手切れ金を請求された|支払う法的義務はあるのか
「SNSの投稿を消してほしいと申し出たのに、いつまでも返事が来ない」。以前は、こうしたご相談が珍しくありませんでした。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)によって、一定の事業者には、削除の申出に対し決められた期間内に結果を知らせる義務が課されています。
もっとも、この「期限」がどこまで及ぶのかは、あまり知られていません。すべてのサイトに期限があるわけではなく、期限が付いているのは「削除」そのものでもありません。ここを取り違えると、待つ必要のない場面で待ち続けたり、逆に期限を過ぎたことだけを理由に強い調子で申出を重ね、時間を使ってしまうことがあります。
この記事では、削除の申出に対する回答期限について、以前の制度と何が違うのかを整理します。日数だけを覚えるのではなく、「どの申出に、何日の期限が、どういう中身で付くのか」という形で押さえていただくことを目的としています。
この記事で扱うこと・扱わないこと
最初に範囲をはっきりさせておきます。
- 扱うこと=削除の申出に対する回答期限の中身と、以前との違い。
- 扱うこと=期限が付く申出と付かない申出の見分け方。
- 扱うこと=期限内に結果が届かないことがある場合の理由。
- 扱わないこと=その投稿が名誉毀損などに当たるかどうかという評価。
- 扱わないこと=発信者情報開示や仮処分の具体的な進め方。
最後の2点は、それぞれ独立した論点ですので、別の記事に譲ります。
期限が付いているのは「削除」ではなく「返事」です
決められているのは通知の期限
情プラ法は、総務大臣から指定を受けた大規模な事業者について、削除の申出を受けたときの手順を定めています。その中心にあるのが、申出を受けた日から一定の期間内に、措置を講じたのか、講じなかったのか、講じなかった場合はその理由を、申出をした人へ通知するという義務です(法25条1項)。
条文は「申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内」という書き方をしており、これを受けた施行規則が期間を7日と定めています。解説記事によって「14日」と書かれていたり「7日」と書かれていたりするのは、法律の上限と、省令が実際に定めた日数の、どちらを示しているかの違いです。現在の実務上の目安は7日と考えて差し支えありません。
削除するかどうかは各社の基準で判断される
注意していただきたいのは、7日以内に求められているのが「通知」だという点です。申し出れば7日で投稿が消える、という制度ではありません。
削除するかどうかは、事業者があらかじめ定めて公表している基準に沿って判断します(法26条)。ですから、期限内に届いた通知が「削除しない」という内容であることも当然にあり得ます。期限は、結果を知らないまま放置される状態をなくすためのもの、と理解しておくと実際の場面で迷いにくくなります。
以前は何が定められていなかったのか
窓口も返事も事業者の裁量だった
情プラ法は、以前のプロバイダ責任制限法を改正したものです。改正前の法律は、事業者が投稿を削除した場合・削除しなかった場合に、どこまで責任を負うのかという免責の範囲を定めることが中心でした。被害を受けた方が申し出る窓口を用意する義務も、その結果を知らせる義務も、条文には置かれていませんでした。
そのため、申し出たこと自体が受け付けられたのかどうかも分からない、数週間経っても音沙汰がない、削除されない理由も示されない、という状態が生じ得ました。改正は、この「返事が来ない」という部分に手を入れたものです。
以前からある「7日」は別の7日
ここで混同しやすい点があります。改正前から、条文には「7日」という日数が登場していました。事業者が申出を受けて発信者に削除への同意を尋ね、7日を経過しても反論がないときは、削除しても発信者に対する損害賠償責任を負わないという規定です(法3条2項2号。現在も残っています)。
これは、事業者が発信者との関係で責任を問われないための要件であって、被害を受けた方に返事をする期限ではありません。申出をした側から見ると、この7日は「発信者に意見を聴く時間」であり、情プラ法の7日は「自分に結果が届くまでの時間」です。同じ日数でも、向いている方向が違います。
以前と現在を並べて見る
違いを表にすると、次のようになります。
| 項目 | 以前(改正前) | 現在(情プラ法・指定事業者) |
|---|---|---|
| 申出の窓口 | 法律上の定めはなく、各社の運用次第 | 窓口を定めて公表する義務がある(法22条) |
| 申出後の調査 | 定めなし | 遅滞なく必要な調査を行う義務がある(法23条) |
| 結果の連絡 | 返事をするかどうかも各社の判断 | 原則として7日以内に通知する義務がある(法25条1項) |
| 削除しない理由 | 示されないことがあった | 講じなかった旨とその理由が通知される(法25条1項) |
