【解決事例】不倫関係解消後の撮影動画をめぐるトラブル|弁護士の介入により被害者との合意書締結と解決金支払いで解決した事例
配偶者の不貞が分かったとき、慰謝料を請求できる相手は1人ではありません。不貞をした配偶者と、その相手方の2人です。そして、そのうち誰に請求するかは、請求する側が選ぶことができます。ところが実務では、この「誰に」という選び方によって、最終的に手元に残る金額も、その後の家族の関係も、手続にかかる時間も変わってきます。ここでは、配偶者だけ・相手だけ・両方という3つの選択肢が、それぞれどのような結果につながりやすいのかを整理します。
請求できる相手は「2人」|まず全体像を押さえる
不貞行為は不法行為(民法709条・710条)に当たると考えられており、不貞をした配偶者も、その相手方も、それぞれ賠償責任を負う可能性があります。そして両者は共同不法行為者(民法719条1項)として、いわゆる不真正連帯債務の関係に立つと整理されています。
どちらにも全額を請求できる
不真正連帯債務では、請求する側は、どちらか一方に対しても、双方に対しても、損害の全額を請求することができます。「まず配偶者に半分、相手に半分」といった分け方をしなければならないわけではありません。誰にいくら請求するかは、請求する側が決められるのが原則です。
ただし合計額は増えない
一方で、2人に請求したからといって、受け取れる総額が2倍になるわけではありません。損害はあくまで1つと考えられ、一方から支払われた分だけ、もう一方の支払義務も減っていきます。いわゆる二重取りができないのはこのためです。
なお、そもそもなぜ配偶者だけでなく相手方にまで責任が及ぶのかという考え方の部分は、共同不法行為を扱った別稿で詳しく整理しています。本稿では、その先にある「では誰に請求するのか」という選択の場面に絞って説明します。
配偶者だけ・相手だけ・両方|3つの選択肢の違い
| 請求先 | 選ばれやすい場面 | お金の実質 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 配偶者だけ | 離婚を前提にしている/相手方を特定できていない | 離婚しない場合は同じ家計の中での移動にとどまることがある | 相手方の責任が問われないまま終わる |
| 不倫相手だけ | 離婚せずに関係を続ける/相手方に責任を明確にさせたい | 後から配偶者へ求償されると、世帯全体では目減りすることがある | 求償の扱いを示談の中で決めておく必要がある |
| 両方 | 事実関係に争いがある/どちらの主張も確かめたい | 合計額は1人に請求した場合と変わらない | 交渉や手続の負担が2倍近くになることがある |
どれが正解と決まっているわけではありません。離婚するのかしないのか、相手方を特定できているのか、相手方に支払える資力があるのかといった前提によって、合理的な選び方は変わります。
配偶者だけに請求する場合
配偶者に対する慰謝料請求は、離婚するかどうかにかかわらず可能とされています。もっとも、離婚も別居もしていない段階では、夫婦の家計が一つになっていることが多く、配偶者から受け取っても同じ家計の中でお金が動いただけ、という結果になりやすい面があります。この点は、離婚しない場合に配偶者への請求を選ぶ方が比較的少ない理由の一つとされています。
反対に、離婚を前提としている場合には、配偶者への請求が意味を持ちやすくなります。ただし、離婚に伴って問題になる財産の清算などは別の手続の問題であり、慰謝料だけを切り離して考えられない場面もあります。
また、相手方の氏名や住所が分からない段階でも、配偶者に対する請求はできます。相手方の特定に時間がかかりそうな場合に、まず配偶者との間で事実関係を確定させておく、という進め方もあり得ます。
なお、夫婦間の権利については、婚姻が続いている間は時効が完成しないものとする規定(民法159条)があります。配偶者への請求は、相手方への請求と同じ時間感覚で考えなくてよい場合がある、という点は押さえておくとよいでしょう。時効の数え方そのものは、時効を扱った別稿で詳しく説明しています。
不倫相手だけに請求する場合
夫婦としてやり直すことを選び、相手方にだけ請求するという方は少なくありません。相手方に責任を認識してもらうことや、接触を断つ約束をあわせて取り付けることを重視する場合には、この選び方が検討されます。
ただし、注意しておきたいのが求償です。自分の負担部分を超えて支払ったと考える相手方が、後から配偶者に対して分担を求めてくることがあります。離婚せずに夫婦を続けている場合、求償に応じた分は同じ家計から出ていくため、世帯全体で見ると手元に残る金額が想定より少なくなるおそれがあります。
そのため実務では、示談の際に求償権の取扱いをどう定めるかが交渉の対象になります。金額を抑える代わりに求償権を放棄してもらう、といった調整が行われることもあります。求償の要件や負担割合、放棄条項の意味については、求償権を扱った別稿で詳しく整理しています。
このほか、相手方に支払える資力があるか、そもそも相手方を特定できているかも、この選択の現実的な前提になります。
両方に請求する場合
双方に請求することも可能です。訴訟になった場合、配偶者と相手方を同じ手続の中で共同被告として訴えることもできます(民事訴訟法38条が定める通常共同訴訟)。別々に請求を進めることも妨げられません。
両方に請求する利点としては、事実関係に争いがあるときに、双方の言い分を同じ場で確かめられる点が挙げられます。一方で、受け取れる総額が増えるわけではない点、交渉や書面のやり取りが2系統になり、時間と費用の負担が大きくなりやすい点は意識しておく必要があります。
