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職場が同じ元恋人とは、別れた後も業務の連絡をせざるを得ない場面があります。会議での発言、担当業務の引き継ぎ、書類の確認など、仕事上の会話を完全に避けることは難しいでしょう。一方で、相手から「話しかけないでほしい」と言われていたり、警察から警告を受けていたりすると、仕事の用件であっても声をかけてよいのか迷う方は少なくありません。
この記事では、ストーカー規制法の考え方をもとに、職場が同じ元恋人に仕事の用件で話しかけることがどう評価されうるのか、警告を受けている場合に何に気をつけるべきか、業務上の接点が残る場合の進め方を解説します。
この記事は、令和7年12月30日に施行された改正ストーカー規制法(職権による警告の創設、勤務先などによる被害者への援助の努力義務など)を反映しています。個別の事情によって評価は変わるため、具体的な判断は弁護士にご相談ください。
仕事の用件での会話は、それだけで直ちに違法になるわけではない
ストーカー規制法が規制する「つきまとい等」は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる一定の行為です。業務上必要な範囲で、必要な内容だけを伝える会話は、通常、この目的に基づくものとは考えにくく、話しかけたこと自体が直ちに規制の対象になるわけではありません。
ただし、目的は本人の内心だけで判断されるものではありません。それまでの経緯、会話の頻度や内容、場所、相手の反応などから推し量られます。別れ話がこじれていた、相手から接触を控えるよう求められていた、警告を受けているといった事情があると、「仕事の用件だった」と説明しても、相手や警察からはそのように受け取られないことがあります。
問題になるのは「仕事の用件」という名目よりも、「その会話が業務に本当に必要で、その範囲にとどまっているか」という中身だと考えておくのが実務的です。
ストーカー規制法で問われる「目的」と「行為」
つきまとい等にあたるかどうかは、目的と行為の2つの面から判断されます。職場での会話を考えるときも、この2つを分けて見ていくと整理しやすくなります。
目的 好意だけでなく、満たされなかったことへの恨みも含まれる
目的には、好意の感情だけでなく、交際を断られたことなどに対する怨恨の感情も含まれます。元恋人との関係では、未練から話す機会を探す場合だけでなく、別れ方に納得できず相手に不満をぶつけたい場合も、この目的があると評価されるおそれがあります。
業務の会話の中に、復縁を求める言葉や別れたことへの不満、私生活に関する質問が混ざると、業務のための会話だとは説明しにくくなります。
行為 職場で問題になりやすい類型
法律は、つきまとい等にあたる行為を複数の類型で定めています。職場で関係しやすいものを整理すると、次のとおりです。
| 行為の類型 | 職場で問題になりうる例 |
|---|---|
| 待ち伏せ・見張り・押し掛け・うろつき | 相手の退勤時間に合わせて出入口で待つ、相手の席や部署の周辺に用もなく立ち寄る |
| 面会・交際などの要求 | 「仕事の話がある」と言って二人きりで会う場を求める、食事に誘う |
| 行動を監視していると思わせる事項を告げる | 「今日は早く帰ったね」など、相手の行動を把握していることを伝える |
| 拒まれた後の連続した連絡 | 業務チャットや社用メールで、業務に関係のない連絡を繰り返す |
| 名誉を害する事項を告げる | 同僚の前で、交際中の出来事や相手の私生活を話題にする |
表の例は、行為の外形だけで違法かどうかが決まるものではありません。ただ、元恋人という関係があると、同じ行為でも好意や怨恨の目的があるものと見られやすい点には注意が必要です。
警告を受けている場合の考え方
警告が求めていること
警告は、つきまとい等をして相手に不安を覚えさせた人に対し、警察本部長等が、さらに反復してその行為をしてはならないと告げるものです。従来は被害者からの申出が前提でしたが、令和7年12月30日施行の改正により、申出がなくても警察の職権で警告できるようになりました。
法律上、警告で求められるのはつきまとい等を繰り返さないことであり、仕事の会話のすべてを禁じるものではありません。もっとも、警告の際に警察から「今後は連絡を控えるように」と口頭で指導を受けることもあります。その指導の後に話しかければ、仕事の用件であっても、相手や警察からは警告に従っていないと受け取られるおそれがあります。
警告そのものに罰則はないが、次の手続の判断材料になる
警告に従わなかったこと自体に刑罰はありません。しかし、警告後も接触が続いたと相手が申し出れば、公安委員会による禁止命令の判断材料になります。
また、つきまとい等を反復し、相手の身体の安全や住居等の平穏、名誉が害される不安、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行うと「ストーカー行為」にあたり、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となります。警告を受けた後の会話は、それまで以上に「業務に必要だったか」が問われやすくなると考えておくのが無難です。
禁止命令が出ている場合
禁止命令が出ると、命令で定められた行為をしてはならず、違反すると刑罰の対象になります。禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、それ以外の禁止命令違反は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。禁止命令の効力は1年で、必要があると判断されれば延長されることがあります。
禁止命令の内容は事案ごとに定められるため、職場での業務上のやり取りがどこまで許されるかは、命令の文言と勤務先の状況を照らし合わせて確認する必要があります。自分の判断だけで話しかける前に、弁護士に相談しておくことをおすすめします。
