【刑事事件】指定薬物と知らずに使った|知らなかったことはどう評価されるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は、2026年10月時点の医薬品医療機器等法・刑法・刑事訴訟法と、厚生労働省の公表資料にもとづいて書いています。2025年6月1日から懲役刑と禁錮刑は拘禁刑に一本化されており、本文の法定刑はその後の表記によります。指定薬物は省令の改正で追加されていくため、個別の成分が対象かどうかは、厚生労働省の最新の公表でご確認ください。


「お店で『合法』と言われて買ったものだった」「指定薬物になっていたとは知らなかった」。薬物の使用を疑われてご相談に来られる方から、このようなお話を伺うことがあります。ご家族から「本人は勧められたものを何も知らずに吸っただけだと言っている」とご相談をいただくこともあります。

 インターネット上では、指定薬物について「知らなかったは通用しない」という説明をよく見かけます。法律を知らなかったことだけでは罪を免れないという意味では、その説明は誤りではありません。ただ、「知らなかった」と一口に言っても、何を知らなかったのかによって、法的な評価は大きく変わります。

 この記事では、指定薬物を知らずに使ったという場面に絞り、「知らなかった」がどのように評価されるのかを、裁判例の考え方と取調べでの注意点に沿って整理します。尿検査の手続や、覚醒剤・大麻など他の規制薬物については、それぞれの記事で取り上げています。

指定薬物とは何か|「指定されたもの」が規制される仕組み

厚生労働大臣が成分を指定し、施行日から禁止される

 指定薬物は、中枢神経系の興奮や抑制、幻覚の作用を持つ蓋然性が高く、人の身体に使われた場合に保健衛生上の危害が生じるおそれがあるとして、厚生労働大臣が指定する物質です(医薬品医療機器等法2条15項)。いわゆる危険ドラッグに含まれる成分がこれにあたり、省令の改正によって順次追加されていきます。

 指定された物質とそれを含む製品は、医療等の用途を除き、製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲受け、使用が禁止されます(同法76条の4)。所持や使用まで禁止されるようになったのは2014年4月からで、それ以前は販売や輸入といった流通の段階が規制の中心でした。

 禁止の効力が生じるのは、指定する省令の施行日からです。施行日より前に買ったり使ったりした行為が、後から処罰されることはありません。一方で、施行日以降に手元の製品を使えば、購入したのが指定より前であっても「使用」にあたります。

法定刑と、覚醒剤・大麻との違い

 指定薬物に関する主な罰則は、次のとおりです。

行為法定刑
所持・使用・購入・譲受けなど3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科(同法84条28号)
業として製造・販売などを行った場合5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科(同法83条の9)


 覚醒剤の単純な所持や使用には罰金刑の定めがないのに対し、指定薬物の所持・使用には罰金刑が定められています。事案によっては、略式手続による罰金で終わる場合もあり得ます。

 なお、大麻は2024年12月の改正で麻薬として扱われることになり、使用も麻薬及び向精神薬取締法で処罰されるようになりました。同じ「グミ」や「リキッド」でも、THCを含むものか、指定薬物を含むものかで、適用される法律と法定刑の重さが変わります。大麻の改正については大麻の「使用」も処罰対象になった|2024年12月施行の改正の要点で詳しく説明しています。

対象は増え続ける|CBNが指定された例

 2013年からは、化学構造が似た物質をまとめて指定する「包括指定」も導入されています。商品名や通称が変わっても、成分が包括指定の範囲に入っていれば規制の対象になります。

 最近の例として、CBN(カンナビノール)が2026年6月1日から指定薬物になりました。CBNはCBD製品などに配合されて市販されていた成分で、指定後は、所定の手続を経た患者を除いて使用等が禁止されています。厚生労働省は、手続をしない方に対し、手元の製品を廃棄するよう呼びかけています。以前から使っていた製品が、ある日を境に「指定薬物を含む製品」に変わるという状況は、このような形で生じます。

