【ストーカートラブル】裁判で証言を求められた|相手と顔を合わせない方法

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法・民事訴訟法の規定に基づいて作成しています。令和5年の刑事訴訟法改正で設けられた、起訴状などで被害者の氏名・住所を相手に伏せる手続も反映しています。個別の事件で措置がとられるかどうかは、事件ごとの事情を踏まえた裁判所の判断によります。


「相手が起訴され、検察官から『法廷で証言をお願いすることになるかもしれない』と連絡があった」「同じ部屋で相手の顔を見たら、うまく話せなくなる気がする」。ストーカー被害のご相談では、事件が裁判に進んだ段階で、このような不安を伺うことが少なくありません。

 刑事裁判には、証人が相手と顔を合わせずに証言するための仕組みとして、付添い・遮へい・ビデオリンクという3つの措置があると説明されるのが一般的です。その説明自体は正確ですが、措置は自動的にとられるものではありません。誰に、いつ、何を伝えれば検討してもらえるのか、措置をとっても残る負担は何か、といった点はあまり語られていないように思います。

 この記事では、ストーカー事件の被害者が証人として呼ばれた場面を念頭に、3つの措置の内容と組み合わせ方、裁判所に出向かずに証言する方法、氏名や住所を伏せる手続、申出の進め方を整理します。尋問そのものの流れは証人尋問はどう進むのか|主尋問・反対尋問・再主尋問の流れで、被害者として裁判に参加する制度は被害者参加制度|法廷でできることとできないことで解説していますので、あわせてご覧ください。

被害者が法廷で証言を求められるのはどのような場合か

警察や検察で話した内容があっても、証言が必要になる場面

 被害者が警察や検察庁で話した内容は、供述調書という書面にまとめられています。刑事裁判では、この調書を証拠とすることに被告人側が同意すれば、被害者が法廷で話さなくても審理を進められます(刑事訴訟法326条)。相手が事実を認めている事件では、証言を求められないまま判決に至ることも多くあります。

 一方で、相手が「つきまといはしていない」「相手も連絡に応じていた」などと事実を争い、調書を証拠とすることに同意しない場合には、検察官が被害者を証人として請求し、法廷で直接話を聞く形になります。

呼び出しを受けたら、出頭する義務がある

 証人として呼び出しを受けた場合、正当な理由なく出頭しないと、過料や刑罰の対象となる規定があります(同法150条、151条)。相手と会うことへの不安は十分に理解できるものですが、証言を避ける方向で考えるよりも、負担を減らす措置を早めに求めるほうが現実的です。不安が大きい場合こそ、次に説明する措置を検討してもらうことが大切です。

相手と顔を合わせないための3つの措置

 刑事訴訟法には、証人の負担を和らげるための措置が3つ定められています。まず全体像を表で整理します。

措置内容根拠
遮へい証人と被告人、または証人と傍聴人との間についたてなどを置き、互いの姿が見えないようにする刑事訴訟法157条の5
ビデオリンク証人は法廷とは別の部屋に在席し、映像と音声でつないで尋問を受ける同法157条の6
付添い家族やカウンセラー、支援員などが証人のそばに付き添う同法157条の4


遮へい|ついたてで姿を見えないようにする

 遮へいは、犯罪の性質や被告人との関係などから、被告人の面前で話すと強い圧迫を受け、精神の平穏が大きく害されるおそれがある場合にとられる措置です(同法157条の5第1項)。証人から被告人が見えないようにするだけでなく、被告人から証人が見えないようにすることもできますが、後者は弁護人が法廷にいる場合に限られます。また、傍聴人との間に遮へいを設けることもできます(同条2項)。

 ただし、遮へいは姿を見えないようにする措置であり、声は互いに聞こえます。相手が同じ法廷内にいるという状況は変わらないため、それだけでは負担が大きいと感じる方もいます。

ビデオリンク|別室から映像と音声でつなぐ

 ビデオリンクは、証人が裁判所内の別室に在席し、法廷とモニターでつないで尋問を受ける方式です(同法157条の6第1項)。性犯罪の被害者などが典型例として挙げられますが、それ以外の事件でも、犯罪の性質や被告人との関係から、法廷で話すと精神の平穏が大きく害されるおそれがあると認められる人は対象になり得ます(同項3号)。ストーカー事件の被害者も、この規定によって検討される余地があります。

 ビデオリンクの場合、通常は被告人も法廷のモニターで証人の様子を見ることになります。そこで、遮へいと組み合わせ、被告人側のモニターに証人の姿が映らないようにする運用もあります。

