恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

 友人に貸したお金が返ってこない。元交際相手に立て替えた費用を請求しても、連絡すら返ってこない。こうした状況で「もっと強く言うしかない」と考えたとき、多くの方が気になるのが「どこまでが正当な請求で、どこからが違法な取立てになるのか」という線引きです。

 一方で、取立てを受けている側からは「返済が遅れている自分が悪いのだから、多少のことは我慢するしかないのか」というご相談も少なくありません。

 結論から言えば、返してもらう権利があること(債権の存在)と、その回収のためにとった方法が適法であることは、別々に判断されます。本コラムでは、個人間の債権回収において「恐喝」と評価されうる線がどこにあるのかを、判例の考え方と具体的な場面に沿って整理します。

個人間の取り立てに貸金業法は適用されない──それでも「自由」ではない

 借金の取立てについては、貸金業法21条1項が細かい規制を置いています。正当な理由なく深夜・早朝に電話や訪問をすること、勤務先など本人の居宅以外の場所に連絡すること、債務者以外の第三者に弁済を要求することなどが、禁止行為として列挙されています。

 ただし、この規制の名宛人は登録を受けた貸金業者です。友人・知人・親族・元交際相手といった個人どうしの貸し借りには、貸金業法の取立て規制は直接適用されません。

 このことから「個人間の取立てにはルールがない」と説明されることがありますが、正確ではありません。適用されないのはあくまで業法上の規制であって、刑法や民法の一般的なルールは当然に及びます。むしろ、「何時から何時まで」といった明確な数値基準がない分、行為の内容そのものから、社会的に許される範囲かどうかを判断しなければならないということです。

 なお、個人であっても金銭の貸付けを反復継続し、社会通念上「事業の遂行」とみられる程度に至れば「貸金業」に該当し、無登録営業として貸金業法11条1項・47条2号の対象になりうる点にも注意が必要です。

出発点|正当な債権があることは、取立ての方法を正当化しない

 この分野で繰り返し参照されるのが、最高裁昭和30年10月14日判決です。同判決は、他人に対して権利を有する者がその権利を実行することについて、権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限りは違法の問題を生じないが、その範囲・程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪が成立することがあるという考え方を示しました。

 注目していただきたいのは、その先です。同判決は、債権取立てのためにとった手段が権利行使の方法として社会通念上一般に忍容すべき程度を逸脱した恐喝手段である場合、債権額のいかんにかかわらず、その手段によって交付を受けた金員の全額について恐喝罪が成立するとしています。事案は、残債権が3万円であったところ6万円を交付させたというもので、6万円の全額について成立が認められました。

 つまり「3万円は正当な取り分なのだから、超過した分だけが問題になるはずだ」という整理にはならない、ということです。正当な債権を持っていることは、逸脱した手段をとったときの免罪符にはなりません。むしろ「自分には返してもらう権利がある」という確信があるからこそ、手段が過激になりやすいという構造があります。

 参考までに、この場面で問題になりうる主な罪の法定刑は次のとおりです(2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されています)。

  • 恐喝罪(刑法249条1項)……10年以下の拘禁刑。未遂も処罰されます(250条)
  • 脅迫罪(刑法222条)……2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
  • 強要罪(刑法223条)……3年以下の拘禁刑

アウトになる線を分ける4つの視点

 「どこからが恐喝か」を一律の基準で線引きすることはできませんが、実務上、次の4点が判断の分かれ目になりやすいといえます。

①伝えているのは「請求」か、「不利益の予告」か

 「〇月〇日までに10万円を返してほしい」というのは請求です。これに対し、「返さなければどうなるか分かっているな」「家族の職場に行くことになる」といった言い方は、支払いとは別の不利益を予告するものです。後者は、相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知として、脅迫罪や恐喝罪の検討対象になりえます。

 明示的な文言でなくとも、人数・場所・時間帯・語調といった状況から相手を畏怖させるに足ると評価されれば、同じ結論になりうる点にも留意が必要です。前掲の最高裁判決の事案も、複数人で赴き身体に危害を加えるような態度を示したというものでした。

