【不貞慰謝料】請求した側が逆に慰謝料を請求されるケース
交際相手から妊娠を告げられ、「出産まで働けないから生活費を出してほしい」と求められることがあります。子どもの父親としての責任を感じる一方で、毎月いくらを、いつまで払えばよいのか、そもそも払う義務があるのかが分からず、返事に迷う方は少なくありません。
この記事では、結婚していない交際相手が妊娠している場合に、生活費を払う法的な義務があるのかを、婚約・内縁との違い、出産費用や養育費との切り分け、払う場合と払わない場合それぞれの注意点に分けて整理します。
この記事は2026年11月時点の法令と一般的な実務の考え方にもとづく解説です。結論は交際の経緯、当事者間の約束、双方の収入の状況などによって変わることがあります。個別の事案については弁護士にご相談ください。
交際しているだけなら、妊娠中の生活費を払う法的な義務は原則としてない
結婚している夫婦の間には、互いの生活費を収入に応じて分担する「婚姻費用」の分担義務があります(民法760条)。妊娠中に夫が生活費を入れない場合、妻は婚姻費用として分担を求めることができます。
これに対して、婚姻届を出していない交際相手どうしには、この分担義務を定めた規定がありません。交際していること、あるいは交際相手が妊娠したことだけを理由に、相手の生活費を負担する法的な義務が当然に生じるわけではない、というのが一般的な考え方です。
また、子どもに対する父親の扶養義務は、法律上の父子関係があることが前提になります。結婚していない男女の間に生まれる子どもの場合、父子関係は認知によって生じ、認知の効力は子どもの出生の時にさかのぼります(民法784条)。出産後の子どもの養育費は認知を経て請求の対象になりますが、妊娠中の母親自身の生活費は、子どもの養育費とは別のものとして扱われるのが通常です。
ただし、「法的な義務がない」ことは「何も負担しなくてよい」という意味ではありません。後で説明するとおり、関係の性質や当事者の約束によっては支払いが必要になる場合があり、出産費用のように父母で負担を分け合うことが多い費目もあります。妊娠している側から見た請求の可否は、【男女トラブル】出産までの生活費は相手に求められるのか|内縁・婚約・交際の違いで解説しています。
払う義務が生じる、または支払いを求められやすい場面
| 関係・事情 | 妊娠中の生活費の扱いの目安 |
|---|---|
| 交際のみ(婚約・同居なし) | 原則として法的な支払い義務はない |
| 婚約が成立している | 一方的に解消した場合、損害賠償の中で考慮されることがある |
| 内縁(事実婚)の関係 | 婚姻費用に準じた分担が認められることがある |
| 払うと約束した | 約束の内容に従った支払いを求められることがある |
婚約が成立している場合
結婚の約束が成立していると評価される場合、正当な理由なく婚約を解消した側は、相手に生じた損害を賠償する責任を負うことがあります。婚約が成立していたかどうかは、指輪の授受、両家へのあいさつ、式場の予約、結婚を前提とした同居などの事情から判断されます。妊娠を機に結婚の話を進めていたのに一方的に解消した場合には、慰謝料のほか、結婚を前提に生じた支出などが損害として問題になることがあります。
婚約の解消が問題になる場面については、結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはもあわせてご覧ください。
内縁(事実婚)の関係にある場合
婚姻届は出していなくても、夫婦として共同生活を送っていると認められる内縁の関係では、法律上の夫婦に準じて生活費の分担義務が認められると考えられています。同居の期間、家計を一つにしていたか、周囲から夫婦として扱われていたかなどが判断の材料になります。内縁と評価される場合、妊娠中で収入が減った側から生活費の分担を求められれば、応じる必要が生じることがあります。
内縁と法律婚の違いは、【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで取り上げています。
払うと約束した場合
法的な義務がない場面でも、「出産までは毎月一定額を払う」と約束していれば、その約束が支払いの根拠になることがあります。口約束であっても合意として扱われる可能性があり、LINEなどのやり取りが証拠になることもあります。後になって支払いを止めたい、減らしたいという場合は、約束の内容や事情の変化を踏まえた話し合いが必要です。
金額の見直しについては、【男女トラブル】別れ話で払うと約束した金額を見直したい|約束の性質と内訳から見直せる範囲を確かめるも参考になります。
相手が仕事を辞めた経緯に関わっている場合
妊娠をきっかけに、こちらの希望で相手が仕事を辞めた、結婚を前提に転居してもらったといった事情があると、関係を解消する際に、その間の生活費や収入の減少が話し合いの対象になることがあります。実際の相談でも、妊娠後に男性の希望で退職した女性に対し、話し合いまでの生活費や医療費を支払う取り決めがされた例が見られます。どこまでが負担の対象になるかは、経緯によって異なります。
「生活費」と「出産費用」「養育費」は分けて考える
「生活費」として求められているお金の中には、性質の異なるものが混ざっていることがあります。何に対する支払いなのかを分けると、義務の有無や金額の考え方を整理しやすくなります。
| 費目 | 主な考え方 |
|---|---|
| 妊娠中の母親の生活費 | 交際のみなら原則として法的な支払い義務はない(婚約・内縁・約束があれば別) |
| 妊婦健診・分娩などの出産費用 | 父母で負担を分け合う考え方が多いが、見解は分かれる |
| 中絶を選んだ場合の費用 | 双方で分担する考え方が一般的 |
| 出産後の子どもの養育費 | 認知により父の扶養義務が生じ、双方の収入に応じて支払う |
出産費用については、公的な給付で賄えない部分を折半する、あるいは双方の収入に応じて分けるといった取り決めが実務ではよく見られます。一方で、子どもが生まれる前の費用を父親の扶養義務にもとづいて請求できるかについては考え方が分かれており、話し合いで決めることが多い費目です。詳しくは【男女トラブル】未婚の出産|出産費用を相手に負担してもらえるかで解説しています。
