【解決事例】結婚を伝えた相手から退職と慰謝料を求められた|受任通知の届け方を整え、接触が止まった事例
別れ話を切り出したところ、相手が感情的になって手を上げてきた。叩かれた、突き飛ばされた、腕を強くつかまれて離してもらえなかった――。交際相手との間の出来事だけに、「警察に行くほどのことなのか」「相談したら大ごとになるのではないか」と迷い、一人で抱え込んでしまう方は少なくありません。この記事では、別れ話の場面で暴力を受けたときに警察へ相談するかどうかを考える手がかりと、相談の前後に押さえておきたい記録や制度、警察とは別に整理が必要になるお金や関係の問題について解説します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。刑罰の表記は、2025年6月に施行された改正刑法による「拘禁刑」で記載しています。
交際相手からの暴力も、犯罪として扱われ得る
夫婦であれ恋人であれ、他人に暴力を振るうことは法律上許されていません。別れ話がこじれたという事情があっても、相手を叩いたり突き飛ばしたりする行為は、刑法上の暴行罪や傷害罪にあたる可能性があります。
暴行罪と傷害罪の違い
両者を分けるのは、主に「けがをしたかどうか」です。
| 罪名 | 主な場面 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 暴行罪(刑法208条) | 叩く、突き飛ばす、腕を強くつかむ、物を投げつけるなど、けがに至らない有形力の行使 | 2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料 |
| 傷害罪(刑法204条) | 暴力によって打撲・切り傷・骨折などのけがを負わせた場合 | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
その場ではけががないと思っていても、後日の受診で打撲などが確認され、傷害として扱われることもあります。
「痴話げんか」で終わらせない方がよい理由
交際関係の中での暴力は、周囲からも本人からも「けんかの延長」と受け止められがちです。しかし、暴力のあとに相手が謝罪して優しくなり、しばらくして再び手が出る、という経過をたどる例は少なくないとされています。警察の啓発資料でも、いったん収まっても暴力が再開されるおそれがあることが指摘されています。感情が高ぶりやすい別れ話の局面では、一度の出来事であっても軽く見ないことが大切です。
警察に相談すべきか迷ったときの考え方
一律の答えはありませんが、迷ったときは次の順で考えると整理しやすくなります。
今まさに身の危険があるなら、迷わず110番
相手がまだ近くにいる、部屋の外で待っている、「殺す」などと口にしている、刃物や重い物を手にしている――こうした状況では、相談するかどうかを考えるより先に、安全の確保を優先してください。110番通報をしても、被害届を出すかどうかは落ち着いてから考えることができます。
別れ話の後に相手が自宅の前で待っているときの動き方は、【男女トラブル】別れ話の後に相手が自宅の前で待っている|その日の夜にできることで解説しています。
危険が去った後の相談は、警察署や相談窓口へ
その場は収まったものの不安が残る場合は、最寄りの警察署に相談する方法があります。緊急ではないものの警察に相談したいときは、警察相談専用電話「#9110」も利用できます。
交際相手からの暴力については、自治体の配偶者暴力相談支援センターや、国のDV相談窓口(DV相談ナビ「#8008」、「DV相談+」など)でも相談を受け付けています。いきなり警察に行くことに抵抗がある場合は、こうした窓口で話を聞いてもらい、警察への相談を含めて今後の動き方を考える、という順序もあり得ます。
「相談」と「被害届」と「告訴」は別のもの
警察に行くことと、相手を処罰してほしいと申し出ることは、必ずしも同じではありません。
| 手続 | 内容 | この段階で起きること |
|---|---|---|
| 相談 | 被害の状況を警察に伝え、助言や対応を求める | 相談の記録が残り、相手への注意などが検討されることがある |
| 被害届 | 犯罪の被害に遭ったことを警察に届け出る | 捜査のきっかけになる。処罰を求める意思表示までは含まない |
| 告訴 | 犯罪事実を申告し、相手の処罰を求める意思を示す | 処罰を求める意思が明確になり、警察は書類を検察に送る手続をとる |