「知らなかった」には中身がいくつかある

何を知らなかったかで評価の方向が分かれる

 「知らなかった」という言葉の中には、性質の異なるいくつかの事情が含まれています。おおまかに整理すると、次のようになります。

何を知らなかったか評価の方向
薬物を摂取したこと自体(飲み物に混ぜられたなど)使用の故意がなく、事実として認められれば罪は成立しない方向
その製品が指定薬物を含むこと(「合法」と言われていた)作用の認識があれば、故意は否定されにくい
その成分が指定されたこと(施行日以降も使い続けた)法律を知らなかったことにあたり、故意は否定されないが、情状として考慮され得る
製品に表示のない成分が含まれていたことどのような製品と認識していたかによって評価が分かれる


 ご自身やご家族の状況がどれに近いかによって、取調べで説明すべき点も、目指す処分も変わってきます。

罪の成立に必要な「故意」と、法律を知らなかったことの扱い

 罪を犯す意思のない行為は、法律に特別の規定がある場合を除いて罰せられません(刑法38条1項)。指定薬物の所持や使用は、故意がなければ成立しない犯罪で、不注意による所持・使用を罰する規定はありません。故意には、はっきり分かっていた場合だけでなく、「そうかもしれないが、それでも構わない」と考えていた場合(未必の故意)も含まれます。未必の故意の考え方は「知らなかった」は通るのか|未必の故意と共謀の認定で詳しく扱っています。

 他方で、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできず、情状によって刑を減軽できるにとどまります(同法38条3項)。「その物が何であるか」を知らなかったのか、「それが禁止されていること」を知らなかったのかで、扱いが分かれるということです。指定薬物の場合、この二つの境目が分かりにくいことが、問題を難しくしています。

摂取したこと自体を知らなかった場合

 飲み物や食べ物に混ぜられていた、たばこや電子たばこをすり替えられていたなど、何かを摂取したこと自体を知らなかった場合は、使用の故意がないため、罪は成立しない方向に働きます。

 もっとも、尿などから成分が検出されれば、捜査機関はなぜ体内に入ったのかの説明を求めます。その日に誰とどこで何を口にしたか、体調の変化にいつ気づいたかなど、具体的な経緯を早いうちに整理しておくことが大切です。尿検査を求められた場面については尿検査を求められた|拒否できるか、強制採尿とは何かもご覧ください。

裁判所が示した判断の枠組み|福岡高裁平成28年6月24日判決

「販売員に合法だと確認した」という主張

 指定薬物の「知らなかった」が争われた裁判例として、福岡高等裁判所平成28年6月24日判決があります。ハーブ販売店で乾燥植物片を購入して所持していた方が、購入の際に販売員に合法かどうかを確認し、規制はかかっていないと言われたので合法なものと信じていた、と主張した事案です。含まれていた成分は、購入の少し前に指定されたばかりのものでした。

 判決は、指定薬物には覚醒剤のように広く知られた名称がなく、省令を見ても自分の使う製品に含まれるかを把握するのは難しい実情にあったことを認めています。販売員から合法だと聞いたという弁解も、直ちに排斥することはできないとしました。それでも結論としては故意を認め、控訴を棄却しています。

求められる認識は「作用」と「同じように規制され得る物であること」

 判決は、指定薬物の違法性を根拠づけるのは、その薬物が規制されるだけの薬理作用を持つかどうかだとしました。そのうえで、薬物の作用を認識し、その作用のために指定薬物と同じように規制され得る同種の物だと認識していれば、指定薬物であることを知らなくても故意は認められると述べています。

 この事案では、本人が使ったときの作用を具体的に説明していたこと、使った後は自動車の運転を控えていたこと、取締りが強まっていることを知っていて販売員に確認していたことなどから、そうした認識があったと判断されました。判決は、本人の誤認は「指定されているかどうか」に尽き、違法なものを違法と思わなかったにすぎないと評価しています。

故意が否定される「特異な状況」とは

 判決は、指定されていない成分しか含まれていないと信じたことに十分合理的な理由があるなど、特異な状況がある場合には故意が否定され得るとしています。ただ、販売員は違法か合法かを適切に判断できる立場になく、取締りで閉店した店が再開したからといって商品が合法だとは推認できない、として、この事案ではその状況を認めませんでした。

