元交際相手の家の前で待っていた|住居侵入とつきまといの境界
警察からストーカー規制法に基づく「警告」を受けたものの、自分の行為はつきまといにあたらない、相手の説明だけで判断されたのではないかと、納得できずにいる方がいらっしゃいます。警告を取り消してもらう方法はあるのか、どこに不服を伝えればよいのかは、多くの方が最初に気にされる点です。この記事では、警告の法的な位置づけと、不服がある場合に検討できる手段、それぞれの限界を整理します。
この記事は、2025年12月に施行された改正ストーカー規制法(警察の職権による警告の導入など)を反映し、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。個別の事案での見通しは、事情によって異なります。
ストーカー規制法の「警告」はどのようなものか
ストーカー規制法は、つきまとい等をして、相手に身体の安全や行動の自由などが著しく害される不安を覚えさせることを禁止しています(同法3条)。この禁止に反する行為があり、さらに繰り返すおそれがあると認められるときに、警察本部長や警察署長が「これ以上つきまとい等をしてはならない」と告げるのが警告です(同法4条)。
以前は、警告は被害を訴える方からの申出があって初めて出されるものでしたが、2025年12月施行の改正により、申出がなくても警察の判断で出せるようになりました。報道によると、2025年に全国で出された警告は1577件とされています。
警告そのものには罰則がなく、法律上は「行政指導」と位置づけられています。ただし、警告に従わずにつきまとい等を続けた場合には、公安委員会から禁止命令が出される可能性があり、禁止命令に違反すると刑事罰の対象になります。法的な強制力がないからといって、実際上の重みが小さいわけではありません。警告を受けた直後の流れについては、警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで解説しています。
裁判で警告の取り消しを求めることは難しいとされている
行政機関の判断に不服があるときの代表的な方法は、行政不服審査法に基づく審査請求や、裁判所に取り消しを求める取消訴訟です。しかし、これらの手続が対象とするのは、原則として、国民の権利義務を直接形成したり、その範囲を確定したりする「処分」です。行政指導である警告は、この「処分」にあたらないと理解されています。
実際に、奈良県警から警告を受けた方が、前提となるつきまとい等はなかったとして警告の取り消しを求めた訴訟では、一審の奈良地方裁判所、二審の大阪高等裁判所(2024年6月)のいずれも、警告は取消訴訟の対象にならないとして訴えを退けたと報じられています。この事案では、警告を受けると一定期間は銃砲刀剣類の所持許可を受けられなくなる点なども主張されましたが、結論は変わりませんでした。つきまとい等が本当にあったのかという中身の判断に入る前に、手続の入口で退けられた形です。
報道によると原告側は上告していますが、少なくとも現時点で、警告を裁判で取り消すことが一般的に認められているとはいえない状況です。
一方、警告より重い禁止命令は行政処分にあたるため、審査請求や取消訴訟で争う道があります。両者の違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 警告 | 禁止命令 |
|---|---|---|
| 出す機関 | 警視総監・道府県警察本部長・警察署長 | 都道府県公安委員会 |
| 法的な性格 | 行政指導 | 行政処分 |
| 出る前の手続 | 聴聞の定めはない | 原則として聴聞を経る |
| 従わなかった場合 | 禁止命令につながるおそれがある | 違反すると刑事罰の対象になる |
| 不服の手段 | 審査請求・取消訴訟で争うことは難しい | 審査請求・取消訴訟の対象になる |
警告に納得できないときに検討できる手段
取消訴訟が難しいとしても、ほかに手段がまったくないわけではありません。警告を受けた側が検討できる手段として、主に次の3つがあります。ただし、いずれも警告をなかったことにする効果が約束されたものではない点に注意が必要です。
行政手続法に基づく「行政指導の中止等の求め」
行政手続法36条の2は、法律に根拠のある行政指導のうち法令違反の是正を求めるものを受けた人が、その行政指導が法律の要件に合っていないと考えるときに、行政指導をした機関へ中止その他必要な措置を求められると定めています。申出は書面で行い、次の事項を記載します。
- 申出をする人の氏名・住所。
- 行政指導の内容。
- 行政指導の根拠となる法律の条項。
- その条項に定められた要件。
- 行政指導が要件に合っていないと考える理由。
- その他参考となる事項。
申出を受けた機関は必要な調査を行い、要件に合っていないと認めたときは、中止などの措置をとらなければなりません。ストーカー規制法の警告がこの制度の対象になるかには議論の余地がありますが、前述の奈良の事案でも、訴訟の前にこの申出が行われたと報じられています。もっとも、申出をした人に調査結果を通知することまでは法律で義務づけられておらず、申出によって警察の認定が変わるとは限りません。
都道府県公安委員会への苦情の申出
警察法79条は、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある人が、都道府県公安委員会に文書で苦情を申し出られると定めています。事情を十分に聞いてもらえなかった、説明の仕方に問題があったといった、警察の対応そのものへの不服を伝える窓口です。公安委員会は申出を誠実に処理し、原則として処理の結果を文書で通知することとされています。ただし、警告の判断そのものを取り消させるための手続ではありません。
国家賠償請求
