店が示す誓約書の条項別チェック|どこが効き、どこが効かないか

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「規約に書いてあります」「誓約書に署名していますよね」と言われて、はじめて書面の中身を読み直す。風俗店とのトラブルでは、こうした順番になることが少なくありません。

 このとき多くの方が知りたいのは「あの誓約書は有効なのか、無効なのか」という一点です。ただ、実際の検討はそういう形では進みません。誓約書は一枚の紙ですが、中身は性質の違う条項の寄せ集めだからです。ある条項はほぼそのまま働き、別の条項は範囲や金額で争いになり、また別の条項は書いてあること自体が結論をあまり動かしません。

 この記事では、性風俗店で示される誓約書や利用規約承諾書によくある条項を型ごとに分け、どこまでが働き、どこからが別の話になるのかを整理します。

この記事の範囲


 前提を先に示します。

  • 成人同士のやり取りを想定しています。相手が18歳未満に関わる場面はまったく別の枠組みになります
  • 店のルールに反する行為をすすめる趣旨ではありません
  • すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているといった段階では、一般論ではなく個別の相談が必要です
  • 署名した書面が「証拠」としてどう働くかは、別の記事で扱っています
  • 請求された金額が妥当かどうかの検討や、店とのやり取りの進め方も別の記事に譲ります
  • 以下は一般的な考え方の整理であり、個別の事案の結論を示すものではありません


効く・効かないは書面単位では決まらない


 条項の効き方は、まるごと有効かまるごと無効かの二択ではありません。おおまかに次の三段階で見ると整理しやすくなります。

  1. 書いてあるとおりに働きやすいもの
  2. 働くとしても、範囲や金額が争いになるもの
  3. 条項があってもなくても、別のルールで決まってしまうもの


 同じ一枚の誓約書の中に、この三種類が同居しています。ですから「この誓約書は無効だ」という言い方も、「署名したのだから全部そのとおりだ」という言い方も、どちらも実際の検討とはかみ合いません。

「無効」は自動的に消えるという意味ではない


 もう一つ、誤解されやすい点があります。

 消費者契約法や民法の不当条項に関するルールは、いずれも民事のルールです。役所が問題のある条項を削除してくれる仕組みではありませんし、無効な条項が書面から自動的に消えるわけでもありません。無効だと考える側がそれを主張し、当事者どうしで解決がつかなければ、最終的には個別の事情に即して裁判所が判断することになります。消費者庁も、消費者契約法についての周知文の中でこの点を明示しています。

 したがって実務上の問いは、「この誓約書は無効か」ではなく、「どの条項について、何を理由に、どう主張するか」になります。条項ごとに分ける作業は、そのための下ごしらえにあたります。

誓約書の条項は6つの型に分けられる


 文言は店ごとに違いますが、その条項が何をしようとしているかで分けると、だいたい次の6つに収まります。

よくある書き方その条項が本来決められることその条項だけでは決まらないこと
A 行為のルール本番行為・撮影・飲酒しての来店を禁止します店との関係で何が違反にあたるか違反があったときにいくら払うか
B 店の措置違反があった場合、サービスを中止し、以後の利用をお断りします契約の中で店が取れる対応金銭の請求ができるかどうか
C お金違反した場合は金○○円を支払います/キャンセル料は全額です支払いについての取り決めの枠組みその金額がそのまま通るかどうか
D 権利を手放させる一切異議を申し立てません/当店は一切責任を負いません当事者どうしで処分できる範囲の権利関係法律が当事者の合意より優先する部分
E 事実を認めさせる本日の行為はすべて合意の上であることを確認します署名した時点で本人が何を認めたか書かれた内容が事実かどうか
F 情報と手続身分証の写しを提出します/訴訟は当店所在地の裁判所とします情報の取扱いや手続についての取り決め取り決めの範囲を超える扱いの可否


 以下、型ごとに見ていきます。

型A・B|比較的そのまま働きやすい条項


禁止行為を並べた条項


 「本番行為の禁止」「撮影・録音の禁止」「無断での延長要求の禁止」といった列挙は、店との関係で何が違反にあたるかを決める条項です。この部分自体は、それほど争いになりません。

 注意したいのは、ここで決まるのが「違反かどうか」だけだという点です。違反があったことと、お金を払う義務があることは、別々に検討されます。禁止と書いてあることは、店に損害が出たことの証明ではありません。

 逆方向も同じです。誓約書に書かれていない行為なら自由、という意味にもなりません。この点は後であらためて触れます。

サービスの中止・退店・以後の利用禁止


 「違反があった場合、直ちにサービスを中止し、以後のご利用をお断りします」といった条項は、契約の中で店が取れる対応を決めているものです。自分の店で誰にサービスを提供するかを決めること自体は、もともと店の側の自由の範囲にあります。この種の条項は、そのまま働きやすい部類に入ります。

