に返信したことが条件違反と見られ、保釈が取り消されるおそれがあります。保釈の条件については保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるかをご覧ください。また、執行猶予中にあらためて罪に問われると、執行猶予が取り消されることがあります。猶予期間中は、相手からの連絡への対応にも特に慎重さが求められます。
裁判所の保護命令が出ている
配偶者や同居していた交際相手との関係では、配偶者暴力防止法に基づき、裁判所が接近禁止命令や電話等禁止命令を出すことがあります。こちらも命令を受けた側に向けられたもので、違反すれば2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象になります。相手からの連絡があっても命令の効力が変わらないという考え方は、禁止命令と同じです。
よくあるご質問
相手が「警察への申出を取り下げる」と言っています。返信してもよいですか
相手がそう言っていても、命令が取り消されたことにはなりません。取り下げや取消しが本当に行われたかどうかは、相手の言葉ではなく、警察や公安委員会の手続で確認する必要があります。それまでは返信を控え、弁護士を通じて確認するのが安全です。
メッセージを開いて既読をつけてしまいました。違反になりますか
届いたメッセージを読むこと自体は、こちらから何かを送る行為ではありません。既読をつけたことを気にして返信するよりも、そのまま返信をせず、記録を残しておくことのほうが大切です。
有効期間の1年が過ぎれば、返信してもよいですか
有効期間の経過後は、延長されていない限り命令の効力はなくなります(同法5条8項・9項)。ただし、相手が連絡を望んでいない状況でやり取りを求めれば、改めてつきまとい等として扱われるおそれがあります。期間が過ぎたかどうかや延長の有無が分からない場合は、まず確認から始めてください。
まとめ
- 禁止命令は命令を受けた側に向けられた行政処分で、相手から連絡が来ても効力は変わりません(同法5条1項)。
- 相手が許している、連絡してよいと言っているという事情は、法律上の例外として定められていません。
- 違反かどうかは、返信が禁止命令の原因となった行為の反復と評価できるかどうかで判断され、1回の返信でも罰則の対象となる余地があります(同法19条・20条)。
- 連絡が来たら返信せず、記録を消さずに保存したうえで、弁護士への相談と警察への報告を検討します。
- 荷物やお金の整理など必要な用件は、本人どうしではなく弁護士を通じて進めます。
相手から届いた一通の連絡に、どう応じるべきか迷うのは自然なことです。ただ、返信するかどうかを一人で決めてしまう前に、命令書の内容とこれまでの経緯を確認しておくことで、避けられる不安は少なくありません。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