国家賠償法は、公務員が職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合の賠償を定めており、対象を「処分」に限っていません。そのため、警告が違法であったとして損害賠償を求める訴訟は、理屈のうえでは考えられます。もっとも、警告の要件判断に違法があったことや警察官の過失などを、請求する側が具体的に示す必要があり、ハードルは高いと考えられます。
申出をした相手に「取り下げ」を頼むことの危うさ
弁護士ドットコムなどの相談でも、「相手に取り下げてもらえば警告は消えるのか」という質問が多く見られます。警告は警察が自らの判断で出すものであり、申出をした方が後から撤回しても、すでに出された警告がさかのぼって無効になるわけではないと考えられています。相手の意向が変わったことが、警察がその後の対応を判断する際の事情として考慮されることはありますが、扱いは事案ごとに異なります。
特に注意したいのは、警告を受けた側から相手に連絡して取り下げを頼むことです。その連絡自体が新たなつきまとい等と受け止められ、禁止命令や刑事手続に進むきっかけになるおそれがあります。相手から先に連絡が来た場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手から先に連絡が来た|返信したら違反になるのかで整理しています。
不服を伝える前に押さえておきたいこと
警告に納得できない場合でも、争う準備と並行して、次の点を守っておくことが大切です。
- 不服がある間も、警告の内容に従い、相手への接触を控えます。
- 相手に直接、または共通の知人を通じて取り下げを求めることは避けます。
- 警告書の写しや、事情聴取で聞かれた内容・答えた内容を、できるだけ早くメモに残します。
- 相手とのやり取りの履歴など、自分の言い分を裏づける記録を消さずに保存します。
- SNSなどで相手や警察の対応を非難する投稿は控えます。
- 銃砲の所持許可など、資格や許可への影響が気になる場合は早めに確認します。
SNSでの反論が問題になりやすい場面は、【ストーカートラブル】相手が「ストーカーされた」とSNSに書いている|反論してよいかで取り上げています。なお、警告は刑事処分ではないため、警告を受けただけで前科がつくことはありません。前科との関係は、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合をご覧ください。
清算や連絡がどうしても必要な用件があるとき
荷物の返還やお金の清算、子どもとの面会など、相手とやり取りしなければならない事情が残っていることもあります。用件に正当な理由があっても、本人が直接連絡すれば、警告後の行動として厳しく受け止められるおそれがあります。このような場合は、弁護士を窓口にして、相手方やその代理人と書面でやり取りする方法が考えられます。詳しくは、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で解説しています。
禁止命令の手続に進んだ場合
公安委員会が禁止命令を検討する段階では、原則として聴聞が開かれ、命令を受ける側が意見を述べたり証拠を出したりする機会が与えられます(緊急の場合は、命令の後に意見を聴く手続がとられます)。警告の段階で十分に言い分を伝えられなかった方にとっては、事実関係を説明する大切な場面です。聴聞の準備は、【ストーカートラブル】禁止命令の前の聴聞に呼ばれた|聴聞で述べることを参考にしてください。
禁止命令が出た後に不服がある場合は、原則として、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内の審査請求や、6か月以内の取消訴訟を検討することになります。禁止命令の期間や違反した場合の扱いは、禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で解説しています。
よくあるご質問
警告には有効期限がありますか
ストーカー規制法には、警告の有効期間を定めた規定はありません。これに対し、禁止命令の効力は1年とされ、必要に応じて延長されることがあります。期限の定めがないからといって、時間がたてば相手に連絡してよいということにはならない点に注意が必要です。
警告に従っていれば、それ以上の手続に進むことはありませんか
警告の後に接触をやめていれば、禁止命令に進む可能性は低くなると考えられます。ただし、警告の前の行為がストーカー行為にあたると判断された場合には、相手が被害届を出すなどして、刑事事件として捜査が始まることもあります。ストーカー行為罪は、2017年の改正で告訴がなくても起訴できる罪になっています。警察から任意で話を聞きたいと言われた場合は、【ストーカートラブル】任意で事情を聞きたいと言われた|応じる場合の準備もご覧ください。
弁護士に依頼すれば警告を取り消してもらえますか
弁護士に依頼しても、警告の取り消しを約束することはできません。弁護士ができるのは、警告に至った経緯と記録を整理し、行政指導の中止等の求めなどの書面を作成すること、相手方との連絡が必要な場合の窓口になること、禁止命令の聴聞や刑事手続に備えることなどです。不服を伝える手段にはそれぞれ限界があるため、何を目的にするのかを決めてから動くことが大切です。
警告に納得できない気持ちがあっても、感情のままに動くと、かえって禁止命令や刑事手続に進む材料を増やしてしまうことがあります。まずは警告の内容に従いながら、事実関係と記録を整理し、どの手段を使うかを落ち着いて検討することをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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