 裏を返せば、問われるのは「合法と言われた」という事実そのものより、なぜそう信じたのかが客観的な事情で裏付けられるかどうかです。危険ドラッグの販売者が問われた別の事件(広島高等裁判所岡山支部平成28年10月19日判決)でも、一審の無罪判決が破棄されており、発送の伝票に別の品名を書いていたことなどが、故意を推認させる事情として挙げられています。

捜査機関は「知らなかった」を何で確かめるのか

購入の経路、価格、商品の表示

 故意は本人の頭の中の問題ですが、捜査機関や裁判所は、外から見える事情を積み重ねて判断します。とくに重視されやすいのは、次のような事情です。

  • どこで、誰から手に入れたか(実店舗か、通販か、SNSで知り合った個人からの手渡しか)。
  • 価格が、一般の健康食品や嗜好品と比べて不自然に高くないか。
  • 商品名や宣伝文句に、作用をほのめかす表現がなかったか。
  • 成分表示や分析結果の書面が付いていたか、その内容をどう理解していたか。


 海外の通販サイトから取り寄せた場合は、輸入や譲受けの認識も問題になります。郵便で届いた荷物をめぐる争い方は郵便で届いた荷物を受け取った|輸入・譲受の認識の争い方で扱っています。

使用の目的、使用感、回数

 福岡高裁の事案でも重視されたように、何を期待して使ったのか、使ったときにどのような感覚があったのか、どのくらいの頻度で使っていたのかは、作用の認識を判断する中心的な材料になります。睡眠や体調管理のつもりで一般向けの製品を使っていた場合と、気分の変化を求めて繰り返し使っていた場合とでは、評価が変わり得ます。

スマートフォンの記録と、鑑定にかかる時間

 メッセージのやり取りや検索履歴、購入履歴は、本人の認識を推し量る材料として調べられることがあります。「規制されていないか」を調べていた履歴が、規制を意識していた事情として扱われる場合もあれば、合法だと確認しようとしていた事情として説明できる場合もあります。

 また、指定薬物かどうかを確定するには、押収した製品や尿の正式な鑑定が必要で、結果が出るまでに時間がかかることがあります。家宅捜索の後しばらく連絡がなく、時間を置いて呼び出しを受けることもあります。捜索を受けた場面での対応は家宅捜索(ガサ入れ)が来た|立ち会いでできること・できないことをご参照ください。

取調べで「知らなかった」を伝えるときの注意

「かもしれないと思った」の一言が持つ重み

 取調べでは、「少しは怪しいと思ったのではないか」「普通のサプリとは違うと分かっていたのではないか」と繰り返し問われることがあります。記憶があいまいなまま同意すると、未必の故意を認めた内容として調書に残るおそれがあります。

 思っていなかったことは思っていなかった、覚えていないことは覚えていないと、記憶のとおりに答えることが基本です。説明が難しいと感じるときは、黙秘権を行使することもできます。黙秘の効果とリスクについては黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理で整理しています。

調書に署名する前に確認すること

 供述調書は、作成後に読み聞かせや閲覧で内容を確認する機会があり、誤りがあれば訂正を申し立てることができます。内容に納得できなければ、署名押印を拒むこともできます(刑事訴訟法198条4項・5項)。「知らなかった」という説明が、調書の上で「知らなかったとは言い切れない」という表現に置き換わっていないかは、とくに注意して確認したい点です。取調べで作られる書面の種類については取調べで作られる書面は調書だけではない|供述書・上申書・捜査報告書の違いもご覧ください。

手元の製品や購入記録の扱い

 捜査が始まっている、あるいは始まりそうな段階で製品や購入記録を処分すると、証拠を隠そうとしたと受け取られ、身柄の拘束につながるおそれがあります。購入時の画面や成分表示、販売者とのやり取りは、「知らなかった」を裏付ける材料にもなり得ます。

 他方で、捜査とは関わりなく、指定された成分を含む製品が手元に残っていると気づいた場合には、施行日以降の所持が禁止されるため、厚生労働省の案内に沿って使用をやめ、廃棄することになります。どちらにあたるか判断がつかないときは、処分する前に弁護士に相談することをおすすめします。