「仕事の用件」と受け取られにくくなる場面
名目が仕事であっても、次のような事情があると、業務上の会話とは受け取られにくくなります。
- ほかの担当者でも対応できる用件なのに、あえて相手に話しかけていること。
- 業務の連絡に、近況を尋ねる言葉や私的な話題を付け加えていること。
- 相手が一人になる時間や場所を選んで声をかけていること。
- 返事がないのに、同じ用件で何度も話しかけたり連絡したりしていること。
- 業務時間外や、個人のLINE・電話を使って仕事の連絡をしていること。
- 会話の最後に、別れたことや今の気持ちに触れていること。
反対に、会議など共有の場での発言、上司やほかの同僚を交えたやり取り、社内の正式な経路での連絡は、業務上の必要性を説明しやすい形といえます。
業務上の接点が残る場合の進め方
連絡の経路を会社の正式な形に寄せる
業務の連絡は、個人の連絡先ではなく、社用メールや業務チャットの共有チャンネルを使い、必要に応じて上司や関係者を宛先に加えると、内容が業務に限られていることを第三者が確認できます。口頭で伝える必要がある場合も、会議の場や、ほかの人が同席する場面を選ぶほうが誤解を招きにくくなります。
担当や配置の調整を会社に相談する
同じ部署で日常的に顔を合わせる場合、本人どうしの気遣いだけで接点を減らすには限界があります。上司や人事に相談し、担当の割り振りや座席、連絡の窓口を調整してもらうことが考えられます。
改正ストーカー規制法では、被害者を雇用する事業者も、被害者への援助に努める主体に加えられました。相手が会社に相談している場合、会社が配置や業務の分担を見直すことがあります。その際は会社の判断に沿って対応することが、結果として自分の立場を守ることにもつながります。
なお、警告を受けたことを会社に報告すべきかどうかは、法律で一律に義務づけられているものではなく、就業規則の定めや職場の状況によって考え方が分かれます。報告するかどうか、どこまで伝えるかは、弁護士と相談して決めるとよいでしょう。
自分の側でも記録を残す
後になって「仕事を口実に話しかけてきた」と言われたときに備え、業務上のやり取りの日時や内容、同席者、その用件が必要だった理由を簡単にメモしておくと、説明の材料になります。社用メールやチャットの履歴も、削除せずに残しておきましょう。
避けたほうがよい対応
気まずさを解消したい、誤解を解きたいという気持ちから取った行動が、かえって問題を大きくすることがあります。次のような対応は控えたほうがよいでしょう。
- 仕事の用件を伝えるついでに、謝罪や関係修復の気持ちを伝えること。
- 相手の同僚や上司を通じて、相手の様子や気持ちを聞き出すこと。
- 相手が会社や警察に相談したことを責めたり、相談を取り下げるよう求めたりすること。
- 相手に避けられていることへの不満を、周囲に話すこと。
- 警告や禁止命令の内容を確かめないまま、「仕事だから大丈夫」と判断して話しかけること。
謝罪であっても、相手が接触を望んでいない状況では、連絡そのものが負担になることがあります。どうしても伝えたいことがある場合は、直接ではなく、代理人を通す方法を検討します。
弁護士に相談する意味
弁護士に相談すると、警告の書面や禁止命令の内容を確認したうえで、職場での業務上のやり取りをどの範囲にとどめればよいかを、具体的な勤務状況に即して整理できます。会社にどう説明するか、配置の調整をどう相談するかについても、事情に応じた助言を受けられます。
また、相手方が応じる場合には、弁護士が代理人として、業務連絡の方法や接触を控える範囲を取り決め、合意書の形に残すよう交渉することも考えられます。警察から呼び出しを受けたときの対応も含め、早い段階で方針を立てておくことで、仕事を続けながら問題を広げないための手立てを選びやすくなります。
よくあるご質問
相手から仕事のことで話しかけられたら、返事をしてもよいですか
業務上の質問に業務の範囲で答えることは、通常、問題になりにくいと考えられます。ただし、そこから私的な話題に広げたり、返事をきっかけに自分から連絡を重ねたりすると、評価が変わるおそれがあります。警告や禁止命令を受けている場合は、答え方も含めて弁護士に確認しておくと安心です。
挨拶をするだけでも問題になりますか
職場で周囲と同じように交わす通常の挨拶が、それだけで規制の対象になることは考えにくいでしょう。もっとも、相手が明確に接触を拒んでいるのに、あえて近づいて挨拶を繰り返すような形になると、受け止め方は変わります。
仕事に支障が出るので、相手に業務連絡のルールを提案してもよいですか
提案そのものが新たな接触になるため、本人から直接持ちかけるのは慎重に考えたほうがよいでしょう。上司を通じて業務上の連絡方法を決めてもらうか、弁護士を通じて相手方に提案する方法が考えられます。
警告を受けたら、退職や異動をしなければならないのですか
警告を受けたことだけで、退職や異動が法律上求められるわけではありません。ただし、会社が職場の秩序や従業員の安全への配慮から配置を見直すことはあります。会社の処遇に疑問がある場合も含めて、早めに相談しておくと選択肢を整理しやすくなります。
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まとめ
職場が同じ元恋人に仕事の用件で話しかけること自体は、業務に必要な範囲にとどまっていれば、直ちにストーカー規制法の対象になるものではありません。ただし、警告を受けている場合や相手が接触を拒んでいる場合は、会話の必要性や方法がより厳しく見られます。連絡の経路を会社の正式な形に寄せ、担当の調整を相談し、判断に迷う場面では自分だけで決めずに専門家の意見を聞くことが、仕事を続けながら問題を広げないための現実的な進め方です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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