治療につながることが処分にどう影響するのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「治療につながれば処分は軽くなるのでしょうか」というご質問をいただくことがあります。痴漢、盗撮、公然わいせつ、不同意わいせつなど、同じような行為を繰り返してしまったという事件では、特にそう尋ねられます。

 インターネット上には、専門の医療機関に通えば情状として評価される、という説明が数多く並んでいます。方向として誤ってはいません。ただ、その説明だけでは足りない部分があります。治療につながったという事実が、そのままの形で検察官や裁判所に届くわけではないからです。受診したことが記録に残り、その記録をもとに書面が作られ、書面が処分の決まる前に提出先へ届いて、はじめて判断の材料になります。この経路のどこかで止まれば、通院を続けていても判断には反映されません。

 ここでは、治療につながることが刑事手続のどこにどう効くのかを、経路と書面の性質という角度から整理します。

この記事で扱うこと

 次の四つを順に説明します。

  • 治療につながったことが、処分の判断材料になるまでにたどる段階。
  • 医療機関から出る書面の種類と、書面ごとに示せることの違い。
  • 通院していることが捜査機関や裁判所に伝わる経路。
  • 治療につながることが、かえって不利に読まれる場面。


 なお、この記事は事実関係をおおむね認めている方を念頭に置いています。事実を争っている場合の扱いについては、後半で別に触れます。

「治療につながった」だけでは判断材料になりにくい

 処分を決めるのは検察官であり、判決を決めるのは裁判所です。その判断は、記録に入っている資料をもとに行われます。本人が医療機関に通っているという事実そのものを、判断する側が直接見ることはありません。次の段階を経て、書面という形になったものが記録に入ります。

段階そこで行われることつまずきやすいところ
受診する初診の予約を取り、医師の診察を受ける予約が先の日程になり、処分の時期に間に合わない
記録が残る診察の内容が診療録に記載される受診が1回だけで、経過といえるものが残らない
書面になる本人が依頼し、医師が診断書などを作成する作成に日数がかかる。求める記載が診察の内容と対応していない
提出先に届く弁護人を通じて検察官や裁判所に提出する処分や判決の後に届き、判断に間に合わない


 この四つのうち、多くの方が意識しているのは最初の一つだけです。実際には、後の三つのほうが時間を取ります。処分が決まる時期から逆算して考えることになるのは、このためです。

身柄の状況によって入口が変わる

 同じ「治療につながる」でも、身柄を拘束されているかどうかで取れる行動が変わります。

勾留されている場合

 留置施設や拘置所にいる間は、外部の医療機関に通うことができません。この段階でできるのは、釈放後に受診する先を探しておくこと、家族が先に相談へ行くこと、本人が接見の場で自分の状態を弁護人に伝えておくことです。受診そのものは釈放後になります。

在宅事件や保釈中の場合

 通院という選択肢が現実に取れる状態です。在宅事件では、処分がいつ決まるのかが本人には見えにくく、気づいたときには処分が終わっていたということが起こります。受診を先延ばしにしないほうがよいのは、意欲を示すためというより、書面が作られるまでの時間を確保するためです。

医療機関から出る書面は一種類ではない

 「診断書をもらってきてください」と言われることがありますが、医療機関から出る書面には、性格の違うものがいくつかあります。何を示したいのかによって、依頼する書面が変わります。

書面の性格示せること示しにくいこと
受診の事実を証する書面受診した日と、通院が始まっていること症状の内容や、今後の見通し
診断の内容を記した書面医師が診察の結果として判断した状態受診前の期間の状態。通院が続く見込み
治療の経過を記した書面受診の間隔、取り組んでいる内容、中断の有無一定の期間通い続けた実績がなければ書けない
今後の方針を記した書面受け入れの可否と、想定している治療の内容効果の程度や、再発しないという見通し


 書面の名称は医療機関によって異なります。窓口で用途と提出先を伝えたうえで、どの書面が適するかを相談するほうが、行き違いが起きにくくなります。

書面に書けないことがある

 医師法20条は、医師が自ら診察しないで診断書を交付することを禁じています。診察を経ていない期間のことは、書面に書けません。「半年前から悩んでいた」という事情があったとしても、初診が先週であれば、書面に残るのは先週からの診察にもとづく判断です。早めに受診しておくことに意味があるのは、日数を稼ぐためではなく、診察を経た記録が積み上がるためです。

 また、刑法160条は、公務所に提出すべき診断書に医師が虚偽の記載をした場合の罰則を定めています。裁判所や検察庁へ提出することが予定されている診断書は、これに当たり得ます。医師が診察の結果として判断していない内容を、書面に載せてもらうことはできないということです。書面は、後から厚くできる性質のものではありません。

 もっとも、診察をした医師は、診断書の交付を求められた場合、正当の事由がなければ拒めないとされています(医師法19条2項)。作成を頼むこと自体に遠慮はいりません。用途と必要な時期を具体的に伝えるほうが、双方にとって進めやすくなります。

通院していることが伝わる経路は一つではない

 「通院したことが周囲に知られるのではないか」という不安から、受診をためらう方がいます。ここは正確に整理しておいたほうがよい部分です。

 医師には守秘義務があり、正当な理由なく患者の秘密を漏らせば刑法134条の対象になります。医療機関のほうから捜査機関に対し、通院の事実を自発的に報告するという仕組みはありません。

