介護中の行為が虐待と言われた|高齢者虐待防止法と刑事責任
別れた後、元恋人がSNSに「ずっとストーカーされていた」と投稿し、共通の知人から「本当なの?」と連絡が来た。警察から一度事情を聞かれただけなのに、話が膨らんで広まっている。ストーカーだと名指しされた側から、このようなご相談をいただくことがあります。反対に、元恋人の側から「被害を打ち明けただけなのに名誉毀損だと言われた」と戸惑う声を聞くこともあります。
「事実と違う投稿なら名誉毀損で訴えられる」という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、元恋人との間には交際中から別れ際までのやり取りがあり、場合によっては警察の関与もあります。そのため、名誉毀損にあたるかどうかの見通しも、こちらから動くときの手段の選び方も、見知らぬ相手からのネット上の誹謗中傷とは事情が異なります。
この記事では、元恋人に「ストーカーされた」とSNSで広められた方に向けて、最初に整理しておきたいこと、名誉毀損にあたるかを分ける事情、削除・告訴・損害賠償といった手段の順序、元恋人との関係だからこそ避けたい動きを解説します。SNS上で反論してよいかという点は、【ストーカートラブル】相手が「ストーカーされた」とSNSに書いている|反論してよいかで詳しく扱っています。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。2025年6月の刑法改正により懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されており、本文中の法定刑はこれを反映しています。
最初に整理しておきたい3つのこと
広められたと知った直後は、すぐに何か言い返したくなるものです。しかし、どの手段を選ぶにしても、出発点になるのは「何が、どこまで広がったのか」と「自分の側の事実関係」の整理です。
投稿と、広がった先を分けて記録する
まず、元恋人本人の投稿を、投稿日時・アカウント名・URLが分かる形で画面ごと保存します。そのうえで、その投稿を引用・転載したアカウント、コメント欄の書き込み、共通の知人から届いたメッセージなど、広がった先も別に記録しておきます。投稿は相手がいつでも消せるため、削除される前の記録が後の手続の土台になります。
ただし、記録のために相手のアカウントを何度も見に行くことは控えたほうが安全です。記録はできるだけ一度にまとめて行い、相手のSNSを見続ける状態にならないよう気をつけてください。
「ストーカー」という言葉の中身を確かめる
投稿が「ストーカーみたいで怖かった」という感想にとどまるのか、「家の前で待ち伏せされた」「警察に相談して警告してもらった」といった具体的な出来事を書いているのかで、法的な位置づけが変わります。具体的な事実を示して社会的評価を下げる表現は名誉毀損罪(刑法230条1項)、具体的な事実を伴わない侮辱的な評価は侮辱罪(同法231条)の問題として検討するのが基本です。
自分の側の事実関係を棚卸しする
別れた後に何回連絡したか、相手から連絡をやめるよう言われたことはあるか、警察から電話や警告を受けたことはあるか。答えにくい点も含めて、時系列で書き出しておくことをおすすめします。投稿の中に、事実と違う部分と実際にあった部分が混ざっていることは珍しくありません。どこが事実と違うのかを具体的に特定できるかどうかが、この後の手段の選び方を左右します。
元恋人の投稿が名誉毀損にあたるかを分ける事情
名誉毀損が成立するための一般的な考え方は、【男女トラブル】別れた相手が共通の友人に悪口を広めている|名誉毀損になる線でも整理しています。ここでは、ストーカー扱いという場面で問題になりやすい点に絞って見ていきます。
内容が真実でも名誉毀損は成立し得る
刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合、その事実の有無にかかわらず処罰すると定めています。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。投稿の内容が真実かどうかは、名誉毀損が成立するかどうかの入口では問われません。
内容が真実である場合に責任を免れるのは、その事実が公共の利害に関わり、もっぱら公益を図る目的で投稿され、真実であることの証明があったときです(同法230条の2第1項)。私的な交際をめぐるトラブルは、公共の利害に関する事実とは認められにくいのが一般的です。もっとも、投稿の経緯や内容によって評価は変わり得るため、個別の検討が必要になります。
