【男女トラブル】婚約破棄で慰謝料を請求されたら、払わなければならない?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

婚約していた相手との結婚を取りやめたところ、相手本人や相手の家族、あるいは相手の弁護士から「婚約破棄の慰謝料を払ってほしい」と求められることがあります。突然金額を示されると、払わなければならないものだと受け止めてしまいがちですが、請求を受けたことと、法的に支払う義務があることは別の問題です。

この記事は、婚約を解消した側が慰謝料を請求された場面を前提にしています。婚約を一方的に破棄され、請求を考えている方は婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースをご覧ください。


 この記事では、請求が届いたときに何を確かめればよいのか、慰謝料以外に何を求められることがあるのか、どの順序で対応すれば落ち着いて進められるのかを整理します。

支払う義務があるかは「3つの問い」に分けて考える

婚約破棄の慰謝料は、婚約が成立していて、その婚約を正当な理由なく破棄した場合に生じる責任です。法的には、婚約という約束を守らなかったこと(債務不履行)や、相手の権利を侵害したこと(不法行為)として説明されます。請求を受けた側から見ると、次の3つを順に確かめることになります。

確かめること見るポイント支払いへの影響
婚約は成立していたか結婚の真剣な合意があったか、外から見て分かる事情があるか成立していなければ、婚約破棄としての慰謝料は原則として生じません
解消に正当な理由があったか相手の浮気・暴力・重大な事実の隠しごとなどがあったか正当な理由が認められれば、支払う義務を負わない方向に働きます
請求額と費目は見合っているか交際期間・準備の進み具合・解消の経緯・双方の落ち度責任があるとしても、金額は個別の事情で増減します


問い1 婚約は成立していたか

婚約は、婚姻届のような手続を必要とせず、将来夫婦になるという真剣な合意があれば成立するとされています。最高裁判所の判例(昭和38年9月5日)も、結納や儀式がなくても、誠意をもって将来夫婦になると約束していれば婚約が成立しうると判断しています。

 もっとも、当事者の言い分が食い違ったときには、合意があったことを外から見て分かる事情をもとに判断されます。よく見られるのは次のような事情です。

  • プロポーズとその承諾。
  • 婚約指輪の購入や受け渡し。
  • 両家の顔合わせや結納。
  • 職場や友人への結婚の報告。
  • 結婚式場・新婚旅行・新居の予約や契約。


 「いつか結婚しよう」と言い合っていた程度で、こうした事情がほとんどない場合には、法的な婚約とまでは言えないと判断されることがあります。反対に、交際期間が長く同居もしていた場合などは、指輪や式場の予約がなくても婚約の成立が認められることがあります。交際の長さがどう評価されるかは【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかでも触れています。

問い2 解消に正当な理由があったか

婚約が成立していても、解消に正当な理由があれば、慰謝料を支払う義務は生じないと考えられています。正当な理由として認められやすいのは、相手の側に婚約を続けられなくなる事情があった場合です。

  • 相手と別の異性との性的な関係。
  • 相手からの暴力や、人格を否定する言動の繰り返し。
  • 多額の借金や経歴の偽りなど、結婚の判断に関わる事実の隠しごと。


 一方で、他に好きな人ができた、気持ちが冷めた、性格が合わないと感じた、親に反対されたといった理由だけでは、正当な理由とは認められにくいとされています。ただし、親の反対の背景に相手の暴力など具体的な事情がある場合には、その事情が考慮されることがあります。どのような理由が「正当」と評価されるかは結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはで詳しく扱っています。

 また、解消の原因が双方にある場合もあります。たとえば相手の浮気がきっかけであっても、こちらにも相手を傷つける言動があった場合などは、責任の割合に応じて金額が調整されることがあります。

問い3 請求額と費目は見合っているか

支払う責任があるとしても、相手が示した金額がそのまま認められるとは限りません。婚約破棄の慰謝料は、法律事務所などの解説では数十万円から200万円程度の幅で紹介されることが多く、交際期間の長さ、結婚準備がどこまで進んでいたか、解消を伝えたときの態度、妊娠の有無などによって変わります。

 解消を伝えたときの言葉づかいも見られます。弁護士ドットコムにも、婚約を解消した後、LINEに残った自分の強い言葉を理由に慰謝料を求められているという相談が寄せられています。解消そのものの是非とは別に、伝え方が相手の精神的な苦痛を大きくしたと評価されると、金額に影響することがあります。

慰謝料以外に請求されやすいもの

婚約破棄の請求では、慰謝料と一緒に、結婚準備のために支出したお金も求められることがよくあります。費目ごとに考え方が異なるため、一括りにせず分けて確認します。

費目考え方の目安
結婚式場・新婚旅行のキャンセル料正当な理由のない解消であれば、負担を求められることがあります。双方で予約していた場合は、負担の割合も問題になります
新居の契約費用・家具や家電実際に支出した金額と、誰が使い続けるかによって清算の仕方が変わります
退職や転居による損失結婚のために仕事を辞めた場合などに請求されることがありますが、認められる範囲は事案ごとに限られる傾向があります
結納金・婚約指輪婚約が解消されれば返還の対象となるのが原則ですが、解消に責任のある側からの返還請求は認められないことがあります


