【不貞慰謝料・請求された側】請求された金額=支払うべき金額ではない理由
交際相手から殴られた、怒鳴られ続けた、スマホを見られて交友関係を制限された――。結婚していない間柄で起きる暴力は「デートDV」と呼ばれ、別れた後になって「受けた被害について、何か請求できないのか」とご相談をいただくことがあります。
交際中の暴力であっても、法律上は他人に対する加害行為と同じように扱われ、慰謝料などを請求できる場合があります。ただし、請求が認められるかどうかや金額は、行為の内容や程度、残っている記録によって大きく変わります。また、請求によって相手を刺激しないよう、進める順序にも配慮が必要です。
この記事では、デートDVで慰謝料を請求できる場面、金額を左右する事情、残しておきたい記録、請求の進め方と期間の制限、そして身の安全との両立について解説します。
本記事は、2026年10月時点の法令(2024年4月施行の改正DV防止法を含む)にもとづいて解説しています。個別の事案での見通しは、事情によって異なります。
交際中の暴力でも、慰謝料を請求できる場合はある
夫婦であれば離婚の際に慰謝料が問題になりますが、交際相手との間には離婚のような手続がありません。そのため「結婚していないから請求できないのでは」と考える方もいます。しかし、慰謝料の根拠となるのは婚姻関係ではなく、民法709条・710条の不法行為です。故意または過失によって他人の身体や自由、名誉などを侵害した人は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います。交際中であったことは、この責任を免れる理由にはなりません。
デートDVは、一般に次の4つの類型に分けて説明されます。どの類型でも慰謝料の対象になりえますが、法的な評価のされやすさには差があります。
| 類型 | 具体例 | 慰謝料の考え方 |
|---|---|---|
| 身体的暴力 | 殴る、蹴る、髪を引っ張る、物を投げつける | けがの程度に応じて、治療費などとあわせて請求しやすい |
| 精神的暴力 | 怒鳴る、人格を否定する、スマホを確認する、交友関係を制限する | 行為の程度や継続性によって評価が分かれる |
| 経済的暴力 | デート代を常に負担させる、お金を要求する、仕事を辞めさせる | 慰謝料のほか、貸したお金の返還として整理できる場合がある |
| 性的暴力 | 同意のない性行為、避妊に協力しない、裸を撮影する | 刑事上の罪にあたることもあり、重く評価される傾向がある |
殴る・蹴るといった行為は暴行罪や傷害罪に、「殺す」といった言葉は脅迫罪にあたる可能性があり、刑事上の問題にもなります。慰謝料の請求(民事)と刑事手続は別々に進めることができ、どちらか一方を選ばなければならないわけではありません。
慰謝料の金額を左右する事情
デートDVの慰謝料には、決まった相場表のようなものはありません。交渉や裁判では、主に次のような事情を総合して金額が考えられます。
- 暴力の態様(素手か物を使ったか、首を絞めるなど危険性の高い行為か)。
- けがの有無と程度(全治期間、通院の期間や回数、後遺症の有無)。
- 暴力が続いた期間と回数。
- 心身への影響(医師の診断、仕事や学業への支障)。
- 相手の謝罪や反省の有無、刑事手続での処分の内容。
- 交際の経緯(被害を受けた側にも手を出した事情があるかなど)。
けがをした場合に請求できるもの
身体的な暴力でけがをした場合は、慰謝料だけでなく、実際にかかった費用も損害として請求の対象になります。
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 治療費・通院交通費 | 診察、検査、薬代、通院のための交通費など |
| 休業損害 | けがで仕事を休んだことによる収入の減少 |
| 慰謝料 | けがによる苦痛や通院の負担に対するもの |
| 物の損害 | 壊されたスマホや眼鏡、衣類などの修理費や時価 |
けがによる慰謝料は、交通事故の入通院慰謝料の考え方が参考にされることがあり、通院の期間が長いほど金額が大きくなる傾向があります。他方で、暴力が意図的に振るわれたものであることは、交通事故とは異なる事情として考慮されることがあります。
言葉や束縛だけの場合
暴言や行動の制限など、身体的な暴力をともなわない場合でも、慰謝料が認められる可能性はあります。ただし、交際中の口論や不満の表明との線引きが問題になりやすく、認められても金額は低くとどまることが少なくありません。弁護士ドットコムの相談例でも、精神的な被害が中心の事案について、10万円程度であれば請求の余地があるとする趣旨の回答が見られ、高額にはなりにくいのが実情です。脅迫にあたる言葉が繰り返されていた、通院が必要になったなど、具体的な事情が加わるほど評価は変わってきます。
請求の前に残しておきたい記録
慰謝料を請求する側は、暴力があったことと、それによってどのような被害が生じたかを示す必要があります。相手が「じゃれ合っていただけ」「そんなことはしていない」と否定することも多いため、記録の有無は結果を大きく左右します。
- 医師の診断書や通院の記録。
- けがやあざの写真(日付がわかる形で、全体と拡大の両方)。
- 暴言や脅しが残ったLINE・メール・SNSのメッセージ(画面の保存と端末外への保管)。
- 暴力を受けた場面や話し合いの録音。
- いつ、どこで、何をされたかを書き留めた日記やメモ。
- 警察や配偶者暴力相談支援センターなどに相談した記録。
- 事情を知っている家族や友人の証言。
- 壊された物と、その修理の見積書や領収書。
