慰謝料が認められない典型4パターン|請求しても通らない場合

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞慰謝料は、不貞の事実があれば必ず認められるというものではありません。請求する側から見れば「証拠はそろっているつもりだったのに通らなかった」、請求された側から見れば「言われるままに払う必要はなかった」という結果になることがあります。ここでは、不貞慰謝料が認められない典型的な4つのパターンを、請求する側・請求された側の両方の視点から整理します。

「認められない」には3つの意味がある

 「認められない」とひとくちにいっても、法律上は中身が異なります。ここを分けずに考えると、対策の方向を誤りがちです。

「認められない」の型意味主な場面
①権利が発生していない不法行為(民法709条・710条)の要件を満たしていない不貞の時点で婚姻関係が破綻していた/既婚者と知らず落ち度もなかった
②権利はあるが行使できない期間の経過や当事者の合意により、請求が通らなくなっている消滅時効が完成している/示談で清算済み
③権利はあるが証明できない事実そのものを裏づける材料が足りない性的関係を示す証拠がない


 実務で争いになりやすいのは③です。「不貞はあったが証明できない」場合と「そもそも不貞にあたらない」場合は、法的な意味がまったく違います。以下の4パターンも、この3つの型のどれにあたるかを意識して読み進めてください。

パターン1|性的関係があったと認められない場合

 不貞行為とは、配偶者のある人が自由な意思にもとづいて配偶者以外の人と性的関係を結ぶことをいうとされています(最高裁昭和48年11月15日判決)。したがって、二人で食事をした、頻繁に連絡を取り合っていた、といった事情だけでは、原則として不貞行為にはあたりません。

 そして、不貞行為があったことを証明する責任は、慰謝料を請求する側にあります。性的関係そのものを直接示す証拠が得られることはまれで、実際にはホテルへの出入りの記録、宿泊を伴う旅行、性的関係をうかがわせるやり取りなどの間接的な事情を積み重ねて認定していくことになります。

 もっとも、性的関係が認められなければ常にゼロになる、というわけでもありません。性的関係までは認められなくても、親密な関係が夫婦の生活の平穏を害したと評価され、比較的低い金額の慰謝料が認められる例もあります。「肉体関係がなければ絶対に責任は生じない」と考えるのは危険です。

この場面での注意点


  • 請求する側は、請求を切り出す前に証拠を確保しておくことが望まれます。請求後は相手が警戒し、記録が失われることがあります。
  • 請求された側は、否認すれば必ず終わるわけではありません。逆に、事実でないことを認める発言や書面は、それ自体が有力な証拠として扱われます。
  • 双方に共通するのは、自分に不利に見える記録も含めて、自分から消さないことです。後から出てきた資料は信用性を疑われやすくなります。


パターン2|不貞の時点で婚姻関係が破綻していた場合

 最高裁は、配偶者と第三者が性的関係を持った場合でも、その当時すでに夫婦の婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情がない限り、第三者は不法行為責任を負わないと判示しています(最高裁平成8年3月26日判決)。不貞慰謝料が保護しているのは婚姻共同生活の平和であり、それがすでに失われていた場合には、守るべき利益がないと考えられているためです。

 ここで重要なのが破綻と不貞の先後関係です。不貞よりも前に破綻していたのであれば責任は否定される方向に働きますが、不貞が原因で関係が壊れたのであれば、むしろ金額を高める事情になります。

破綻が認められやすい事情破綻が認められにくい事情
長期間にわたる別居里帰り出産や単身赴任など事情のある別居
離婚協議の書面化、離婚調停の申立て夫婦げんかや一時的な別居
生活費の分離など、共同生活の実体の消滅未成年の子の養育を通じた日常的な交流
性的関係がないことだけを理由とする主張


 なお、破綻していたことを主張・立証するのは、それを主張する側です。「破綻していたと聞いていた」と述べるだけでは足りず、別居の実態や離婚協議の経過を示す資料が求められます。また、破綻とまではいえない場合でも、夫婦関係が良好とはいえなかった事情は、金額を下げる方向で考慮されることがあります。ゼロか満額かの二択ではありません。

パターン3|既婚者と知らず、知らないことに落ち度もなかった場合

 最高裁は、配偶者と性的関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、他方の配偶者に対して責任を負うとしています(最高裁昭和54年3月30日判決)。裏を返せば、相手が既婚者だと知らず、かつ知らなかったことに落ち度もなかった場合には、責任が否定される余地があります。

 ただし、この主張は簡単には通りません。「独身だと言われていた」というだけでは、確認が足りなかったとして過失が認められる方向に傾きやすいのが実情です。判断の分かれ目になるのは、当時その人が実際に接していた客観的な事情です。

  • 記入済みの離婚届や、夫婦間で離婚・別居に向けて動いていることが分かるやり取りを見せられていた。
  • 生活の拠点が完全に分かれていることを、自分の目で確認できる状況にあった。
  • これに対し、口頭で聞いただけ、疑わしい様子があったのに確かめなかったという場合は、過失があると判断されやすくなります。