また、片方が反論して支払を拒んでいるからといって、もう片方の義務が自動的に軽くなるわけではありません。それぞれの責任は別々に判断されるため、結論が食い違うこともあり得ます。
「順番」と「時間差」で結論が変わる
誰に請求するかと同じくらい、どちらから先に話をまとめるかも結果を左右します。ここは見落とされやすい部分です。
先に受け取った分は、もう一方の義務からも差し引かれる
一方から支払を受けると、その分だけもう一方の支払義務も減ります。早く終わらせたいという気持ちから最初の相手と低い金額で示談すると、残る請求の枠がその分だけ小さくなる可能性があります。先に示談する相手と金額を決めるときは、もう一方への請求まで見通しておくことが大切です。
一方を免除しても、もう一方の義務は当然には消えない
配偶者を許して請求しないと決めた場合でも、それだけで相手方の義務まで消えるわけではないと考えられています。ただし、示談書の書き方によっては、どこまでを清算したのかが後から争点になることがあります。清算条項の射程は文言次第で変わり得るため、示談書を作る段階での確認が欠かせません。条項の設計については、示談書を扱った別稿で詳しく説明しています。
時効は請求先ごとに別々に進む
消滅時効は、損害と加害者を知った時から進行するとされています(民法724条)。相手方が誰なのか分からなかった期間がある場合、配偶者に対する時効と相手方に対する時効は、同じタイミングで進むとは限りません。「配偶者への請求はまだ余裕があるが、相手方への請求は期限が近い」といった食い違いが生じることがあります。
請求できない相手・請求が通りにくい相手
責任を負うのは不貞に関わった当事者であり、その周囲の人にまで当然に賠償を求められるわけではありません。次のような相手への請求は、原則として難しいと考えられています。
- 相手方の親やきょうだいなど、不貞そのものに関わっていない親族。
- 相手方の勤務先や上司。
- 2人を引き合わせただけの友人や知人。
- 不倫相手が既婚だった場合の、その配偶者。
また、相手方に故意も過失も認められない場合や、不貞の時点で婚姻関係がすでに破綻していたと判断される場合には、相手方への請求自体が認められないことがあります。これらの反論への向き合い方は、それぞれ別稿で扱っています。
もう一つ整理しておきたいのが、離婚したこと自体についての慰謝料です。最高裁は平成31年2月19日の判決で、第三者が離婚させたこと自体を理由に責任を負うのは、離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をしたなどの特段の事情がある場合に限られるという判断を示しました。相手方への請求と、離婚そのものに伴う請求は、性質が異なるものとして区別されています。
請求を受けた側から見た「なぜ自分だけなのか」
ここまでは請求する側の視点で整理しましたが、選ばれるということは、2人のうち自分にだけ請求が来ることがあるということでもあります。実際、不貞をした配偶者には請求せず、相手方にだけ請求するという例は多く見られます。
この場合、まず押さえておきたいのは、請求された金額がそのまま支払うべき金額とは限らない、という点です。責任の有無、期間や経緯、婚姻関係の状況などによって、適正と考えられる金額は変わります。
そのうえで、自分の負担部分を超えて支払ったと言える場合には、後から配偶者側に分担を求められる余地があります。示談の場で求償権の放棄を求められたときは、放棄することと引き換えに金額がどれだけ調整されているかという観点で検討することになります。放棄が常に不利というわけではなく、早期に終わらせる価値と見合っているかどうかの判断です。
なお、請求してきた相手が、不貞の相手方の配偶者本人ではない場合には、どのような立場で請求しているのかを最初に確認しておくことをおすすめします。
動く前に確認しておきたいこと
請求する側が、請求先を決める前に整理しておきたい点は次のとおりです。
- 離婚を考えているのか、夫婦を続けるつもりなのか。
- 相手方の氏名・住所を把握できているか。
- 求償が起きた場合に、世帯全体でいくら残るのか。
- どちらから先に交渉を始めるのか。
- 時効の起算点が請求先ごとにいつになりそうか。
請求を受けた側が、返答の前に確認しておきたい点は次のとおりです。
- 請求書に書かれた事実関係が、実際の経緯と一致しているか。
- その場で金額を認めたり、書面に署名したりしていないか。
- やり取りの記録を消していないか。
- もう一方の当事者との間で、すでに支払が行われていないか。
- 回答期限がいつまでか。
まとめ
慰謝料を請求できる相手は、不貞をした配偶者と、その相手方の2人です。どちらに請求するかは自由に選べますが、選び方によって手元に残る金額も、その後の関係も変わります。整理すると次のとおりです。
- どちらにも全額を請求できるが、合計額は増えない。
- 離婚しない場合、配偶者への請求は同じ家計の中の移動にとどまることがある。
- 相手方だけに請求すると、求償を通じて負担が戻ってくることがある。
- 両方に請求しても総額は変わらず、手続の負担は増える。
- 先に示談した金額は、もう一方への請求の枠に影響する。
- 時効は請求先ごとに別々に進むことがある。
どの選び方が適しているかは、離婚するかどうか、相手方を特定できているか、資力があるかといった前提によって変わります。判断を誤ると、後から請求できる範囲が狭まってしまうこともあります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求する側・請求を受けた側の双方から、男女間のトラブルに関するご相談をお受けしています。請求先の選び方や、示談の進め方についてお悩みの方は、お早めにご相談ください。