警察から警告を受けていた場合の受け止め方
ストーカー規制法に基づく警告を受けていたとしても、それは行政上の措置であり、刑事罰や前科ではありません。警告の位置づけについては、警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで解説しています。
一方で、警告を受けた事実がある場合、実際に削除や損害賠償を求める場面では、投稿に至った経緯や目的も考慮されます。相手が自分の受けた被害を事実の範囲で語っている投稿を問題にするのは、容易でないことがあります。争点にしやすいのは、実際の出来事を超えた誇張や、事実と異なる部分です。たとえば「家に侵入された」「何度も脅された」など、実際にはなかった出来事が書かれていれば、その部分を特定して争うことになります。
投稿を広めた第三者の責任
元恋人の投稿を引用して「この人に気をつけて」とコメントしたり、転載したりした第三者についても、表現の内容によっては責任が問題になり得ます。拡散行為がどこまで責任を負うかは、引用リポスト・いいねは名誉毀損になるのか|拡散行為の責任をご覧ください。ただし、関わった人すべてを相手にすると時間も費用もかかります。まずは元の投稿と、影響の大きい拡散に絞って考えるのが現実的です。
取れる手段と、動かす順序
ストーカー扱いの投稿に対して取れる手段は、大きく分けて削除の申出、投稿者の特定、刑事告訴、民事の請求の4つです。すべてを同時に進める必要はなく、拡散の状況と、何を優先したいかに応じて順序を決めます。
削除を求める|プラットフォームへの申出
広がりを止めることを優先するなら、まず投稿が掲載されているSNSの運営会社への削除申出を検討します。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、利用者の多い大規模なプラットフォーム事業者には、削除申出の窓口を整えて公表することや、申出から原則7日以内に削除するかどうかを判断して申出者に通知することが義務付けられました。制度の詳細は、【男女トラブル】削除申出への回答期限|以前と何が違うのかで解説しています。
なお、削除を申し出る前に、前述の記録を済ませておくことが大切です。削除された後では、告訴や損害賠償を求める際の証拠が手元に残らないおそれがあるためです。
投稿者を特定する必要があるか
元恋人本人のアカウントだと明らかであれば、投稿者を特定する手続が不要なことも多いでしょう。一方、匿名のアカウントで拡散されている場合や、別のアカウントを使って書き込んでいる疑いがある場合には、発信者情報開示の手続を検討します。削除と発信者の特定のどちらを先に進めるかは、【不当要求対応】拡散された後の順序|削除と発信者特定のどちらを先に動かすかで整理しています。
刑事告訴|名誉毀損は親告罪
名誉毀損罪と侮辱罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条1項)。告訴は、犯人を知った日から6か月以内にしなければなりません(刑事訴訟法235条)。元恋人による投稿の場合、投稿を知った時点で犯人を知ったと扱われることが多いため、期間には注意が必要です。告訴期間と示談の関係は、名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決で詳しく扱っています。
ただし、自分がストーカーとして相談されている立場で告訴をすると、捜査機関から相手への対抗措置と受け止められる場合もあります。告訴をするかどうかは、投稿の内容、事実と違う部分の明確さ、自分の側の事情を踏まえて判断したいところです。
民事で求める|損害賠償と名誉回復
民事では、名誉毀損による精神的苦痛について損害賠償(慰謝料)を求めることができます(民法709条・710条)。損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するための適当な処分を求めることもできます(同法723条)。認められる金額は、投稿の内容、拡散の範囲、投稿が続いた期間などによって大きく変わります。弁護士を代理人として交渉し、投稿の削除と今後同じ投稿をしない約束を合意書にまとめる形で解決を図ることもあります。
元恋人との関係だからこそ避けたい動き
ストーカーだと言われている立場では、自分を守るつもりの行動が、かえって相手の主張を裏付ける材料になってしまうことがあります。次のような動きには注意が必要です。
