挿入がなくても罪になる場面|不同意わいせつ罪との線引き
この記事は、2026年10月1日時点の法令に基づいて記載しています。売春防止法の見直しについては、同日時点で法務省の有識者検討会での議論が報じられている段階であり、改正法は成立していません。
「アジアンエステで追加料金の話をされ、断った後に店側が警察を呼んだ」「利用していた店が摘発されたと知り、自分にも連絡が来るのか気になっている」。ご相談の場では、こうした声を客の側からいただきます。同じ「警察沙汰」でも、警察が何を調べるために関わったのかによって、客の置かれる位置は大きく変わります。
世間では「店が摘発されても客は逮捕されない」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、アジアンエステでは店の摘発のほかに、言葉の通じにくい場での同意をめぐる申告や、客の側からの通報など、警察が関わる入口が複数重なりやすく、どの入口から始まったかによって説明の前提が変わります。
この記事では、アジアンエステで警察が関わった場面を入口ごとに分け、客が問われ得る範囲と問われにくい範囲を整理します。外国籍のスタッフとの意思疎通の問題全般や、参考人から被疑者へ切り替わる条件の詳細は、別の記事で扱っています。
この記事で扱う範囲
この記事では、次の点を順に取り上げます。
- アジアンエステで警察が関わる入口と、入口ごとの客の位置。
- 店の摘発に居合わせた場合と、その場で警察を呼ばれた場合の違い。
- 調書に署名する前に確かめておきたいこと。
- 売春防止法の見直しの動きと、現時点での客の扱い。
「アジアンエステ」は法律上の区分ではない
呼び名と届出の型は別の話
「アジアンエステ」は、アジア圏出身のスタッフが施術を担う店を指す通称で、法律上の区分ではありません。性的なサービスを伴わないリラクゼーションの店であれば風俗営業の届出は不要ですが、性的なサービスを伴う場合は、店舗型か無店舗型かによって届出の型が分かれます。店内で性的なサービスを提供する店舗型は、多くの地域で新たな営業が認められていないため、届出のないまま営まれている例が見られます。届出の型と客のリスクの関係は、【風俗トラブル】メンズエステの『無店舗型』と『店舗型』|届出の有無で客のリスクはどう変わるかで詳しく解説しています。
警察が関わる理由が重なりやすい
アジアンエステでは、届出の問題に加えて、スタッフの在留資格や就労の資格、場所の提供のあり方など、店の側で問題になり得る点が複数重なることがあります。さらに、施術の場で客とスタッフの言葉が十分に通じないこともあり、同意の有無をめぐる食い違いが生じやすい面があります。警察が関わった理由が店の営業にあるのか、客の行為にあるのかを最初に見分けることが、その後の対応を考える出発点になります。
警察沙汰の入口は四つある
入口ごとに客の位置が変わる
警察が関わる入口を整理すると、おおむね次の四つに分けられます。
| 警察が関わった入口 | 警察の関心の中心 | 客の位置 |
|---|---|---|
| 店の摘発に居合わせた | 営業の実態(届出・場所の提供・就労の資格) | 事情を知る人として話を聞かれる立場 |
| スタッフや店が警察を呼んだ | 客の行為そのもの(同意・撮影・年齢など) | 調べられる側に回る可能性がある立場 |
| 客の側から警察を呼んだ | 店側の請求や言動 | 相談する側の立場。ただし経緯の中で自分の行為も話題になる |
| 後日、警察から連絡が来た | 連絡の理由による | 理由を確かめるまで位置が定まらない |
同じ日に二つの入口が重なることもある
たとえば、料金をめぐる言い争いから客が警察を呼び、その場でスタッフが「触られた」と申告するように、一つの出来事の中で入口が重なることもあります。この場合、客は相談する側であると同時に、申告された行為について話を聞かれる側にもなります。どの話がどの立場で聞かれているのかを意識しておくと、説明が混乱しにくくなります。
入口1 店の摘発に居合わせた場合
調べられているのは店の営業
摘発で問題とされるのは、届出のない営業や禁止された地域での営業(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)、売春を行う場所の提供(売春防止法11条)、外国人に資格のない就労をさせたこと(出入国管理及び難民認定法73条の2)など、営業者側の行為です。不法就労をさせた罪は、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせた者などを対象としており、客として施術を受けたことは、この罪が想定する行為とは別のものです。
客は事情を知る人として話を聞かれる