 請求の書面に「慰謝料・損害金 合計〇〇万円」とだけ書かれている場合は、内訳と、根拠となる領収書や契約書の提示を求めることから始めるとよいでしょう。結納金の扱いについては結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかもご参照ください。

請求が届いたときの対応の順序

請求の伝わり方は、本人からのLINEや電話、相手の家族からの連絡、弁護士名の内容証明郵便、裁判所からの訴状とさまざまです。どの形で届いた場合でも、次の順序で進めると、後から不利になる対応を避けやすくなります。

  1. その場で支払いや金額を約束しないこと。
  2. 請求の理由・金額・内訳・期限を、書面やスクリーンショットで残すこと。
  3. 婚約の成立から解消までの経緯を、日付と出来事の順に書き出すこと。
  4. 指輪の領収書、式場の契約書、解消前後のLINEなど、手元の記録を集めること。
  5. 支払う義務の有無と金額の見通しを確かめてから、回答の方針を決めること。


 自分に落ち度があったと感じている方ほど、謝罪の気持ちから「払います」と答えてしまうことがあります。気持ちを伝えることと金額を約束することは分けておくほうが、結果的に話し合いをこじらせずに済みます。

弁護士名の内容証明が届いた場合

相手が弁護士に依頼している場合、以降のやり取りはその弁護士を通じて行うことになります。回答期限が書かれていることが多いものの、期限までに全額を払わなければならないという意味ではありません。期限内に「検討している」「代理人を通じて回答する」と伝えるだけでも、話し合いを続けることはできます。書面を受け取ったときの考え方は内容証明が弁護士名で届いた|慌てて払う前にやるべきことにまとめています。

裁判所から訴状が届いた場合

訴状を放置し、答弁書も出さずに期日を欠席すると、相手の言い分どおりの判決が出るおそれがあります。訴状が届いたら答弁書の提出期限を確認し、早めに弁護士へ相談してください。訴訟になった後でも、話し合いによる和解で終わることは少なくありません。

家族や職場に知らせると言われた場合

請求の中で「親に話す」「会社に言う」と告げられることもあります。請求そのものに理由がある場合でも、支払わせるために家族や勤務先へ知らせると繰り返し迫る行為は、それ自体が別の法的な問題になりうるものです。こうした言葉が出ている場合は、やり取りを記録に残したうえで、窓口を弁護士に移すことを検討するとよいでしょう。

支払う場合でも、合意書で終わりを確かめる

検討の結果、一定の金額を支払うことにした場合でも、口約束だけで送金するのは避けたいところです。後から追加で請求されたり、親族から別に求められたりすることを防ぐため、合意書を作り、次の点を入れておきます。

  • 支払う金額、支払期日、支払方法。
  • この合意で婚約に関する一切が解決したとする清算条項。
  • 互いに今回の件を第三者に口外しない約束。
  • 必要に応じて、今後の連絡や接触を控える約束。


 分割払いにする場合は、払えなくなったときの扱いもあらかじめ決めておくと安心です。すでに口頭で金額を約束してしまった方は、【男女トラブル】別れ話で払うと約束した金額を見直したい|約束の性質と内訳から見直せる範囲を確かめるもあわせてご覧ください。

 当事務所でも、婚約破棄を理由とする請求について、弁護士が窓口となり支払いのないまま終結した事例や、婚約が成立していたかを争点として交渉し、請求額を減らして合意した事例があります。いずれも個別の事情を踏まえた結果であり、同じ結果を約束できるものではありませんが、相手と直接やり取りせずに進められる点は共通しています。

よくあるご質問


自分から婚約の解消を切り出した場合は、必ず慰謝料を払うことになりますか

切り出した側が必ず責任を負うわけではありません。解消に至った原因が相手にある場合は、こちらから切り出していても正当な理由が認められることがあります。誰が言い出したかよりも、なぜ解消に至ったかが問われます。

相手の親から請求の連絡が来ました。応じる必要はありますか

婚約破棄の慰謝料を請求できるのは、基本的には婚約していた本人です。親が本人の代わりに連絡しているのか、親自身が負担した費用を求めているのかで扱いが変わるため、まずはどの立場で何を求めているのかを確かめてください。

しばらく請求がなかったのに、後から請求されることはありますか

婚約破棄の責任にも時効があります。不法行為として請求する場合は損害と加害者を知った時から3年、約束を守らなかったこと(債務不履行)として請求する場合は権利を行使できることを知った時から5年が目安です。どちらの構成で請求されるかによって期間が変わるため、時間が経っていても一度確認しておくと安心です。

関連する解説記事



婚約破棄の慰謝料を請求されたときは、婚約が成立していたか、解消に正当な理由があったか、金額と費目が見合っているかを順に確かめることで、支払う必要があるのか、あるとしてどの程度なのかが見えてきます。相手の示した金額や期限に急かされず、まずは事実と記録を整えるところから始めてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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