【風俗トラブル】その場で借用書を書かされたら、書いた金額を払う義務はある?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法・民事訴訟法・利息制限法・民事執行法・刑法の規定に基づいて書いています。消費貸借や追認に関する規定は、2020年4月施行の改正民法を反映しています。個別の事案での結論は、書面の文言と署名に至った経緯によって変わります。


「持ち合わせがないと伝えたら、店のスタッフが用意した借用書に名前と住所を書くよう求められた」「100万円と書かれた紙に署名したが、お金を借りた覚えはない」。風俗店でのトラブルの後、こうしたご相談をいただくことがあります。反対に、「借用書があるのだから、期日までに払ってもらうのは当然だ」という店側の言い分を、ご相談者から伝え聞くこともあります。

 自分で署名した以上、書いた金額は払わなければならない、という説明を目にすることがあります。自分の意思で書いた書面に責任が伴うという意味では、この説明自体は誤りではありません。ただ、借用書は「お金を借りた」という形をとる書面であり、実際にはお金を受け取っていない場合や、金額の根拠が別の請求にある場合には、その形の内側にある請求の中身を見なければ、払う義務があるかどうかは判断できません。

 この記事では、風俗店の利用後に「その場で」借用書を書かされた方を念頭に、借用書という形式の読み方、署名の経緯や内容から効力を争える場面、払う前に確かめておきたいことの順に整理します。示談書や誓約書に署名した場合の一般的な考え方は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで、署名する前の段階での判断は【風俗トラブル】「今すぐ払えばこの場で終わる」と言われた|即時払いを求められたときの判断で扱っていますので、あわせてご覧ください。

借用書に書いた金額が、そのまま支払義務になるとは限らない

 風俗店でのトラブルの場面で書かされる書面には、示談書、誓約書、念書などさまざまな名前のものがあります。その中で借用書は、店やキャストから「お金を借りた」という形をとる点に特徴があります。

借用書は「お金を借りた」という形をとる書面

 借用書は本来、お金を借りた人が、借りた事実と返す約束を書いて、貸した人に渡す書面です。風俗店でのトラブルでは、実際にはお金のやり取りがないまま、示談金や「罰金」として求められた金額を「借りた」と書かせる例が見られます。

 店側にとっては、借用書の形にしておけば、後で支払いを求める際に、なぜその金額を求めたのかという経緯を表に出さず、「貸したお金を返してほしい」という形で請求を組み立てやすくなります。一方で、書面の形と実際の経緯が食い違っているときは、実際の経緯に沿って判断されるのが基本です。

署名があると推定されること、推定されないこと

 本人の署名がある書面は、本人の意思で作られたものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。そのため、実際に署名している以上、「自分は書いていない」という争い方は通りにくいと考えておく必要があります。

 もっとも、この推定が及ぶのは、書面が本人の意思で作られたかという点までです。「〇月〇日に100万円を借り受けました」と書かれた内容が事実かどうかは別の問題で、お金を受け取った事実がなければ、その点を争う余地が残ります。

お金を受け取っていない借用書は、どう読まれるのか

 借用書に書かれた金額を払う義務があるかどうかは、その借用書が法律上どのような約束として読まれるかによって変わります。

お金の貸し借りは、受け取って初めて返す義務が生じる

 民法では、お金の貸し借り(消費貸借)は、借りる人が返す約束をしてお金を受け取ることによって効力を生じるとされています(民法587条)。書面で貸し借りを約束した場合は、受け取る前でも約束自体は成り立ちますが(同法587条の2第1項)、返す義務の前提はあくまで受け取ったお金です。

 したがって、店から実際には1円も受け取っていないのであれば、その借用書を「お金を借りた」という約束として読む限り、返す義務は生じないことになります。

元の請求を借用書に置き換えたと読まれる場合

 ただし、これで話が終わるわけではありません。すでに何らかの支払義務を負っている人が、その支払いを貸し借りの形に切り替える約束をすることも、法律上認められているからです(民法588条、準消費貸借)。店側からは、「示談金を払う義務があったので、それを借用書の形にしただけだ」という主張が出てくることが考えられます。

 この読み方をとる場合でも、元になる支払義務が存在しなければ、置き換えた約束も効力を生じないと考えられています。つまり、借用書の形をとっていても、最後は「元の請求に払う理由があったのか」という問いに戻ってきます。

借用書の金額の元になっている請求を確かめる

 風俗店でのトラブルで借用書の金額の元になっている請求には、おおむね次のようなものがあります。名目によって、確かめるべき点が変わります。

元になっている請求の名目確かめたい点
店のルール違反を理由とする「罰金」私人が罰金を科すことはできないため、違約金の約束として読めるか、その金額が損害と釣り合うか
キャストへの示談金・慰謝料キャスト本人に損害を与える行為が実際にあったか、金額が行為の内容と釣り合うか
店の営業上の損害キャストの欠勤などによる損害が実際に生じたか、店とキャストのどちらの損害か
未払いの利用料金実際に利用したサービスの料金か、上乗せされた金額が含まれていないか