摘発の現場に居合わせた客は、店で何が行われていたかを知る人として、警察署で話を聞かれることがあります。これは被疑者以外の人の取調べ(刑事訴訟法223条1項)にあたり、出頭や供述は任意です。対価を払って性的なサービスを受けたこと自体については、現行の売春防止法に客を処罰する規定はありません(同法3条は禁止を定めるのみです)。この点は対価を払って本番に至った場合|売春防止法上、客はどう位置づけられるかで、摘発時の流れは利用した風俗・メンエスが摘発された|客も逮捕・事情聴取されるのかで解説しています。
立場が変わるのは別の事件が見えたとき
客が調べられる側に移るのは、店の事件とは別に、客自身の行為が問題になる事情が出てきたときです。相手が18歳未満であった場合や、同意のない行為や撮影が疑われた場合がこれにあたります。分岐の詳しい整理は、【風俗トラブル】参考人として呼ばれた|客が被疑者に切り替わる分岐点をご覧ください。
入口2 スタッフや店が警察を呼んだ場合
同意をめぐる申告になったとき
この入口では、警察の関心は客の行為そのものに向きます。とくに問題になりやすいのが、同意のない性的な行為(刑法176条、177条)として申告される場面です。アジアンエステでは、スタッフの側から追加料金と引き換えに性的なサービスを持ちかけられたという相談も見られますが、追加料金の提示や支払いがあったことで、行為の全体について同意があったと評価されるとは限りません。どの行為について、どのような言葉や態度で合意が示されたのかが、個別に問われることになります。争点になりやすい事情は、「同意があったと思っていた」|不同意性交等罪で争点になる事情で整理しています。
言葉の壁は供述にも及ぶ
スタッフが日本語を十分に話せない場合、警察は通訳を介して話を聞くことがあります(刑事訴訟法223条1項は、通訳の嘱託も定めています)。客の側からは、相手がどのような言葉で何を説明したのかを確かめにくく、細かなニュアンスの違いが調書の表現に表れることもあります。客の側の説明は、「同意があった」という評価を述べるよりも、誰が何を言い、どのような身ぶりをし、いくら支払ったのかという具体的な事実を順に伝える方が、受け止められやすくなります。言語や慣習の違いから生じるトラブル全般は、外国人が営むメンエス・風俗でのトラブル|言語・慣習の壁と対応で扱っています。
撮影や年齢が問題になる場合
施術中の様子を撮影していた場合は、性的姿態等撮影罪(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条)が問題になり得ます。また、相手が18歳未満であった場合は、児童買春(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条)の問題になります。外国籍のスタッフは見た目から年齢が分かりにくいこともあり、年齢の認識がどう評価されるかは相手が18歳未満だと知らなかった|年齢の確認と認識の評価で解説しています。
入口3 客の側から警察を呼んだ場合
高額な請求や身分証の要求を受けたとき
施術の後に高額な「罰金」や「違約金」を求められたり、身分証の提示や書面への署名を迫られたりして、客の側から警察を呼ぶこともあります。警察官が駆けつけても、金銭の話し合いは当事者間の問題として扱われ、その場で請求の当否までは判断されないことが少なくありません。脅されて署名した書面の扱いは脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで、店側の手口はメンズエステの美人局の手口5選と「サインしてはいけない書面」で解説しています。
通報の前に整理しておきたいこと
客から警察を呼んだ場合でも、経緯を説明する中で、施術中に何があったのかを尋ねられることがあります。自分の行為についてどこまで、どのように話すのかを整理しないまま説明を始めると、話の焦点が請求の問題から客の行為へ移ることがあります。身の安全に関わる場面では通報を優先することが前提ですが、それ以外の場面では、何を相談したいのかを先に整理しておくと、説明が組み立てやすくなります。
入口4 後日、警察から連絡が来た場合
まず連絡の理由を確かめる
店の摘発の後に予約の記録などから連絡が来る場合と、スタッフが被害届を出したことで連絡が来る場合とでは、客の位置が大きく異なります。電話で出頭を求められたときは、どの事件について、どのような立場で話を聞きたいのかを落ち着いて確認することが出発点になります。理由が分からないまま応じるかどうかを決めると、準備のないまま説明を求められることになりかねません。
調書に署名する前に確かめること
内容を確認し、訂正を求められる