 なお、「訴えるぞ」「警察に行く」といった法的手続の予告は、これらとは性質が異なります。この点は別コラムで整理していますので、そちらをご参照ください。

②請求している相手は本人か

 借入れをした本人以外の家族や親族には、原則として返済義務がありません。連帯保証人になっている場合や、相続によって債務を承継した場合を除き、「親に払わせる」「配偶者に請求する」という形での回収は、そもそも法的根拠を欠きます。

 根拠のない請求を、相手を畏怖させる形で繰り返した場合には、脅迫罪・恐喝罪・強要罪が問題になりえます。本人に対する取立てとして許容される範囲であっても、対象を第三者に広げた途端に評価が変わることがある、と理解しておく必要があります。

③自分で実現しようとしていないか(自力救済の禁止)

 日本の法制度は、権利の実現を国家の手続に委ねる建前をとっており、権利者が実力でこれを実現する「自力救済」は、原則として認められていません。最高裁も、法律に定める手続によったのでは権利実現が不可能または著しく困難と認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合に、必要な限度で例外的に許されるにとどまるという考え方を示しています(最高裁昭和40年12月7日判決)。

 したがって、預かっていた品物を勝手に売却して返済に充てる、部屋から金目のものを持ち出すといった行為は、債権があっても正当化されません。態様によっては横領罪や窃盗罪、器物損壊罪の問題になりえます。

④求めている金額は債権の範囲内か

 回収の場面で借用書や債務承認弁済契約書を新たに取り交わすこと自体は、有効な手段です。ただしその際に、遅れたことを理由とした「違約金」「迷惑料」を上乗せしていくと、請求額が実体を離れていきます。

 利息については、利息制限法1条が元本10万円未満は年20%、10万円以上100万円未満は年18%、100万円以上は年15%を上限としており、これを超える部分は無効です。個人間の貸し借りにも適用されます。さらに、貸付けを行う者が年109.5%(閏年は年109.8%)を超える利息を定めた場合には出資法5条1項により5年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金(またはその併科)の対象となり、業として行う者はより重い法定刑が定められています。

行為別の整理

 個人間の取立てで問題になりやすい行為と、検討されうる法律構成を整理すると次のようになります。いずれも「必ず犯罪になる」という意味ではなく、態様によっては該当しうる、という趣旨です。

取り立ての場面検討され得る法律構成
危害を加えることをほのめかして支払いを求める恐喝罪(249条)、脅迫罪(222条)
複数人で取り囲む、退去させずに応じさせる恐喝罪、逮捕・監禁罪(220条)
支払いのほか、義務のない行為(念書の作成など)を強いる強要罪(223条)
退去を求められた自宅に居座る/勝手に立ち入る不退去罪・住居侵入罪(130条)
勤務先に押しかける、繰り返し電話をする威力業務妨害罪(234条)
自宅の張り紙、SNS・掲示板への書き込み名誉毀損罪、侮辱罪(231条)、器物損壊罪(261条)
本人以外の家族・親族に支払いを迫る脅迫罪、恐喝罪、強要罪
預かり品を勝手に処分して充当する横領罪(252条)ほか
上限を超える利息・違約金の設定利息制限法により超過部分は無効/出資法違反

 刑事上の問題にならない場合でも、行き過ぎた取立てが不法行為(民法709条)と評価され、逆に慰謝料を請求されることがある点も見落とせません。

判断が分かれやすい5つの場面

1. 連絡の頻度・時間帯
 個人間には貸金業法の時間規制が直接適用されませんが、深夜早朝に繰り返し着信を残すといった態様は、目的が支払請求であっても、その必要性に照らして相当性を欠くと評価される余地があります。

2. 自宅への訪問
 訪問して話し合うこと自体が直ちに違法になるわけではありません。分かれ目は、招き入れられていない敷地や室内に立ち入ったか、退去を求められた後も留まったかという点です。

3. 勤務先への連絡
 本人と連絡が取れないと、勤務先を頼りたくなる場面があります。ただし、借入れの事実を職場の第三者に伝える形になれば名誉毀損の問題が、業務に支障を生じさせれば業務妨害の問題が生じえます。