診断書がなくても、写真やメッセージ、当時の相談記録などを組み合わせて事実を示せる場合があります。時間がたってから受診した場合でも、医師に経緯を伝えたうえでの診断書が意味を持つことはあります。ただし、相手にスマホを確認される状況では、記録を残していること自体が知られて危険が増すおそれもあります。保存先を分けて信頼できる家族に預けるなど、安全を損なわない方法を選んでください。精神的な暴力の記録の残し方は、交際関係のモラハラ・精神的DV|証拠の残し方と法的対応でも解説しています。
慰謝料を請求する流れ
交渉と合意書の作成
多くの場合、まずは相手に対して書面で請求し、話し合いで金額や支払方法を決めます。暴力をふるった相手と直接やり取りをするのは負担が大きく、危険もともなうため、弁護士が代理人として窓口になる方法がとられることが少なくありません。代理人が入った後は、相手からの連絡も弁護士あてにするよう求めることができます。
話し合いがまとまった場合は、合意書を作成します。金額や支払期日に加えて、次のような条項を入れておくことが、その後の生活を守るうえで役立ちます。
- 今後、直接・間接を問わず連絡や接触をしないこと。
- 自宅や勤務先に近づかないこと。
- 撮影した画像や動画があれば削除すること。
- 約束に反した場合の違約金。
- この合意のほかに互いに請求するものがないことの確認(清算条項)。
話し合いで解決しない場合
相手が請求に応じない場合は、民事調停や訴訟を検討します。請求額が60万円以下であれば、原則として1回の期日で審理を終える少額訴訟を利用できますが、相手が通常の訴訟での審理を求めれば、そちらに移ります。訴訟では暴力の事実を証拠で示す必要があり、相手と法廷で向き合う負担も生じるため、記録の状況と照らして進め方を決めることになります。
刑事手続と並行する場合
被害届を出して相手が捜査の対象になると、相手側の弁護人から示談の申し入れが届くことがあります。示談金には慰謝料や治療費が含まれるのが一般的で、示談が成立すると、相手の刑事処分を考えるうえで有利な事情として扱われます。示談書に清算条項が入ると、後から別に慰謝料を請求することは難しくなるため、治療が終わっていない段階では、どこまでの損害を含めるのかを慎重に確かめる必要があります。
また、傷害などの故意の犯罪で相手が起訴された場合には、刑事裁判を担当した裁判所に損害賠償を求める「損害賠償命令制度」を利用できることがあります。
請求できる期間には限りがある
不法行為にもとづく慰謝料の請求権には時効があります。原則は、損害と加害者を知った時から3年ですが、身体を傷つけられた場合は5年とされています(民法724条、724条の2)。また、行為の時から20年がたつと請求できなくなります。
暴力が長い期間にわたって続いていた場合は、古い出来事から順に期限が来ることになります。「別れてから落ち着いて考えたい」という場合でも、期限が近い出来事がないかは早めに確認しておくと安心です。時効の全体像は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかでまとめています。
請求より先に、身の安全を整える
慰謝料の請求は、相手にとって責任を問われることを意味します。別れ話や請求をきっかけに相手が感情的になり、つきまといや新たな暴力に発展することもあるため、請求の前に安全の確保を優先してください。具体的には、次のような手立てがあります。
- 危険が差し迫っているときの110番通報。
- 警察署への相談と、それまでの経緯や記録の共有。
- DV相談ナビ(#8008)を通じた、配偶者暴力相談支援センターへの相談。
- 弁護士を窓口にした連絡や交渉(相手と直接会う場面をなくす)。
同棲している交際相手(生活の本拠を共にする交際相手)からの暴力については、DV防止法にもとづく保護命令を裁判所に申し立てられる場合があります。2024年4月の改正で、身体への暴力や生命・身体への脅迫に加え、自由・名誉・財産に対する脅迫も申立ての対象となり、接近禁止命令の期間は1年に延びました。同棲していない場合は保護命令の対象外ですが、ストーカー規制法による警告や禁止命令、民事上の接近禁止の仮処分といった手段があります。詳しくは、交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応や接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。
よくあるご質問
お互いに手を出してしまったことがあっても、請求できますか
請求すること自体はできますが、相手からも同じように慰謝料を求められたり、ご自身の行為が考慮されて金額が減ったりすることがあります。どちらが先に手を出したか、暴力の程度に差があるかなど、具体的な経緯が重視されます。
別れた後でも請求できますか
交際中に受けた暴力について、別れた後に請求することはできます。ただし、前述の時効の期限には注意が必要です。また、別れた後の連絡がつきまといと受け取られないよう、請求は書面や代理人を通じて行うのが安全です。
被害届を出さずに、慰謝料だけを請求することはできますか
できます。刑事手続を利用するかどうかと、民事で慰謝料を請求するかどうかは、それぞれ別に決めることができます。被害届を出さずに交渉で解決するか、刑事手続とあわせて進めるかは、受けた被害の重さや身の安全の状況をふまえて選ぶことになります。
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交際中の暴力は「付き合っていたのだから」と受け止められてしまいがちですが、法的には責任を問える場合があります。一方で、請求を急ぐことで安全が損なわれては意味がありません。記録の整理と安全の確保を先に進め、そのうえで請求の方法を考えるという順序で、ご自身に合った進め方を一緒に検討していくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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