 ただし「その場合も料金は返金しません」まで進むと、話は次の型Cに移ります。

料金・延長料金


 提供されたサービスの対価としての料金や、実際に延長した分の追加料金は、通常のサービス提供の対価です。ここは誓約書に特有の問題というより、一般の契約と同じ枠組みで考えることになります。

型C|お金の条項は3つに分けて見る


 最も相談が多いのがこの型です。ただ、ひとくちに「お金の条項」といっても、性質の違う三つが混ざっています。使う条文が違うので、まとめて論じると精度が落ちます。

①違反したときの定額の「罰金」条項


 「本番行為があった場合は金○○円を申し受けます」という形のものです。

 まず、ここでいう「罰金」は刑罰と同じ言葉が使われているだけで、刑罰ではありません。私人が誰かに刑罰を科すことはできませんので、実質は違約金の取り決めとして扱われます。

 民法は、債務不履行について損害賠償の額をあらかじめ決めておくことを認めており(民法420条1項)、違約金は賠償額の予定と推定されます(同条3項)。かつては「裁判所はその額を増減することができない」という規定が置かれていましたが、平成29年の改正で削除されました。もっとも、これは当然に減額されるという意味ではありません。削除されたのは「増減できない」という縛りのほうであって、金額の当否は個別に判断されるという位置づけです。

 金額が過大な場合に問題となりうるのは、公序良俗に反する法律行為を無効とする民法90条、店の規約が定型約款にあたる場合の不当条項の規定(民法548条の2第2項)、そして消費者の権利を制限し義務を加重する条項のうち信義則に反して一方的に消費者の利益を害するものを無効とする消費者契約法10条です。

 ここで一点、よく取り違えられている条文があります。消費者契約法9条1項1号は、契約の解除に伴って消費者が負担する損害賠償額の予定について、平均的な損害の額を超える部分を無効とする規定です。違反行為があった場合に定額を支払わせる条項は、解除に伴うものとは限りません。9条1項1号を持ち出せば当然に減額されるという説明を見かけることがありますが、条文の射程はそこまで単純ではありません。

 なお、金額そのものの妥当性をどう検討するかは、別の記事に譲ります。

②キャンセル料の条項


 こちらは①と違い、予約の解除に伴って発生する取り決めです。つまり消費者契約法9条1項1号がまさに想定している場面にあたりやすく、店に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効となりえます。

 同じ「お金の条項」でも、違反時の違約金とキャンセル料とでは、検討に使う道具が変わります。

③遅延損害金の条項


 「支払いが遅れた場合は年○%の遅延損害金を申し受けます」という条項です。消費者契約法9条1項2号は、金銭の支払いが遅れた場合の損害賠償額について、年14.6%を超える部分を無効としています。上限がはっきりしている点で、比較的わかりやすい部分です。

型D|書いてあっても働きにくい条項


「一切異議を申し立てません」


 何についての異議なのかが特定されていないほど、範囲が争いになります。出入り禁止の措置に異議を述べないことと、金銭の請求に反論しないことは、まったく別の話です。包括的な文言があるからといって、後から何も言えなくなるという読み方は、通常はされません。

「当店は一切責任を負いません」


 店内での紛失やけが、個人情報の取扱いなどについて、店側の責任をあらかじめ免除しておく条項です。

 消費者契約法8条は、事業者の損害賠償責任を全部免除する条項を無効としています。故意または重大な過失がある場合に責任の一部を免除する条項も無効です。さらに令和4年の改正で、責任の一部を免除する条項のうち、軽い過失の場合にだけ適用されることが明らかにされていないものも無効とされました(2023年6月1日施行)。「いかなる場合も責任を負いません」という書き方は、この規定に触れやすい形といえます。

「被害届を出しません」「刑事上の責任は一切問いません」


 刑事の手続は、当事者の合意だけで動いたり止まったりするものではありません。性犯罪については2017年の法改正で親告罪ではなくなっており、告訴の有無にかかわらず捜査や起訴が行われうる建て付けになっています。また、将来の告訴権をあらかじめ放棄する合意については、効力が認められないと解されています(そのように述べた裁判例があります)。

 もっとも、これは「事後の示談に意味がない」という話ではありません。あらかじめ書面に入れておくことと、実際に問題が起きた後で当事者が話し合って解決することとは、まったく別です。示談については別の記事で扱っています。

「女性への慰謝料も店に支払います」


 誓約書の中に、キャスト個人が受けた精神的損害についても店に支払う、という趣旨の条項が入っていることがあります。

 精神的損害の賠償を請求できるのは、原則としてその損害を受けた本人です(民法709条、710条)。客が契約しているのは店であって、キャスト個人との間に直接の契約関係があるとは限りません。店が本人に代わって金銭の請求や和解の交渉を行う形については、弁護士法72条との関係も問題になりえます。