付添い|信頼できる人にそばにいてもらう

 付添いは、証人が強い不安や緊張を覚えるおそれがある場合に、その不安を和らげるのに適当な人を、尋問の間そばに付き添わせる措置です(同法157条の4)。付き添う人は、証言の内容に影響を与えるおそれがない人であることが求められ、尋問中に発言したり助言したりすることはできません。

 3つの措置は組み合わせることができ、たとえば「別室からのビデオリンクに、付添いと遮へいを加える」といった形も考えられます。どの組み合わせが自分に合うかを考えたうえで伝えると、検討が進みやすくなります。

裁判所に行くこと自体が不安な場合|構外ビデオリンク

裁判所の外の場所から証言する仕組み

 ストーカー事件では、法廷内で相手と顔を合わせることだけでなく、裁判所への行き帰りに相手やその関係者と接触してしまうこと、跡をつけられて今の住まいや勤務先を知られることへの不安を伺います。

 こうした場合に備えて、裁判所の構内以外の場所、具体的には裁判所の規則で定める場所に証人を在席させ、ビデオリンクで尋問する方法があります(同法157条の6第2項)。平成28年の改正で設けられたもので、一般に「構外ビデオリンク」と呼ばれています。

ストーカー事件と関わりやすい要件

 構外ビデオリンクが認められるのは、次のいずれかにあたる場合で、裁判所が相当と認めるときです。

  • 裁判所に出頭すること自体で、精神の平穏が大きく害されるおそれがある場合。
  • 裁判所への移動の際に、身体や財産に害を加えられたり、怖がらせられたりするおそれがある場合。
  • 裁判所に出頭した後の移動の際に、尾行などで住居や勤務先を特定され、本人や親族が害を加えられるおそれがある場合。
  • 遠方に住んでいて、年齢や健康状態などから出頭が著しく困難な場合。


 2つ目と3つ目は、つきまといや待ち伏せが問題となったストーカー事件と重なる場面が多い要件です。転居して相手に今の住所を知られていない方は、その事情を具体的に伝えることが、構外ビデオリンクを検討してもらう手がかりになります。

 なお、構内で証言する場合でも、待合室を分ける、出入りの時間をずらすといった配慮を検察官に相談できることがあります。どこまで対応できるかは裁判所や事件によって異なるため、早めに確認しておくと安心です。

氏名や住所を相手に知られないための手続

公開の法廷で氏名や住所を伏せる

 刑事裁判は公開の法廷で行われるため、何もしなければ、被害者の氏名などが傍聴人の前で読み上げられることがあります。これを避けるため、裁判所は、被害者特定事項(氏名・住所など被害者を特定させる事項)を公開の法廷で明らかにしない決定をすることができます(同法290条の2)。

 被害者や親族が害を加えられたり怖がらせられたりするおそれがある事件では、この決定の対象になり得ます(同条3項)。決定があると、法廷での尋問や陳述が被害者特定事項に及ぶ場合、裁判長はこれを制限することができます(同法295条3項)。証人として証言する人を特定させる事項についても、同様の決定の仕組みがあります(同法290条の3)。

相手本人に氏名や住所を知らせない措置

 法廷で伏せても、従来は起訴状などを通じて被告人本人に被害者の氏名が伝わる構造が残っていました。令和5年の改正により、一定の場合には、被告人に送達される起訴状の謄本から被害者の氏名などを除く措置がとれるようになっています(同法271条の2)。

 また、証拠を相手方に開示する場面でも、証人の住所などが被告人に伝わらないよう配慮を求める規定や、弁護人には開示しても被告人には知らせない条件を付ける規定があります(同法299条の2、299条の4)。どの措置がとられているかは、検察官に確認しておくことが大切です。裁判の外で住まいを知られないための対策については、引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策もご覧ください。

措置を求めるには|誰に、いつ、何を伝えるか

相談の窓口は検察官と被害者支援員

 付添い・遮へい・ビデオリンクは、裁判所が検察官と被告人側の意見を聴いたうえで決める措置です。被害者を証人として請求するのは検察官ですから、まず担当の検察官に希望を伝えるのが基本になります。各地の検察庁には被害者支援員が配置されており、検察官に直接伝えにくいことの相談先にもなります。

 証言の日程が決まってから伝えると、検討の時間が限られることがあります。証人になる可能性があると聞いた段階で伝えておくのが望ましいと考えます。

伝えておきたい事情

 措置が必要かどうかは、具体的な事情をもとに判断されます。次のような事情を整理して伝えると、検察官も裁判所に説明しやすくなります。

  • これまでのつきまといや連絡の経緯と、その間に感じていた恐怖の内容。
  • 警察からの警告や禁止命令の有無と、その後の相手の行動。
  • 転居したかどうか、相手が今の住所や勤務先を知っているかどうか。
  • 通院や体調の状況、法廷で話すことへの具体的な不安。
  • 付き添ってほしい人がいる場合は、その人との関係。