 「罰金」という名目の請求については「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないで、誓約書に書かれた金額の効力については誓約書の「罰金100万円」は本当に払う義務がある?法的効力を検証で、それぞれ詳しく扱っています。

書かされた経緯や内容から、効力を争える場面

 元の請求に一定の理由がある場合でも、借用書を書いた経緯や、書かれた金額・条件によっては、借用書の効力そのものを争える場合があります。

脅されて書いた場合は取り消せることがある

 相手の言動によって怖くなり、その結果として署名した場合、その約束は強迫による意思表示として取り消すことができます(民法96条1項)。取り消すと、約束は初めからなかったものとして扱われます(同法121条)。強迫にあたるかを考える際には、次のような事情が材料になります。

  • 複数のスタッフに囲まれていたこと。
  • 事務所や部屋から帰してもらえなかったこと。
  • 「警察に行く」「家族や会社に知らせる」と告げられていたこと。
  • 身分証や財布、スマートフォンを預けさせられていたこと。
  • 深夜であったことや、やり取りが長時間に及んでいたこと。


 暴力を振るわれていなくても、言葉や状況によって畏怖して署名したのであれば、強迫にあたり得ます。取消しには期間の制限があり、追認できる時から5年、署名した時から20年を過ぎると取り消せなくなります(同法126条)。

 また、脅して借用書を書かせ、金銭を得ようとする行為は、方法によっては恐喝罪(刑法249条)が問題になることもあります。店の請求がどこから恐喝にあたり得るのかは、店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界で整理しています。

金額が損害と釣り合わない場合

 借用書の金額が、元の請求の名目からみて実際の損害と大きくかけ離れている場合、その超過部分は公序良俗に反するものとして効力が否定されることがあります(民法90条)。店のルール違反を理由とする「罰金」は、損害賠償の額をあらかじめ決めておく約束と推定されますが(同法420条3項)、その場合でも、現実に生じ得る損害と比べて過大な部分まで払う義務があるとは限りません。

 署名しているというだけで、書かれた金額の全額を支払う義務が確定するわけではありません。

利息や遅延損害金、家族の名前が書かれている場合

 借用書には、利息や、支払いが遅れた場合の遅延損害金、連帯保証人の欄が設けられていることがあります。仮に貸し借りとして扱われる場合でも、利息は元本の額に応じて年15%から20%が上限とされ、超える部分は無効です(利息制限法1条)。遅延損害金にも上限があります(同法4条1項)。

 連帯保証人の欄に家族の名前を書くよう求められた場合も、保証は保証人となる本人が書面で約束して初めて効力を生じるため(民法446条2項)、家族本人が知らないまま名前が書かれただけで、家族に支払義務が生じるわけではありません。ただし、店側が家族に連絡してくるきっかけになることはあり得ますので、書いた事実は早めに弁護士に伝えておくことをおすすめします。

書いた後、払う前に確かめておきたいこと

 借用書を書いてその場を離れた後は、書面に記された期日までの支払いを求められることが多いと考えられます。期日が近いと焦りが生じますが、払う前に確かめておきたい点があります。

書面の内容と、書いたときの状況を記録に残す

 控えを受け取っていれば、写真に撮るなどして保管してください。控えがない場合でも、記載されていた金額、宛名が店かキャスト個人か、支払期日、利息や保証人の欄の有無などを、覚えている範囲で書き出しておくことが、後の検討の材料になります。誰と何人で、どの部屋で、どのくらいの時間やり取りしたかといった経緯も、あわせて記録しておきます。

 控えがない場合の確かめ方は【風俗トラブル】店の事務所で書かされた紙の写真を撮っていない|内容を後から確かめる方法で、控えを求める意味は【風俗トラブル】示談書の原本を店しか持っていない|控えを求めるべき理由で扱っています。

一部でも払うと、争いにくくなることがある

 強迫を理由に取り消せる約束であっても、脅されている状況から離れ、取り消せると知った後に、異議を述べずに一部でも支払うと、その約束を認めたもの(追認)とみなされることがあります(民法125条1号)。追認したものとされると、それ以後は取り消すことができなくなります(同法122条)。

 「とりあえず1回分だけ払っておく」という対応は、その後の争い方を狭めるおそれがあります。すでに分割で払い続けている場合は、続けるか止めるかを自分だけで判断せず、窓口を弁護士に移したうえで検討するのが安全です。分割払いの途中での対応は、【風俗トラブル】分割払いの途中で払えなくなった|店への連絡と再交渉もご覧ください。

書き直しや公正証書の作成を求められたとき

 後日、「借用書を書き直してほしい」「公証役場で正式な書面にしよう」と求められることがあります。書き直しに応じると、その時点で改めて合意したものと扱われるおそれがあります。