4. SNSでの言及
 「返済しない人物」として実名や写真を投稿する行為は、内容が真実であっても名誉毀損に該当しうる点に注意が必要です。事実の摘示が公共の利害に関わり、公益目的で行われ、真実であると認められる場合には違法性が阻却されますが、個人間の貸金トラブルでこの要件が満たされる場面は限られます。

5. 「他から借りてでも払え」と求める
 借主は貸主に対する返済義務を負っていますが、そのために新たな借入れをする義務まで負っているわけではありません。この要求を圧力とともに繰り返すことは、相当性を欠くと評価されやすい類型です。

取立てを強めるより、法的手続のほうが回収力は高い

 「裁判をしても、財産のありかが分からなければ回収できない」と言われた時代がありました。しかし、2020年4月に施行された改正民事執行法により、この前提は相当程度変わっています。

  • 財産開示手続……債務名義(確定判決、和解調書、仮執行宣言付支払督促、強制執行認諾文言付公正証書など)を持つ債権者の申立てにより、裁判所が債務者を呼び出し、自身の財産を陳述させる手続です。正当な理由なく出頭しない、宣誓を拒む、虚偽の陳述をするといった場合には、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります(民事執行法213条1項5号・6号)。改正前の30万円以下の過料から、前科がつきうる刑事罰に引き上げられました。
  • 第三者からの情報取得手続……金融機関から預貯金情報を、法務局から不動産情報を、証券会社から株式等の情報を取得できる手続です(同法204条以下)。なお、市町村や年金機構等から勤務先情報を得る手続は、養育費など民事執行法151条の2第1項各号に掲げる請求権、または人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者に限られており、通常の貸金債権では利用できません。

 このほか、金額や争いの有無に応じて、内容証明郵便による催告(民法150条1項により6か月間の時効の完成猶予が生じます)、支払督促、60万円以下の金銭請求であれば少額訴訟、通常訴訟といった選択肢があります。

 回収の実効性という観点からも、圧力を強める方向より、債務名義を取って執行に進む方向のほうが結果につながりやすいというのが実務的な感覚です。

 なお、取立てを第三者に依頼することは避けてください。弁護士でない者が報酬を得る目的で他人の法律事件について交渉等を行うことは弁護士法72条に抵触し、同法77条3号により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象となります。法務大臣の許可を受けた債権回収会社(サービサー)が扱えるのは特定金銭債権に限られ、個人間の貸金は原則として対象外です。依頼した側が共犯として問われるおそれもあります。

取立てを受けている側が知っておきたい3つのこと

① 支払義務の有無と、取立て方法の適法性は別問題です
 返済が滞っていることは、相手が何をしてもよい理由にはなりません。違法な取立てを受けているのであれば、警察への相談(緊急性がなければ警察相談専用電話「#9110」)や弁護士への相談を検討してよい場面です。

② 畏怖して支払っても、それで金額が確定するわけではありません
 強迫によって意思表示をした場合、その意思表示は取り消すことができます(民法96条1項)。支払った金額のうち、本来の債務を超える部分については、返還を求める余地があります。もっとも、その場での立証が難しくなるため、やり取りの記録を残しておくことが前提になります。

③ 内容をよく確かめないまま「返す」と応じないでください
 一部の弁済や、支払う旨の承認は、時効の更新事由となります(民法152条1項)。金額や返済期限に争いがあるなら、その場で認めず、書面で確認してから対応するのが安全です。これは支払いを免れるための助言ではなく、内容が固まらないまま合意させられることを避けるための注意点です。

まとめ

 個人間の債権回収において境界を分けるのは、「返してもらう権利があるかどうか」ではなく、「その権利をどのような方法で実現しようとしたか」です。判例の言葉を借りれば、権利の範囲内であり、方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を超えているかどうか、が問われます。

 そして、その程度を逸脱したと評価された場合、受け取った金銭は債権額にかかわらず全額が恐喝罪の対象になりうる、というのが判例の立場です。正当な請求を持っている方ほど、この点を知っておく意味は大きいと考えます。

 請求する側であれ、請求を受けている側であれ、感情が動きやすい場面です。当事者どうしのやり取りが行き詰まってきたと感じた段階で、第三者を挟む選択肢をご検討ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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