処分の見通し|争う場合と、情状を整える場合

故意の立証が難しいときは嫌疑不十分の不起訴を目指す

 成分が検出されても、本人の認識を裏付ける証拠が十分でなければ、検察官は起訴を見送ることがあります。この場合は、罪を犯したと認めるに足りる証拠がないとする「嫌疑不十分」による不起訴を目指すことになります。弁護人は、購入経路や製品の表示、使用の経緯など、本人の説明を裏付ける客観的な事情を集め、意見書として検察官に示します。不起訴の種類の違いは不起訴の3類型はどう違うのか|どれを目指すべきかで説明しています。

故意が認められる場合でも、経緯は情状として考慮され得る

 作用は分かっていたが指定されたとは知らなかった、という場合には、故意そのものを争うのは難しくなります。それでも、指定から間もない時期だったこと、使用が少ない回数にとどまること、前科がないこと、入手先との関係を断ち再び使わない環境を整えていることなどは、処分を判断するうえで考慮され得る事情です(刑法38条3項ただし書)。争う方針と情状を整える方針のどちらをとるかは、取調べが本格化する前に決めておくことが望ましいといえます。

示談のない事件で弁護人が担う役割

 薬物事件には特定の被害者がいないため、示談によって処分を軽くするという方法はとれません。そのぶん、事実関係の整理と、本人の説明に一貫性を持たせること、生活環境を整えることが重みを持ちます。詳しくは薬物事件に「示談」はない|それでも弁護士に依頼する意味をご覧ください。

よくあるご質問

指定される前に買った製品を、指定後に使ってしまいました。罪になりますか。

 禁止の効力は省令の施行日から生じるため、施行日以降の使用は、購入時期にかかわらず使用にあたり得ます。指定されたことを知らなかった点は、法律を知らなかったことにあたるため、それだけで故意が否定されるわけではありません。ただし、指定から間もない時期で周知が十分でなかったといった事情は、情状として考慮される余地があります。

知人に勧められて一度使っただけでも、逮捕されることはありますか。

 回数にかかわらず、使用は処罰の対象になり得ます。逮捕されるかどうかは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるかなどによって判断され、任意の取調べで手続が進む場合もあります。勧めた相手から何と言われたのか、自分は何だと思って使ったのかを、早いうちに書き出して整理しておくとよいでしょう。

CBD製品を使っていましたが、成分が気になります。どうすればよいですか。

 まず、製品の成分表示や販売者の公表情報で、指定薬物にあたる成分が含まれていないかを確認してください。含まれている、あるいは判断がつかない場合は、使用を控えることが無難です。すでに警察から連絡を受けている場合や、製品を押収された場合は、製品を処分したり自分だけで説明したりする前に、弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ


  1. 指定薬物は厚生労働大臣が指定する成分で、医療等の用途を除き、所持や使用も禁止される(医薬品医療機器等法2条15項・76条の4)。
  2. 所持・使用の法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科(同法84条28号)。
  3. 禁止は省令の施行日から効力を持ち、施行前の行為が後から処罰されることはない。
  4. 罪の成立には故意が必要だが、法律を知らなかったことだけでは故意は否定されない(刑法38条1項・3項)。
  5. 福岡高裁平成28年6月24日判決は、作用を認識し、同じように規制され得る物と認識していれば、指定薬物と知らなくても故意を認めるとした。
  6. 摂取したこと自体を知らなかった場合や、合法と信じたことに十分合理的な理由がある場合は、故意が否定される方向に働く。
  7. 取調べでは記憶のとおりに答え、調書の内容を確認してから署名する(刑事訴訟法198条4項・5項)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。指定薬物の使用を疑われて警察から連絡を受けた方、任意の取調べを控えている方、「知らなかった」という事情をどう伝えればよいか迷っている方は、取調べに臨む前にご相談ください。

ご家族が逮捕された方や、ご本人から「何も知らずに使った」と聞いて戸惑っているご家族からのご相談もお受けしています。事実関係を整理したうえで、身柄の解放に向けた動きや処分の見通しについてご説明します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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