 一方で、刑事訴訟法197条2項は、捜査機関が公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを認めています。医療機関もこの照会の対象になり得ます。照会への回答は守秘義務との関係で正当な理由があるものと解されており、本人の同意がなくても回答は可能です。回答するかどうかは医療機関の判断に委ねられ、回答しないことへの罰則もありません。あわせて、医師には証人として証言を拒む権利が認められています(刑事訴訟法149条)。

 さらに、取調べの場で本人が通院について話せば、その内容は供述調書に残ります。

 つまり、通院の情報は、自分が出すと決めたものだけが伝わるわけでもなければ、どのような場合にも外に出るわけでもありません。どの経路で何が伝わり得るのかを把握したうえで、何をいつ出すかを選ぶ、という考え方になります。

治療につながることが不利に読まれる場面もある

 多くの解説は、治療につながることを有利な事情として説明します。実際にそのように働くことが多いのですが、そうならない場面もあります。あらかじめ知っておくほうが、方針を選びやすくなります。

繰り返しやすさの説明として読まれる場合

 起訴するかどうかを検察官が判断する際の考慮事項は刑事訴訟法248条に定められており、その中に「犯人の性格」が挙げられています。ここでいう性格には常習性の有無が含まれると説明されています。自分の意思では止めにくい状態にあるという説明は、取り組みの必要性を示すと同時に、繰り返しやすさを裏づける材料としても読まれ得ます。診断がついたことだけを前面に出すと、この読まれ方に寄りやすくなります。取り組みの内容と、それが続いていることを併せて示す形にするのは、このためです。

事実を争っている場合

 行為の有無や態様を争っている事件で治療を始めると、前提として事実を認めたものと受け取られることがあります。争う部分がある事件では、治療につながることと防御の方針が同じ方向を向くとは限りません。何を争い、何を認めるのかを整理したうえで、受診の時期と、書面に何を書いてもらうかを決めることになります。

責任能力の主張とは方向が違う

 「病気なのだから責任を問えないのではないか」と考える方がいます。責任能力の判断は、診断名がついたかどうかではなく、その状態が行為との間でどのように働いたのかを見て行われます。診断があることが、そのまま責任能力の問題につながるわけではありません。責任能力を争うことと、治療への取り組みを情状として示すことは、別の主張です。どちらを立てるかによって、集める資料も変わります。

「性依存症」は正式な診断名ではない

 国際的な診断基準には、「性依存症」という名称の診断は置かれていません。近い領域の分類として強迫的性行動症やパラフィリア症群といったものがありますが、それぞれ位置づけが異なります。日常の言葉として広く使われており、使うこと自体に問題はありませんが、書面に載る名称は医師の判断によります。

 診断がつかないこともあります。その場合でも、取り組んだ内容そのものが評価の対象から外れるわけではありません。診断名の有無と、生活の立て直しに手をつけたかどうかは、別の話として扱われます。

何が見られているのか

 書面が届いたあとに読まれるのは、次のような点です。

  • 受診を始めた時期。事件の直後か、処分が近づいてからか。
  • 受診の間隔と、そこに中断があるかどうか。
  • 医療機関の指示に沿った行動が取れているか。
  • 本人以外に、状況を把握している人がいるか。
  • これから何をどれくらい続ける予定になっているか。


 通院した回数の多さそのものより、続いている状態がつくれているかどうかが見られます。

続けられる形になっているか

 性に関する問題行動を扱う専門的な治療は、自費診療となることが少なくありません。通院先が遠い、開いている時間が仕事と合わない、費用の負担が重いといった事情があると、処分が出た後に途切れやすくなります。

 途切れた通院は、書面にも途切れとして残ります。無理のある計画を立てるより、続けられる範囲から始めるほうが、結果として示せるものは増えます。

相談の入口

 本人が動けない状況であれば、家族が先に相談へ行くという方法があります。依存に関する相談を受けている医療機関の中には、家族向けの相談枠を設けているところもあります。

 公的な窓口としては、各都道府県と政令指定都市に置かれている精神保健福祉センターや、保健所があります。性の問題行動に特化した相談枠が用意されているとは限りませんが、地域の医療機関の情報を得る入口にはなります。

弁護士に確認しておけること

 弁護人がついている場合、次のような点を早い段階で確認しておくと進めやすくなります。

  1. この事件で処分が決まる見込みの時期はいつか。
  2. そこから逆算して、いつまでに受診しておく必要があるか。
  3. 医療機関には、どの書面の作成を依頼するのがよいか。
  4. 書面を提出するのは、捜査の段階か、公判の段階か。
  5. 争う部分がある場合、治療を始める時期をどう考えるか。


まとめ


  • 治療につながったことは、受診、記録、書面、提出という段階を経てはじめて判断材料になる。
  • 処分が決まる時期から逆算し、書面が作られるまでの時間を確保しておく。
  • 医療機関から出る書面には性格の違いがあり、示したい内容によって依頼する書面が変わる。
  • 医師法20条により、診察を経ていない期間のことは書面に書けない。
  • 通院の情報が伝わる経路は一つではなく、捜査機関からの照会や取調べという経路もある。
  • 治療につながることが常に有利に働くとは限らず、事実を争っている事件では方針との調整が要る。


性犯罪の刑事事件でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、痴漢、盗撮、不同意わいせつなどの刑事事件について、初回無料でのご相談を受け付けています。ご相談は24時間受付しており、身柄を拘束されている場合の接見も、状況に応じて即日で対応しています。ご本人が動ける状態にないときは、ご家族からのご連絡でも差し支えありません。繰り返してしまったという事情も含めて、事件の見通しと、いま取れる選択肢を一緒に整理します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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