証言の前にできる準備

 証言の前には、検察官との打合せが行われるのが通常です。どのようなことを聞かれそうか、相手の弁護人からどのような質問が想定されるかを確認できます。法廷の配置やビデオリンクの部屋の様子を事前に見ておけるかどうかも、相談してみる価値があります。当日の流れを具体的に知っておくことは、不安を和らげる手立てのひとつです。

民事の損害賠償請求で尋問を受ける場合

民事訴訟にも同じ趣旨の仕組みがある

 ストーカー被害について、相手に慰謝料などの損害賠償を求める民事訴訟を起こした場合にも、本人尋問や証人尋問の場面があります。民事訴訟法にも、付添い(民事訴訟法203条の2)、遮へい(同法203条の3)、映像と音声の送受信による尋問(同法204条)が定められており、当事者本人の尋問にも準用されています(同法210条)。

 民事訴訟では、刑事裁判のように検察官が間に入ることはないため、自分または代理人の弁護士が裁判所に申し出る形になります。

住所や氏名を相手に知られないための手続

 民事訴訟では、訴状に原告の住所・氏名を記載するのが原則ですが、相手に知られると社会生活に大きな支障が生じるおそれがある場合には、裁判所に秘匿を申し立てる制度があります(同法133条)。手続の考え方は【不貞慰謝料】訴訟になると自分の名前や住所は相手に知られるのかで詳しく解説しています。不貞慰謝料の記事ですが、秘匿の仕組みはストーカー被害の損害賠償請求でも共通です。民事訴訟を起こす前に、住所を伏せる必要があるかどうかを検討しておくことが大切です。

よくあるご質問

遮へいやビデオリンクを求めると、証言の信用性を低く見られることはありますか

 措置をとったことを理由に証言の信用性が低く評価される仕組みにはなっていません。最高裁判所は、遮へいやビデオリンクの措置をとっても、被告人の反対尋問の機会は確保されており、証人尋問の際に被告人と向き合う権利や公開裁判を受ける権利を侵害しないと判断しています(最高裁平成17年4月14日判決)。証言の評価は、話した内容そのものの合理性や他の証拠との整合性によって判断されます。

相手が自分で質問してくることはありますか

 被告人自身も証人に質問することは法律上できます。ただし、裁判長は、重複する質問や事件に関係のない質問などを制限することができ(刑事訴訟法295条1項)、証人を威圧したり侮辱したりする質問も制限の対象になります。相手から直接質問を受けることへの不安がある場合は、その点も検察官に伝えておくとよいと思います。

弁護士に依頼すると、どのような手伝いをしてもらえますか

 被害者の代理人として、検察官との連絡を担い、措置の希望や事情を整理して伝えることができます。被害者特定事項の秘匿は、被害者から委託を受けた弁護士が申し出ることもできます(同法290条の2第1項)。また、被害者参加制度を利用する場合の手続や、相手側からの示談の申入れへの対応も担えます。詳しくは【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味をご覧ください。

まとめ


  1. 相手が事実を争い、供述調書を証拠とすることに同意しない場合に、被害者が証人として呼ばれることがあります(刑事訴訟法326条)。
  2. 証人には出頭の義務があるため、不安がある場合は負担を減らす措置を早めに求めることが現実的です(同法150条、151条)。
  3. 顔を合わせないための措置として、遮へい(同法157条の5)、ビデオリンク(同法157条の6第1項)、付添い(同法157条の4)があり、組み合わせることもできます。
  4. 裁判所への行き帰りや尾行による住所の特定が心配な場合は、構外ビデオリンクが検討対象になります(同法157条の6第2項)。
  5. 氏名や住所は、公開の法廷で伏せる決定(同法290条の2、290条の3)や、被告人に送達する起訴状から除く措置(同法271条の2)で守られる場合があります。
  6. 措置の希望は、証人になる可能性があると聞いた段階で、具体的な事情とともに検察官や被害者支援員に伝えます。
  7. 民事の損害賠償請求でも、付添い・遮へい・映像による尋問や住所の秘匿の制度があります(民事訴訟法133条、203条の2、203条の3、204条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。証人として呼ばれる不安や、裁判の場で住所を知られることへの心配など、刑事裁判に関わるお悩みについても、被害者の立場に立って一緒に整理します。

相手の裁判が始まった方、検察官から証言の可能性を伝えられた方、これから損害賠償の請求を考えている方は、おひとりで抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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