 実務上より大切なのは、誰との間で何が終わったのかが特定されない限り、後から本人が別に請求してくる余地が残るという点です。店に支払ったことが、本人との関係でも清算になっているのか。この確認を飛ばすと、二度払いに近い形になりかねません。

型E|事実を認めさせる条項


 「本日の行為はすべて双方の合意に基づくものであることを確認します」「規約の説明を受け、内容を理解しました」といった条項です。

 これらは権利義務を作る条項ではなく、事実の記録にあたります。署名や押印があると、その文書が本人の意思で作られたものと推定されますが(民事訴訟法228条4項)、書かれている内容が真実であることまで法律上推定されるわけではありません。この点は別の記事で詳しく扱っています。

 ただし、軽く見てよいという意味でもありません。書面の記載と本人の説明が食い違えば、なぜそのように書いたのかの説明を求められます。署名したときの状況を早い段階で整理しておく意味は、ここにあります。

型F|情報と手続の条項


身分証の提出、勤務先や家族への連絡についての同意


 個人情報を本人以外の第三者に提供するには、原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法27条1項)。誓約書に「違反があった場合、勤務先等へ連絡することに同意します」といった条項が置かれるのは、この同意の形を先に作っておくためです。

 もっとも、同意欄があれば何をしてもよいということにはなりません。あらかじめ示された目的の範囲を超える利用かどうかという問題が残りますし、連絡をちらつかせて支払いを求める行為そのものが別の問題になりうる場面もあります。この点は別の記事で扱っています。

合意管轄の条項


 「本契約に関する訴訟は、当店所在地を管轄する裁判所を専属的合意管轄とします」という条項です。地味ですが、実際に訴訟になったときの負担に直結します。

 当事者は第一審に限り、合意で管轄裁判所を決めることができます(民事訴訟法11条1項)。この合意は書面でしなければ効力を生じません(同条2項)。誓約書に書かれて署名があれば、この要件は満たされることになります。

 ただし、専属的と書かれていても、それだけで決まりきるわけではありません。事情によっては他の裁判所へ移送されることがあります(同法17条、20条1項)。また、事業者の所在地だけに限定する条項が消費者にとって過大な負担になる場合には、消費者契約法10条によって無効と判断される余地もあります。

条項に書いていなくても決まること


 最後に、逆方向の確認です。

 誓約書に書かれていないから自由、ということにはなりません。撮影、相手の年齢、暴行や脅迫にあたる行為などは、店の規約とは関係なく法令で決まっています。店のルールと法令上の評価が別に動くという点は、別の記事で詳しく扱っています。

 「禁止と書いてあるから犯罪だ」も、「禁止と書いていないから問題ない」も、どちらも成り立ちません。

署名してしまった後にできる整理


 すでに署名した後でも、できることはあります。

  1. 控えを受け取っているかを確認する。手元にない場合は、覚えている範囲で文言をできるだけ正確に書き出しておく
  2. 署名したときの状況を記録する。日時、場所、その場にいた人数、退去できる状態だったか、説明があったかどうか
  3. 条項を型ごとに分ける。この記事の6つの型に当てはめるだけでも、争点がどこにあるかが見えやすくなる
  4. 争う条項と争わない条項を分ける。すべてを否定する必要はなく、そうしないほうが話が早い場面もある
  5. 期限が書かれた書面があれば、それを最優先で確認する


まとめ


  • 誓約書は一枚の紙だが、中身は性質の違う条項の集まりで、効き方は条項ごとに異なる
  • 効き方は「そのまま働きやすい」「範囲や金額が争いになる」「条項の有無と関係なく決まる」の三段階で見る
  • 禁止事項の列挙や、サービス中止・出入り禁止といった運営上の措置は、比較的そのまま働きやすい
  • お金の条項は、違反時の定額の取り決め、キャンセル料、遅延損害金の三つに分けて考える。使う条文が違う
  • 権利をまとめて手放させる条項、店の責任を全部免除する条項、刑事手続に触れる条項は、書いてあっても働きにくい部分がある
  • 「本日の行為は合意の上」といった記載は、権利義務ではなく事実の記録として扱われる
  • 「無効」は自動的に効果が消えることではなく、主張して初めて問題になる


 条項ごとに分けて考えると、争うべき点と争う必要のない点が見えてきます。早い段階で整理を始めれば選べる手段は残りますが、早く動けば望んだ結果が得られるとお約束できるものではありません。判断に迷う場面では、書面を手元に置いたうえで、弁護士への相談をご検討ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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