支払うつもりはあった|詐欺罪の故意はいつの時点で判断されるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「支払うつもりはあった」。支払いや返済が滞り、相手から詐欺ではないかと言われている方が、まず口にする言葉です。この説明は、それ自体としては事実であることが多く、法律上も意味を持ちます。ただ、この一言だけで話が終わるわけではありません。

 詐欺罪は故意犯ですから、受け取った時点で相手を欺く認識があったといえなければ成立しません。問題は、その認識をいつの時点で、どのような材料から見るのかという点にあります。裁判例を追っていくと、「つもりはあった」という説明は、三つの角度から確かめられていることが分かります。

 この記事では、詐欺の疑いを向けられている方に向けて、故意が判断される時点と、「支払うつもりはあった」という説明がどこまで通り、どこから通りにくくなるのかを、裁判例に沿って整理します。

「支払うつもりはあった」という説明が置かれる場面

 同じ言葉が使われる場面には、次のような幅があります。

・商品やサービスの提供を受けたが、代金を支払えないままになっている
・知人から借りた金銭を返せず、詐欺で訴えると言われている
・仕事の前払金を受け取ったが、着手できないまま返金もできていない
・飲食や宿泊の代金を、その場で支払えなかった
・後払いの決済や掛け払いを利用したが、請求に応じられていない

 場面は違っても、問われている構造は共通しています。受け取った時点で相手に何を告げ、何を告げなかったのか、という点です。

故意が問われるのはどの時点か

 詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させる犯罪です(刑法246条1項。法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めはありません)。実行行為は人を欺く行為ですから、故意が必要とされるのもその欺く行為をした時点、つまり申し込みをして相手から財物や利益を受け取った時点になります。

 支払期限が来た時点でも、督促を受けた時点でも、支払えないと分かった時点でもありません。判断の材料は、受け取ったときに何を考えていたかという一点に置かれます。

 この点を押さえておくと、次に述べる区別も理解しやすくなります。

あとから支払えなくなった事情だけでは故意は認められない

 受け取った後に失職した、体調を崩した、取引先が倒れて入金がなくなった。こうした事情は、受け取った時点の認識とは別の話です。結果として支払えなかったという事実だけで、受け取った時点の故意が基礎づけられるわけではありません。

 この場合に残るのは、民事上の債務不履行です。支払義務そのものは消えませんが、刑事の手続が当然に始まる場面とは分けて考えられています。

「つもりはあった」は三つに分けて確かめられる

 もっとも、「支払うつもりはあった」と述べれば説明が完結するわけでもありません。裁判例では、この説明が次の三つの角度から確かめられています。

確かめられること問われている中身説明に必要になるもの
時点受け取る前から決めていたのか、受け取った後に決めたのか時系列と、考えが変わった時期
見込みの具体性支払いの見通しに具体的な裏づけがあったか原資の内容と、その時点で見えていた根拠
他の点の説明名義・使途・収入・保証人など、支払意思以外の説明相手に告げた内容と、実際の事実との対応


 以下、順に見ていきます。

一つ目・いつの時点の意思か

 受け取る前から支払わないと決めていた場合、受け取る行為そのものが相手を欺く行為と評価されます。これに対して、受け取った後になって支払わないと決めた場合は、受け取った時点の故意がありませんから、その受領について詐欺罪が成立するとは考えられていません。

 もっとも、後から支払いを免れるために新たな嘘をつき、相手に支払いを待たせたり請求を控えさせたりした場合には、その行為が別に評価される余地があります。この点は飲食や宿泊の場面で問題になりやすく、別の記事で扱っています。

二つ目・どの程度確かな見込みだったか

 実務でいちばん争いになるのが、この二つ目です。「支払うつもりだった」という気持ちがあっても、その見込みが具体的な裏づけを欠いていた場合、裁判所は別の評価をすることがあります。

 無銭宿泊の事案について、名古屋高等裁判所は昭和25年に、具体的な確実性のない支払意思は、その反面で支払不能の予想を含んでいるから、結局は未必の故意があると判断せざるを得ないと述べ、詐欺罪の成立を認めました。支払う気持ちがあったこと自体が否定されたわけではありません。それでも、見込みの中身が問われたということです。

 同じ考え方は事業の場面でも現れます。東京高等裁判所は昭和32年に、会社の経営が堅実でなく、いつ支払不能に陥るかもしれないという予見を持ちながら、適切な手段を講じることもなくその事実を伏せて出資を募った事案について、未必的な故意を推認するのが相当だとしました。昭和57年の判断では、手形の決済の見通しが不確実であるのに、確実に決済されるものと相手に誤信させた事案について、未必的な故意ではなく確定的な故意があったとされています。

 つまり、問われているのは「つもり」の有無ではなく、その見込みがどれだけ具体的だったかという点です。

それでも故意が否定される場合の考え方

 では、資金繰りが苦しい状態で取引を続ければ、いつでも詐欺になるのかというと、そうではありません。

 東京地方裁判所は昭和47年に、経営が悪化した会社の取引について、取引の際に経営不振の状態にあり場合によっては倒産もありうると予見していただけで直ちに未必的な故意があるとするのは、発生した結果によって犯罪の成否を決定するにも等しく、現実の経済社会の実情にも合致しないと述べました。企業を続けようとすればするほど取引を重ねざるを得ず、倒産の見込みを相手に告げれば自ら信用を落とすことになる、という実情を踏まえた判断です。