この点に関する新しい最高裁判断

 2026年6月5日、最高裁第二小法廷は、「離婚したと信じた相当の理由がない」というだけで直ちに過失があるとはいえず、「婚姻関係がすでに破綻していると信じ、かつそう信じるについて相当の理由があったか」を別途検討すべきであるとの判断を示し、賠償を命じた二審判決を破棄して高等裁判所に審理を差し戻しました。

 この判決は、請求された側にとって重要な意味を持ちます。もっとも、差し戻された審理は続いており、この事案の結論が確定したわけではありません。「もう払わなくてよくなった」という趣旨の判断でもありません。相当の理由があったかどうかは、あくまで当時の具体的な事情にもとづいて判断されます。だからこそ、当時のやり取りを自分から消さないことが、請求された側の防御の出発点になります。

パターン4|消滅時効が完成している場合

 不貞慰謝料の請求権には、次の2つの期間制限があります(民法724条)。いずれか早い方が到来すると、権利は消滅しうる状態になります。

期間起算点条文
3年損害および加害者を知った時民法724条1号
20年不法行為の時民法724条2号


 注意したいのは「知った時」の意味です。不貞相手に請求する場合、不貞の事実を知っただけでは足りず、請求できる程度に相手が誰かを把握した時点が起算点になると考えられています。相手を特定できないまま時間が過ぎている場合、3年が進行していないこともあります。

 そして、請求された側が見落としがちなのが、時効は自動的には成立せず、援用(時効の利益を受けるという意思表示)が必要だという点です(民法145条)。期間が過ぎていても、放置して訴訟を欠席すれば、援用しないまま支払いを命じられることがあります。反対に、期間経過後に「少しずつなら払う」と応じたり一部を支払ったりすると、その後に時効を主張することが認められなくなるおそれがあります。

 請求する側は、期限が迫っている場合、内容証明郵便などで催告をすれば6か月間は時効の完成が猶予されます(民法150条)。ただし催告を繰り返しても効果は重ならないため、その6か月の間に次の手続を取る必要があります。

4パターン以外に「これ以上は請求できない」場面

 次の3つは、権利そのものが発生していないわけではありませんが、結果として請求が通らなくなる場面です。混同されやすいため、分けて押さえておきます。

  1. すでに十分な賠償を受けている場合。配偶者と不貞相手は共同不法行為者の関係に立ち(民法719条)、同じ損害について二重に受け取ることはできません。一方から相当額を受け取っていれば、他方への請求は認められないか、減額されます。
  2. 示談が成立している場合。示談書に清算条項があれば、原則としてそれ以上の請求はできません。示談の際に相手を許す旨の条項が入っていることもあります。
  3. 相手を特定できない場合。氏名や住所が分からなければ、交渉も訴訟も進められません。権利があっても届かない、という状態です。


よくある誤解|それだけでは理由になりにくいもの

 相談の場で挙げられることの多い言い分のうち、単独では結論を左右しにくいものを整理します。

よくある言い分一般的な考え方
離婚していないから請求できない離婚の有無にかかわらず請求は可能。金額には影響しうる
夫婦はセックスレスだったそれだけでは破綻とは評価されにくい
本気の交際ではなかった関係の呼び名や動機は、成立そのものを左右しない
相手から誘われた誘われたかどうかで責任の有無は決まらない
一度きりだった回数は主に金額の側の事情。成立を否定する理由にはなりにくい
相手の配偶者も不貞をしていた別個の請求権の問題であり、当然に相殺されるわけではない


立場ごとに、今できること


請求する側


  • 請求を切り出す前に、性的関係を推認させる事情と時期を整理しておく。
  • 相手の氏名・住所を把握した日を、根拠となる資料とともに記録しておく。
  • 期限が迫る場合は、催告により時効の完成猶予を確保したうえで次の手続を検討する。
  • 違法な方法で証拠を集めると、逆に責任を問われることがあるため避ける。


請求された側


  • その場で認めない、署名しない、すぐに支払わない。いずれも後から覆すことが難しくなります。
  • 当時のやり取りや記録を自分から消さない。破綻や過失に関する主張を支えるのは、当時の客観的な事情です。
  • 請求書に書かれた金額が、そのまま支払うべき額とは限りません。ただし、無視して放置することも避けてください。
  • 期限が指定されている場合でも、即答する前に内容を整理して相談することをおすすめします。


まとめ

 不貞慰謝料が認められない典型的な4パターンは、性的関係が認められない/不貞の時点で婚姻関係が破綻していた/既婚者と知らず落ち度もなかった/消滅時効が完成しているの4つです。いずれも「主張すれば通る」ものではなく、当時の具体的な事情と、それを裏づける資料が結論を分けます。

 また、認められるか認められないかの二択ではなく、事情によって金額が上下する場面も少なくありません。請求する側も請求された側も、早い段階で見通しを立てておくことが、結果的にご自身の負担を軽くします。

 当事務所では、不貞慰謝料について、請求をお考えの方からのご相談も、請求を受けてお困りの方からのご相談もお受けしています。お手元の資料やこれまでの経緯をふまえて、取りうる選択肢をご説明します。ひとりで判断せず、まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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