 また、公正証書に「支払わない場合は直ちに強制執行を受けても異議はない」という趣旨の文言(執行認諾文言)が入ると、相手は裁判を経ずに給与や預金の差押えに進めるようになります(民事執行法22条5号)。こうした求めには、その場で応じずに書面を持ち帰り、内容を確かめてから判断することをおすすめします。

弁護士が入った後の進め方

 借用書を書かされた事案では、弁護士は書面の効力を争うことと、元の請求の中身を確かめることを並行して進めます。

窓口を移し、元の請求の中身を確かめる

 弁護士が受任通知を送ると、以後の連絡は弁護士が受けることになり、ご本人が店から直接支払いを迫られる場面を減らすことができます。受任通知の働きは受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで説明しています。そのうえで、借用書の金額が何の請求に基づくのか、その請求に理由があるのか、署名の経緯に強迫などの事情がなかったかを、店側に確かめていきます。

解決の際は、借用書の扱いまで合意に入れる

 元の請求に一定の理由があり、話し合いで金額を決める場合でも、新たに交わす合意書には、既存の借用書を無効とし、原本を返還または破棄することと、合意書に定めたほかに互いに請求しないこと(清算条項)を入れておくことが大切です。和解は、合意した内容で争いを確定させる効果を持ちます(民法695条・696条)。借用書が相手の手元に残ったままだと、後日、その借用書を根拠に改めて請求を受けるおそれがあるためです。

 当事務所でも、署名の前にご相談いただき、借用書ではなくキャスト本人の署名が入った合意書で解決した事例(【解決事例】デリヘルで罰金100万円を請求された|借用書への署名前に相談し、キャスト本人の署名入り合意書で解決)や、通告書の送付によって請求が止まり、借用書も返還された事例(【解決事例】「家族に知らせる」と迫られ300万円を求められた男性が、通告書の送付で請求が止まり借用書も返ってきた事例)があります。

よくあるご質問

印鑑は押さず、署名と拇印だけです。それでも効力はありますか。

 約束は押印がなくても成り立ち得るため、印鑑がないことだけで借用書が無効になるわけではありません。署名があれば、本人の意思で作られた書面と推定されます(民事訴訟法228条4項)。争う際は、押印の有無よりも、お金を受け取ったか、元の請求に理由があるか、どのような状況で書いたかが中心になります。

期日までに払わないと、すぐに訴えられますか。

 期日を過ぎたからといって、直ちに裁判になるとは限りません。ただ、署名済みの借用書がある場合、店側が支払督促や訴訟に進みやすくなるのは確かです。支払督促が届いた場合は、送達から2週間を過ぎると相手が仮執行宣言を申し立てられるようになるため(民事訴訟法391条1項)、早めに督促異議を出すかを判断する必要があります。書面が届いた後の考え方は【風俗トラブル】店から届いた請求書面に「法的措置」と書いてある|本当に訴えられるのかで扱っています。

借用書どおりに払えば、刑事事件にはならないのですか。

 借用書は、店やキャストとの間のお金の約束にとどまります。借用書を書いたことや支払ったことによって、キャスト本人が警察に相談する道が閉ざされるわけではありません。刑事手続との関係まで整理したい場合は、キャスト本人との間で、被害届についての扱いを含めた合意を書面にしておく必要があります。この点は【風俗トラブル】示談金を払ったのに被害届を出された|合意の効果と刑事手続で詳しく説明しています。

まとめ


  1. 借用書に署名すると本人の意思で作られた書面と推定されるが、書かれた内容が事実であることまで推定されるわけではない(民事訴訟法228条4項)。
  2. お金の貸し借りは受け取って初めて返す義務が生じるため、実際に受け取っていない借用書は、貸し借りとしては返す義務の根拠になりにくい(民法587条)。
  3. 元の請求を貸し借りに置き換えたと読まれる場合でも、元の支払義務がなければ効力を生じないと考えられており、最後は元の請求に理由があるかが問われる(同法588条)。
  4. 脅されて署名した場合は強迫を理由に取り消せることがあり、取消しには期間の制限がある(同法96条1項・126条)。
  5. 損害と比べて過大な金額や、上限を超える利息・遅延損害金は、その部分の効力が否定されることがある(同法90条・420条3項、利息制限法1条・4条1項)。
  6. 取り消せると知った後に異議を述べず一部でも払うと、追認したものとみなされ、取り消せなくなることがある(民法125条1号・122条)。
  7. 解決の際は、既存の借用書の無効と原本の返還または破棄、清算条項を合意書に入れておく(同法695条・696条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店の利用をめぐるトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。その場で借用書を書かされた方、支払期日が迫っている方、すでに分割で払い続けている方は、書面の写しや覚えている内容のメモをお持ちのうえでご相談ください。

これから署名を求められそうな方も、すでに署名してしまった方も、お一人で支払う金額を決めてしまう前に、借用書の元にある請求の中身を一緒に確かめるところから始めましょう。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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