| 削除の基準 | 公表は義務ではなかった | 基準を定めて公表する義務がある(法26条) |
| 運用の状況 | 外部から確かめにくかった | 年1回、実施状況を公表する義務がある(法28条) |
削除そのものを義務づける規定が置かれていない点は、以前と変わっていません。変わったのは、申出の受け皿と、結果が返ってくるまでの道筋が、法律の上で見えるようになったところです。
期限が付く申出・付かない申出
対象は指定を受けた事業者に限られる
この義務を負うのは、総務大臣から大規模特定電気通信役務提供者として指定された事業者です(法20条1項)。利用者の規模などの要件で決まり、指定を受けていないサイトには、通知の期限は課されません。
2026年8月時点で指定されているのは、次の事業者です。
- Google LLC(YouTube)。
- LINEヤフー株式会社(Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、LINEオープンチャット、LINE VOOM)。
- Meta Platforms, Inc.(Facebook、Instagram、Threads)。
- TikTok Pte. Ltd.(TikTok、TikTok Lite)。
- X Corp.(X)。
- 株式会社ドワンゴ(ニコニコ)。
- 株式会社サイバーエージェント(Amebaブログ)。
- 株式会社湘南西武ホーム(爆サイ.com)。
- Pinterest Europe Limited(Pinterest)。
指定は追加されることがあり、各社の削除申出窓口と削除基準は総務大臣に届け出られ、総務省のウェブサイトで一覧できます。申出の前に、そこで現在の窓口を確認しておくと確実です。
指定を受けていない掲示板や個人サイトについては、以前と同じく事業者の任意の対応になります。もっとも、権利侵害を知りながら放置した場合に事業者自身が責任を問われ得るという枠組みは、以前から変わっていません。返事が来ないからといって打つ手がないわけではありません。
申し出る人によっても扱いが変わる
窓口の公表から通知までの一連の規定は、権利を侵害された本人からの申出について定められたものです。本人の依頼を受けた代理人が本人のために行う申出は、通常、本人からの申出として扱われます。
これに対し、本人と関係のない第三者が「この投稿はひどい」と申し出る場合は、法律上の期限の対象としては整理されていません。ただし総務省のガイドラインは、被害者救済の観点から、そうした申出についても各条の規定に準じて速やかに対応することが望ましいとしています。第三者の通報が無視されるという意味ではありませんが、日数の見込みは変わってくると考えておくのが実際的です。
7日を過ぎることがある3つの場合
法律は、次の3つに当たるときは、期限内ではなく「遅滞なく」通知すれば足りるとしています(法25条2項)。届かない=違反、とは限らないということです。
発信者の意見を聴くことにしたとき
事業者が発信者に対し、削除に同意するかどうかを尋ねることにした場合です。先ほど触れた「7日を経過しても反論がないとき」の照会がこれに当たります。発信者側の期間が動くぶん、申出をした方への通知は後ろにずれます。
専門員に調査させることにしたとき
指定事業者は、専門的な知識経験を必要とする調査を適正に行わせるため、侵害情報調査専門員を選任することとされています(法24条)。現場の担当者が判断に迷い、この専門員による調査に回した場合も、期限の例外になります。
権利侵害に当たるかどうかが微妙な投稿ほど、この経路に入りやすいと考えられます。時間がかかっていることが、必ずしも不利な兆候とは限りません。
やむを得ない理由があるとき
災害でオフィスが被災した場合など、期間内の対応が難しい事情がある場合です。この場合には、その理由の中身も併せて通知することとされています。
もっとも、この「やむを得ない理由」は、被害者の救済という法律の目的から、限定的に解釈すべきものとされています。日常的な繁忙を理由に無制限に延ばせる仕組みではありません。
通知が届いたら、どこを見るか
削除しない場合の「理由」の書きぶり
削除しないという通知には、その理由が記載されます。総務省のガイドラインは、この理由について、申出をした方が読んで分かるように書かれることが望ましいとし、形式の不備や証拠不足を理由とする場合には、どこが不備でどの証拠が足りないのかを、再度の申出に役立つ程度に具体的に示すべきとしています。
つまり、「基準に該当しません」とだけ書かれた通知が届いたときは、そこで終わりにせず、不足している点を尋ね、資料を補って申し出直す余地があります。理由の記載は、次の一手を考えるための材料でもあります。
同じ内容を繰り返しても進まないことがある
通知の義務には例外もあり、過去に同じ内容の申出が行われていたときなど、通知をしないことに正当な理由がある場合は対象外とされています。内容を変えずに同じ申出を重ねると、この扱いになる可能性があります。