まずは相談として事実を伝え、記録を残しておく。被害届を出すかどうかは、その後の相手の出方やご自身の気持ちを踏まえて考える。このように段階を分けて考えることもできます。違いの詳細は被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶ、受理を断られたときの対応は被害届を受理してもらえない|断られたときにできることをご覧ください。
警察に相談すると、その後どうなるのか
相談の内容や危険の程度によって、警察の対応はさまざまです。一般的には、次のような対応がとられることがあります。
- 相談内容が記録され、再び被害があったときに経緯として参照されます。
- 警察から相手に連絡し、暴力をやめるよう注意や指導をすることがあります。
- 被害届が受理された場合は、相手から事情を聴くなどの捜査が行われます。
- けがの程度や危険性によっては、相手が逮捕されることもあります。
- 避難先や相談窓口の案内など、被害を防ぐための助言を受けられます。
被害届を取り下げれば手続は止まるのか
別れ話の後で気持ちが揺れ、「やはり大ごとにしたくない」と考える方もいます。ただ、暴行罪や傷害罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」ではありません。そのため、被害届を取り下げたり相手と示談したりしても、それだけで捜査が必ず終わるとは限りません。
一方で、示談の成立や被害者の意向は、検察官が起訴するかどうかを判断する際に考慮される事情の一つです。被害届を出すかどうか迷っている段階であれば、こうした点も含めて相談先に確認しておくと安心です。
相談したことは相手に伝わるのか
相談しただけで、その内容が自動的に相手へ伝わるわけではありません。ただし、警察が相手に注意をしたり事情を聴いたりする段階に進めば、相手は誰が相談したのかを推測できます。相手が逆上するおそれがある場合は、警察が相手に接触する前に、住まいや連絡手段、避難先をどうするかを警察とよく話し合っておくことが大切です。
相談の前に残しておきたい記録
警察に相談するかどうかにかかわらず、暴力の記録は早めに残しておくことをおすすめします。時間が経つほど、けがの跡は消え、記憶もあいまいになるためです。
- 医療機関の受診記録と診断書(受診時に、交際相手から叩かれたなど原因を医師に伝えておく)。
- けが・あざ・破れた衣服・壊れた物の写真(日付が分かる形で、数日おきに撮影しておく)。
- 暴力の前後のやり取りが残ったLINEやメール、通話の録音。
- いつ、どこで、何をされたかを時系列でまとめたメモ。
- その場に居合わせた人や、直後に相談した友人・家族の名前と連絡先。
けがが軽く見えても、受診しておくことで、後から傷害として扱うかどうかを判断する材料になります。別れ話の録音については【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方も参考にしてください。
同棲しているかどうかで、使える制度が変わる
暴力を受けた後に相手を遠ざけるための法的な仕組みは、二人の関係によって異なります。
| 二人の関係 | 主に検討する制度 | 概要 |
|---|---|---|
| 同棲している(していた)交際相手 | DV防止法の保護命令 | 地方裁判所が、相手に接近禁止や住居からの退去などを命じる |
| 同棲していない交際相手・元交際相手 | ストーカー規制法の警告・禁止命令 | つきまといなどが続く場合に、警察や公安委員会が行為をやめるよう求める |
| いずれの場合も | 民事の接近禁止の仮処分 | 裁判所に、相手の接近や連絡を禁じる命令を求める |
同棲している場合――DV防止法の保護命令
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の保護命令は、法律婚の夫婦だけでなく、事実婚の相手や生活の本拠を共にする交際相手、つまり同棲している交際相手にも適用されます。同棲中に暴力を受け、関係を解消した後も引き続き暴力等を受けている場合も対象になり得ます。
2024年4月の改正法の施行により、接近禁止命令の期間は6か月から1年に延び、保護命令に違反した場合の罰則は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金に引き上げられました。さらに、2025年12月30日施行の改正で、紛失防止タグを使って居場所を把握する行為なども禁止の対象に加えられています。被害者の性別は問わず、男性も申立てができます。