話を聞かれた内容は、調書としてまとめられることがあります。被疑者以外の人の取調べでも、調書の内容を読み聞かされ、誤りがあれば増減や変更を求めることができ、署名押印を拒むこともできます(刑事訴訟法223条2項、198条4項、5項)。この手続の詳細は、調書に署名・押印を求められた|訂正を求める権利で解説しています。
店側の書面は扱いを分けて考える
警察の調書とは別に、店側から外国語や日本語の書面に署名を求められることがあります。内容が十分に理解できない書面は、その場で署名せず、いったん持ち帰って確認するという選択があります。警察官が同席している場であっても、店側が用意した書面は当事者間の書面であり、警察の手続とは性質が異なります。
売春防止法の見直しの動き
「買う側」の扱いが議論されている
現行の売春防止法は、売春をすることとその相手方となることを禁じていますが、相手方となる客を処罰する規定は置いていません。この点について、法務省の有識者検討会で見直しの議論が進められており、買う側の勧誘行為などに罰則を設ける内容の報告書案がまとめられたと報じられています。改正法案の国会提出に向けた動きも報じられていますが、2026年10月1日時点で改正法は成立していません。
現時点で押さえておきたいこと
仮に改正法が成立したとしても、刑罰の規定は施行前の行為に遡って適用されないのが原則です(憲法39条)。他方で、報道されている内容のとおりに改正されれば、客の側から性的なサービスを持ちかける行為の評価が変わる可能性があります。今後の動きについては、成立と施行の時期を含めて確かめていくことが大切です。
その場で控えたい対応
後から立場を悪くしやすい行動
警察が関わった場面で、次のような行動は、後になって説明しにくい事情として受け止められることがあります。
- 説明をせずにその場を立ち去ろうとして、押し問答になること。
- 内容が十分に理解できない書面に、その場で署名すること。
- 求められるまま身分証や現金を店側に渡すこと。
- スタッフ個人の連絡先を聞き出し、後日直接連絡を取ること。
- スマートフォンの写真ややり取りを、その場で削除すること。
その場で腕をつかまれた場合
店のスタッフや関係者から腕をつかまれ、警察が来るまで帰れないと言われる場面もあります。私人による現行犯逮捕が認められる範囲や初動の考え方は、その場で腕をつかまれた|私人による現行犯逮捕と初動対応で解説しています。
よくあるご質問
スタッフに就労の資格がなかったと後で知りました。客も罪に問われますか。
不法就労をさせた罪は、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせた者などを対象とするもので、客として施術を受けたことは、この罪が想定する行為とは別のものです。ただし、摘発の際に店の実態を知る人として、話を聞かれることはあり得ます。
追加料金を払って性的なサービスを受けました。売春防止法で処罰されますか。
現行の売春防止法には、相手方となった客を処罰する規定はありません。ただし、相手が18歳未満であった場合や、同意の有無が問題になる場合は、売春防止法とは別の法律の問題になります。見直しの議論は報じられていますが、改正法は成立していません。
警察官から「署で話を聞かせてほしい」と言われたら、断れますか。
逮捕状がある場合や現行犯として逮捕される場合を除き、出頭や同行は任意とされています。ただ、断ることだけを考えるよりも、どの事件について、どの立場で話を聞きたいのかを確かめたうえで、応じるかどうかと、話す内容を整理することが大切です。
まとめ
- 「アジアンエステ」は通称であり、届出の型によって店の扱いが分かれる。
- 警察沙汰の入口は、店の摘発、スタッフや店からの通報、客からの通報、後日の連絡の四つに分けられる。
- 摘発で問題とされるのは営業者側の行為であり、客は事情を知る人として話を聞かれる立場にとどまることが多い(刑事訴訟法223条1項、出入国管理及び難民認定法73条の2)。
- 現行の売春防止法に、相手方となった客を処罰する規定はない(売春防止法3条)。
- スタッフや店が警察を呼んだ場合は、同意・撮影・年齢など客の行為そのものが問われ得る(刑法176条、177条)。
- 調書は内容を確認し、訂正を求め、署名押印を拒むこともできる(刑事訴訟法223条2項、198条4項、5項)。
- 売春防止法の見直しは議論の段階であり、成立と施行の時期を確かめていく必要がある。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。アジアンエステで警察が関わり、自分がどの立場で話を聞かれているのか分からない方も、店側から金銭や書面を求められて対応に迷っている方も、事情を伺ったうえで、取るべき対応を一緒に整理します。
ご相談の内容が、ご家族や勤務先に伝わらないよう、連絡方法にも配慮します。早めにご相談いただくことで、取れる選択肢が広がることがあります。