再度申し出るのであれば、前回の通知で示された不足点に対応する形にすることが大切です。投稿の特定を細かくする、事実と異なる箇所を具体的に示す、裏づけとなる資料を添える、といった補い方が考えられます。
期限を活かすための申出の整え方
同じ7日でも、申出の中身によって、届く通知は変わります。準備の段階で次の点を押さえておくと、判断がしやすい申出になります。
- 申出の前に、投稿のURL・投稿日時・アカウント名・画面全体を保存しておく。
- 削除を求める投稿は1件ずつ特定し、「一連の投稿すべて」といった書き方をしない。
- 侵害された権利(名誉、プライバシー、肖像など)と、なぜ侵害に当たるのかを分けて書く。
- 事実と異なる点があるなら、どの記載がどのように事実と違うのかを具体的に示す。
- 受付日時が分かる窓口から申し出て、その表示を控えておく。
- 通知を受け取れる連絡先を正確に記載し、受信できる状態にしておく。
窓口については、申出を受けた日時が申出者に分かるものであることが法律上求められています(法22条2項)。7日の起算点を自分の側で確かめられるようにしておく、という趣旨で使える仕組みです。
通知が届いても投稿が残っているとき
削除しないという結論が示された場合や、期限を過ぎても連絡がない場合には、次の段階を考えることになります。
- 示された理由に沿って資料を補い、改めて申し出る。
- 裁判所の手続(削除の仮処分や、発信者情報開示命令の申立て)を検討する。
- 投稿の内容によっては、警察への相談を並行して考える。
ここで一つ注意点があります。削除を求める手続と、投稿した人を特定する手続は別のものであり、特定の方は通信記録の保存期間という時間の制約を受けます。削除の結果だけを待って数か月が過ぎると、責任追及の側の選択肢が狭くなることがあります。両方を視野に入れるのであれば、早い段階で並行して準備を進めることをおすすめします。
なお、指定事業者が義務を果たしていない場合には、総務大臣による報告の求め、勧告や命令といった仕組みが用意されており、命令に従わない場合の罰則も置かれています。ただ、これは行政による監督の話であり、個別の投稿を消してもらう手続とは別のものです。
避けたい進め方
ご相談を受けていて、結果的に遠回りになりやすいと感じる進め方を挙げます。
- 期限の経過だけを理由に、同じ文面の申出を何度も送る。
- 通知が届く前に、証拠となる画面や記録を消してしまう。
- 投稿に直接反論を書き込み、やり取りが長く続く状態を作る。
- 発信者を自力で突き止めようとして、関係のない人の情報まで集める。
- 削除だけを目的に進め、責任追及に必要な資料を残さないままにする。
よくあるご質問
7日を過ぎたら削除されたと考えてよいですか
いいえ。7日は結果を知らせる期限であり、削除の期限ではありません。通知の内容が「講じなかった」であることもありますし、発信者への意見聴取などの事情で通知自体が後ろにずれることもあります。まずは届いた通知の中身を確認してください。
小規模な掲示板でも7日以内に返事が来ますか
指定を受けていない事業者には、この通知義務はありません。従来どおり、各社の運用に沿った任意の対応になります。返事がない場合は、裁判所の手続を含めて別の道筋を検討することになります。
家族が代わりに申し出ることはできますか
申出自体を止められるわけではありませんが、法律が期限を定めているのは権利を侵害された本人からの申出です。ご本人が動きにくい状況であれば、代理人を立てて本人からの申出として行う方法もあります。どの形が適しているかは、投稿の内容やご本人の状態によって変わります。
まとめ
- 情プラ法により、指定を受けた事業者には、削除の申出に対する通知の義務が課されている。
- 条文は「14日以内の総務省令で定める期間」とし、省令がこれを7日と定めている。
- 期限が付いているのは通知であり、削除そのものではない。
- 削除しない場合は、その理由も併せて通知される。
- 発信者への意見聴取、専門員による調査、やむを得ない理由がある場合は、遅滞なく通知すれば足りる。
- 対象は指定を受けた事業者に限られ、それ以外は以前と同じ運用になる。
- 以前から条文にある「7日」は発信者への意見照会の期間で、回答期限とは別のものである。
- 通知が届いた後は、示された理由に沿った再申出と、裁判所の手続が次の選択肢になる。
ご相談について
削除の申出は、書き方によって届く通知の中身が変わることがあります。また、削除と発信者の特定は別の手続であり、どちらを先に置くかで進み方が変わります。ご自身で申し出た結果、削除しないという通知を受け取った段階でのご相談も少なくありません。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、インターネット上の投稿をめぐるお困りごとについて、状況を伺ったうえで、削除の申出をどう組み立てるか、責任追及の手続をどう並べるかを一緒に整理しています。投稿の記録が残っているうちにご相談いただけると、取り得る選択肢が広がります。


