【男女トラブル】恋人の車の頭金を払っていた場合、返してもらえる?
交際中に「いずれ結婚しよう」「来年には一緒に住もう」と話していたのに、別れることになった、あるいは同居の話が進まなかった。その結果、相手から「約束を破った」「責任を取ってほしい」と強く責められ、慰謝料や費用の負担まで求められている――。交際関係の解消をめぐるご相談のなかでも、このような悩みは少なくありません。
気持ちのうえで申し訳なさを感じることと、法律上の支払義務があることは、別の問題です。この記事では、結婚・同居の約束が法的にどう扱われるのか、どのような場合に責任が問題になりうるのか、責められたときに避けたい対応は何かを順に整理します。
本記事は、交際中に交わした結婚や同居の約束を理由に、相手から責任を求められている方に向けた一般的な整理です。実際に責任が生じるかどうかは、交際の経緯や残っている記録によって変わります。
まず「気持ちの問題」と「法律上の責任」を分ける
約束を守れなかったことに、後ろめたさを感じる方は多いと思います。ただ、相手が感じている失望や怒りが、そのまま法的な損害賠償の義務につながるわけではありません。
男女関係を解消したことを理由に慰謝料が問題になるのは、類型的には「婚姻」「内縁」「婚約」の3つの関係にある場合だと説明されるのが一般的です。逆にいえば、これらにあたらない単なる交際関係を一方が終わらせることは、原則として違法にはならないと考えられています。交際をやめる自由は、どちらの側にも認められているからです。
したがって、責められたときに最初に確かめたいのは、「二人の関係が、法律上、婚約や内縁にあたるといえるのか」という点です。
「結婚しよう」という言葉は婚約になるのか
婚約とは、将来結婚しようという当事者どうしの合意のことです。契約書や儀式は必要とされておらず、口約束でも成立しうるとされています。最高裁判所の判例でも、結納などの形式がなくても、誠意をもって将来夫婦になることを約束していれば婚約が成立するという考え方が示されています(最高裁昭和38年9月5日判決)。
言葉だけでは婚約と認められにくい傾向
一方で、実際の裁判では、交際中の会話だけで婚約が認められることは多くありません。たとえば岡山地方裁判所は、将来の結婚について言葉を交わしていたとしても、それは恋愛感情を高めて関係を続けるためのものとみるのが相当であり、法的保護に値する婚約とまではいえないと判断しています(2012年3月28日判決)。
「いつか結婚したいね」「一緒になれたらいいね」といった言葉は、交際中に自然に交わされるものです。そうした言葉のひとつひとつが法的な約束として扱われるわけではない、というのが裁判所のおおまかな姿勢といえます。
婚約の成立を裏づける事情として見られやすいもの
| 事情 | 婚約の判断での見られ方 |
|---|---|
| 婚約指輪の授受・結納 | 婚約の成立を裏づける事情として重く見られやすい |
| 両家の顔合わせ・婚約者としての紹介 | 結婚の合意が周囲にも示されていたかの判断材料になる |
| 結婚式場の予約・新居の契約 | 結婚に向けた具体的な準備が進んでいたことを示す |
| 婚姻届を出す日の取り決め | 時期まで特定された合意として見られやすい |
| 友人や職場への婚約の報告 | 二人の間だけの話ではなかったことを示す |
| 交際中の「いつか結婚したい」という会話 | それだけでは婚約と認められにくい |
これらは一つあれば結論が決まるというものではなく、交際期間や年齢、やり取りの内容などとあわせて総合的に判断されます。同じ指輪の授受でも、ほかにどのような事情があるかによって評価は変わります。
「一緒に住もう」という約束はどう扱われるか
同居の約束は、結婚の約束以上に、法的な義務として扱われにくいものです。法律上の夫婦には同居し、協力し、扶助し合う義務がありますが(民法752条)、この夫婦の同居義務でさえ、力ずくで実現させる方法はないと考えられています。まして交際中の「一緒に住もう」という約束を守らなかったことを理由に、同居を強制されることはありません。
同居の約束が問題になりうるのは、主に次のような場面です。
- 同居の約束が、婚約の内容の一部として交わされていた場面。
- 同居を前提に、相手が転居や退職をして、出費や収入の減少が生じていた場面。
- すでに同居して生活をともにしており、関係が内縁と評価されうる場面。
1つ目は、婚約の成否の問題として考えることになります。2つ目は、慰謝料というより、相手に生じた具体的な出費をどう扱うかという清算の問題になりやすいところです。3つ目のように長く同居して家計を一つにしていた場合には、婚姻届を出していなくても、内縁として夫婦に準じた保護を受けることがあります。内縁の扱いについては【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで解説しています。
婚約が成立していても、すぐに支払義務が決まるわけではない
仮に婚約が成立していたと評価されても、婚約を解消したこと自体で直ちに慰謝料の支払義務が決まるわけではありません。婚約は結婚を強制できる約束ではなく、解消に正当な理由があれば、責任は生じないと考えられています。
正当な理由として挙げられることが多いのは、相手の不貞行為、暴力や侮辱的な言動、長期間の音信不通、婚約後の大きな事情の変化などです。どのような事情が正当な理由になりうるかは、結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはで詳しく整理しています。