同棲していない場合――ストーカー規制法などを検討
同棲していない交際相手や元交際相手は、DV防止法の保護命令の対象になりません。暴力の後に、別れを受け入れない相手からのつきまといや待ち伏せ、執拗な連絡が続くようであれば、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令を検討することになります。暴力そのものについては、前述のとおり暴行罪・傷害罪として被害届を出すことができます。
同棲の有無による違いは交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応、禁止命令の手続は【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で詳しく解説しています。
警察とは別に整理しておきたい、お金と関係の問題
警察の手続は、相手を処罰するかどうかを判断するためのものです。治療費や慰謝料を払ってもらうことや、別れ話そのものを終わらせることを、警察が代わりに進めてくれるわけではありません。
治療費や慰謝料は民事で求める
暴力によってけがをした場合、治療費や通院の交通費、仕事を休んだ分の収入、精神的苦痛に対する慰謝料などを、不法行為(民法709条・710条)に基づいて相手に請求できる可能性があります。身体を害された場合の損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効にかかるとされています(民法724条の2)。
刑事事件で示談が成立する場合は、これらの支払いを示談の中でまとめて取り決めることも少なくありません。詳しくは恋人から暴力を受けた|暴行罪・傷害罪と慰謝料請求をご覧ください。
別れ話の続きを、直接しなくてよい方法もある
暴力を受けた後に、再び二人きりで会って話をまとめようとするのは、身の安全の面からおすすめできません。荷物の返還や貸したお金、同棲していた部屋の解約など、別れに伴って決めなければならないことが残っている場合は、弁護士を窓口にして、本人と顔を合わせずに話を進める方法があります。接触しないことを約束する合意書を結ぶことも、その選択肢の一つです。進め方は【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるで紹介しています。
よくあるご質問
一度叩かれただけでも、警察に相談してよいのでしょうか
回数にかかわらず、相談することはできます。初めての暴力でも、相談した記録が残っていれば、その後に同じことが起きたときに経緯を説明しやすくなります。
もみ合いになり、こちらも相手を押し返してしまいました
別れ話の最中のもみ合いでは、お互いに手が出ていることもあります。身を守るためにやむを得ずした行為は正当防衛にあたる可能性がありますが、どこまでが許されるかは状況によって判断が分かれます。相手から「自分も暴力を受けた」と主張されることもあるため、何が起きたのかを正確に記録し、早めに弁護士に相談しておくと安心です。
男性でも交際相手からの暴力を相談できますか
相談できます。暴行罪・傷害罪は被害者の性別を問わず、DV防止法の保護命令も男性が申し立てることができます。ためらいがある場合も、記録をそろえたうえで警察や相談窓口に事実を伝えることが出発点になります。
しばらく時間が経ってからでも相談できますか
時間が経ってからの相談も可能です。ただし、けがの跡が消えていたり、やり取りの記録が残っていなかったりすると、事実の確認が難しくなる場合があります。法律相談サイトにも、過去の暴力はけがの記録がなく証明が難しいとして、被害届に至らなかったという相談が寄せられています。迷っている間も、記録だけは残しておくことをおすすめします。
当事務所でお手伝いできること
当事務所では、交際関係の解消をめぐるトラブルについて、ご相談者の代理人として相手方との窓口を引き受け、連絡や接触をやめるよう求める通知、接触禁止を含む合意書の作成、治療費や慰謝料の交渉などを行っています。警察への相談と並行して交渉を進めた事例は、【解決事例】別れ話を切り出せずにいた交際相手との関係|警察対応と並行して交渉し、接触禁止の合意書を結んだ事例で紹介しています。
別れ話の場面で暴力を受けたとき、まず優先すべきは身の安全です。そのうえで、警察に何を相談し、相手との関係やお金の問題をどう終わらせるかは、一人で決めきる必要はありません。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