本人に直接「投稿を消して」と連絡する
削除を求めること自体は正当な用件です。しかし、相手から連絡を拒まれているなかで連絡を重ねると、ストーカー規制法の「つきまとい等」として扱われるおそれがあります。同法は、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的を要件としていますが、別れた直後の元恋人への連絡は、この目的があると見られやすい立場にあります。正当な用件があっても問題になる場面については、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面をご覧ください。警告や禁止命令を受けている場合は、なおさら直接の連絡は控えたほうが安全です。
SNSで言い返す・相手の私生活に触れる
事実と違うと公に反論したくなるのは自然なことです。ただ、反論の書き方によっては、こちらが名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害の責任を問われる側に回ることもあります。交際中のやり取りのスクリーンショットを載せる、相手の性格や過去を書くといった反論は、特に慎重さが求められます。反論の方法ごとのリスクは、冒頭でご紹介した記事で整理しています。
共通の知人に弁明して回る
親しい人に事情を説明すること自体は問題ありません。ただ、知人に相手への伝言を頼んだり、「投稿を消すよう伝えてほしい」と働きかけたりすると、第三者を介した接触と受け止められることがあります。また、弁明の中で相手を悪く言えば、今度はこちらの発言が名誉毀損の問題になり得ます。説明は事実に限り、相手への評価は控えるのが無難です。
よくあるご質問
名前を出されていなくても、名誉毀損を主張できますか
実名が書かれていなくても、交際していた時期や職場、写真などから、共通の知人が読めばあなたのことだと分かる書き方であれば、名誉毀損が成立する余地があります。投稿を読んだ人が、誰のことかを特定できるかどうかがポイントになります。
鍵付きのアカウントや、限られた友人向けの投稿でも問題にできますか
名誉毀損罪の「公然と」とは、不特定または多数の人が知り得る状態をいいます。閲覧できる人が限られていても、そこから外部に広がる可能性があれば公然性を認めるという考え方が、判例でとられています。鍵付きのアカウントでも、フォロワーの数や関係性によっては問題になり得るため、閲覧できる範囲も含めて記録しておくとよいでしょう。
警察から警告を受けたことがあっても、削除や賠償を求められますか
警告を受けたことがあっても、事実と異なる内容や、必要以上に社会的評価を下げる内容の投稿について、削除や賠償を求めることは考えられます。ただし、警告を受けている立場で自分から相手に連絡すると、新たなつきまとい等と見られるおそれがあります。削除の申出はプラットフォームに対して行い、相手との交渉は弁護士を通じて行うのが安全です。
まとめ
- 元恋人の投稿と、それが広がった先を分けて、日時・アカウント名・URLが分かる形で記録します。
- 投稿が具体的な事実を示しているか、感想や評価にとどまるかで、名誉毀損(刑法230条1項)と侮辱(同法231条)のどちらの問題になるかが分かれます。
- 名誉毀損は内容が真実でも成立し得ますが、投稿に至った経緯や事実と違う部分によって、取れる手段の見通しは変わります。
- 削除はプラットフォームへの申出が基本で、大規模な事業者には原則7日以内の判断と通知が義務付けられています(情報流通プラットフォーム対処法)。
- 刑事告訴は、犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑法232条1項、刑事訴訟法235条)。
- 民事では、損害賠償と名誉を回復するための処分を求めることができます(民法709条・710条・723条)。
- 本人への直接の連絡やSNSでの言い返しは、つきまとい等や新たな名誉毀損と見られるおそれがあるため控えます。
SNSでストーカー扱いされてお困りの方へ
元恋人によるストーカー扱いの投稿は、放置すれば広がり続けるおそれがある一方で、自分から動き方を誤ると相手の主張を強めてしまう難しさがあります。投稿の記録、事実と違う部分の特定、削除・告訴・損害賠償の順序の組み立てを、相手と直接やり取りせずに進めることが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