慰謝料が認められる場合の金額にも、事案によって幅があります。婚約破棄についての法律事務所の解説では、数十万円から200万円程度の範囲に収まる例が多いとするものが見られます。会話のやり取りが中心で婚約の外形が乏しい事案では、認められたとしても低い水準にとどまるという見方もあります。相手から示された金額が、そのまま相場というわけではありません。
約束の言葉とは別に、責任が問題になりやすい場面
婚約にあたらない交際であっても、例外的に責任が問題になる場面があります。責められている内容がこれにあたるかどうかは、確認しておく必要があります。
- 既婚であることを隠して、結婚を約束するような言動をしていた場合。
- 結婚する意思がないのに、結婚を持ち出して金銭を受け取っていた場合。
- 「結婚するから仕事を辞めてよい」などと伝え、相手が実際に退職や転居をしていた場合。
- 結婚資金や新生活の費用として、相手からまとまったお金を受け取っていた場合。
既婚を隠した交際や、結婚の意思がないまま結婚を持ち出していた場合には、相手の人格的な利益を侵害したとして、婚約の成否とは別に不法行為(民法709条・710条)が問題になることがあります。この点は結婚をちらつかせて金銭・関係を得る|結婚詐欺と貞操権侵害の境界もあわせてご覧ください。
結婚を前提に受け取ったお金については、関係の解消にともなって返還を求められることがあります。こちらは結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかで扱っています。
責められたときに避けたい対応
相手から強く責められると、早く場を収めたいという気持ちから、求められるままに応じてしまうことがあります。しかし、その場の対応が、後の話し合いに影響することもあります。
- その場で謝罪文や誓約書、支払いを約束する書面に署名すること。
- 「婚約していた」「結婚するつもりだった」と、事実と異なる形で認めるメッセージを送ること。
- 金額の根拠を確かめないまま、一部でも支払いに応じること。
- 内容証明郵便や裁判所からの書類を開封せずに放置すること。
- 相手の家族や職場に直接連絡して、事情を説明しようとすること。
とくに書面への署名は慎重に考えたいところです。強く迫られて書いた書面の扱いについては【男女トラブル】別れ際に書いた誓約書を撤回したい|強く迫られて書いた書面で解説しています。
一方で、相手の気持ちを逆なでする言葉を返す必要もありません。法的な責任の有無とは別に、落ち着いて事実を確かめる姿勢を保つことが、結果として話し合いを長引かせないことにもつながります。
手元で整理しておきたい記録
婚約が成立していたか、解消に正当な理由があったかは、当事者のやり取りをもとに判断されます。相手の主張に向き合う前に、次のような記録を整理しておくと、状況を客観的に見直しやすくなります。
- 交際中のLINEやメールのうち、結婚や同居について触れたやり取り。
- 指輪や結婚準備、新居に関する購入・契約の記録。
- 家族や友人に相手をどう紹介していたかがわかる記録。
- 別れに至った経緯と、そのときのやり取り。
- 相手から届いた請求のメッセージや書面。
記録を消したり、都合のよい部分だけを残したりすることは避けてください。自分に不利に見える部分も含めて全体を見ることで、どこが争点になるのかが見えてきます。
弁護士に相談することで変わること
弁護士に依頼すると、相手とのやり取りの窓口を弁護士に移すことができます。直接責められる状況から離れたうえで、婚約の成否や請求の根拠を一つずつ確認し、応じる必要のない請求には応じず、話し合いで整理すべき点は書面にまとめる、という形で進めていきます。
別れ話そのものを弁護士に任せる流れは【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるで紹介しています。また、当事務所が扱った事例として、【解決事例】「婚約は成立していない」ことを踏まえた交渉で、慰謝料請求を100万円から10万円へ減額した事例もあります。
よくあるご質問
プロポーズはしていませんが、相手の親には会っています。婚約したことになりますか?
親に会ったという事実だけで、婚約が成立したと決まるわけではありません。婚約者として紹介したのか、交際相手として挨拶したのか、その後に結婚の具体的な準備が進んでいたのかなど、ほかの事情とあわせて判断されます。
同居を断ったら「引越しの準備にかかった費用を払って」と言われました
同居の約束そのものを守る義務は認められにくいものの、同居を前提に相手が支出した費用がある場合には、その扱いが話し合いの対象になることはあります。誰が何のために支出したのか、手元に残っている物があるのかなどを確認したうえで、金額の根拠を一つずつ見ていくことになります。
「今まで付き合った時間を返して」と言われています
交際に費やした時間そのものを金銭に換えて請求することは、婚約や内縁にあたらない交際では認められにくいと考えられます。詳しくは【男女トラブル】別れを告げたら「今までの時間を返せ」と言われた|時間の対価は請求できるのかをご覧ください。
結婚や同居の約束をめぐるトラブルでは、言葉そのものよりも、その言葉を裏づける事情がどれだけあるかが判断の分かれ目になります。責められて動揺するのは自然なことですが、その場で結論を出さず、まずは二人の関係が法律上どう評価されうるのかを確かめるところから始めてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