 そのうえで同裁判所は、倒産による債務不履行の可能性を認識していても、そうした事態を避けられる見込みが相当程度あると信じ、かつ誠実に契約を履行するための努力をする意思があるときは、欺く意思はないとしました。

 ここから読み取れる分かれ目は、次の二つです。

・支払える見込みがあると信じるだけの根拠が、その時点で実際にあったか
・履行に向けて、その後も具体的な行動をとっていたか

 「支払うつもりはあった」という説明は、この二つを伴って初めて説明として機能します。

三つ目・支払意思以外の点に嘘がなかったか

 見落とされやすいのが三つ目です。支払う意思があっても、別の点について事実と異なる説明をして相手を誤信させた場合には、詐欺罪の成立を認めた判断が積み重なっています。

・広島高等裁判所松江支部は昭和26年に、いったん詐欺の手段で財物を交付させた以上、後日返済する意思を持ちこれを実行したとしても、成立を妨げないとしました
・東京高等裁判所は昭和32年に、手形割引の名目で相手を錯誤に陥らせて現金を移転させた時点で成立し、後日その手形を決済する意思の有無は成否に影響しないとしました
・同裁判所は昭和30年に、偽造した注文書を提出して商品の交付を受けた事案について、転売代金で支払う意思があったとしても刑事責任を免れないとしました
・大審院は昭和2年に、掛売買で他人の名義を無断で用いた証書を作って相手を欺いた事案について、代金を支払う意思があったとしても詐欺罪を構成するとしました
・大審院は大正9年に、連帯保証人がいないのにいるように偽った事案について、返済の意思の有無は成立を妨げないとしました

 いずれも、支払意思そのものは問題にされていません。相手が財産を渡すかどうかを決める判断材料について、事実と異なる説明があったかどうかが見られています。名義、使途、収入や勤務先、担保や保証人の有無、資格の有無などは、この判断材料に当たりやすい事柄です。

内心は外側の事情から推し量られる

 受け取った時点の内心は、そのままの形で見えるものではありません。そこで、次のような外側の事情から推し量られることになります。

・受け取った時点の収入、預貯金、他の債務の状況
・支払いの原資として説明した内容と、その裏づけの有無
・同じ時期に、他からも同様の受領を重ねていなかったか
・受け取った後の連絡の取り方(説明を続けたか、途絶えたか)
・相手に告げた内容と、契約書や取引履歴、やり取りの記録との整合
・一部であっても履行に向けた行動をとっていたか

 これらは捜査機関が集める材料であると同時に、疑いを向けられた側が説明を組み立てるときの材料でもあります。

一部を支払っていた場合、あとから返した場合

 先に触れたとおり、事後に返済したことは、受け取った時点の評価をそのまま覆すものとはされていません。とはいえ、事後の弁済に意味がないわけでもありません。受け取った時点の見込みが具体的であったことを示す事情になりうるほか、処分の判断や相手方との話し合いの場面では別の重みを持ちます。

 「あとから払えば終わる」とも「あとから払っても意味がない」とも言い切れない、というのが実際のところです。

「支払うつもりだった」と説明するときに具体化したいこと

 取調べや相手方との話し合いで同じ言葉を繰り返しても、中身が伴わなければ説明として受け止められにくくなります。整理しておきたいのは次の点です。

・どの時点の意思について話しているのか
・その時点で、支払いの原資として何を見込んでいたのか
・その見込みには、どのような裏づけがあったのか
・相手にどこまで説明し、どこを説明していなかったのか
・説明した内容と食い違う事実はなかったか
・受け取った後、支払いに向けてどのような行動をとったのか

避けたい対応

 次のような対応は、受け取った時点の認識を疑わせる事情として扱われやすくなります。

・相手との連絡を絶つ
・やり取りの記録や資料を削除する
・つじつまを合わせるために、新たな説明を重ねる
・その場で内容を確かめないまま念書や公正証書に署名する
・別の相手から受け取った金銭で穴埋めをする

刑事の判断と民事の支払義務は別に残る

 詐欺罪が成立しないと判断されたとしても、支払義務がなくなるわけではありません。契約に基づく支払義務や遅延損害金は民事の問題として残り、支払いを求める交渉や訴訟は別に進みます。

 逆に、支払いを済ませたからといって刑事の手続が当然に終わるわけでもありません。二つは別の筋道で動きます。

まとめ

 この記事の要点を整理します。

・詐欺罪の故意は、受け取った時点の認識をもとに判断される
・受け取った後に生じた事情だけでは、その時点の故意は基礎づけられない
・「支払うつもりはあった」は、時点、見込みの具体性、他の点の説明という三つに分けて確かめられる
・具体的な裏づけを欠く支払意思は、未必の故意と評価されることがある
・避けられる見込みを信じる根拠と、履行に向けた行動があれば、故意が否定される余地がある
・支払意思があっても、名義や使途など他の点に事実と異なる説明があれば成立しうる

 支払いが滞っている段階では、まだ刑事の手続が始まっていないことも多く、その時期にどのような説明と記録を残すかが、その後の展開に影響します。相手から詐欺だと言われている、警察から連絡があったという段階でしたら、早めに弁護士にご相談ください。当事務所では、24時間受け付けの無料相談を設けています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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