出産後の養育費は、認知によって法律上の父子関係が生じれば、父母それぞれの収入をもとに算定されます。認知は胎児の段階でもすることができ(民法783条1項、母親の承諾が必要)、手続の意味は【男女トラブル】胎児認知を求められた|生まれる前に認知する意味で取り上げています。
生活費を求められたときに最初に確認すること
- 妊娠の事実と時期(医療機関の受診の有無、出産予定日)。
- 自分の子である可能性(交際の時期と妊娠の時期の重なり)。
- 二人の関係の性質(婚約の有無、同居の有無と期間)。
- 求められている金額、内訳、期間。
- これまでに渡したお金の名目と金額。
- 相手の収入の見通しと、利用できる公的な給付。
妊娠の事実を確かめるのは、相手を疑うためではなく、出産予定日から支払いの期間や出産費用の見通しを立てるために必要だからです。受診の予定や母子健康手帳の交付について聞くなど、尋ね方には配慮が必要です。そのうえで、妊娠の話とともに急いで高額の支払いを求められ、事実の確認には応じてもらえないという場合は、慎重に対応してください。そのような場面の見極め方は「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で整理しています。
妊娠を告げられた直後に確かめておきたいことは、【男女トラブル】交際相手から妊娠を告げられた|最初の1週間に確認することもご覧ください。
生活費を払うと決めた場合の注意点
法的な義務がなくても、出産までの生活を支えたいと考えて支払うことは自由です。ただし、名目や期間があいまいなまま払い始めると、後になって「養育費とは別に払うのか」「いつまで払うのか」をめぐって意見が食い違いやすくなります。
- 支払いの名目(妊娠中の生活費、出産費用の分担など)を明らかにしておきます。
- 支払いの期間(出産までか、産後の一定期間までか)を決めておきます。
- 出産後の養育費や出産費用との関係(含めるのか、別に払うのか)を確認しておきます。
- 支払いは振込にして、記録が残る形にします。
- 取り決めた内容は書面にまとめ、双方で保管します。
生活費として渡したお金は贈与と評価されることが多く、関係が悪化した後で返してほしいと求めても、返還を受けるのは簡単ではありません。お互いの見通しをそろえるためにも、口約束のままにしないことが大切です。書面にまとめる方法は【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法で解説しています。
払わない、または払えない場合の伝え方
収入の状況などから生活費を払えない場合でも、連絡を絶つ、妊娠そのものを頭から否定する、中絶を強く迫るといった対応は避けてください。相手の不安を大きくして話し合いが難しくなるだけでなく、その後の認知や養育費、慰謝料をめぐる話し合いで不利に評価されることがあります。
伝える際は、生活費の負担は難しいことと、出産費用・認知・養育費については話し合う意思があることを分けて伝えると、相手も見通しを立てやすくなります。避けたい発言の例は、【男女トラブル】妊娠を告げられたときに言ってはいけない言葉|後で不利になる発言にまとめています。
生活費の支払いを結婚と結びつけて求められている場合は、【男女トラブル】妊娠を理由に結婚を迫られている|応じない場合に起きることもご覧ください。また、「払わなければ職場や家族に知らせる」といった言い方で支払いを迫られている場合は、当事者どうしで話し合いを続けるより、弁護士を窓口にすることを検討してよい段階です。
妊娠中の相手が利用できる公的な支援
相手が利用できる公的な給付によって、出産までに不足する金額は変わります。給付も含めて見通しを立てると、現実的な金額を検討しやすくなります。
- 出産育児一時金(健康保険から、原則として子ども1人につき50万円)。
- 出産手当金(勤務先の健康保険に加入している人が産前産後に休業した期間の給付)。
- 妊婦のための支援給付(市区町村が妊娠の届出の後などに行う給付)。
- 自治体の母子保健や妊娠に関する相談窓口。
弁護士に相談するメリット
妊娠中の生活費をめぐる話し合いは、出産費用、認知、養育費、関係の解消といった、いくつもの問題と結びついています。当事者だけで話すと感情的になりやすく、伝えるべきことを伝えられなくなる場合もあります。
弁護士に相談すると、婚約や内縁に当たるかどうか、求められている金額のうちどこまでが法的に負担すべきものかを整理したうえで、話し合いの方針を立てることができます。代理人として交渉の窓口になれば、相手と直接やり取りする負担を減らしながら、合意した内容を書面に残すことも可能です。
よくあるご質問
胎児認知をしたら、妊娠中の生活費も払わなければならなくなりますか
胎児認知は、生まれてくる子どもとの父子関係を出生前に確定させる手続です。認知によって生じるのは子どもに対する扶養義務であり、妊娠中の母親自身の生活費を負担する義務が認知だけで生じるわけではないと考えられています。ただし、出産費用の分担や出産後の養育費については、認知を前提に話し合いが進むことになります。
妊娠中に渡した生活費は、後で養育費から差し引けますか
妊娠中の生活費と出産後の養育費は別のものとして扱われることが多く、後から一方的に差し引くことは難しいと考えられます。養育費の前払いとして渡すのであれば、その趣旨を支払いの時点で相手と合意し、書面に残しておくことが必要です。
まとめ
婚約も同居もしていない交際相手であれば、妊娠中の生活費を払う法的な義務は原則としてありません。一方で、婚約や内縁に当たる場合、払うと約束した場合、相手の退職などに関わっている場合には、支払いが必要になることがあります。生活費・出産費用・養育費を分けて考え、記録と書面を残しながら話し合うことが、後のトラブルを減らすことにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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